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逃亡

 

「右! 左! かわしたらそのまま直線だァッ!!」


 刀をもった男は俺に助言しながらも軽々と使用人らの追撃をかわし、出口だと言っていた壁にまで到達する。遅れてついた俺を引っ張るようにして、出口につながる壁へ両手をつけた。

 途端に、幻術が晴れたかのように目の前に立派なホールが出現する。


「あとはあの出口から外に出るだけだ」


 追ってくる使用人がだんだんと増えてくるも、俺らに追いつく気配はない。あの王冠男が3人は同時にくぐれるほどの大きさの出口に向かって走り続ける。途中体に慣れてないせいか何度か転びそうになったが、男が支えてくれたおかげでなんとか転ばずにすんだ。

 追ってとの距離をどんどん離し、出口の外へと飛び出す。追っ手はこれ以上追いかけてくる様子はなく、安堵しながら隣を見た。

 彼もまた安堵をついて、一緒に逃げ切れた。そう思ったのだが、彼は出口から一歩もでることなくその場に立ち往生し、あっという間に使用人たちに囲まれてしまっていた。


「どうやら俺の動きはとっくの前に勘づいてたみたいだわ」


 使用人に囲まれてる中から男の声が聞こえてくる


「いつのまにか体に細工がされてたらしい。俺、そっち側いけないみたいだ」


 使用人に覆いかぶさられるも、腕が伸び、出口のほうへ拳が突き出される。その手の内には一本の刀、出口の外へ刀がでると、男はゆっくりと手の力をゆるめた。

 刀が地面に落ち、男の姿は使用人に完全に覆われ見えなくなっていく。


「俺の名は梵天丸。また会う時までよォ! これもっててくれねえか!」


 中から声が聞こえてくる。

 俺は返事をすることなく刀を手に取ると、想像以上の重さに左右にふらついた。

 これから一緒に行動をする、しばらく仲間として一緒に旅をするもんだと勝手に思っていた。消えゆく彼の姿を見て言葉を失う。初対面で何も知らないはずなのに、異世界人という共通点だけで仲間になれた、どこかでそう思っていたのかもしれない。

  

「……こんな重いのどう預かれっていうんだよ」


 ぼそりと声にでたのはそれだけだった。


 中のほうから梵天丸の叫び声が聞こえてくる。声が聞こえた瞬間、びくっと体を震わせるも、俺だけは逃げるんだと、城をあとにした。正直、あれが俺じゃなくてよかったと安堵している自分に嫌気がさして、地面のコンクリートを素手で1発ぶんなぐった。かよわい細々とした拳から血が流れるのを見て、自分の非力さを思い知った。


「いやだ! まだ俺は俺でいたいんだ! 俺はァッ!」


 最後の絶叫は、はっきりと俺の耳に残った。

 頭を左右に振り、城下町のほうへ走っていく。梵天丸の声はそれ以降一度も聞こえることはなかった。


 城下町まで降りると、追ってくる人はもういなかった。街には沢山人がいるが、活気づいているわけではない。奇妙な光景だった。

 誰も話している人がいないのである。


 まるで誰かが上から糸を垂らして操っているかのように、城下町の人間は無言で日常の真似事を行なっているかのようだった。

 ここにいる人全員、あの王冠男に作られた存在だっていうのか? 

 人は……あいつ以外いなかったのか?


「おえっ……」


 あまりの出来事の連続に気持ちがついていかず、嗚咽が走る。なんとか外に出ないよう抑えたものの体調は最悪だ。

 正直、今の俺の格好はこの城下町の貧相な見た目をしてる人たちと比べるとかなり目立つ。

 いいとこのお嬢さんの典型みたいな格好をしてるからな。普通なら周りの奴らも少しは俺の方へ目線を向けてもいいはずなのに、まるでそこに俺がいないように少しも俺を気にする素振りは見られなかった。


 まだここにきて数時間、ここの実態やらなんやら殆どわかってはいない。このまま梵天丸たちを捨て置いて逃げてもいいのか、かといって俺にできることなど何もない。

 異世界転移者がどうなってるか知らなきゃ、何も考えずに逃げ出す方法考えてたんだけどなぁ。


「どちらにせよ、今の俺にできることなんて何もないけど」


 無音の街の中を進み、外に繋がってそうな一本道を発見する。梵天丸もここから外に出るのを夢見ていたのだと思うと俺だけ外に出る罪悪感にかられる。

 街の外は、見渡す限り一面荒野に覆われていた。

 ここから外に出て、それこそ生きていける保証なんてどこにもない。だけど、ここにずっと居れば死ぬのは確定。

 まだ何にも知らないしほぼ赤の他人だけど、あいつは恩人だ。


「また帰ってくるから」


 後ろへは振り返らなかった。

 前だけ見て進む。あいつならそうすると思った。

 腰にかけられた刀を引き摺らないよう持ち上げ、俺は荒野の中に一歩足を踏み出した。

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