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このお話から名前が変更になります。すぐには慣れないと思いますがお願いします。
人気のない道を台車で移動、1泊野宿し順調に進み明日には北の町に到着する。普通に歩いていたら休憩も多く必要で後2日はかかったであろう。台車様々である。
湖のほとりに腰を下ろし休憩を取る。
北の街に着く前にやらなければとマリーは森で集めて貰った植物の葉を取り出し風を送り始めた。
「マリー、それは何をやっているの?」
「この葉を乾燥して粉にするの。その粉に水を加えてニーノの髪の毛に塗るのよ」
「僕の髪の毛?」
「そうよ。ニーノの髪の毛はこの世界でとっても珍しい色だからそのままでは目立ってしまうでしょ?ローシェも探さないとは思うけど……念のために銀髪は隠した方がいいと思って」
「それを塗ったら目立たなくなるの?」
口で説明するより見せた方が早いとニーノの髪の毛に塗っていく。
(綺麗な銀髪だから勿体無いけどバレる可能性を残すよりずっといい)
「これで暫く時間を置くの。それと、念の為私とエミリーの名前も変えようかと思ったんだけど」
「私も名前は変えるべきだと考えていたわ。これからは平民として生きていくのだし、言葉遣いも気を付けないと。まぁこの件に関してはマリーは問題ないわね」
確かにマリーは前世の記憶を思い出してから口が悪くなった自覚はあった。
「あは……お姉ちゃんは言葉使い気を付けて……えーと、名前なんだけどニーノと姉弟っぽい名前がいいと思って考えてた!エミリーがノーラで私がルーナ!どう?」
「素敵!文句なしよ!私達は今ここでエミリーとマリーの名前は捨てましょう」
エミリー改めノーラと、マリー改めルーナは固く手を握りあう。その手の上にニーノが手を添え3人で微笑み合った。
髪の毛に塗った液を水で流して風魔法で乾かすと赤く染まった髪の毛がサラサラと揺れる。
「赤いわ!どうなってるの?」
ノーラが驚き小さな鏡をニーノに渡す。
「本当だ!僕赤髪になってる!別人だ」
「赤髪の人は多いから目立たないし、良く似合ってる!色が落ちてきたらまた染めましょ」
(これで堂々と北の町へ行ける!)
翌日予定通り北の街に入り中世の街並みを思わせる雰囲気に懐かしさを感じて歩いていたが、ニーノと姉のノーラは堂々どころかルーナの背中に隠れコソコソ歩く。2人は街に出るのは初めてだった。
(これはとても怪しい。すれ違う人が不思議そうに見てる気がする)
ルーナはピタと立ち止まり振り向いた。
「あのさ、先に宿を探すから2人はそこで待ってて」
「僕達を置いていくの?」
「そんな言い方しないで。すぐに戻ってくるから。ノーラお姉ちゃんがいるし大丈夫よ」
「ルーナ、私達を置いていくつもりなの?」
ニーノはぎゅっと手を握りノーラは不安そうに腕を組んできて、ルーナは呆れながらも2人に対し愛しさを感じ微笑んだ。
「やれやれ、仕方ないなぁ」
ルーナは2人と手を繋ぎ並んで歩き、宿より先に魔獣を買い取ってくれるギルドを探した。
(時代や国が変わってもこういう所は大体変わらないのよね。ギルドがない世界はモンスターの居なかった前世だけ。平和な世界だったなぁ)
街行く人に聞くと魔獣を買い取ってくれる場所はすぐに見つかったが、ここ北の町は人口は多いが大都会と言う程ではない。大型魔獣を沢山売ると目立ってしまうだろう。
ローシェに見つかりたくないと慎重なルーナ達は森に埋めていた小型魔獣と解体してあった大型魔獣の一部のみを売る事にした。
木造2階建てのギルドに入ると茶色の髪を1つに纏めメガネを掛け、白いシャツが弾けそうな程胸が大きい受付のお姉さんが迎えてくれた。
(これは、男の人がこぞって売りに来そうね)
そんな事を思いながら袋から素材を取り出しカウンターに並べていくと受付嬢は真っ先に熊型魔獣の手を掴んだ。
「この悪魔の熊は誰が倒したの?自分達じゃないわよね?」
受付嬢はピクピクと眉を動かし疑わしそうな目で3人を見回した。拾ったか盗んだ物だとでも思っているのだろう。
「お姉ちゃん達が倒したんだよ!とっても強いんだ。バサァー!力ぁ!って」
ニーノが身振り手振りで自慢気に答えた。
バサァー!は風で切り裂いた時、力ぁ!は言うまでもない。
(ニーノ純粋だからすぐ答えちゃった。でもまぁここは魔法も普通にある世界だから言っても問題ないわよね。盗んだと思われるのはイヤだし)
「ええ。自分達で倒しました。魔法が使えるので」
「ええええっ?!まほ……魔法ですって!?」
受付嬢はガタッと勢い良く立ち上がると予想外の身体能力でカウンターを飛び越えルーナの手を引いて2階へと走りだした。ニーノとノーラも慌てて追いかける。
受付嬢は止まる素振りは見せず2階の廊下を走り、角の部屋のドアを勢い良く開けた。
するとそこには赤いショート丈のジャケットに白いシャツ、白いズボン。そしてジャケットと似合う赤色の髪をカチューシャでとめ、左耳にピアスをしている若くてお洒落な印象の男性が立っていた。背も高くすらっとしていて小顔で整っている。
(えっ、この世界もピアスあるんだ?!)
