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異皇国大戦  作者: 鹿尾菜
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ワシントン軍縮会議1

後にワシントン軍縮会議と呼ばれる海軍軍縮会議は連合王国と皇国の外交的圧力により合衆国が一番にその手を上げることとなった。そのため東海岸ワシントンには海軍を保有する複数の国が集まることとなった。


本来合衆国は既存国力からすれば戦艦建造レースではトップを維持できる強固な経済力と技術力を保有し、さらに量産能力すら兼ね備えていた。その国が真っ先に軍縮に動いたのはこの国の海軍に対する国民の見方が原因となっていた。



広大な国土の開発投資により産業を急速に発展させてきた合衆国だが、連合王国植民地からの独立を果たし建国してから100年あまりの間、孤立主義が強かった。

元々欧州から追い出されるようにしてフロンティアに入植した人間が多い土地でありその国土自体が欧州全土以上の広大な土地を持ち国内の投資のみで経済が発展可能であったがゆえ、欧州の問題を持ち込まれるのを嫌い海外とは縁を切る孤立主義が最も合っていると言えた。



そのため海軍は小規模なものに抑えられその戦力は沿岸防衛と通商破壊の受け身な戦略を基本とするもので、他国海軍と比べると敵主力と正面から戦う為の大型の主力艦を保有していない。

合衆国自体が広大であり侵略を受けた場合でも国内もしくは沿岸部で押しとどめることが可能と考えられていたからである。また当時合衆国を侵略しようという国家がほぼなかったことも原因であった。


その状況が変化するのは南北戦争だったものの、建造された大型艦はやはり沿岸攻撃を主に行うモニター艦でありそれらもまた南北戦争が終結した合衆国にとって敵のいなくなった大艦隊は邪魔でしかないものだった。

そのため連合王国や皇国と異なり新型艦への更新も行う事もなく、1870年代に入っても合衆国海軍は縮小したまま沿岸防護をかろうじて行える程度の小規模なままであった。

海軍としては幾度か戦力強化の意見を挙げていたが国民の多くがモンロー思想を持っており海外からの攻撃は沿岸での陸軍主体の戦闘で十分であるという認識が多かった。





この状況が一応進展を見せるのは1873年にヴァージニアス号事件が勃発してからだった。対同君連合関係が急速に悪化していた中、旧式艦しか持たない事を憂慮する声が高まった事が理由とされていたがこの時計画された主力艦は予算の問題で建造が80年代まで凍結されており、対外的な緊張の中でさえ当時の合衆国海軍の重要度が低かった事が証明できる。


最も合衆国海軍を大きく変貌させるきっかけとなったのは1880年代になり南新大陸諸国3国が海軍拡張を行い始めた事だった。

3国が連合王国製の新型装甲艦を整備し始めたことは旧式艦しか持たない海軍にとっては脅威であった上に、欧州はともかく新大陸内での地位が下がるのはモンロー主義に反する重大な問題と国民は認識していた。

さらに比島を植民地として獲得した合衆国は、対帝国戦争後東アジアにおいて勢力を拡大する皇国へ対抗する為にも海軍の増強を進めていた。


しかし国民の感覚と海軍の感覚はここでまたしてもずれを生じており太平洋の反対側に位置するこの植民地の防衛に於いてもやはり沿岸防護程度の戦力で十分という認識であった。

その原因の一つに陸軍との政治的力関係があった。

そのため予算制限などが多くワシントン軍縮会議の時点では海軍側は軍縮会議に反発していた。


元々合衆国海軍は1903年から原則として、年に二隻の戦艦を起工させることを目標としていた。

これにより1920年の時点で48隻の戦艦を保有することになり、当時艦隊の拡張を続けていたライヒ帝国海軍、連合王国海軍を上回る事を目標としたものである。

当然このような建造ペースは議会の反発も強く維持できるものではなかった。

しかし世界大戦が勃発すると、戦勝国側が戦後に勢力を増すことで合衆国権益を巡りと対立するのでは、という懸念が広まっていく。

これに備えるために、遅れた分の戦艦建造を含めた大幅な海軍拡張計画が1916年に認められた。当時の海軍長官の名前からこの拡張計画はダニエルズプランと呼ばれることとなる。

この計画は3年で戦艦10隻、巡洋戦艦6隻の計16隻を起工する壮大な物であったが世界大戦は連合国が勝利。目標としていたライヒ帝国海軍も実質消滅した。

この時点で合衆国国民は目標が消失したことから海軍の拡張は予算の無駄との認識を持ち始め、それは議会においても声が強くなっていく。建国以来根付いているモンロー主義はそう簡単に払拭することはできない。それに反発するように海軍は増強を求めていた。この議会と海軍の対立を議会側は世界的な軍縮を利用して海軍を抑え込もうとした。



軍縮会議締結時点で合衆国海軍は超弩級戦艦としてニューヨーク級2隻、ネバダ級2隻、ペンシルベニア級2隻、ニューメキシコ級3隻、テネシー級2隻、コロラド級2隻が就役していた。


