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ルーナは授業が終わり休憩時間になると思い切り憂鬱な溜息を吐いた。


ジェシーとカルロが王都入り。

2人が近くにいると思うだけでルーナの心は真っ黒で地面に埋まりそうなほど重たい。


あまりにもどんよりと重たい心にルークのスキルで元気付けてほしい。そう思った。


休憩中でも背筋を伸ばし椅子に座っているルークに声を掛ける。


「ルーク、私にパワーを与える言霊をくれない?」


「パワー?ああ、あの2人のせいだね?君は少し2人を気にしすぎなんじゃないか」


「だってもう明日なのよ?顔を合わせたら吐いてしまうかもしれないくらい緊張してるの」


「……そうか。じゃあここはうるさいから中庭に行こう」


肩を落とし力なくルークに着いていく。外に出て緑の木々が生えている中庭へ。


この中庭がカルロと2人話していた場所に似ていて余計に気が重くなる。


人気のない場所に着くとルークは足を止めルーナに向き直った。

目線を下げ歩いていたルーナだったが立ち止まり目線をルークに合わせる。


木の葉の影がルークの顔に落とされゆらゆらと揺れ、影の隙間を縫った木漏れ日がルークの瞳を照らす。


ルーナはその瞳に思わず吸い込まれそうになった。


一瞬で重い気持ちの事など何処かへ消え失せた。声を出そうと思ったのに何も浮かばずただ見つめる。


(なんだろうこれ……目が離せない。ルークが凄く綺麗で)


胸がドキドキ高鳴る訳ではない。

逆にとても穏やかでルーナは自分がルークに見惚れているのだと気付いた。


「ルーナ」


見惚れているのだと気付いた時、ほんのりと色気を含んだ声で囁かれた自分の名前。


「な、何っ?」


動揺し声がうわずるとルークは驚いたように目を大きく見開いた。


「言霊が欲しいんだろう?」


「っ……そう、そうです。お願いします」


バッと深く頭を下げ顔を上げるとルークはとても優しげな表情を見せた。


「…………大丈夫だ」


「え?」


パワーの出る言霊は「頑張れ」などの励ましだと思っていた。


「大丈夫。君は……ルーナは強いから大丈夫だ。大丈夫」


優しく、言い聞かせるように言われるとルークの安心する声に包まれている感覚に陥った。

本当に大丈夫な気がしてくる。これが言葉のスキルか。


「なんだか2人に会っても大丈夫な気がしてきたわ」


「それは良かった。必要だったら明日も言うよ。君は大丈夫だって」


緑の下でニッコリ微笑むルークの笑顔を見つめながらルーナは大きく頷いた。


「ありがとう」



※※※※※※※※※※


翌朝、ルーナは制服に着替えドキドキ鼓動を打つ胸を押さえた。


昨日ルークが囁いてくれた「大丈夫」を思い出す。


(今日も大丈夫を貰った方がいいかも)


「お姉ちゃん、もしジェシーに気付かれたらどうしよう」


緊張した面持ちでソファーに座ったルーナにノーラはあっけらかんとした表情で口を開く。


「堂々としてればいいのよ」


「へっ?」


ルーナは頭のてっぺんから出たような高く珍しい声を出した。


「あのジェシーよ?あの意地悪ジェシーに会って堂々と出来る?それに私達逃亡者なのよ?」


「できるわ。だって私達は何も悪い事してないもの。それに顔を合わせる可能性のあるパーティにルーナも出席させるって事はもうそう言う時期なのよ」


「そう言う時期?」


「ローシェ達に私達が生きているってバレてもいい時期よ」


ルーナはジェシーから虐められていた記憶が強すぎて、顔を合わせる鬱陶しさだけが脳内を支配していた。


だがノーラの言う通りだ。自分の心を守りたくて必死で気付かなかった。

 

「ローシェが捕まる日が近い……」


「そうよ」


ルーナが呟くとノーラは少し声を震わせ返事をした。

その声だけで気持ちが伝わってくるようでルーナはギュッとノーラの手を握った。


「ようやくだね」


「……ええ。だからもし会っても怖がらず堂々とするの。もうあの頃の弱い私達じゃないのよ」


ノーラの強い眼差しにルーナも強く頷いた。


「ルーナちゃああぁん!迎えに来たよ〜」


ふと拍子抜けする声が玄関から響いてくる。


(何故ニコルが?)


