異世界行ったらコメントが流れてきて草
《さっさと決めろ定期》
ふと、違和感。
文字が俺の目の前を横切ったような。
「お客様? お決まりでしょうか?」
「あ、はい」
女子大生っぽい店員さんが困った子を見るような目で俺をみている。
そんな風に俺を見たって、すぐに決める事は無理だ。
《さっさと決めろ定期》
まただ。気のせいでは無い。文字が動いている。
動いているんだが、動きが速すぎてどんな文字か分からない。
「ちっ」
舌打ちが後ろから聞こえる。すいませんと心で謝り、俺は目の前にある異世界チートセットをにらみ付ける。
そう。俺はまさに異世界転生する直前って訳だ。
すまん。正確には転生かどうか分からない。死んだ記憶が無いのだ。
《さ》
《っ》
《さ》
《と》
《決》
《め》
《ろ》
《定》
《期》
さっさと決めろ定期? あ、チートセットか。
チート。この言葉は、ゲームを違法改造してキャラクターを強くしたり、普通に行けない場所に無理矢理行ったり、最強のアイテムを最初から持ってゲームをスタートしたりする事で、簡単に言ったらズルだ。
だがしかし。いつ始まったか忘れたが、世の中は『大異世界時代』を迎えた。人は異世界の物語を求めた。そしてその物語を形成する重要なファクターの一つに『チート』がある。
この『チート』はあくまでもゲームの中の事象を現す言葉だったのだが、これが異世界で超強力な存在から与えられる力を指すようになった。例外もいっぱいある。
で、俺は今まさに超強力な存在から『チート』を授かろうとしてるって訳。
「おい!」
「え?」
さっき舌打ちしたおじさんが、俺の肩をいきなりたたいた。
「私はもう欲しいチートセットが決まっているから、順番を変わってくれないか」
それもそうか。俺、もうちょっと悩みたいし、おじさんの後ろには誰も居ないから、別にいいか。
「因みにおじさんはどのチートセットにするんですか?」
「182422332セットだ」
そう。このチートセットアホみたいに種類がある。しかもセット内容をチェックするだけでもアホみたいに時間がかかるのだ。
俺なんかはとりあえず全部見てから決めようなんて思ったばっかりに、182422332なんて訳の分からない数になっている。
それにしたって、182422332のチートセットの中に何かいいモノあったっけ?
《おじさんの頭見てみ?》
《草》
《波平より一本少ない》
《鋼の毛根定期》
なんか文字が増えてる。
文字が増えた事により、この文字が流れる現象に負荷がかかったのか、ラグが発生し、文字が読みやすくなった。
おじさんの頭?
俺はおじさんの頭をチラ見した。
ふーん。文字君達、その言葉でおじさんが傷ついたらどうすんの?
《は? 言ってないし、書き込んでるだけだが?》
《おじさんには見えて無い定期》
《草》
《おじさんもう行っちゃったよ》
あ。
気がついたらお姉さんと俺しかこの空間にしか居ない。
「よし」
また始めるか、最高のチートセット探しをよ!
「ちょっと待って!!」
突然お姉さんが声を荒らげた。
「君! タダの人間じゃ無いでしょ。こんなにわざと時間をかけて! 誰! 誰の差し金なの!! 貴方のバックには誰が居るの!?」
「え、俺は…いい感じのチートが欲しくて、いっぱい選べて楽しかったし…なんかごめんなさい」
俺の言葉を信じてくれたお姉さんはばつが悪い気分にでもなったのか、声のボリュームが一段階下がった。
「え、あ、そうなの? 勘違い? ホント? ………じゃあ、全部セットあげるわ。そしたらいいかしら?」
《さっさと決めろ定期》
「全部!? すごい。最高!」
《デメリット付きのやつもあるんじゃね》
「そんなの無いわ。あったとしても、いつでもオンとオフに出来るよう設定してあげるから」
《くそばばあ仕事ちゃんとやれ》
「黙ってろ」
《ぐへっ》
《草》
「全部セットでいいかしら?」
「…はい」
お姉さんが「あの変な客のせいで残業時間が限界を超えてやがる」と呟いたのを聞こえないふりをして、俺は異世界に旅立った。
てかあの文字、俺以外にも普通に見えてるのか。
■■■
《さっさと起きろ定期》
《そのコメント主が起きてないと見られなくて草》
《てかお前ら誰? 定期定期言ってる奴は最初からいたんだからなんかしってんだろ》
《ロムってるやつが一番最初定期》
《は? どこで人数確認できるんだよ》
《右下らへんになんか無い?》
《…! 最初から言えよ》
「知らない天井だ」
《さっさと起きろ定期》
「あ、定期君じゃん」
俺は流れてくる文字に性格が複数あることに気がついた。そのうちの1人が定期君。この人は常に俺をせかしてくる。せっかちな奴だ。
《あんたが遅すぎる定期》
《草》
そして草君。タイミングは不明だが、偶に草という文字が流れて来る。この人はなんか…うーん…。草って感じた。
《それは草》
「おーい兄ちゃん、起きたか」
頭に噛みちぎられた耳をはやしている、ガチの猫耳をはやした女の子。ミミーだ。
彼女は俺は巨大な熊的な生き物に追い回られている時に助けてくれた恩人だ。さらには寝床もくれた。いい人すぎる。
《困ってるやつを助けるとか、普通じゃね》
《かっこつけ》
《は?》
文字がうるさいな。
「おい兄ちゃん、いつまで寝てるの?」
「へ?」
「しっかりお礼しないと。当たり前、だよね」
《草》
俺はミミーの後をついて行く。
この少女は俺の数倍でかい熊的な生き物を軽々と殺す力を持っている。そんな子が俺にして欲しい事ってなんだ?
