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脱走

 兎に角、ここに居座るわけにもいかない。とりあえず自室までもどったはいいが、このままあの王冠男と一緒にいるのはごめんだ。使用人も必要以上のことはしゃべる気配がなくてまるでゲームのNPCのようで気味が悪いし、この建物の中にずっといると自分を見失いそうになる。

 俺は自室の外にでると、外へつながる道がないか探し続けた。とりあえず下にいこうと階段をつかい降りると、窓から外を確認して現在位置を確かめる。

 途中何度か使用人に見つかったがとくに何か言う様子もない。俺は一階につくとあたりをうろつき、なかなか玄関が見当たらなかったため、最終的に窓から中庭のほうへ転がり出た。


 今まで身長が170はあったため、壁を乗り越えようとしたときにかなり支障がでる。今までは簡単によじ登れたであろう高さの壁でも、この華奢な体だと一苦労だ。ただ、VR上でものを掴むような感覚でとおくにあるものも間接的に触れることができるため、手の届く距離で困ることはさほどなかった。

 中庭から外につながるところはないか、あたりを見回すが、どこも壁でおおわれており、外につながってそうなところは見当たらない。

 ほかに出れる可能性がありそうな場所は見かけてないしどうしたものか。

 

 中庭の中央あたりにベンチがあったため、腰かけると、疲れたため少し体を休ませる。異世界での体だから運動神経抜群だとか、体力自慢だとか期待していたが、どうやら年相応の筋力体力しかないらしい。

 この調子でこの世界で生きていけるか疑問に思いながらも、青空を見上げ溜息をもらす。

 すると、なにやらベンチの横でごそごそと物音がしていることに気づいた。あまりにも不自然な動きをしていたので、右腕をベンチ横のホウキグサの中に突っ込む。

 自分の筋力は皆無に等しいが、見えない手で間接的につかんだときは重さを感じないため、中にいた何かを掴むをそのまま持ち上げ外に出す。


「おいおいおいちょっとまて! 隠れてんだバレたらどうなるか……」


「なんかどっかで見たような顔だなあ」


 和装にオールバック。おちゃらけた武士のような見た目。腰に刀。

 俺が最初に呼び出されたところにいたような気がする。騎士みたいなやつと武士みたいなやつはとくに目立っていた。


「でも俺がみたときはまるで人形……」


「うるせえ、今日こそここから出ようとずっと演じてきたんだ。お前もああなりたくなかったらさっさとここから出ていくことをおすすめするぜ。まあそう簡単に出しちゃくれんがな」


 刀をぶら下げた男はそう言うと、おろしてくれと指で俺にジェスチャーする。

 おろした途端すぐに草木に体を隠した。


「俺はとっくに人形化されたことになってんだ。こんなとこを見られたりしちゃあ何されるかわかったもんじゃねえ」


「人形はもともと自我がないんじゃないのか……?」


「俺はお前と同じ異世界転移者ってやつだよ。ここは人形の国。最終的には全員ああなる運命なのさ。お前は7番目だろ? 俺は4番目、先輩だな。しにたくなかったら俺の言う通りにしたほうがいいぜ」


 男はトントンと説明すると、ゴキブリが這うように草木から顔をだし、北方向の壁に体を近づけた。

 一人泥棒のようにこそこそと動いているが、そのあとを俺は歩いて追いかける。


「お前はまだ自我がある状態って認識されてるからそれでいいかもしれんがな! 俺は見つかったらアウトなんだよ! 隠れろ!」


「あんたの持ってる情報洗いざらい流してくれたら一緒に隠れてやるよ」


「てめえ……」


 ニタニタしながらついてくる俺に対し、怒りを必死にこらえながらにらむ男。どうやらまだ情報をもっているらしく、自分の安否のが大切だったのだろう。淡々と話し始めた。


「かわいい顔して、すげえ性格のわりいやつだなお前。言っておくが、俺が持ってるのはさっき言った以外には1つ。ここから出る方法しかねえ」


 刀を持った男はそういうと、北側の窓から頭をだし、そのまま奥のほうを指さした。

 だが、見ても壁しかなく玄関らしきものは見当たらない。掃除をしている使用人の人が何人か目に見える程度だ。


「なにもないよ」


「魔力感知0かおまえ。術式でかくしてあんだよ。俺ら異世界人が外に出れないようにな」


 術式とか魔力だとか、現実離れしたワードに俺はあきれた表情をするが、自分の物体を遠くから触れる能力からして嘘ではないのだろうと何となく察した。

 男の戯言かもしれないが、そうかんがえるとあの場所にだけ使用人が集中して掃除をしているのにも納得がいく。いかにも逃がしませんよという配置だ。


「でもまあお前さん、ラッキーだったな。ちょうど今俺はここから脱走する予定だったんだ。人数は3人か2人いたほうがいい。おめえもついてこいよ」


「この状況を見過ごして逃げるのかよ」


「けっ、お前も正義面してる頭ン中お花畑バカかぁ? 性格の悪さから少しは期待したのによ。いいか、いくら異世界人で能力があったとして、あの王様野郎には勝ち目がねえ、5番目と6番目にも人形化のことを教えたらこれ以上異世界人の被害者をだすわけにはいかないとかいってそのまま自我を失いやがった。とんだバカどもだったぜ」


 刀を持った男は俺をバカにするように吐き捨てると「いいか、ここで正義面なんてしてたらすぐ死ぬぞ」と言い、目の前にいる使用人の動きに目をこらしはじめた。

 俺や5番目6番目といった人を馬鹿にしながら吐き捨てた男だったが、その目は笑ってなく、あの王冠男に対する憎しみであふれる表情をしていた。どうやらそれ以外にも同じような状況を何度も見た、そのような雰囲気を漂わせていた。


「俺は魔力の乱れや動き、濃さで相手が次にどう動くか予知することができる。俺の目が青くなってるのわかるだろ? 俺が今っていったら走るぜ。あの壁に向かって一直線だ。お前もくるならついてこい」


「……わかった」


 急に重要な事実や説明を一気にされた気がするが、一旦考えるのはあとにすることにした。

 俺が様子をうかがっていると、刀を持った男は息を吸い、タイミングを計る。


 次に「今!」と力強くつぶやいた声とともに、俺たちは窓ガラスから中へ突撃した。


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