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「お姉ちゃん、もういい?」


「いいわよ!」


ランプを頼りに真っ暗な獣道を真っ直ぐに進み、数度入口側を確認しジェシー達の姿が見えなくなりようやくエミリーの許可が下りた。

マリーはタオルを離し傷メイクを剥がす。


「あー!血生臭かったぁー!」

「お疲れ様」


シャリーとジェシーも今頃笑っているだろうが、マリーとエミリーも手を取り合い笑い合う。


「ねぇマリー、入口付近の魔獣倒しすぎてたかもしれないわね。姿が見えなくなるまで一匹も出ないなんて不自然じゃなかったかしら?」


「多分大丈夫。奥に行ったら大きな魔獣にやられて死ぬわよね~キャハハ!位にしか思ってないはずよ」


「ん~、それもそうね!さっさと埋めていた荷物を掘り出して森を抜けましょ」


「うん」


マリーが頷き荷物が埋めてある場所へ移動しようとした時だった。


「すみません」


聞いた事がない細い声が突如暗闇から聞こえマリーとエミリーは足を止め身構えた。

辺りは真っ暗闇の中。マリー達が黙ると風で揺れる葉音だけが聞こえる。


「お願いします、僕も連れていって下さい」


再び聞こえた細く頼りない声。


「誰?!」


エミリーが恐る恐る声のした方をランプで照らすと暗闇からお世辞にも上等とは言い難い薄汚れたベージュ色の服を着て、荷物が沢山入っているのか膨らんだ鞄を斜めに掛けた10歳位に見える男の子が近付いて来る。


2人をすがるように見上げる薄紫色の瞳。

その少年はこの世界ではとても珍しい銀色の髪を持ち、薄汚れた服に似合わずやたらと可愛い顔をしていた。


「もしかしてあなた……可哀想な子供……!?」


エミリーが小さく声を上げ目線を合わせ頭を撫でてやると少年はこくりと頷いた。


「可哀想な子供?!本当に居たの?!」


マリーは思わず声を上げた。

まだ離れに住んでいた頃、侍女達の噂で『可哀想な子供』の話を聞いた事があった。


1人の侍女が妊娠し使用人邸で出産。

見目の良い侍女だったので父親はもしかして伯爵かと注目されたが、その侍女のお相手は珍しい銀髪に薄紫の瞳を持ち、男性であるにも関わらずとにかく美しいと評判の執事であった。


しかしその執事は美しいが故本邸に部屋を与えられる程ローシェのお気に入りだった。

子供の存在を知り自分のお気に入りを取られたと怒り狂ったローシェは子供を奪い侍女と執事だけを屋敷から追い出した。


子供は名前をつけることも許されず『可哀想な子供』と呼ばれ、ローシェの為に青年になるまで使用人棟で育てられていると言う噂。


後日談として追い出された侍女と執事は子供を取り返そうと屋敷に侵入し、強盗扱いされ殺されたと聞いた。


伯爵はほとんど本邸にいないのでローシェの天下、やりたい放題である。


今なら『本邸に部屋を与えられる』などの意味も分かるが、噂を聞いた当時のマリーはまだ幼く、いくら悪魔のように嫉妬深いローシェでもあり得ない話だと思ったのだ。


(本当に存在していたなんて……)


「何故ここにいるの?私達が家を出て行くと知っていたの?」


「僕を育ててくれたカリーナおばちゃんが言ってきたんだ。お嬢様が来るから森の入口で隠れて待ってなさいって。魔獣も出ないから大丈夫だよって」


マリーがエミリーの顔を見ると頷いた。


「カリーナと言う名の洗濯係が確かにいたわ。でも……数か月前に亡くなったはずよ」


「えっ?亡くなってるの?」


マリーは首を傾げ可哀そうな子供を見つめた。


「うん、おばちゃんは僕を連れて逃げるって言ってくれてたのに急に死んじゃった……でも死ぬ前に、もしおばちゃんに何かあったら常に準備しておいて逃げられる時が来たら迷わず逃げろって言われてたの」


