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新婚初夜に『トロフィーワイフ』と暴言吐かれて放置されました  作者: 鴉野 兄貴
物憂う令嬢たち、ちっとも休めず

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悪役令嬢。ともだちいなくて狼狽す【二日目】【一日目夕刻】

【反省会中】

 なぞめしき記しが私たちの寝室に貼られています。

 この場合は正しく夫婦の部屋です。用向きはあやしき。


「これはなんだね」

「箱です」


 彼は箱を持ちます。

「軽いな」

「膠を塗ればかなり硬くなりますね。当地の樹脂技術を用いればなお」

 独特の臭いはしますが。


「パ族からまた苦情が来るな。紙の需要が高まって困ると」

「加工だけなら過剰に建設された水車小屋や風車小屋で対応できそうですが別の意味で困るでしょうね」


 あの草は他の農作物と相性良くないゆえ。

 彼らが損をすることなきよう、勝手に草取りするものに対する考え方から変えねばなりません。


 それより今はこの箱についてですね。 

 まず、これはお口に召すことができます。

「食べられるだと」

「めしてよし。びーどろ紙などで作りますゆえ。ウエハースというお菓子に似た構造です。ただし中の紙は針金を当て波打たせ中空にすることで軽くしかつ強化しました。

 されども味は宜しゅうございません。ヤギなら喜んで食べます。コマも食べていました」


 マントウに入れてデンベエに食べていただいたのですがめちゃくちゃ叱られました。


「びーどろ紙……我々はほとんど食べないがカンテンのゼリーはン族の珍味なのだぞ」

「かるくよし。剛きよし。当地の樹脂技術を用い曲面加工を施せばナイフや銃弾が掠る程度の衝撃には耐え得るかもしれません」


 彼は難しそうなお顔浮かべると箱をとって放り投げたり叩いたり。


「紙なら加工製も高く、梳き直せば再利用可能だな」

「あおによしすべてよし。ですわ」


 ただしくは“あをによし 奈良の都は 咲く花の にほうがごとく 今盛りなり”。つまりよきものです。


 ……確かそのはず。


 わたくしどもお祖父様の世代から年を経ています。

 味覚の好みも違いますし習慣も王国や帝国のそれです。

 ゆえによくわからないことは少なからずあるのです。

 マクラコトバとしては存じていてもナラノミヤコなどの実態はわかりかねます。


「断熱材としても優秀です。防水処理を施せば建材になるやもしれません。災害時に簡易寝台や緊急の厠作成目的や避難先に想定される教会や公園での仕切りとしても機能します。テントとしての性能についてはガクガが試してくれました。嵩張るものの暖かく頑丈とのこと」


 魔猿の脳味噌活け作りを振る舞われましたが。


「これはいにしえの『はこのなかにいる』故事から着想したのか。あれは複雑な寄木細工のようなものだが」


 彼がおっしゃっている物語は無敵の力を得た王が魔族の木鐸ぼくたく(※リーダー)を娶り竜の化身を娶り王侯貴族や司教のむすめに狼藉を働いた挙句、無敵と呼ばれしものどもを屈服させていくなかで『無敵』なるものに懐疑を抱き、彼ら彼女らの力を結集させて作った守りの箱です。確かに足だけちょこちょこのところはわたくし幼き時ミカとものわらひごとに。ミカは『めちゃくちゃ笑った』と申しますがかのものがたりにおける王はをなご()の敵です。わたくしはそちらの方が気になりました。


「あれは最後は海に投げられ、かのくには箱のみを掲げて以後統治されたと伺います。確か太陽王国前身の西部諸国連合のひとつ『常夏の都』の民話かと」


 そういえば先日それとおぼしきあやしげな箱をミリオンとフェイロンが釣りましたね。『ぽっしてやーしなさい』と申し付け捨てさせましたが。とてつもなき重しものゆえあの二人しか持ち上げられませんでしたが。


「いーえ。わたくしがここにきてまもなきころ、あなたが今以上に、とてもつれないころ、『ちょろちょろついてくるな』『城内で何をしている』『訓練を見ても面白いことなどないぞ』『こそこそ壁から様子を伺うな』とおっしゃっていたので」