ノーラと2人顔を見合わせ迎えに出ると、黒タイプのギルド制服に身を包んだニコルが笑顔で立っていた。


「何故ニコルが迎えに来るの?今から学園に行くのよ」


「あ、俺今日シャイな魔法使いの警護だから」

「警護?そんなの聞いてないし必要ないわよ」


間髪を入れず返答するとニコルはヘラヘラ笑う。


「そりゃーそうさ。俺が決めたんだもの」

「えっ?」


ノーラとルーナは息の合った疑問符を投げかける。


「ルークのお父上に掛け合ったんだよねー。カワイイ妹分のドレス姿が見たくてさぁ〜それにシャイな魔法使いは人気者だから警護がいた方がカッコもつくだろう?てねっ」


ルーナは呆れて言葉が出てこなかった。ノーラも同じ気持ちだったようでポカンとしている。


(なんて自由なの。ニコルもカイの事言えないわよ)


「それなら私も警護に行きたいわ」


ノーラが突如叫んだ。


「私もルーナのドレスアップした姿を見たいもの」


「ええっ」


「ルーナのギルド制服を着ていけば問題ないでしょ。それともニコルは自分だけ見るつもりなのかしら?」


ニッコリと笑うノーラ。ニコルは眉尻を下げ困ったように見つめた。


「いやぁ〜……そういうとこ姉妹ソックリだよね〜」


溜息混じりに返事をするとノーラはすぐに「ルーナ、借りるわよ」と衣装部屋へ向かった。


「あ……」


(大丈夫かな……お姉ちゃんもジェシーと顔を合わせる事になるかもしれないのに……)


一瞬不安に襲われたが堂々としていればいいと言ったノーラの強い眼差しを思い出し、ふっと短く息を吐いた。

待っている間にニコルに話し掛ける。


「ニコル、何故急に……」


「言っただろ?ルーナちゃんの晴れ姿が見たくてさぁ。ただの兄心だよ兄心。ノーラさんと同じ」


(なんだか珍しくもっともな理由)


「ふぅん?」


話していると玄関に現れた人影はもちろんルークだ。


ニコルを見る瞳は厳しいがルーナはうっすら昨日見惚れてしまった事を思い出しルークの顔をマジマジと見つめてしまった。


「どうかした?」


ルークに問いかけられハッと我に返る。


「な、なんでもない。おはよう」


「ああ、おはよう」


ニコルを見る時と明らかに違うルークの優しい眼差しにルーナは表情を緩める。


廊下からパタパタと言う足音と共にノーラの声が聞こえてきた。


「お待たせ致しましたわ!」


ノーラがルーナのギルド制服黒を着て楽しそうに微笑む。見るからに足取りも軽やかだ。

ノーラも警護に着くと聞いたルークは笑顔で頷く。


「ニコルだけよりよっぽど安心できるね」


「おい〜俺の扱いいつまで雑なんだよ〜」


ニコルの愚痴にルーナとルークとノーラの3人は顔を崩す。もうお決まりのパターンだ。

家を出て学園に向かって歩を進める。


「今度は警護じゃなくてノーラさんも参加出来るパーティーにご招待します」


「あら、楽しみだわ。ありがとうございます」

 

「わあ、お姉ちゃんのドレス姿見たいなぁ」


「おおっ?てことは〜その時は俺のビシッと決まった姿も見られるよん」


「ハイハイ」 


あんなに緊張していたのに4人で話しながら歩いていると不安になる必要なんて全くないと思ったルーナだった。





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