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「あー分かってたけど……なんなら俺も一緒に結婚するか?ルークは俺の事好きだからさ……」


カイは冗談ぽく言っているが血の気が引いた顔から気分の悪さが伝わって来る。

体調が悪いのかとルーナが心配そうにカイを見るとルークが耳元で「大丈夫だよ」と囁いた。


公爵家の居間に集合したニコルとカイはルークからの報告を聞きそれぞれの反応を見せた。


婚約の知らせを聞いた途端、白目を剥き後ろに倒れ茫然自失となっていたニコルはカイの言葉を聞き慌てて立ち上がり口を開いた。


「ハイハーイ!じゃ、カイのついでに俺も一緒に結婚しちゃおうかな?ニーノも一緒にどう?」


「あはは!では僕も一緒に結婚します兄上」


ニーノはニコルの言葉を聞き、ルークを見つめニパーと言う表現が似合う屈託のない笑顔を見せる。


「するわけないだろう」


ルークは相手にする気もないのか呆れ顔で首を横に振った。

ちなみにルークは2人掛けソファに腰掛け隣に座っているルーナの腰に手を回してしっかり掴んでいる。


ルーナは幸せそうに目を細めルークに提案する。


「勿論ニコルと結婚はしないけど家に泊まりに来てもいいと思うわ。部屋は沢山あるし長期でもいいんじゃない?」


「君はやけにニコルの事を受け入れようとするのは何故なんだ?」


ルークがとても嫌そうに眉を顰め口を曲げルーナに問いかけた。

眉根にギュッと入った皺の深さから察するに相当気にくわないのだろう。


だがルーナは出会った時からずっと感じているニコルの壁を取り壊してみたかった。

ニコルがどんな傷を負っているのか分からないが癒せる方法があるのなら友人としてその傷を塞ぎたい。


「ニコルは……居場所が無いからよ。お互い異性として好きとかの感情がある訳じゃないわ。家に居たがらないニコルに必要なのはまず居心地のいい環境だと思うの。ある意味逃げ出してきた当時の私達とニーノと同じ気がして……私もお姉ちゃんもニーノも自分の居場所を見つけたのにニコルだけ何も変わってないから」


「ルーナちゃぁん!だから俺はルーナちゃんが好きなんだよねぇ。言ってる通り恋心なんてものはないけどさ。言わなくても俺の事理解して受け入れてくれるからね。かと言って詮索する事もしないから居心地良くてつい頼っちゃうんだよねぇ〜」


ニコルはふざけた口調で言うが「見透かしすぎないでくれ」と言わんばかりの陰りのある瞳を見せる。


(またこの瞳。明るい口調で壁を作る……)


「ニコルもさ、居心地のいい場所で過ごして心が癒されたらきっと素敵な人にも出会えるはずよ」


「う~ん、それはどうだろうねぇ?ルーナちゃんがずっと独身でいてくれたらその可能性もあったかも知れないけど…………人妻に……なんて……」


口元を緩ませ話しだしたがゆっくりと言葉を失ったニコルはとても遠い目になった。

ルークが心配そうに身を乗り出しニコルの顔を覗き込む。


「ニコル、もしかしてまだナターシャの事が……」


「やだなぁ!ルーク、詮索しないでほしいなぁ」


ナターシャと言う名前は初めて聞いたがニコルの特別な人だったのだろう。

ニコルはヘラヘラと笑ったが泣いてるように見えてルーナは心がギュッと痛んだ。


ルークも同じように感じたのかルーナの腰に回していた手にグッと力が入った。


「どうせ僕はルーナの傍を片時も離れるつもりは無いから手は出せないし、なんなら手を出さないようスキルを掛けておけば問題はない。ニコルは家に来てもいいよ。どうせなら僕達の子供の教育係にでもなってもらおうかな。ニコルの剣の腕は確かだし」


ルークの意外な提案にニコルは目をパチクリとさせ嬉しかったのか少し頬を染め穏やかな笑顔を見せた。


「ルークなんだかんだ俺の事大好きだよねぇ」


「別に」


ツンとよそを見ながら答えるルークだがニコルの事を想って出した結論だろう。

ツンデレ体質なのは性格だから仕方ないがとても可愛く思えてルーナはニコニコでルークの頭を撫でた。抵抗されなかったので婚約者になって良かったと変な所で実感。


ニコルとルークのやり取りを頷きニコニコしながら見ていたニーノがパンッと音を立て手を合わせた。


「いいなぁ。僕も兄上と姉様とニコル兄様と一緒に住みたいなぁ。楽しいだろうなぁ」


「ニーノは鎖の事があるからすぐにでも一緒に住んでいい。勿論ピーターも一緒に。学園はサバルトーネ領の学園に行けばいいだろう。父上に相談してみようか」


「やったぁ」


ルークは優しく微笑み飛び上がって喜んだニーノの綺麗な銀髪をわしゃわしゃと撫でた。

ニコルに続きニーノの事もきちんと考えてくれて、可愛がってくれているのが良く分かる。


ルーナの中でどんどんルークの好感度が上がって行く。


(なんて素敵な婚約者様なのかしら)


