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異皇国大戦  作者: 鹿尾菜
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5号艦設計変更

5号艦。のちに伊勢と呼ばれることになる戦艦は世界大戦勃発と共に建造予算を陸軍の欧州派遣の予算へ回す形で建造が中断されることとなった。

その後臨時予算案が組まれ改めてこの戦艦の建造が行われようとしていたが再び建造停止となった。

建造が延期となったこの戦艦の改良計画が海軍局から艦政に回ってきたのはユトランド沖海戦が発生した一ヶ月後の1916年7月のことだった。


その日遅めの昼食を食堂で食べた結月技術中尉は他の同僚たちと共に会議室に集められていた。

艦政では海軍の増備計画である六四艦隊計画に基づいて発令された駆逐艦江風の設計が行われており集められた人員の数は少なかった。



「本日集まってもらったのは計画が遅れている5号戦艦の設計見直しを行ってほしいからだ」

既に幾度となく交流をしていた坂本少佐は固いことを抜きにして早速本題から入った。

艦政は造船と武器開発を柔軟かつスムーズに行うため民間企業の出入りも多く軍属扱いとして民間の造船技師もこの会議に参加していた。そのためあまり堅苦しい作法は省略する傾向にあった。

坂本少佐もまた数年間の合間艦政で任務を遂行していたからか軍人特有の威圧感は和らいでいた。

しかし真剣な目線は変わらず、淡々と状況を説明していった。



「一ヶ月前行われたユトランド沖での海戦で戦艦霧島が轟沈したのは皆も知っていることだろう。そこで戦艦の装甲配置に不備があったのではないかという議題が上がりそちらの分析室から上がってきた報告からも水平装甲が貫通されたという説が有力視されることになった」

その報告は結月も耳にしていた。重要度が高く機密保持の問題から結月は見ることは出来なかったものであるが上部装甲を貫通されたという噂だけは艦政では有名なものとして流行っていた。

「そこで現在建造が予定されている戦艦並びに超弩級戦艦の扶桑と山城の改良と設計見直しの命令が下された」


「君たちには現在建造中の5号戦艦の設計見直しを行ってほしい」



元々戦艦扶桑が建造中であった1913年の時点で連合王国の最新鋭戦艦が15インチ砲搭載の可能性があると伝えられていた。その後案の定就役した連合王国戦艦、クイーンエリザベスは予想通り15インチ砲8門の超弩級戦艦であった。


そのことから扶桑型は現行の14インチ砲と装甲では戦力不足であるという声が上がっていた。

事実同時期に建造された合衆国戦艦ニューヨーク級とネバダ級は14インチ砲を10門搭載していた。特にネバダ級は装甲厚こそ不明であったが写真から推測するに主砲前面で400mmを超えていると想定されていた。

装甲厚でも砲数でも完全に劣っていると戦艦乗りは考えているのだ。


そのため建造が遅れている5号艦の設計を変更し列強に追いつける戦艦を求めているのだ。

しかし扶桑型は16インチ砲への換装を前提に造られている。そのことは極秘とされているため限られた人員しか知らない。

しかしそれを差し引いても水平装甲が薄いということに変わりはなく、ユトランド沖海戦での戦訓から海軍局が扶桑型の持つ水平装甲の脆弱性を指摘するのは当然のことであった。



「大きく変える必要はない。主砲も今まで通りで構わないが装甲配置の見直しを主に行なってほしい」

そこで坂本少佐はこの戦艦の改装は主に防御性能の改善を主に考慮してほしいと要求することとした。

これもあながち嘘ではなかった。砲塔の装甲はともかく舷側の装甲の配置見直しは必要であるという見解もまた多いのだ。


坂本少佐が出て行き入れ違いに入ってきた艦政局長がこの場で最も階級が高い結月中尉が指揮を取るように最後に指示を出し会議は30分を待たずして終わりを告げた。しかし技術者達の会議はこれからであった。