このうちダニエルズプランに入っていたのがコロラド級戦艦でありここからは16インチ以上の艦砲を搭載した戦艦の建造が控えていた。


対する皇国は戦艦を合計で8隻、巡洋戦艦で8隻の16隻であり両方の計画が完成していれば合衆国海軍合計52隻、皇国海軍20隻となる。

皇国側が数で圧倒的に不利となるが主力となる超弩級戦艦の数では合衆国海軍27隻、皇国海軍16隻でありまた合衆国海軍は東西の海に分配して配備しなければならないことから実戦力では保有戦力としては十分と考えられていた。


当然皇国はそんな壮大な建造など行うつもりはなく、軍縮会議までに完成していたのは長門型一隻、陸奥は竜骨が組み上がったばかり。

同時に考案されていた巡洋戦艦に至っては長門型初期案をベースとして期間短縮を図り佐世保と呉の造船所に船台が組み上げられたところであった。



原敬総理大臣は東京駅での暗殺未遂事件後も通常通りの対応と勤務を続行しており、ワシントン軍縮会議に全権団として国防大臣新堀誠、貴族院議長徳川家達、駐米大使成田剛志を送り込んでいた。


「成田君、私たちは首相に派手に暴れてこいと言われている。しかし現状わたしたちがどのような方向を向くべきかはまだ話し合っていなかったな。そこでだ。外交の観点から見た君の意見が聞きたい」


交渉に赴く船の中で、新堀は成田を個室に呼び個人的な会議をしていた。

普段から表情が固く仏頂面な成田はしばらく考えるようなそぶりをしながらも、自らの意見を洗いざらい話すこととした。


「合衆国側から見た場合、皇国は大陸側の門兵のような存在です。いくら資本に対して南満州市場を開放し桂・ハリマン覚書を強行的に押し通して鉄道の共同運営を行なっていてもあの国が必要とする利益は得られません。むしろ国力の増大と共に大陸に深入りしようとするでしょう」


「そうなると皇国は利益の面で問題になる…か」

現在満州に対しての投資は皇国はほぼ行っていない。そのような開発資金を用意するくらいなら戦時国債の返済に充てるのが急務でありさらに国内の産業基盤の底上げを行い国力を増強する富国強兵の観点から言っても大陸への投資は反発が大きかった。

既に大連の港周辺には合衆国や連合王国の資金と皇国で加工された資材により高層ビルがいくつか出来上がっており東洋の摩天楼と言われ始めていた。

そのため満州は連合王国、次いで合衆国の資本によって発展が行われていた。

「現状皇国は大陸への深入りを避け外資による利益吸い上げのみとしていますがその利益吸い上げすら合衆国からすれば快く思わない」


「そうなると軍事力を抑えるためにあらゆる手段を講じてくるか。しかしだとすれば軍縮など開かなくてもあの国ならどうにかなりそうなものだがな」

国力や軍事力の観点からものを見る新堀にとってはこのような軍縮会議を開かずともあの国なら純粋な国の力で押し勝つ事など造作もないと思っていた。


「こちらには連合王国との軍事同盟がありますしあの国の国民性はモンロー主義が主流です。そのため対外戦闘を主とする海軍とは国民性からあまりうまくいっていません。軍縮会議も海軍を抑えたい議会側によるものでしょう」


「海軍を抑えつつこちらも抑え込もうとは中々大胆な事をするものだな連合王国も流石に大戦の国債を大量に買っている合衆国には強く出れないだろう」


「ですのでここは貴方が総理に説明していた考え通りの方針がよろしいかと」

それは現状の皇国の国力や国家予算から算出したものであり、海軍力で対合衆国6割。そのほか合衆国領土のフィリピン・グアム・サモア・アリューシャン諸島の基地機能強化禁止。

連合王国の香港並びに東経110度以東に存在する、あるいは新たに取得する島嶼の基地建設及び基地機能強化の禁止。

皇国側は奄美大島、千島列島、沖縄の基地機能強化禁止を加える予定であった。


「しかし陸奥の建造が遅れたのは痛かったな」

戦艦陸奥は長門型2番艦として建造が計画されており本来であればこの時期には就役をしている予定であった。しかし造船所での火災事故により陸奥の建造が遅れ現在未だに船体の建造をおこなっているところであった。

このため現在保有している戦艦は超弩級巡洋戦艦が2隻、超弩級戦艦5隻だった。

このうち金剛型の榛名と比叡は防御力の観点から陸奥と引き換えに廃艦とする用意であった。



この後徳川との会議も行った新堀は予算の問題と満州権益を主張する議会側が勢いづく事を抑えるためにも満州のこれ以上の外国利権拡大は避ける方向で意見の一致を得た。


ロサンゼルスに到着した全権団は大陸横断鉄道を利用しワシントンまで陸路の旅をすることとなる。






11月24日

ワシントン軍縮会議の第一回総会が開催された。


会議が始まって早々に合衆国国務長官チャールズ・E・ヒューズは重大な発表を行った。本来あらかじめ各国に通達されていたことではあったが民衆には非公開とされておりその場にいた記者らにとっては衝撃的なものであった。


「我が合衆国は、軍縮条約の大筋として各国が進行中の主力艦建造計画を全て放棄する事を要求し10年間に渡り新たな主力艦建造を行わないことを求める」


彼の演説が終わると会議場のさまざまなところから拍手が沸き起こった。


この15分後、会議への記者の立ち入りは出来なくなり各国の討論が行われることとなる。


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