「やったなニーノ。じゃ、俺もすぐサバルトーネに行って一緒に住んじゃおっかな〜」


「好きにすると良い」


意外にもニコルのふざけた口調を否定せず受け入れたルーク。

何て素敵な婚約者なのかしらを心の中で再び繰り返したルーナ。

しかし気になるのがニーノ、ニコル、ルークと和気あいあいと話している中カイが一言も発さない事だ。


見ると顔は青ざめ無表情で視線をくうに漂わせている。


「カイ、どうしたの?」


心配になり声を掛けるとカイはルーナの瞳をじっと見つめてくる。

何か言いたげな顔をしたが口をギュッと結び目を逸らしたので余計にルーナの心に引っかかる。


(カイらしくないわ……まさか結婚に反対なの?)


カイに祝福してもらえると思っていたルーナは落ち込み、カイをじっと見つめる。機嫌が直ったら笑って話に加わってくれるかと思ってだ。


だがふとルークの手がルーナの頬に触れた。

「僕の事を見ろ」と言わんばかりにルーナの顔を自分に向かせた。


「カイは僕が結婚するから寂しいんだ。そっとしておいてくれないかな?」


「分かったわ……」


カイは解散になるまでただ黙って大きな窓を見つめていた。


夜、部屋に2人になるとルークは今日も積極的だ。

「離れたくない」とギュッと後ろからルーナを抱きしめる。


「僕は子供は3人欲しいな。男の子2人と女の子1人」


「ルークってば気が早いわ。結婚式もまだなのに」


「分かってる。だから最短で式を挙げよう」


ルーナはフフと呆れ笑いをしながらも内心喜びの気持ちでいっぱいだ。

今までの人生で初めての結婚。ルーナの人生は月の女神様のおかげでマリーの頃が嘘のように順風満帆。

きっとこのまま結婚して家族に囲まれ年老いて、命尽きるまでルークと共に生きるのだろう。


幸せ気分に浸っていたがふと昼間の事を思い出した。


「そう言えばナターシャって方は誰なの?」


「ナターシャか…………彼女はニコルと心を交わし合った幼馴染だ。ガードナー侯爵家のご令嬢だったんだけど……」


言いにくそうに言葉を切ったルーク。

家に居たくないという事はまさかそのナターシャがニコルの家に居るのだろうかと想像したらルーナは胸が押しつぶされそうになった。


「もしかしてその方がニコルの家に居るの?」


ルークはルーナに回している腕にギュっと力を入れた。


「そうだ」


「まさか……義姉……?」


「……もう何年も経ってるから吹っ切れたと思ってたんだ。家同士がニコルの兄上とナターシャの婚約を決めてね……あの時はニコルが荒れて大変だった」


ルーナはなんとなくニコルが許されない恋でもしているのかなとは思っていた。

でもそれはメイドとの身分違いの恋を想像していた。


(話を聞いてしまうと想像以上に重い状態だったわ……)


いつもルーナやノーラ、ニーノの事ばかり心配していたがニコルも相当辛い思いをしたのだろう。ギリギリと、自分の事のように胸が痛み視界が歪む。ニコルには壁を取っ払って屈託のない笑顔を見せてくれるくらい幸せになって欲しい。


「家、ニコルにとって居心地のいい場所にしてあげられるといいね……」


「ああ。僕もそう思った。もし僕がニコルだったら……もし父が兄と君を結婚させると言ったら僕は世界を滅ぼしてしまうと思う。僕は君の事を好きになって初めてニコルの気持ちが理解できたんだ」


確かに自分に置き換えて考えたら辛すぎて自分も世界を滅ぼしてしまうかもしれない。もうそのくらいの気持ちがルークに対してある。


振り向きルークの胸に頭を預けたルーナは好きになった人が婚約者になると言う事はとても運が良かったのだと思った。


「学園もそうだけど、婚約者にルークを選んでくれた事もお父様に感謝しないといけないわね……」


ボソリと呟くと何故かルークが「フッ」と嬉しそうに笑い、ルーナを強く抱きしめ耳元にキスを落としたのだった。






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