「改良……まずユトランド沖で轟沈した霧島の分析が必要ですね」

早速陣頭指揮を取ることになった結月中尉はやや長めに伸ばした髪を片手で掻きむしりながらするべきことを素早く指揮していった。

「なら扶桑型の運用面での欠陥も探らないといけないな。海軍局に問い合わせてみよう」


「そっちは朝倉少尉白鬼院特務少尉に任せる。霧島轟沈の資料は俺がとってくる。残りは扶桑と山城、後金剛型4隻と5号艦の設計図面を用意してくれ」

こうして結月中尉は製図台に向き合う前に技術分析室に向かうことになった。






ユトランド沖海戦における戦艦霧島は高角度、少なくとも上甲板へ降り注ぐように到来した砲弾が水平装甲を貫通したことが直接の原因とされていた。


金剛型戦艦の水平装甲は下甲板19mmと船首楼甲板(後部は上甲板)38mmの2層式であり、前者は同厚のまま主装甲帯の下端に接続し傾斜部を形成している。水平装甲は材質がニッケル鋼もしくはHT鋼、一部に均質装甲であるVNCを使用する形であった。

これは遠距離戦闘で生じる大落角砲弾でも、薄い二層式の水平装甲、つまるところ外側の一層目で砲弾を炸裂させ二層目や間の石炭庫で重要区画への被害を受け止めるという方式をとっていたからだ。この方式は扶桑型戦艦でも行われている。

1916年当時野徹甲弾は材質の問題もあり貫通能力は14インチ砲であっても決して高いものではなくこの二重装甲は有効であった。

霧島の被弾もまたこの2枚の装甲で食い止める事ができると思われていた。事実榛名はこの戦闘で5発を水平装甲に被弾しているがそのどれもが上甲板装甲で炸裂し下の装甲に被害は及んでない。しかし砲弾はどういうわけか二番砲塔付近に命中後貫通したと考えられる。その後霧島は二番砲塔直下から誘爆し真っ二つに割れてしまったのだ。


この時被弾した砲弾は12インチ砲3発であった。

最初に2発、そして1発。


そして分析室の解析では最初に貫通した砲弾が弾薬まで貫通したことが原因であると考えられた。この1発は不発弾であり上甲板の装甲を貫いてなお砕けず弾薬庫上部で静止したものであった。

しかしその砲弾が残り2発の被弾の衝撃で信管が作動してしまった結果破滅を招いたのだというものであった。

結月技術中尉はその結論を聞いて顔を顰めた。

しかし元富士型戦艦の富士に搭載されていた40口径30.5cm砲を使用した実験の結果は貫通するだけなら全くもって問題ないというものだった。

これが最新の三式徹甲弾を使用した14インチ砲であれば信管を搭載していても貫通は可能とのことだった。

扶桑型戦艦の装甲なら30.5センチ砲は問題ではない。しかし連合王国の15インチ砲戦艦や合衆国が配備する14インチ砲相手では容易に貫通される可能性があった。つまり現在の戦艦の水平装甲では砲弾の防御は不可能であると言わざるおえなかった。


しかし問題はそれだけではなかった。連合王国から齎された分析録ではユトランド海戦におけるクイーンメリーを含む巡戦の爆沈の主な原因として大落角砲弾が砲塔天板を貫通したことが原因であると書かれていた。

二重装甲を張っている水平装甲と違い主砲天板は上甲板と同じ厚さでしかない。(つまり38mmから40mm)

これは正面の防楯部分と比べれば1/9の厚さでしかない。

連合王国の艦艇のうち4隻の主力艦が砲塔に被弾後誘爆して轟沈している。砲塔を貫通した砲弾により砲塔内部に置かれていた砲弾が誘爆しこれが火薬庫に達したという流れが現在最も有力視されている。

金剛型の場合も砲塔装甲はバーベット並びに天蓋が十分抜かれる可能性がある厚さであり、やはり運が悪いと、霧島だけではなく連合王国巡洋戦艦と同じく主砲塔の貫通誘爆からの爆沈という可能性は避けられない。


