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お読み頂きありがとうございます。
今回はカイ視点のお話になります。
「ルーナ、1人でどうしたんだ?ルークは?」
移動中、立ち寄り思わず掛けた声。
近寄り難いのか分からないがルーナの周りにちょっとした空間が出来ていて上から見てとても目立っていた。
王子という立場上王族として父達と共に登場する予定だったのだが、ルーナが1人だったのでつい声をかけてしまった。
(ルークがルーナを放っておくなんて珍しい)
「あ、カイ!ルークは今私の元友人と話してるの。突然マリーの名前を呼ばれて私情けない事に固まっちゃったわ」
「ああ、あの男か」
周囲に聞こえないよう小さく呟く。
(ルークの事だから牽制してんだろうなー……それにしても……)
カイは目の前のルーナをまじまじと見つめる。アップに纏められた髪の毛。隠さず大胆に出された肩は首筋から肩のラインがとても華奢で絵に描いたようだ。ウエストはキュッと締りスタイルの良さが分かる。
ドレスもアクセサリー類も光が当たってキラキラに輝いているのにきちんとルーナの美しさを際立たせている。
薄めの化粧をしたその顔は可愛らしさと大人になりかけの女性の顔が混在しているようで可愛くもあり綺麗でもある。
(ああ、いつもより綺麗だな。こりゃ知り合い以外気安く近付けないわ)
ルーナの周りに空間が出来ていた意味を悟りパッと周りに目を向けると好奇の目でチラチラ窺われているのがわかる。
カイが着ている服もルークと同じルーナに合わせて作ってある。
ネイビーの布地にルーナの瞳に合わせた金色で刺繍が施された肩章付きジャケット。飾り紐で前を飾る詰め襟タイプの宮廷服だ。
詰め襟の部分はルーナのスカートに付いているのと同じダイヤモンドがバランス良く付いている。
ズボンは黒でルークよりクールな感じだ。
(この服装で2人だけで並んでたら王都学園以外にも噂が飛ぶな)
「人気の無いとこで待とうぜ。周りに気を遣って話すのは疲れる」
小声で言いカイは腕を差し出すとルーナは躊躇する事なく腕に手を添えた。
(やっぱな、なにやっても自然なんだよな……)
「でも、勝手に動いたらルークが探し回らないかしら?」
「多分バルコニー付近にいればすぐ気付く。邪魔が入らずにゆっくり話せる場所は限られてるから」
説明しバルコニー近くの人気が少ない場所に行くと足を止め腕を離しルーナに向き合った。
金色の瞳と視線がぶつかると思わずその華奢な肩を抱き寄せたくなる。
だがカイはルーナに対して恋心を抱いていないと思っている。
ときめくような気持ちも恋い焦がれるような切なさも感じないからだ。
たまにルークがルーナを独占していると面白くないと感じてしまうが。
(この感情はやっぱ前世に引っ張られてるのかな)
今まで色々試してルーナが前世の心残り、自分のせいで辛い思いをさせた相手だろうと確信めいた気持を持っているがルーナに打ち明けるつもりはない。
以前から思っているが前世の自分が申し訳ない気持が大きくて堂々と名乗れない。
それに親友ルークの為でもある。打ち明けてしまうとルーナが前世に囚われてしまうかもしれない。
もし自分もルーナに恋い焦がれていたらズルいと思いながらも打ち明け前世の鎖でがんじがらめにしたかもしれないが今のところそんな兆しはない。確実にあるのは友情のみだ。
(ただ、この自然に触れたくなる気持ちはどーにかならんかな)
目の前のルーナの華奢な肩を抱き寄せて自然と頬にキスできそうな自分がいる。
じっと見ていると綺麗な首筋もやけにいい香りがしそうで顔を近付けたくなってくる。
(普段はここまで思わないのにな。やっばドレスアップした女はツエー。つか、ルーナが綺麗すぎてあてられてるのか)
気を紛らさないとうっかり取り返しのつかない事をしでかしてしまいそうだ。
一時の衝動で大切な友人であるルークとルーナを失う訳にはいかない。
「ルークあの男殴ってねーかなー」
「ええっ?」
大きく目と口を開け声を上げるルーナ。
「ウソウソ。それより折角綺麗なんだから表情管理もしとけよ。見惚れてる男達が幻滅するぜ」
「何言ってんの、そんな人いないわよ」
「俺今見惚れてたけど?」
「大丈夫?ニコルに毒されたの?」
「あはははは」
いくら人気がないとはいえ、パーティーなので人の目はあちこちにあると言うのにカイは素で声を上げ笑ってしまった。
集まる視線。しまったと周りを良く見るとほぼ王都学園で顔を見知った生徒達だった。
人気が少ない場所を知っているので待ちあわせでもしているのだろう。
(まー王都学園じゃもう熱愛説強いからいっか。地方学園にまで飛ぶわけじゃないし)
ふと目線をルーナに戻そうとした時、バルコニーから出てきたルークの姿が見えた。