辻褄が合わないが今にも泣き出しそうな顔で答える可哀そうな子供が嘘をついているとは思えない。

マリーも目線を合わせ頭を優しく撫でた。


「優しいおばちゃんだったのね……でもカリーナは死ぬ前、数ヶ月も前に森で待ってなさいって言っていたの?」


「ううん、聞いたのは今日。満月だからお祈りしてたらおばちゃんが月の光の下で話し掛けてきたんだ」


(ああ、きっと月の神様がカリーナの霊に力を貸したんだ)


自身も月の女神からのギフトを受け取っている。マリーはすぐに納得した。

カリーナは死して尚、我が子のように育てた子供が心配だったのだろう。


常に逃げる準備をしておきなさいと言われそれを守っていた可哀想な子供はきちんと荷物の入った鞄を持ってきている。


(まだ子供なのにしっかりしている。私は記憶が戻らなければこうやって家を出る事も出来なかった……)


「偉いわ。満月の日にちゃんとお祈りしてたのね」


「うん!お嬢様も満月の日は窓際でお祈りしていたでしょう?僕いつも外から見てたんだ。月の女神様みたいだなぁって!」


「ふふっ見られてたのね。女神なんて……ありがとう。じゃあ私達と一緒に行こうか。いいよねお姉ちゃん」


「勿論よ!まずは名前をつけてあげましょうよ。何かいい名前はないかしら?」


「う~ん……ニーノはどうかしら?」


マリーが提案するとエミリーは頷いた。


「可愛いこの子にピッタリだわ!マリーはセンスがあるわね。ニーノに決定しましょう」


「ニーノ!良い名前を付けてくれてありがとう。お嬢様と……お姉様?」


カリーナの話をした時は今にも泣き出しそうな顔をしていたが今は嬉しそうに笑顔を見せている。


(大変な思いをしてきたはずなのに素直な良い子だわ。きっとカリーナが愛情を注いで育ててくれたのね)


「ニーノ、あなたは今日から私達の弟よ。ね、お姉ちゃん」


「そうね、可愛い弟が出来て嬉しいわ。私達の事はお姉ちゃんって呼んで頂戴」


「わかりました!お姉ちゃん達ありがとう」


予想外の出来事であったが、嬉しそうに笑っているニーノにエミリーもマリーも心が温かくなった。


用意していた荷物や魔獣の肉を掘り起こし台車に乗せ、危険だが奥へと進んで行く。

エミリーとマリーは用意していた服に着替え、脱いだ服を引き裂き魔獣の血を掛けた。死亡工作をする為だ。


確認に来るかは分からないが、生きていると分かったらローシェがどう出るか分からない。

死んだと思ってくれた方が都合が良い。


ニーノに関しては下手な小細工をするのは止めた。一緒に出て行ったと知っている者もいないだろう。


引き裂いた服を地面に置き、周辺に用意しておいた魔獣の肉片と内臓を散らす。

血の臭いに誘われたのだろうか、ドスンドスンと大きな足音が響いた。


「ニーノも居るしとりあえず逃げようか」

「分かったわ」


エミリーはなんと荷物ごと台車を担いだ。


(えええええ!やっぱり台車いらなかったよね!?)


