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第2話 熟練度を上げよう

「マジかよ」


 次の瞬間、俺は草原の上に立っていた。

 空を見上げれば青空に浮かぶ二つの月。


 目の前には「←ハジ・マリーノ村」と書かれた木の看板が立っている。

 矢印の方向に目を移せば、数百メートルほど向こうに小さな村が見える。


「モンクエの世界だ……」


 まとめサイトや動画サイトで見たゲーム映像そのままの風景に、改めて自分が異世界に転生した実感がわいてくる。

 だが、鼻に感じる草の匂い、さんさんと照り付ける太陽がここは現実なんだと教えてくれる。


「確かこの後、村が魔王に襲われるんだよな?」


 世界を闇に包まんと現界した大魔王ログラースはハジ・マリーノ村を破壊した後、ノルド山脈奥に魔王城を構える。

 魔王の残虐性を表現する演出なのだろう、村人たちは皆殺しにされる。


「うーん、なんとかしたいな」


 モンクエの原作は昔のゲームで、当時はドット絵だったのだが、昨年発売されたリメイク版では最新ゲーム機の3Dムービーでハジ・マリーノ村の惨劇が描写された。

 あまりにリアルで凄惨な演出に、ネットで賛否両論が巻き起こったことをよく覚えている。


「かわいかったもんな、あの子」


 平和な村の演出のためか、リメイク版ではオープニングのシーンに名前アリのモブキャラが追加された。


「アルフィノーラって言ったっけ?」


 ピンク髪の、愛くるしい犬耳少女。

 最新の3Dエンジンで描画された少女は、モブキャラらしくない可愛さだとファンサイトまで作られたくらいだ。


「まあ、最初に魔王に殺されるんだけど……」


 可愛らしい少女が、むごたらしく魔王に惨殺される。

 恐怖の演出をしたかったのだろうけど、俺もやり過ぎだと思った。


「助けるか!」


 ユーノの話では、典雅さんが主人公として転生したはず。

 それなら、モブの俺は自由に行動していいということになる。


「それはイイとしても、だ」


 改めて自分の格好を観察する。

 いまの俺は20歳前後で中肉中背の村人。

 主人公のようにカッコいい鎧を着ている訳もなく、上下ともカーキ色の布の服だ。


 顔は元の世界の俺のままなのはいいとして、腰に剣が下げられている訳もなく、

 魔法……も使える気がしない。


「そもそも金がないぞ?」


 リメイク版モンクエでは犬耳少女アルフィノーラは食堂の看板娘だったはず。

 お金が無ければ接触する事も出来ないのでは?

 それ以前にどうやって魔王の攻撃を凌ぐのか。


「つ、詰んだ……」


 今モンスターに襲われたら、あっさり殺されて終わりだろう。


『……さん、ジュンヤさん』


 草原に突っ伏した俺の頭の中に、女性の声が聞こえてくる。


「……ユーノ?」


『無事に転生できたようですね』


「って、ユーノ!

 マジでモブキャラじゃないか!

 武器も無いし魔法も使えない、このままじゃモンスターに襲われてあっさりゲームオーバーだぞ!?」


 俺をこんな状態で転生させた張本人。

 いくら典雅さんが主人公になったとはいえ、無一文の村人Aってのはヒドイ。

 せめて初期装備といくらかの金くらいは持たせるべきじゃないのか。


『わわっ!?』

『だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶですって』


 ヴィン


 目の前に小さなウィンドウが出現し、ユーノのバストアップ映像が映る。

 のほほんとした彼女の口調からは、とても大丈夫そうに思えない。


『ジュンヤさんの記憶をたどって、

 得意そうなゲームの世界とリンクさせましたから。

 何かしらのスキルが使えるようになっているはずですよ?

 まずはステータスを開いてください』


 ユーノの言葉と共に、「ステータスを見る」というボタンが空中に出現する。


「ホントか?」


 半信半疑でボタンを押す。


『ステータスを見るって能力はですね、転生者特有の能力であり、女神の力の粋を集めた……』


 何やらユーノの講釈が続いているけど、ゲームならステータスが見れるのは当たり前なわけで、いまいちありがたみが感じられない。


「おっ?」


 ユーノの言葉通り、目の前にステータスウィンドウが表示される。


 ======

 モベ ジュンヤ

 LV1 ヒューマン

 HP  :100 最大値:9,999

 MP  : 30 最大値:9,999


 攻撃力 : 75 最大値:9,999

 防御力 : 60 最大値:9,999

 素早さ : 30 最大値:9,999

 魔力  : 25 最大値:9,999

 運の良さ: 30 最大値:9,999

 ☆戦闘スキル熟練度:1

 ☆築城スキル熟練度:1

 Notice:今なら転生特典として熟練度を2上げられます(ユーノより)