《エッ》
《初コメがそれかよ》
《セック○定期》
「こっちだよ」
森の深い場所にぼろっちい小屋があった。
「入って入って」
《エッ》
《エッ》
《エッ》
《エッ》
《エッ》
「えっ?」
「どうしたの?」
「いや、ちょっとね」
俺はロリコンじゃない。黙ってろ。
ミミーが俺にして欲しかった事は文字の解読だった。
なんでも、昔ミミーを助けてくれた恩人が「時が来たらこれを読める者があらわれる」と言い残し、この古い本を残したと言う。
ミミーはその言いつけを最初の3日は守っていたが、とうとう我慢が効かなくなり、読んだ。しかしミミーの知らない文字だったし、法則性も皆無だったため、ミミーは放置した。
で、装備もなく『迷いの森』で最弱の熊に襲われていた俺こそが文字を読める者だと思い、助けてここに連れてきたという。
因みに、読めなかったら秘密を守るため殺されるらしい。ひえー。
ぺらぺらとページをめくる。
…。
…。
…。
わりぃ。俺死んだ。
《チート使え定期》
お前それ俺が熊から逃げてる時も言ってたけどどうやってやるの?
《頭使え定期》
はあ? 助けてくれよ。
「で、お兄さん。読めた?」
「え、う、うん」
適当に言ってみよう。
「東に行けって書いてあるな、最初のページ」
ドン。ミミーの右足が床を貫いた。
「最初のページは私が書いたの。嘘つきを殺す為に」
《草》
《終わったな》
《おいおい》
《新しい異世界でまた会おう》
おいおい、待ってくれ。誰かチートの使い方わかる奴居ないの? それか、この本に書かれてること読める奴。
「なーんだ。結局お兄さんはタダの嘘つきか。熊の餌になって死んじゃえばよかったのに」
ミミーは熊を倒した大斧を片手で振りかぶる。このままじゃ真っ二つになっちまうよ。俺!
《こいつの名前はミミーじゃない定期》
え?
《こいつの名前はミミーじゃない定期》
は?
ミミーじゃない? そんなことが分かった所で何になる? というかそれが本当だったとしてなぜミミーは嘘をついた?
「…ミミーも嘘つき」
「ミミーは嘘つきじゃない! 嘘つきが変なこと言うな!!」
ミミーは動揺している。ここを攻めるしかねぇ
「お前、ミミーじゃないだろ!!!!!!」
「!」
ミミーだった者の顔がぱらぱらと崩れ落ちる。そしてその中からは黒い小さい小人の様な生き物が現れる。
「ミミーは、ミミーは、ずーっと待っていたンだ」
《なんか話始めたぞ》
《黙って聞いてろ》
《てか生き残ってて草》
「ミミーはこの本を置いてった人間を待っていた。でも、死んじゃった。病気だったンだ」
「で、お前は誰なんだ?」
「僕はミミーに救われた。ミミーは闇の精霊である僕にも優しくしてくれたンだ」
「闇の精霊くん、君は何で俺を助けた?」
「僕は彼女が死んだ後、彼女の姿で過ごしていた。彼女が本当に死んでしまわないように。君を助けたのは簡単だ。ミミーなら間違いなく困っている誰かを見捨てはしないンだよ」
「この本は僕が書いた偽物だ。もし、ミミーの本を読める人が来ても、もうミミーは死んじゃってる。それなのにそいつは生きてるなんて不公平じゃないか!!!!」
《精霊ってこんな感じなのかな》
《違う! こんなのと一緒にするな》
《身バレしそうで草》
「本物もみせてよ読めないかもだけど」
闇の精霊が顔を上げる。
「ほら、ミミーの代わりにその本の秘密を解いて、ミミーに教えに行こうよ」
「…」
闇の精霊は懐から本を俺に差し出した。
「うーん」
《さっさと読め定期》
《これ結局読めなそう》
《分かんねぇ》
《草》
読める。てか日本語で書いてある。
《マジかよ》
《教えてくれ》
「『全部の聖魔武器を火山にぶち込め』って書いてある」
「え、そんなに短くないでしょ」
「いや、後半は全部絵文字とかスタンプだからあんま意味なさそう」
「?」
こうして俺と闇の精霊は、聖魔武器を探す旅を始めた。因みに聖魔武器というものを誰もしらなかった為、とりあえず、この辺りから一番近い人間の都市、『グレルジャリオン』を目指すことになった。
てかチートの使い方知ってる人誰かいませんか?
作者《気分が乗ったら続きを書きます》
草《草》
エッ 《エッ》
定期《さっさと書け定期》
素直《闇の精霊は精霊の中でもまともではない方、水の精霊は美人でモテモテ》
クソガキ《水の精霊はブス…ぐはっ》
主人公「またね」