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届けられたドレスを見ているルーナの開いた口は塞がらない。


色はエレガントなネイビー。上半身は身体のラインに沿い大胆にも両肩を出したオフショルダー。


袖は添え物程度に短く付いているがとてもバランスが良い。


上半身がスッキリしている分スカートは異なる素材の布がバランス良く幾重にも重ねられボリュームがあり宝石が散りばめられている。


正直度肝を抜かれた。


(これ、本物のダイヤモンドにサファイアだよね……)


この1着が平民の一生分の生活費くらいするのではないかとルーナは気が気じゃない。


更にわずかの時間差で届けられたダイヤモンドのアクセサリーを見て心臓の音が大きくなる。


ネックレスとピアスは細くシンプルだがゴテゴテしているより若さとセンスの良さを感じる。


その代わりか髪飾りが大ぶりで花とリーフのデザイン。勿論ダイヤモンドがキラキラと光り輝いている。


髪をアップにしてサイドに着ければ一気に華やかになるだろう。


全て合わせたら幾らになるか見当もつかない。

王都に着いてから大幅に狂った計画の集大成とさえ感じる。


ノーラは仕事でいないのでルーナは落ち着かず1人ソワソワ。とにかく何かに集中しようと夕食の準備に取り掛かる。


メイドを入れると父が言ってきたが断った。

自分で出来る事は自分でやりたいからだ。


無心で玉葱を切り刻み挽肉と混ぜ合わせる。

ポンポンとハンバーグのタネを形作っていく頃ようやく落ち着いてきた。


(気になるし幾らだったのか聞こう)


カイとルークが気にするなとは言ったが見るからに高価な物を見せられて気にしない人はいない。できるなら自分が払える範囲で払いたい。


その時玄関の吊り鐘が鳴らされた。

走って玄関に行き扉を開けるといつものようにニーノとルークが手を繋いで立っていた。


「いらっしゃい。あのっ、ドレス……」


「ああ、今日届いただろう?見たくていつもより早目に来たんだ」


楽しみにしている気持ちが伝わってくるほど目を細めニッコリ微笑んだルークの表情にルーナの胸はドキリと小さく鳴った。


(なんか、幾らだったの?とか聞いてはいけないような気がする……)


カイ相手なら言いやすい事もルーク相手になると何故か躊躇してしまう。ルーナはぐっと言葉を飲んだ。

トルソーに着せられたままのドレスが置いてある部屋に案内するとルークはうっとり満足気に頷いた。


「君がこのドレスを着たらとても綺麗だろうね。早く見たいよ」


「あ、ありがとうございます」


「兄上、僕も見られますか?」


徐々に言葉遣いが丁寧になっていくニーノが薄紫の瞳を輝かせる。


「そうだね、学園でのパーティの後家で着替えて会場に行くからニーノも見られるよ」


学園でのパーティとは聞いていない。


「パーティの事を具体的に聞いてもいい?」


「ああ、まずは制服で王都学園で行われるパーティがあるんだ。これはパーティと言っても成績優秀者を褒め称える行事かな」


なるほど、成績優秀者の為のパーティなので勿論だろうとルーナは頷いた。


「これは着席型で君の知り合いとは席を離すから見られる事はないよ」


「お気遣いありがとうございます……」


正直不安だがルーナはポツリとお礼を言う。


「それから君も僕の家に行き着替え夜一緒に会場入りだ」


「え?わざわざルークのお家で着替えるの?」


「もちろん。ここには着替えを手伝ってくれるメイドがいないだろう?」


ルークの言う事はもっともだ。ドレスは一人では着られないし髪のセットもある。だがルーナは申し訳なさそうに頭を下げた。


「それなら姉に手伝って貰うので大丈夫です。わざわざお手を煩わせるわけには……」


「ああ、お姉さんはメイドとして働いていたんだったね」


コクリと頷くとニーノが慌ててルーナの前に飛び出した。


「お姉様!僕も見たいから家で着替えて欲しいです」


ニーノが上目遣いで言ってくる。ルーナはこの目に弱い。


だが、伯爵家の妾の娘の自分が公爵家のメイドに手伝って貰い着替えるなんて恐れ多い。

これが本音だし女の子達は噂好きだ。

ルークの家で着替えたと知られたらどんな噂が流れるか。


「ニーノにも見てもらいたい気持ちはあるけど……変な噂になったりしたらルークに迷惑がかかるから」


「変な噂?」


ニーノが首を傾げるとルークがフッと顔を崩した。


「そんな事を気にしていたのか。噂なんか放っておけばいい。むしろ僕は大歓迎だ」


「え?噂されたいのですか?」


驚き声を上げるとルークは意味ありげな微笑みを見せる。

少し悪戯みを含んだ瞳が男の子っぽい。


「勿論。今までの噂がかき消される程にね」


(こんな顔もするのね。でも噂されたいなんて……)


ルーナはやはりルークの事が理解出来ないと軽くこめかみを押さえたのだった。


「ただいまぁ~ルーナちゃ~ん」


鐘の音と共に浮かれた声が玄関から響く。勿論ニコルだ。

その瞬間何故かルークがチッと舌打ちをした。


「ここはニコルの家じゃないだろう?」


ブツブツ文句を言いつつニコルをルーナとニーノとルークの3人で出迎える。


「来てたのか~弟よ、今日も可愛いなぁ」


ルークの嫌味が聞こえていないかのようにギルド服姿のニコルはニーノの頭を撫でる。


「うん!今姉上のドレスを見てたんだ」


「おお、今度のパーティーで着るドレスだな?俺も見たいな~」


「凄く綺麗なんだよ!こっちこっち」


ニーノは嬉しそうにニコルの腕を取り引っ張っていく。

ルーナはそんな2人の後ろ姿を微笑ましく見ていると隣でルークが咳払いをした。


「ダ、ダンス……」


「ダンス?あ、カイが送ってくれた先生に教えて貰いました。パーティ前に復習できて良かったわ」


「そ、そう。それで……当日は僕と踊って貰えるかな……」


ボソボソ自信なさ気に言葉を漏らしたルークにルーナは笑顔を見せた。


「もちろん、カイとルーク2人にエスコートしてもらうんだもの。宜しくお願いします。2人と踊る私は贅沢者ね」


ルークはゴクリと唾を飲みこむと慌てたように言葉を付け加える。


「僕と1番に」


ルークと一緒に会場入りするならばファーストダンスのお相手はルークに決まっているだろうにとルーナは小首を傾げつつ頷いた。


「はい」


答えるとルークは顔を少し上げ宙を仰いだ。


「少し、風に当たって来るよ」


突如心ここにあらずといったウットリとした表情で外に出て行ったルークはすぐには戻って来なかった。

帰宅し丁度目撃したノーラによるとルークは庭で空気をパートナーに1人クルクルとダンスしていたらしい。ルーナにコッソリと耳打ちして教えてくれた。


「大丈夫かしら?」と。


カイがルークの肩を組み顔を真っ赤に染め戻って来たのはハンバーグが焼き上がる時だった。


「マジ俺死ぬかと思った。笑いすぎて。こんなに笑ったの何回目かなぁ。あはははは」


顔を真っ赤にして笑うカイの隣で同じく顔を赤く染めたルークは恥ずかしそうに口を結び一言も発さない。


「なぁルーナ、来週のパーティ楽しみだな」


突然カイに振られ反射的に頷いたルーナ。

カイは右側の口角を上げ何かを企むように笑った。






読んで頂きありがとうございます。

更新が滞りお待たせして申し訳ありません。

エタらず完結させるつもりですのでよろしくお願いします。


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