 彼はあっさりこのように言いました。

「怪しい木箱二つがついてきていたころか」


 絶対にわからないと思っていました。


「普通にわかるが……何かの呪術かと」


 わたくしのうろたえはあえて記さず。


「えっ、えっと、あの。木箱は重いですし、置く時音が出ますし、ドレスに引っ掛かりますので軽量化を王都の友人に」


「……君の友人、ニコンくんは暇人なのか。確か重要な研究をしていたと聞いたのだが」

 いかゆえにわかりましたか!? まさかリュゼ様は天啓の加護を得て。


「寝ろと言ったら寝てくれ。君に話したくない話題もあるのだ……いや、正直お手上げなのだが君が物憂いでは相談できない案件がある」

「なんなりと」


 彼はじっとわたくしを上から下まで眺めると「寝ておいてくれ」と訴えますがわたくしも引きません。



「君の友人の話なのだ。だからこそ話せない」

 わたくしのおともだち……。



「そこ、悩むところなのか」

 彼は呆れています。


 ともだち……おそらくミカのことでない。としたらモモでしょうか。それとも時々遊ぶ別の子供でしょうか。あるいは。


「まさかマリカ、君は友人がいないのか」

「まままま、まさかそのようなことは」


 い、い、いますよ……カラシ君とか。


「ロザリアとかいう元伯爵令嬢だ。君の見立てでは麻薬漬けにしたうえで洗脳というのだが、ングドゥに調べさせたところ、わからないらしいのだ」

「ロザリア様ですか」


 彼女たちとは腹心の友の約束を交わしましたが、あの日以降その誓いはなかったことになっており。

 しかしあのングドゥですらわからないお薬では困りますね。


「つまり、あのカリナとかいう娘との接触禁止を継続するのは不当と判断せざるを得ないというのがングドゥの意見なのだ」


 固有魔法ならさておき、わたくしもカリナがいわゆる『スキル』や『ギフト』を持っているというお話は聞きませんね。ミカなら秘密の上で存じているかもですが後で問うて……『休暇中はみっつのおさるさん』でした。すなわち『”見ざる聞かざる言わざる”』さもなくばお休みを与える意味がありません。


「なんとかなりませんか。よくはなっているのです。多少の問題は抱えていますが元の木阿弥になるのは避けたくて」

「本人たちが一緒にいたいと訴えているし、証拠もないのに接触を禁じるのは。

 おっと一人目の前についてくるなといえばついてくる例外がいる……冗談だ拗ねるな」


 いやみですね。もう。

 見立てが外れることなどよくあることですが引っ掛かります。



「あのぅ。旦那様」

 ピグリム様の専門は主に外科と精神科です。薬も扱いますがングドゥほど詳しくはありません。


「なんだ。掛札が見えなかったのか」

「難しい来客でして、できれば奥様も一緒にお願いしたく。それに今しか」



 入ってきたのはわたくしほどではございませんが、長身の、それも美姫と呼んで良い方です。実際世が世ならですが。


「マリカお母様。リュゼお父様おひさしゅうございます」

 このように少し気が触れているのです。

 もっとも時々発作的に元に戻ります。その時はミカのこともありますが実にむごいことを周囲に行うため城には近づけていません。


「ロゼ。健勝でしたか」

「ベンおじさんとおばさまたち印刷所のおかあさんたちがよくしてくれます。あとおばさまがいつも面白いです」

「どうして私が父なのだ。彼女とはほぼ面識がない」

 彼はぼやいています。


 それをいえばミーシャだかミューシャを名乗るマリア様が「ロゼリア様……じゃなくてロゼ。せめておねえさまとよびなさい」と。「はいおばさま」と言われて撃沈していましたが。