 E:布の服(防御力+5)

 ======


 表示されたのは見まごう事なきモンクエのステータスウィンドウ。

 クラシックなRPGらしく、すっきりとした分かりやすいステータスだ。


「……あれ?」


 何か違和感がある。

 モンクエは昔のRPGらしく、ステータスの上限値は999だったはずだ。

 だが、俺のステータスウィンドウには上限値が9,999と表示されている。


「それに、この”熟練度”って。

 まさか……リバサガ?」


『その通りですっっ!』


 必要以上にドヤ顔で胸を張るユーノ。


『ジュンヤさんの記憶から、なんかこー……

 凄そうなゲームの要素をリンクさせてみましたっ!』


 ……とりあえず凄い事をしてくれたようなんだけど、

 ユーノのアホっぽい口調からは不安しか感じない。


 リバサガ……正式名称リバティ・サーガはもう一つの国民的RPGである。


 基本一本道のモンクエに対し、フリーシナリオ制を採用。

 レベルという概念はなく、様々な行動を繰り返すことで熟練度が上がっていく仕組みだ。


 村を作って発展させたり、モンスターやライバルの攻撃から防衛すると言ったシミュレーション的要素もある。

 ステータス上限も9,999でやり込み要素たっぷり、最新作ではオープンワールド化され長く遊べるゲームに仕上がっている。

 一本道のストーリーを楽しみたい層には何をしていいか分からないと不評なのだが、俺はリバサガ派だった。


『どうです? 凄いでしょう?』


「う、うん?」


 ユーノの言う通り、リバサガの要素が導入されているのなら、熟練度が上がるたびに各ステータスが50~100上昇する。

 現在の初期ステータスだけでも序盤をクリアできるくらいの水準のはずだ。

 なんとか、なるのだろうか?


『それにっ!

 わたしの力で転生特典を付けときましたから、さあぽちっと!』


「そんな、ソシャゲの開始特典じゃないんだから……」


 やけに俗っぽい事を言うユーノは置いといて、

「Notice:今なら転生特典として熟練度を2上げられます(ユーノより)」

 というメッセージは俺も気になっていた。


『さあさあ!』


 ユーノに促され、メッセージをタップする。


 ぱあああああ


「おおっ?」


 その途端、俺の全身を光が包む。

 腕の筋肉がムキムキと増強され、頭の中がクリアになった気がする。


 ======

 モベ ジュンヤ

 LV1 ヒューマン

 HP  :230 最大値:9,999

 MP  :120 最大値:9,999


 攻撃力 :150 最大値:9,999

 防御力 :110 最大値:9,999

 素早さ :80  最大値:9,999

 魔力  :105 最大値:9,999

 運の良さ:70  最大値:9,999

 ☆戦闘スキル熟練度:3

 ☆築城スキル熟練度:3

 E:布の服(防御力+5)

 ======


「スゲェ!」


 開いたままのステータスウィンドウの各パラメータが上昇した。

 エアプなのでよく知らないけど、通常の最大値が999だから、中盤レベルのステータスじゃないのか?


『ふふんっ! このリンクスキルはユーノだけの能力ですからっ!』


 胸を張りすぎてウィンドウから見切れそうになっているユーノ。


「だけどレベルは1のままか……」


『ま、まあ、それは世界の法則ってやつですよ』


 熟練度が上がっただけで経験値を稼いだわけじゃないので仕方ないのかもしれない。


「とにかく助かったよ、ありがとうユーノ。

 これで……」


 第一印象は頼りなかったけど、ユーノはなかなか有能な女神のようだ。


 とりあえずアルフィノーラを見つけて村から連れ出してもいいかもしれない。

 そう考えていた俺の思考はユーノの声にさえぎられる。


『と、いうことでっ!

 チュートリアル戦闘行ってみましょう!!』


「……は?」


 ガサガサッ!


 ガルルルルル


 いつの間にか、10体近い狼型モンスターに囲まれている。


 え?

 コイツらと戦うの?

 素手で?


『あ、転生特典その2として、武器が支給されます』


 からん


 目の前に落ちてきたのは、ヒノキの棒。

 鼻腔をくすぐる、爽やかな香り。


「ちょ、ちょっと待てえええええっ!?」


 ガオオオオオオオンッ!


 前言撤回!

 俺はユーノのせいで絶体絶命のピンチに陥ることになった。


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