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哀しい物語。

素直になりたかったけれど。

 記憶の中の彼女は、白いワンピースを着て麦わら帽子を被っていた。まだお互いに幼くて、自分はそれを素直に可愛いねとは言えなかった。むしろ、なんだそのカッコはとからかった記憶がある。今の自分がそこにいたら、きっといや確実に、幼い自分の頭を思いきり叩いたに違いない。


 そんな遠い昔に思いをよせていると、息を切らしながら走ってくる彼女の姿が見えてきた。約束を取り付けたのは向こうなのだから、多少なりとも遅れたことに対して悪いと思っているらしい。

「遅くなってごめんね、私から言ったのに……」

 目を伏せて申し訳なさそうに立ち竦む彼女に、気にするなと手を振ってやる。遅れたといっても10分程度だ、許せる範囲ではある。

 先に歩きだし、いつも入るファミレスへ向かう。彼女が少し慌ててついてくる。自分があまり気にしてないことを確信したのか、彼女はさっきまでの反省の色を急になくし、へらへらと笑いながら近況を話してくる。それに適当に返しているとファミレスが見えてきた。ドアを開けて先に入れてやり、席に案内されると彼女とは反対に座る。適当に注文をすませ待っていると、彼女が先程とは違い、少し照れ臭そうに話し始めた。

「あのね、私……結婚するんだ。あんたには1番に伝えたかったんだ」

 嬉しそうに話しているが、自分はそんなこと最後だろうと知りたくはなかった。なんて返すべきだろうか。

 おめでとう?それとも、そうかで済ますべきなのか。何にしろ、今の自分がどんな表情(かお)をしているのか知りたい。何も言ってこない自分をあまり気にしていないのか、彼女は、それでねと話を続けている。

「お待たせ致しました」

 運ばれてきた料理はどれも美味しそうで、いつもならすぐに手をつけたくなるのだが、生憎今日はそんな気分ではない。美味しいかどうかも危ういところである。

「……あの時」

「え?」

 彼女の不思議そうな声ではっとした。自分は何を言おうとしたのだろうか。この場で言ってはいけないことではないのか。自分の言葉を待っているであろう彼女に、ただ絞り出すように「おめでとう」と笑った。

 さらに不思議そうにしながらも「ありがとう」と、手元の料理に手をつけだす。


 あの時、いや今も、自分が素直に「可愛いね」と言えたなら。何か少しは違ったのだろうか。

 ほとんど味のしないそれを口に運びながら、自分はただ、頷くしかできなかった――


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