目の前でエミリーパワーを実感しこんな状態なのにマリーは思わず笑ってしまった。


笑いながらもニーノに歩幅を合わせ走る。


「お姉ちゃん逃げてるのに楽しそう!ねぇ、何処に向かうの?」


「とりあえず水場ね。顔の血を洗い流したいし、水を袋に入れて持っていくのよ」


水場には中型の鹿型魔獣が群がっていたが、マリーが大きな炎の玉を投げると一目散に逃げていった。

手早く頬に付いた血を洗い流す。


「あー!サッパリした!夜通し歩くよ。ニーノは大丈夫?」


「うん。足手纏いにはならない」


子供が加わったので森の入口に戻り1番近い東の町へ行って休んでもいいが、もしかしたら警備が入口を見張っているかもしれない。

それにここまで来たのだから魔獣を倒しながら森を抜け北の街で準備を整え王都に向かおうと決めた。


森を抜ける判断をしたマリーは自分を誉めたいと思った。

何故ならマリーの魔法は自分が思っているよりもはるかに強かったからだ。


鹿型狼型の中型魔獣は勿論、大型の熊に似た魔獣も猪に似た魔獣も風魔法が簡単に切り裂いた。


それにエミリーも負けてはいない。


「力ぁ!」


森の入口で加減が分からず『魔獣だった肉片やミンチ』を一瞬にして作り上げていたエミリーはマリーに怒られ『ちから』と言いながら綺麗に魔獣を倒す練習を繰り返した。


その為攻撃する時に『力』と叫ぶのが癖になっていた。もう技名と言っても過言ではない。


襲ってくる魔獣を2人で片っ端から倒し、気付けば大型中型魔獣の小さい山が出来ていた。


「お姉ちゃん達最強だね。僕も強くなりたいなぁ」


「ありがとう。でも私達はある意味チートだからお手本にはしないように」


「ち?チート?」


ニーノだけではなくエミリーも不思議そうに首を傾げた。


「あはは、分かんないよね。そんな事よりこの大型と中型魔獣解体するの時間が掛かるんだよね……高く売れるから持って行きたいんだけど……悩むなぁ」


「魔法で解体は出来ないの?」


マリーはニーノの言葉に感心した。

今まで散々苦労してエミリーと2人で解体していたがそんな事思い付きもしなかった。

子供ならではの柔軟な考えだろう。


「ニーノ、あんた天才よ!やってみるわ」


風魔法と水魔法を駆使してどんどん解体していく。

ナイフでやるよりも楽な上にスピードは倍以上だ。


「楽勝、快適!でももう台車も山盛り、入れる袋もないっ」


「あ。僕もう一個鞄持ってるよ」


「ニーノ、ほんとにしっかりしてるのね」


「へへへ。おばちゃんがこれは絶対に荷物に入れる様にってくれたんだ。だから入れっぱなしだった」


鞄から折り畳んである鞄を取り出し広げてくれたがどこからどう見ても小さい。


「それ、広げても大分小さいけど……」


「本当か分からないけどこれは見た目より大きい物も量も沢山入る鞄だって言ってたよ」


「それ、お姉ちゃんにも見せてくれる?」


エミリーはニーノに鞄を手渡されじっくりと眺めた。


「やっぱり間違いない……フフフフフ……これは高級品で伯爵家には2つしかない鞄よ!」


エミリーは鞄を見て大興奮。

それもそのはず。鞄1つで貴族のお屋敷が建てられる代物だ。


(あ。魔法使いの頃使ってた)


「あれね!それがあれば倒した魔獣をそのまま入れておけるわ。腐らないの!解体は後からやればいい。という事は……ジャンジャン狩るわよ!行こうお姉ちゃん、ニーノはこの葉っぱとこの草を見つけたら集めて鞄に入れておいて」


台車も荷物も鞄に全て仕舞い、身軽になったマリーは来る魔獣も逃げ出す魔獣も群れで囲んでくる魔獣も全て倒した。

1番使っていた風魔法は精度が上がり腕をひと振りしただけで正確に狙った箇所を切り裂いた。


(私の魔力凄い。魔法使いだった頃より強いかも)


「力ぁっ!」


エミリーの掛け声も響き渡り、絶好調で進んで行き森を抜ける頃には全て売れば暫く働かず生活できる程魔獣を倒して収納していた。


しかし森を抜けてもまだまだ距離がある。


持ってきた地図を確認して休めそうな場所を探して歩いていると、馬車や馬の行き来が多いのか車輪の轍がついている道があった。


その轍を見てマリーは思い付いた。

鞄から台車を取り出し3人で乗る。


「マリー、全員乗って誰が押すの?」


「風が!コントロールは任せて」


エミリーの問い掛けにマリーが笑顔で答えると魔法を発動させ台車が勝手に動きだす。


(ふふっ。お姉ちゃんの言う通り台車を準備しておいてよかったわ!)


3人を乗せた台車は夜明け前の道をゴトゴトゴトゴト進んでいったのでした。



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