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「皆殺しなんて駄目よ!マリーまで犯罪者になってどうするの?」


マリーが魔法でこの家の皆を殺して逃げようかと提案するとエミリーが全力で反対した。


(言ってみただけで本気でそこまでするつもりはないけど……ボコボコくらいなら良くない?)


「だってあの頬の傷を見たら殺してやりたいと思ったんだもの!そのくらいの気持ちなの!」


「だーめ!妹が人殺しなんて嫌よ!もっと平和的に考えて頂戴。家には使用人だっているし、それにまだマリーには分からないかも知れないけど、お父様はいい人よ」


「ほとんど家に居もしない人が良い人?」


ハッと鼻で笑ったマリーにお父様が良い人である理由を話し始めたエミリー。


使用人でも本邸住みの使用人が数名いる。長年この屋敷で働いている侍女長や執事長などだ。


そしてエミリーはその中の1人だった。本邸だと使用人でも1人1部屋、その他の使用人は離れのお世辞にも綺麗とは言い難い使用人邸で1部屋に数名で住んでいるのだ。


エミリーは侍女の経験など無かったのに本邸住みの使用人にしてくれた事がお父様の優しさだと言い張った。


(娘なのに顔に傷がついたからって名前を変えて使用人にしたのよ?どこが優しいの?)


「ふむぅ。一生分かる気がしないわ」


マリーは全く共感出来なかったが話し合った結果、暴力的な事はせず堂々と出ていこうという結論に達した。


計画を決めたマリーとエミリーは早速準備に取り掛かる。

うっそうと木が生い茂る魔の森入口付近で2人で魔獣狩り。

夏期休暇中のおかげで朝から晩まで狩り、気付けば入口付近の魔獣が出なくなる程だった。ちなみにエミリーの武器は拳である。


(うえぇ)


狩った後は魔獣の解体。

マリーは自分がしている事に目を背けたくなったが冒険者時代にやっていた事である。

血を抜き皮に角に牙に肉に内臓にと分けていく。エミリーも覚え懸命に解体している。


血以外は分けて袋に入れ木の根本に埋める。血と肉と内臓の一部は逃げる為に使用し、その他は家を出てから売りに行き生活費の足しにするのだ。


「狩り過ぎたから荷物が多くなっちゃったわね。全部持ったら重たいし台車も隠しておきましょうか」


(お姉ちゃんのパワーがあれば荷物など余裕なのでは?魔獣ワンパンだよ?力加減覚える迄魔獣グロだったよ!?)


そう思ったが一応エミリーも女の子なのでツッコミを入れるのを止めて台車案に乗った。

計画で重要なのは魔獣の赤い血。それと前世の記憶にあったハロウィンで作った事がある傷メイク。


日本と同じ道具は無くても作れるし、何よりこの世界では無い技術。

試しに簡易的に作った傷メイクをエミリーに見せたら本物だと思い倒れそうになった。


(この世界の人は傷口が偽物だなんて考えもつかないみたい。それに血を合わせればかなりリアル)


エミリーが言う『お父様は良い人である理由その2』によると、ローシェ達がエミリーの顔を傷付けた件はそれはそれは伯爵がご立腹だった。


なので母が亡くなってマリーが本邸に移る事が決まった時、マリーの事は絶対に傷つけ無いようにと伯爵がローシェ達に釘を刺していたと言う。


『もしマリーを傷つけたらローシェとは離婚、子供達は勘当する』と宣言したそう。


それを『良い人』と言われてもマリーはやはり共感できなかったが、その話のお陰でトントン拍子で計画が決まった。


狙うは伯爵が不在の日である。と言ってもほとんど居ないのだが。


全ての準備が整い決行日に決めたのは記憶を思い出してから次の満月の夜であった。


(明日から学園も始まるしね……)


この約1カ月、ずっと必死で考える事もほぼ無かったが学園の事を思い出すと最後にカルロに会いたかったような会いたくないような複雑な気分になった。


(私さよならを言いたいの?だめ……考えるのやめよう。忘れよう。私よりシャリーを信じた人だ)


大きく息を吐き両頬を軽く叩いて気を取り直し計画発動。


堂々と出て行く為にシャークを利用する事に決めていた。


呼び出されノコノコマリーの部屋へやって来たシャーク。


「前はバカ力出して突き飛ばしやがって!」


「ごめんなさい。話がしたくて……」


マリーはわざと机に目を向けた。机の上にはナイフが置いてある。

シャークが机の上に置いてあるナイフを手に取っても取らなくても計画は変わらないが取ってくれた方が都合が良い。


「今ナイフを見てたな。これでどうするつもりだ?まさか俺に仕返しするつもりか?」


単純な男、シャークはナイフを手に取りマリーに凄んだ。

ナイフを向けられたマリーは顔を背け怯えたふりをする。


「ナイフは怖いよな。そうだ。お前の姉みたいに殺されたくなかったら大人しくしろ」


シャークは息を荒くして脅すようにナイフをマリーの顔に近付けた。


マリーは小さな声で『やめて』と呟き防御する様にシャークの顔に手の平を当てる。するとあっという間にシャークは気を失い崩れ落ちた。


魔女時代の知識で一定量を吸うとすぐに気を失う粉を作り手の平に塗っていたのだ。


(息を荒くしてるからすぐだったわね。ざまみろ!女を馬鹿にするからよ。よし、今のうちに)


こっそりスタンバイしていたエミリーがベットの影から立ち上がる。


2人で手際よく手についている残りの粉を拭き取り、あらかじめ作っておいた傷メイクを顔に張り付け仕上げをする。


袋に入れていた魔獣の血をナイフに、マリーの頬に手に服に、シャークの服の袖に浴びせた。


「完璧よ」


エミリーが手鏡を向けるとマリーは鏡を覗き込む。


(うん、我ながら良い出来!どこから見ても今切られましたって感じ。地球の技術万歳!ハロウィンコスプレがこんな所で役立つとは!)


