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ルーナとノーラは2人で女性専用休憩室へと向かう。

バルコニーではしゃぎすぎて暫く休憩する事にしたのだ。


「ニーノとも一緒に踊りたかったなぁ」


「そうね、今度お家で踊りましょうか?」


「じゃあ庭で踊らない?外の空気がとても気持ち良かったもの。ルークがこの前1人で庭でダンスしてた理由が分かった」


「フフフ、そうね」


他愛ない話をしながら歩いていたら突然ノーラが足を止めた。

いきなり手を掴まれたからだ。


「君」


手を取ったのは白とネイビーの宮廷服を着たカイの兄、カデリア王太子殿下。

顔を見たのは今日が初めてだ。

 

「突然すまない。君の名前は?」


ルーナは驚きすぎて目を見開きノーラを見る。と、ノーラは息を止め完全に固まっている。


(これは正直に言った方がいいわよね?)


「王太子殿下、失礼ながら私が姉に代わってご返答致します。姉は今改名してノーラと名乗っておりますが、以前の名はマイラ・サバルトーネと申します」 


「神よ……まさかとは思ったが……生きて……生きていたんだね?」


凛々しく整った顔はカイに良く似ているが物腰が柔らかく与える印象が全く違う。


綺麗なカイのようだとカイに対して失礼な事を思いつつノーラを見るがやはりまだ固まっている。


(お姉ちゃんがこんなに動揺するなんて珍しいわ……)


王太子殿下は手を離さずじっとノーラの顔を見つめている。


「わたしが王宮に呼んだせいで事故に遭って亡くなってしまったと……ずっと、ずっと今でも後悔していたんだ」


「……こちらの事情でやむを得ず虚偽の申請をしてしまったのです……そのせいで王太子殿下のお心を煩わせてしまったとは知らず……大変申し訳ございません」


やっと、ノーラが口を開いたがいつもの調子ではない。


「……良かったら、2人で少し話せないかな?」


「っ……」


ノーラが困ったようにルーナに目を向けてきたが王太子殿下は潤んだ瞳でノーラを見つめ続けている。


「お姉様、私は1人で大丈夫です。どうぞ、王太子殿下とお話してきて下さいませぇ!」


妙に緊張して最後声が裏返ってしまった。


ノーラが本調子でないところを見ると、心の奥底で誰にも言えない思いを抱えていたんじゃないだろうか。


そう思うととても切なくなった。


(きっと婚約者候補に選ばれた時とても嬉しかったはずだもの)


王太子殿下の年齢を考えるととっくに婚約者が決まっているだろうが……


王太子殿下は罪悪感に苛まれノーラも何か抱えているようだし、お互い話した方がいいに決まっている。


ルーナはそう判断し、ノーラを置き逃げるようにその場を離れた。


(お姉ちゃんの心が少しでもスッキリしますように……)


休憩室に近付くにつれちらほらと治安ギルドの制服を着た隊員が目につくようになった。


(警備に駆り出されたのかな?衛兵もいるけど……)


不思議に思いつつ休憩室前の廊下に着くとあからさまに治安ギルド隊員が多い。

等間隔で数名立っていてルーナは首を傾げる。


見知った顔の茶髪のハリーと目が合ったが勤務中だからか、サッと目を逸らされた。


(さっき登場しなかった王女様がお忍びで参加しているのかな?でもそしたら王室騎士隊が警護に当たりそうだけど……)


疑問を抱きつつ休憩室に入る。


向かい合わせで椅子が並べてあるシンプルな休憩室は人はまばら。

奥にあるテーブル前に立っているメイドに声を掛けると飲み物を用意して貰える仕組みだ。


ルーナはまずお水を貰おうと奥のテーブルに向かったのだが、テーブル近くの椅子に腰掛けている女性の後ろ姿に足を止めた。


高く結い上げられた赤茶色の髪の毛に赤地に花柄模様のドレス。


(うわ、ジェシーだ) 


気付かれないようにこのまま部屋を出るかそれとも話し掛けるか知らんぷりして居座るか。


(顔も見たくないけど……いい機会だと思おう。お姉ちゃんも今頑張ってるだろうし、私も頑張る)


ルークとの結婚は無理だとハッキリ念を押しておきたい。


水を貰い一気に飲み干し、メイドにグラスを返すとジェシーの正面の椅子に腰掛ける。


顔に目を向けるとハッと息を飲んだ。

全く同じドレスだがジェシーではない。完全に別人だ。


見た事がない顔なので他領から来た成績優秀者だろう。


(でも変だわ。あのジェシーが人と被るドレスを着る訳がない)


腑に落ちないルーナは思い切って声を掛ける事にした。


「こんばんは。突然お声掛けして申し訳ございません。わたくしルーナと申します」


「ルーナ様!お声掛け頂き光栄です。私ソニアと申します」


「ソニア様、とても素敵なドレスですね。失礼ですが、どちらでそのドレスを?」


「あっ……すみません、私みたいな平民がこんな立派なドレスを……」


ソニアは申し訳無さそうに顔を伏せた。


能力に秀でた平民は学園に通えるので成績優秀者に選ばれていても何もおかしくはない。


だが平民が優秀者の場合ドレスは学園から貸りたお世辞にも高級とは言い難い物を着ているのが一般的だ。


(このドレスが学園の貸衣装?有り得ない。髪型だってお手伝いがいないと出来ない髪型よ)


「誤解させてしまってごめんなさい。そういう意味じゃないんです。知り合いと全く同じドレスなので気になってしまって」


ソニアは納得したように頷いた。


「ルーナ様のお知り合いはジェシー様の事ですね?」


「そうです」


「お知合いなら大丈夫ですね。実はここで休んでいたらジェシー様にドレスを交換して欲しいと声を掛けられたんです。私のドレスは貸衣装だと説明したんですが、ドレスの賠償金を優に超える金額の指輪を1つ渡され、しつこい男性から逃れる為にどうしてもとお願いされて……とても困っている様子だったので承諾しました。そしたらジェシー様はそちらのメイドの方に髪の毛のセットまでお願いして下さって……」


(しつこい男性?おかしいわ。しつこかったのはジェシーよ。それにあの高級にこだわる人が貸衣装を着たがるなんて……一体何が起こってるの?)


廊下に居た治安ギルドの面々が思い浮かび休憩室を見渡すが王女殿下は見当たらない。


(もしかしてジェシーを見張っているとか?ニコルも今朝急について来たし……)


嫌な予感で一杯になったルーナはソニアに問いかける。


「ジェシーがドレスを交換して出て行ったのはどのくらい前の話でしょうか?」


「2時間は経ってると思います」


「2時間も前なの?」


「はい。しつこい男が廊下で見張っているから逃げる時間を稼ぎたいと言われ、着替え終わってから1時間ここで待機して欲しいと頼まれたんです。髪のセットが終わってそろそろ1時間経ちますので。ジェシー様が無事に逃げ切れていると良いですけど。おモテになるのも大変ですよね」


「廊下で見張っている男」は治安ギルドの隊員しかいない。


ルーナはマナーなどそっちのけでガタっと椅子の音を立て慌てて立ち上がった。








※※※※※※※


お読み頂きありがとうございます。

続きは明日7月1日に更新します。

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