 他人の嫌がることを好むところは本質的に変わらないと思われます。


 とは言えこの状態でも学生時代からのドレスや服へのセンスは健在です。

 彼女は間違いなくあの印刷所の新聞記事の挿絵の質を上げております。そしてかつて自ら家臣の不正を暴いただけあり経理の能力まで併せ持っております。

 あのおふたりは経理については少々……ですからね。


「お父さまだっこしてだっこ」


 ……。


「睨むな」

「楽しそうですこと」


 わたくし寛大ですから。


 彼女は貴族の娘によくあることですが暴君のように育ち、貴族の娘には珍しいことですが両親の愛情を一身に受けて育ちました。いわゆるわがままむすめです。


 何故学生時代に腹心の友とまで呼び合ったかといえば……お互いのお家の都合だけどはしたくなきところです。実際ミューシャことマリア様は彼女の世話を焼いていますし。


 ーー【一日目夕刻】


「アイツには散々な目に遭わされたけれども今一緒に暮らしている今ほどに煩わされたことはないわよ! ロゼリア様は何処いずこや!?」

「およ? あまりある様でしたっけ。ご無沙汰しています」


「珍しい客人を連れてきたぞフランクリン。……どうしたミューシャ」


「あらおじいちゃん。それより私はマリアよニコン! 今はミューシャでもミーシャでもムハでもいいけど美貌と知性と自由を愛する冒険者の誇りまで併せ持つ旧家ケイブルのむすめを覚えていないってどういうことよ!?」

「あー。たしかカナエ嬢のご主人様でしたね」


「側使の名前は覚えていて、学友の私の名前は忘れているわけ?! それともカンニングペーパー作りに協力させたのまだ恨んでる!? あるいはセクハラ教授の著書をみんなで破いて紙飛行機にして共同論文出したときのこと?!」


「カッカしないミューシャ。久しぶりだねニコンくん」

「フランクリンさん! 久しぶり!」


 男たちは豪快なクロスカウンターを決めた。


「お前ら仲良いな」

 デンベエが呆れる中男二人はお互いの腹にボディーブローをかまし合いニヤリ。旧交を温めあうのである。


「マジなんなのあの二人……じゃなかった。ロザリア様がいないのおじいちゃん」

「と、いうわけで経理手伝ってください」


「全然『というわけで』ではないだろフランクリン」

「経理くらいなら僕がやりますよフランクリン。変な舞台装置はまだ作ってます? 後でまた作品見せてくださいよ……ところでマリア様。ロゼリア様とは伯爵令嬢ですか。彼の方も生きていらっしゃるのですか」

「めちゃくちゃ性格良くなっているから驚くわよ。ちょっと問題児だけど前よりマシ」



「だいたい、学生時代からあの成り上がりと腹黒に挟まれてわたくしひとりだけ苦労しているのはどういうことかしら。せめてカナエがいれば少しはマシなのに!」

「……あの娘は買い物だったわい。少なくとも孫娘のヒステリーにはな」

 デンベエは孫娘に万一にも聞こえないように小声でぼやく。


「カナエ嬢はマリア様の母君の肖像画を、それもたった一枚しか残っていないものを破いたり粗忽なところありましたが元帝国奴隷だけあり勤勉でいい子ですからね。彼女が陪臣家にいたときはお互い幼くてよく遊びました」


「お気に入りのティーセットも子爵家ではちょっと贅沢な絨毯もダメにしてくれたわよ。成り上がり侯爵が監視役送ってきたと身構えたのがバカバカしいくらいだったもの」

「はぁ、そのカナエ嬢は何処に」


 ちょっと待った! 男二人がカラシの肩を掴む。


 ミューシャことマリアは先程の激昂が冷え冷えとしていくのを自覚した。


「わたくしの代わりに果てました。皆です」


「それはそれは……惜しいですね。確か男爵家の忠臣と言えばカナエさんの他に執事のジーン、乳母でメイド長のリカ・アイアンハート、その息子で騎士のダルク、小姓のラシェーバでしたっけ。でもまあ彼女たちのことですから生きてますよ。伯父貴がなんとかしてます。少なくとも子爵様は名前は変えていますが存命です。あの村も無事追求を免れましたからご安心ください」