扶桑型も装甲の厚さこそ違えどやはりバーベットの厚さは薄く容易に貫通を許すことになってしまう。こうなっては被害軽減措置として消火装置や不燃材、排水ポンプと水密隔壁を充実させていても轟沈してしまう。


その上扶桑型は戦艦であり戦闘を行う相手は同じ14インチ砲か15インチ砲を搭載した戦艦なのだ。装甲の改善は必須であった。


そしてもう一つの事件もまた結月中尉を悩ませた。


それはユトランド沖海戦の教訓を元に装甲配置の最適化を行おうと図面を引いている最中に飛び込んできた。

「大変だ!金剛が沈んだ!」

それは海軍局から戻ってきたばかりの白鬼院特務少尉からもたらされた。息を切らして駆け込んできた彼はそのまま鬼のような形相で泡を飛ばしながら叫んだ。

「沈んだだって⁈だが海戦があったなんて……」



「なんでも潜水艦にやられたらしい。同伴していた輸送艦も一隻沈んだとかで今海軍局は大騒ぎだ!」



ユトランド沖での海戦結果から海軍は追加の派遣として戦艦金剛を派遣していた。

本来であればユトランド沖海戦前に榛名、霧島の代わりとして河内型戦艦2隻の派遣を予定していた。

しかし海戦において14インチ砲を搭載した最強クラスの戦艦が轟沈したことから前時代の戦艦をこのタイミングで派遣することは弱腰と指を指され威厳に関わるとして急遽会議で金剛の派遣へと変更となった。


この金剛が派遣途中に轟沈されたのだから海軍は大騒ぎであった。

また金剛が護衛していた輸送船3隻のうち1隻も魚雷が命中し6時間後に沈没している。

再び艦政では水中装甲の見直しと水雷防御が見直されることになった。





そして三週間が過ぎ、再び坂本少佐と結月中尉は顔を合わせることとなった。

艦政の会議室には二人しかいなかった。そのほかの人員の多くは六四艦隊計画のほかの艦艇の設計見直しに対潜兵器の開発、さらに潜水艦の研究に回されていた。


「こちらが計画案となります」

船体はほぼ戦艦扶桑と変わらないものが描かれていた。しかし第一甲板、第二甲板と続く設計図面では艦内構造の多くが変わっていた。

主に装甲の配置と隔壁の増加がそれであった。

また水中付近に膨らみのようなものも取り付けられていた。

そして最も大きな違い。それは副砲の搭載方法だった。

「副砲の砲架?」



「従来までの砲郭にて副砲を設置する方式では速力の増大と海洋の天候状況では使用する事ができない場面が多く副砲の役目がもっぱら対小型艦用であった欧州での戦闘では対艦戦闘に支障が出ていたと言わざる終えません」


特にその問題は日本海で訓練を行った艦艇に多発しており、さらに言えば現在海軍の仮想敵が合衆国である事から広大な太平洋側での運用を念頭にせねばならず比較的低い位置に設置されている砲郭では波の影響が無視できなかったのだ。