細かい所に注目してしまったがそれどころではない。
「ギルド長!とうとう我が町に魔法使いが来ました~!おめでとうございます~」
受付嬢がルーナの腕を振り上げる。
「王都に頼んでから3カ月も経ってるから忘れられてると思ってたよ!魔法使いを派遣してくれるとは遅くなったお詫びのつもりか?とにかく良く来てくれた!」
「王都から派遣された魔法使いではありません!なんと今たまたま魔法で倒した悪魔の熊を売りに来た3姉弟さんです!」
受付嬢がハキハキと答えるとギルド長は上半身を後ろにのけぞらせ驚いた素振りを見せた。
「なんだってぇぇぇー!!たまたま町に来ると言うのか?魔法使いが?魔法使いの意味分かってる?!魔法が使えるんだぞ?」
ギルド長と受付嬢の会話から、この時代は魔法使いが珍しいのかもしれないとルーナはドキドキし始めた。
(でも居ないわけじゃないんだよね?嘘つきだと思われるのも嫌だし王都に依頼してたって言うのも気になる。3ヶ月も待ってるなんて大丈夫なのかな?)
「王都に魔法使いをお願いしてたの?」
若すぎてとてもギルド長とは思えない赤髪の男に訊ねると男は急に態度を変えルーナ達にソファに座ってくれと促した。
「この状況でそんなに落ち着いていると言うことは本物の魔法使いとお見受けしました。アンナ、お茶を!一番良いやつ出して」
「了解しました!アンナ特製ティーを準備しますねっ!」
アンナと呼ばれた受付嬢は鼻歌を歌いながら部屋を出ていく。
3人がソファに座るとギルド長も向かいのソファーに座り話し出した。
「いきなり本題に入らせてもらうが、この町の西に丘があるんだ。そこで結婚の約束をしたカップルは幸せになると言い伝えがあって有名な観光名所なんだ。でもそこに半年程前から何かが出るんだよ」
「何か?」
「そう、何か。何かが分からないんだ。何かに叩かれただの襲われそうになっただの、ベンチを揺らされただの突然花が枯れただの……でも俺が見に行っても何もいないし何も起こらない。だから王都ギルドに調査をお願いしたんだ」
「時々何か分からないものが出るって事?」
「いや、時々じゃない。俺が行く時以外は100%出るんだよ!だから俺の実力を見抜いて隠れるモンスターだと予想してるんだが」
ルーナは唸った。
記憶を掘り起こしてもそんなモンスターは思い当たらない。
『何か』と言う事は誰にも正体を見られない素早さを持っている。
自分より強い者を見て完璧に身を隠すなら知能が高いと予想してみるが、そこまで知能が高いモンスターは強いのだ。そんな悪戯をするはずがない。
「それが噂になってしまって、この街の宿屋に食堂に土産屋、人形屋に絵描き屋に簡易結婚式場まで赤字になってね」
(確かに商売をしてる人達にとっては死活問題ね)
「全くそんなモンスターに心当たりがないから力になれるかは分からないけど丘に見に行ってみようかな。気になるし」
「ありがたいよ!ところで君は魔法は何属性が使えるんだ?」
「基本の6属性ですよ。火、風、水、土、光、闇」
「ちょっと!ちよっと待って!?基本!?君は複数の属性魔法が使えるのか?」
ギルド長が訝しげな面持ちでルーナの顔を見据えた。
「えぇと……あはは。使えます……だったらよかったかもなぁ~なんて。ハハハ」
(ギルド長の反応から予測すると非常に不味い気がする。魔法使い時代基準で考えたらダメ?!)
ルーナが魔法使いだった時代は複数属性使えるのは珍しくもなく、全属性使える仲間も多かった。魔法研究所では基本の6属性と呼んでいた程でその他の雷や氷などが激レア属性だった。
だが今の時代はそうではないらしい。慌てて誤魔化したつもりであったが時既に遅しである。
「君誤魔化すの下手だね。そんな規格外のパワーを持ってるなんて、今まで何処に居たんだ?常識も良く知らないようだし」
「常識がないのは認めます。私達はとても遠い、名もないド田舎から来たんです」
「……う~ん、もしかしてこの街は通りすがりで最終的に王都を目指しているのか?」
「はい。王都で暮らそうかなと思ってます」
「だろうな。身を隠すなら人の多い都が1番だし名もないド田舎出身も逃亡者の常套句だ。どうせ名前も偽名を使っているんだろう?」
この一言に場の空気が一瞬にして凍りついた。
ノーラの眼がギルド長をギッと睨み付け立ち上がる。
「ルーナ、この街はまるで人を犯罪者みたいに探ってくる気分の悪い人間がいるわ。さっさと次の街へ行きましょう」
「お兄さんがお姉ちゃんに助けてってお願いしてるのにすっごく嫌な感じだよ。僕そういう人嫌いだ」
純粋なニーノまで毒を吐いた事にルーナは驚いたが、それほどギルド長の言葉が頭に来たのだろうとニーノの頭を撫で立ち上がる。
「じゃそう言う事で」
ギルド長はスキル高速移動を使ったかの如く素早く動きドアの前に立ち塞がった。
「ちょっと待ってくれ!悪かった!職業柄つい聞いてしまうんだよ!」
「冒険者ギルドで何故職業柄?冒険者にはあらくれも多いでしょう?それとも全員にこんな態度を?」
「……やはり君達は常識を知らないんだね。素材の買い取りやモンスター退治の依頼も受けているから冒険者も来るけど、このギルドの主な業務は街の治安維持、ここは治安ギルドだ。冒険者ギルドは今は王都含めた3都市にしか無いんだよ」
ルーナは眉尻を下げ珍しく少し情けない顔を見せた。
治安ギルドは前世で言うと警察署だ。
冒険者ギルドはいつの時代も変わらないものだと思い込んでいた。
早急にこの時代の常識を覚えなければ墓穴を掘って歩くようなものであるとルーナは気付いたのだった。