「ラシェーバをラシューバと間違えなく覚えていて、マリア様のお名前は忘れるのですね。まぁ私などマリア様の眼中にもなかったのか、お救いした時に彼女は顔すら覚えておりませんでしたけど」


 あれは普段あなたがあのサイケなカッコをしていたからでしょうと今の婚約者に普段のミューシャなら指摘しただろう。


 それよりも今の彼女は目の前で死んだはずの大好きな臣下たちが存命という報に混乱している。


「そうそう。同じ船には暴れる農耕馬と何故か紛れ込んできた凶暴な鷹と噛み癖のある犬が貨物として何故か乗っていて流刑民頭がほとほと困っていましたね。どこかの徳あるお金持ちが引き取って欲しいのですけどと……わかります?

 オスカーとフィリアスとアスタリオンです」


 彼女は震え声でいう。


「私たちを乗せたまま崖から滑り落ちたのよオスカーは。目の前で死んだわ間違いない。仔犬の頃から一緒のアスタリオンも卵から育ててあなたが論文を書いたフィリアスも暗殺者の手にかかって死んだわ」


 人生で勉学に励んだことなどないと豪語する彼女だが、実はカナエと会う前に必死で鷹の人口羽化と飼育について勉強したことがある。


 そんなことより次々ともたらされる吉報に彼女のもともと多くはない許容範囲は限界を迎えていた。



「ニコン、感謝する。オスカーもフィリアスもアスタリオンも引き取る。当然よ。だから……その服着替えて身体清めてからにして欲しいけど、ちょっと今からおつかいとおもってロゼ……ロゼリア様を探してきてちょうだい。報酬は弾むわ。婚約者が」


 今の婚約者と最近知り合った祖父に呆れられるミューシャだがニコンことカラシくんはあっさり了承しなかなか優美な鎖骨と胸筋を。


「ここで脱ぐなー! あと風呂を使ったら撃ち殺すわよ! 誰かお湯持ってきてお願いっ!?」


 めちゃくちゃ孫娘が指の間から覗いているけど、さすがのデンベエも指摘しなかった。



「だいたいヒゲ生えてきたなら剃りなさいよ。十五になったらもう産毛とは言わないのよ」

「はあ」


「はあじゃないわ。舞台衣装の地味なのならあるからそれを着なさい。サイズはピッタリね」

「それは私の私物なのですがマリア様」


「髪もひどいわ。切ってあげる。あのおしゃれ番長の腹黒ほどじゃないけど。自分で言うのも嫌だけどわたくし子爵家の名代なんて言ってもうちに関して言えば平民と大差ないのよ。こういうのは得意だし、夫の趣味でメイクもここには舞台用が揃っていて……あら」


「化けたの」

 デンベエは笑う。

「やりがいありますね。脚本家の血が騒ぎます」


 印刷所で働く娘たちおばさまたちがきゃあきゃあと少年の美しさを褒め称える。


「次こっち!」

「あの、伯爵令嬢を探しに行かねばならぬのでは」


「なんとかなるわよアイツは。それよりこの服に着替えて早く早く!」

「今のうちに新作ファッションのモデルも頼もうミューシャ」


「いいわねそれベン! さぁニコン今日は逃がさないわよ。前々から汚いと思っていたし徹底的にコーディネートしてやる! あとあんたもしうちの舞台衣装で地面転がったりしたら撃ち殺すからよろしく!」

「ですからマリア様、それらは私の物です。……まぁいい衣装もそれを着る役者あってのことです。カラシ君今日は逃しませんよ。演劇のパトロン不在のまま買い揃え埃をかぶっていた俺の衣装たちを喜ばせろこの野郎!」



「こいつら、お嬢様のことを言えんわ」


 デンベエは呆れて冷えた饅頭を懐から取り出し、沸かした茶と共に口に入れた。


 お嬢様が前日のマントウの詫びとしてくれたそれには趣向を変えて口当たりを改善した紙がまたもや入っていて彼は激怒した。ーー

*はこのなかにいる*

https://ncode.syosetu.com/n6692by/212/

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