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エレナ


「今日は特別な日だ」


 巨大な王冠の男はそう言った。ただ呟いただけではなく、あきらかに俺のほうを見てそう言ったのである。

 周りの自我のないような人たちはその言葉にあわせるように拍手をし、全員が俺のほうへ顔を向ける。

 なんとも奇妙な、ホラーじみた光景だった。


「いきなりの出来事で大変驚いただろうが、今日はエレナ、君の誕生日、君が主役だ。聞きたいことすべて私にいいたまえ」


 男はそう言い、手元にある料理を次々と口に運んでいく。周りにいる人たちは一切料理に手をつける様子はない。

 俺は現実離れした光景に嫌悪感をいだきながらも、ここでしか現状を把握するすべはないと直感し男に向けて口を開く


「ここはいったいどこで、あなた方は一体何者……、この体の持ち主はどこにいったのでしょうか」


「ふむ……。私はこの家の長、そしてこの国、エルマール王国、世界最大規模の土地を有した軍事国家の長でもある」


「この体は……」


「ここにいる人たちをみよ。其方も元は同じだ」


 俺の体ももとは同じ、ということは、もともとは魂のない空っぽの器だったということなのだろうか。あの状態から俺がこの世界にやってきて、この体に自我が芽生えたというのならそうとらえてもよいだろう。


「特別な日というのは……」


「其方の誕生日だ。今日その体に魂が宿ったこれほどめでたい日はない!」


 王冠の男は嬉しそうに笑うと、俺にも食え食えと料理をせかしてくる。得たいの知れない場所で、得体のしれない食べ物。抵抗感はあったが、食欲に負け言われるがまま料理を口にした。

 俺の誕生日……。やはりこの体にもともと自我はなかったのか、それにエレナという名前をつけ今まで人形ごっこでもしてたとういことなのか? 狂ってやがる。


「自分のほかに誕生日を迎えた人はいらっしゃるのでしょうか」


「いるとも! 君で7人目、いい数字だ。きっといい人生を歩めるだろう」


 この男は誕生日としか言っていないが、俺がもともと別世界にいたことはしっているのだろうか。普通赤ん坊がしゃべることはできないし、こいつがこの器をつくって俺と似たような存在をつくっているとなると、全部わかってて行っているようにみえるけど。

 確認はしたいが、信用はできそうにない。情報は力というが、自分の情報を売ってまで聞き出すほど俺に余裕はない。

 そして俺のほかにもいるとのことだけど、見渡すかぎりそのような人物は確認できなかった。


「外の世界は退屈だっただろう?」


「……!」


 王冠の男はいやらしい笑みを浮かべ俺を見つめる。俺が別世界の人間なのがわかっていると確信させる発言、そしてそれが故意であることを思わせる表情。

 たしかに俺は女の子のアバターをつかってVR空間で遊んではいたが、本当に女の子になりたかったわけではない。すべてわかっているといわんばかりの表情に、俺は焦りと怒りがこみ上げ、近くにあった水の入ったコップに手をのばした。


「この外道がッ!」


 コップは手の届く位置になかったが、俺がコップをつかむ動作をすると、なぜか遠くにあるはずのコップを手につかんだ感触があった。

 俺がそのまま上にあげると、俺がつかもうとしたコップも俺の手の動きに合わせて上下する。

 まるで俺が超能力で浮かしたように動くコップに驚いたが、俺はこの感覚に似たような経験があることに気づいた。


「ふむ、君は手の届かない物でも触れることができ、またそれを自在に動かすことができるのか! 素晴らしい、なんとすばらしい!」


 怪奇現象に手の止まる俺とは裏腹に、王冠の男は喜び手を叩く。


「それにしても、この世界に魂を呼んだことで怒ったのは君だけだ。他の人物は皆、喜んだりとくに興味はなかったりと、激怒するものはいなかった」


「俺はここの世界の住人じゃないし、俺の居場所はここじゃない。元の世界が恋しいし、お前のその行いはどう考えたって道理に反してる」


 俺が手を離すと、空中に浮いていたコップは落ち、地面でバラバラに飛散する。

 にらみつける俺に対し、王冠の男はやれやれといった様子で俺に静止を促した。


「もとの世界で2つの体を人形のように扱っていたきみなら私のやり方を理解してくれると思ったんだがね。どうやら違ったようだ。本当はもう少しきみと話がしたかったんだが、これ以上話しても君の逆鱗に触れるだけだろう。今日は自室にもどり休むがいい」


 男はそう言って立ち上がると、ずっと静かに席に着いたまま微動だにしていなかった俺以外の人間に向け、立つように命じる仕草をする。同時に俺以外の周りにいた人たちはいっせいに立ち上がると、もといた部屋に戻るのか、ゾロゾロと隊列をくむようにしてこの場から離れていった。

 やはり気味が悪いとこの光景を目の当たりにしながら思うと、俺もこの場をあとにしようとその場から立ち上がる。


 この場所に長居するつもりはないが、今はほかに変える場所もないし金もない。俺はにやつく王冠を頭につけた大男を背に、自室へともどっていった。

 

 

 

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