また魚雷を搭載した駆逐艦の高速化高性能化は第一次大戦で戦艦に対する大きな脅威となっていた。

副砲の役割は交戦距離の増大と共に対戦艦から対小型艦へ変化していた。


「なら第一甲板上に位置を上げれば良いのではないか?」


「それでは砲郭の旋回制限が根本的に解決されません。その上重心向上を招き転覆の危険性が高まってしまいます」

ただでさえ水平装甲を厚くしている。その上水雷防御として水中の装甲すら厚くするのでは重量超過である。

側面の装甲を傾斜させみかけの装甲圧を上げる工夫をしているため舷側の装甲は厚さと重量こそ扶桑型と変わっていないがそれは気休めにしかならなかった。

「それで砲架とするわけか」

また砲郭の部分の装甲の薄さからくる被弾時の損害の拡大しやすさを考慮すれば砲架にするデメリットは薄かった。

「水平装甲の増加も行いますので重心向上は好ましくありません。軽くできるところは極力軽くしなければなりませんから」

そのため扶桑型で採用されていた魚雷発射管すら装備なしとしていた。

それでも排水量として400tの増加。さらにバルジを追加しているため合計で678tの排水量増加となっていた。一昔前の駆逐艦一隻に相当する重量だった。


「予測される出力不足には新型のロ号艦本式ボイラーを使用します。最大で扶桑型の3割り増しの出力となっています。速力の維持は最低限可能です」


「機関まで変更するか。こりゃ同型というより全く別の戦艦だな」


「ともかく一度会議にあげる。後は反応次第だ」


その後伊勢型の設計変更は会議で大きく評価が分かれることとなった。

主にバルジの増設と排水量増加による操舵性の悪化などが懸念されたものの艦政が行った大型模型での実験では扶桑型よりバルジがある分安定性が大きく揺動も少ないとの結果から砲戦時の集弾性が高くなると予想されこれが大砲屋を味方につけることとなり最終的に本案が通ることとなった。

一部では14インチ三連装砲とする計画もあったが砲のコストが高くなることと設計変更で既に調達価格が上がっていることを理由に断念され5号戦艦は伊勢として伊勢型戦艦として竣工することとなる。








伊勢型戦艦

1916年12月に着工。

ユトランド沖海戦の戦訓を取り入れ扶桑型で指摘されていた問題点を修正した戦艦であり扶桑型の設計を流用していることから準扶桑型戦艦とも呼ばれている。

元は扶桑型3番艦として建造される予定であったが世界大戦の勃発により建造が遅れ改良型として建造されることとなった。



船体

扶桑型と同じ長船首楼型船体を採用しているが艦首は排水量増加を受けて凌波性をより高めるために直線状のカッターバウとなっている。

また波を多く被ってしまい砲撃に支障が出ることから艦首側にブルワークを設置している。


また各部構造も変更されており扶桑型では接続されていなかった艦橋基部と艦橋甲板が第2砲塔に接続され、司令塔も楕円状となっていたものを改め、円形に変更されている。

司令塔の後方、マストの一部に台座を設け新たに2.7m測距儀が設けられることとなった。

この他に、竣工直後に8cm40口径高角砲4基が前檣両側と第2煙突の両側に装備されている。


内部構造も扶桑型から進歩しており水密隔壁の数が増やされた他バルジを増設し内部側に重油を充填した水雷防御層が2層組み込まれていた。

ただし重油が減ることでこの防御層が意味をなさなくなってしまうという欠陥があった。


装甲

主に扶桑型の装甲配置を参考にしつつ、後部の100mm装甲帯はなくなり操舵機械室周囲を四番砲弾薬庫周りのバイタルパート装甲を延長する形で保護している。

さらに水平装甲を強化し扶桑型の最上甲板34mm+下甲板31mmから最上甲板87mm+下甲板31mmとしさらに機関室上部と弾薬庫上部に96mmの装甲を追加している。しかしそれ以外の部分は合計で118mmでしかなく合衆国の14インチ砲では24,000m台から貫通されてしまう防御力しかなかった。

対して主砲上部の装甲は198mmと増加しており防御力を向上させている。

また側面にバルジを増設し水雷防御のための空間装甲としている。



武装

扶桑型と同じ四十一式36cm砲が採用された。ただし主砲の仰角引き上げが行われており最大仰角40度として射程延長を行なっている。

副砲として50口径14cm砲を採用しており連装砲架として3基6門づつ左右に搭載している。

これは15cm砲では皇国人の体格では重量が大き過ぎて継戦能力が低かったことに起因している。

砲は前方方向を波除板で覆った後部開放型シールドとなっていた。

また就役直後から高角砲として8cm砲を搭載しており対空射撃用の照準器を第一煙突の横に搭載している。

機関

扶桑型から変わりロ号艦本式ボイラーを搭載している。

このため一缶あたりの出力が大きく向上しバルジを増設してなお扶桑型よりも高速の23ノットで航行が可能であった。

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