出来に満足し座るとエミリーは鏡をしまいシャークを座らせナイフを持たせた。

魔獣の血を入れていた袋をタオルで綺麗に拭いてくるくると巻きエプロンの大きなポケットに入れ準備完了である。


「ギャー!」


エミリーが叫びドアを開ける。


「きゃあああああ!!誰か~!奥様を呼んで!」

「エミリー?!何?奥様を呼べばいいのね!?」


すぐ近くに居た侍女がバタバタと家の者を呼びに行った音が聞こえた。

人が来る前に今度はシャークに魔女特製強力気つけ薬を嗅がせる。


シャークが気を取り戻し目を見開いたと同時にバタバタと沢山の足音が聞こえドアが乱暴に開けられた。


(来たぁ!後はお願いね)


マリーは俯き顔を抑え唸る。


「うわああああ!シャークがやったのか?!」


まずシャークの弟シャイルが驚きの声を上げるとローシェやジェシー、シャリー、メイド達も声を上げた。


「シャーク、あなたまさかマリーに傷をつけたの?!」


ローシェがヒステリックに叫ぶと訳が分からないシャークは言葉を失い返事も返さない。


「私がドアを開けたらシャーク様がマリー様の頬にナイフを当てていたのです!」


エミリーがドラマティックに叫んだ。


「シャーク、あなた何て事をしてくれたのよ!お父様にあれだけ言われてたでしょ?!どうするつもりよ!離婚されちゃうじゃない!」


ヒステリックな声が響き渡りローシェはシャークの胸ぐらを掴んだ。


「俺……」


やっていないと言いたいが自信を持って言えないのだろう。

ナイフを手に凄んでくれる単純な男で良かったとマリーは心から思った。


「ああ!マリー、実は私はあなたの姉なのよ!マリーまで傷付けるなんて酷いわ!さぁ、お姉ちゃんに傷を見せて」


エミリーが舞台女優のように大声で叫ぶと皆の視線がマリーに集中する。


それは目の横から顎に向かって深い傷口があるのを周りに見せる為のパフォーマンスであった。


「私の時より傷が深いわ。なんて可哀想なマリー!もうこんな家には居られない!今すぐここを出ていきましょう!」


エミリーの台詞に怒りと困惑で震えていたローシェの顔がパッと明るくなりシャークを離した。


「私のお姉様は……」

「そうしなさい!」


マリーの台詞は残念ながら最後まで言わせてもらえなかった。

ローシェが被ったのだ。


「そうよ、そうしなさいよ。ここにいるエミリーは確かにあなたの姉で間違いないわ。マリー、貴女のその顔じゃもう利用価値が無いから家に必要ないの!さぁ、今すぐ2人で出ていきなさい」


予想通り出ていけと言い出したローシェ。エミリーがマリーの顔にタオルを当てる。


「それでは奥様、今までお世話になりました」


エミリーが頭を下げるとローシェが怒鳴る。


「本当よ!姉妹揃って役にも立たない穀潰しが!さっさと出ていけ!あの女にそっくりなその汚い顔を見なくて済むと思うとせいせいするわ!警備、魔の森まで見送ってあげなさい」


(ほんと、この人最低過ぎて計画通り)


ローシェは生かすつもりなどないのだろう。魔の森に入れば戦えない者は魔獣に殺される。

無事に抜けられるのは騎士や冒険者達で普通の女の子が魔の森に入るのは死にに行くようなものだ。


(ローシェは私達が戦えると知らないから……分かってたけど鬼みたいな人ね)


「あはははは!私も見送りたいわ!」


「私も!ちゃんと森に入るの確認したいもの!明日学園で皆に何て言おう!マリーが死んだら皆大喜びに決まってるわ!キャハハハ」


シャリーとジェシーの姉妹はまるで遊園地に遊びに行くかのようにとても嬉しそうにはしゃいでいる。


マリーはぶち殴りたい衝動にかられたがグッとこらえた。『平和的に堂々と家を出ましょう』とエミリーの言葉を言い聞かす。


荷物を持っていけと言われるはずもなく、着の身着のまま警備を先頭に森の入り口迄来るとシャリーとジェシーが思い切り2人の背中を押した。


「さっさと奥に歩きなさいよ!」


「そうよ、背中が見えなくなるまでここで見送ってあげるわ!途中で引き返して来ないようにね」


2人が1歩進むとジェシーとシャリーが『魔獣早く出て来ないかしら』と騒ぎ始めた。


(さすがローシェの娘だわ。殴りたいけど自由を手に入れる為に我慢よ我慢!)


マリーは拳を握りしめつつエミリーと寄り添い森の奥へと向かったのだった。




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