(おっ、ルークやっと来たか。歩き方で苛ついてんのが分かるんだよ。あの男を完全撃破したんだろうなー)
苛つきを隠しきれていないルークを見ていたらフッと悪戯心が湧いてきた。
いつものようにルーナに馴れ馴れしくしていたら人目をはばからず「離れろ」とスキルを発動しそうだ。
(またからかってやるか。どうせ周りには王都の生徒が数名いるだけだ)
ダンスを踊ってくれとお願いしている雰囲気を出そうとカイはルーナの前に片膝を突き手を取った。
ルークがルーナと1番に踊るのを楽しみにしていたから相当焦るはずだ。
なぜこんな悪戯するかと言うと面白いのもあるがカイは取り乱したルークを見るのが人間らしくて好きだ。
ずっと抑えてきた感情を隠しきれず出すところが可愛くて仕方ない。子供をからかう親のような気分。
近付いて来るルーク、ルーナは突然カイが膝を突いたのを不思議そうに見ている。
「カイ?突然どうしたの?」
不思議そうに、顔色も変えず聞いてくる。
王子が目の前で片膝を突くと普通の女子ならば浮かれそうなものなのに。
(やっぱ俺、何やっても自然つーか、意識されないんだろうな)
少し気に食わないがそんな事よりルークにドッキリだ。
十分視界に入った時に口を開く。
「ルーナ嬢、どうか私と……」
踊って頂けませんか?と口にする前に「きゃあ!」と言う短い女子の悲鳴が聞こえ、カイが慌てて周囲に目を向けるとルークが胸を押さえ少し前かがみになって壁に手を突いていた。
「ルーク!」
慌てて駆け寄るとルーナも気付き心配そうにルークの元へ駆けて来る。
「大丈夫かルーク」
カイが声をかけるとルークは消えそうなほど小さな小さな声を出した。
「カイ、今彼女に何をしてた……」
弱々しいルークの姿に、からかう為の冗談だとは言い出しにくくなったカイは顔を引きつらせた。
「わり、ルークがいなかったからダンスに誘おうと……」
「ダンス…………ダンスか…………良かった……」
ホッとしたように肩を下ろすルーク。
あんなに1番にダンスする事を楽しみにしていたのにホッとするとはどう言う事だとカイは首を傾げる。
「どっから見てもダンスに誘ってる場面だろ?なんだと思ったんだ」
「プ、プロポーズ……」
正装して片膝を突き手を握る姿はプロポーズしているように見えたらしい。
「えっ?」
カイと同時に声を上げたルーナはルークに手を差し伸べる。
「ルーク、大丈夫よ。カイは私にプロポーズなんてしないわ。そんな仲じゃないもの。だから安心して」
(あ、これ勘違いが行き過ぎてる系じゃね?)
少し悪戯したかっただけなのにルーナに誤解された感がある。
そんな事を気付いていないルークは少し俯きつつもキュッとルーナの手を取り真っ直ぐ向いた。
あらぬ誤解を生んでしまった気がして気の毒に思いルークに目を向ける。
カイ以外の人には分からないかもしれないが目を伏せぐっと口を結んでいる姿は必死に堪えている顔だ。
感情を出すところが見たかったのは成功だが、幼い頃に2度か3度見た事があるかないかの表情に罪悪感が募る。
(ヤバイ。まさかプロポーズと勘違いされるとは。つーか、ルークマジで必死だな……)
カイはグッとルークの肩を組み壁際を向いた。
「ルーク、そんなに好きなのか?」
「…………ああ、もうどうしようもない、どうしていいか分からないくらい好きだ。抑えきれない」
ルークの返事を聞いた瞬間チリチリッとした痛みが心に走った。
本気度がイヤという程伝わってきて自分が軽々しくルーナに接してはいけないんじゃないかとさえ思ってしまう。
誰にも恋などしていない。なのにチリついた痛みにカイは動揺した。
(何だこれ。意味わかんねー。けど……)
「俺絶対ルーナの事好きになるとかないから安心しろよ」
ルークの気持ちを汲み、パッと口から出た言葉。ルークは驚いたようにカイを見つめる。
「何故急に……」
「全然なんとも思わないからさ。今後誤解されないように言っといた方がいいだろ?いいか、俺の言葉の色見とけよ。俺はルーナの事はなんとも思ってない。全然好きじゃない。これからも好きになる事は絶対ない。な、見たか?」
ルークはじっとカイの顔を見つめ唾を飲み口を開いた。
「…………ああ、見た……」
「なっ、大丈夫だろ?だからしっかりしろよ。誤解させて悪かった」
「ああ、ごめんカイ。彼女は誰にも譲れないから、今のうちに本気で頑張るよ」
「分かってるって。頑張れよ」
ルークがあまりにハッキリと口にしているので、ルーナに聞こえているのではと気になって辺りに目をやった。
ルーナは気を遣ったのか少し距離を取り、とても切な気な表情でカイとルークを見守っている。
(聞こえてはないだろうけど、あの表情はヤバイ誤解してるかも。ごめんな、ルーク)




