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「先日話したパーティーだけど、僕にエスコートさせてくれないか?」


いつものアフタヌーンティー授業中、ルークからの申し出にルーナは何も答えられなかった。


最近は週2ペースでカイとルークと3人で中庭の東屋でこの時間を過ごすのがお決まりになっている。


「俺もエスコートしたいけど立場的にこれ以上噂になったら面倒なんだよね。マジで婚約発表しないといけないレベルになりそう。どーにかできないかな〜」


カイはトントン指でテーブルを叩き口を結んだ。


「分かってるなら大人しくしててくれ。彼女は僕がエスコートする」


「んな事言ってもルーナ何も返事してないじゃん?」


バッとルークとカイがルーナの顔を同時に見た。

注目されたルーナは口をへの字に曲げ俯く。


ルークのエスコートが嫌な訳ではない。ただ、パーティー自体に出席したくないのである。


「……僕じゃ不満だろうか?」


何も答えず俯くだけのルーナにルークは悲しそうに問いかけた。


(なんて悲しそうな瞳をするのかしら)


「不満なんてそんな……逆に恐れ多いくらい。ただ、実はここ最近ずっと考えてたのだけど、パーティーを欠席しようかと思ってるの」


「それは駄目だ。皆シャイな魔法使いルーナに会えるのを楽しみにしているんだよ。君は王都学園の象徴になりつつあるからね」


「そう言われても、前の学園の成績優秀者が誰だか分かるんですもの……」


か細い声で呟いて口を曲げる。


(ジェシーとカルロ……絶対会いたくない。はぁ……)


「義理のお姉さんだね?」


「そうよ。それとギルドで初めて会った時にお話した友人だった男の子」


ルーナがふうっと息を吐くとルークが小さく唸った。


「ああ、例の元友人の事だね……君がパーティーに出ないなんてあり得ないから、僕がどうにかしよう」


「どうにかって?」


「君が気にする必要はない」


「そう言ってくれるのはありがたいですが、このパーティーは各学園で最後まで勉学を頑張った人達を招待し讃えるのでしょう?私のワガママで出席させないとかは嫌だわ」


(自分がズルしてるみたいで)


ルーナの言葉にルークは目を細め優しく微笑む。


「君はなんて優しいんだ。だが代表がまだその2人になると決まった訳じゃない。誰になるか僕がチェックしておくから君は気にせず出席してくれ」


「そう言われましても……」


ルーナが断ろうと口を開くとカイが机をバンバンと叩いた。


「そうだよ、俺とルークでダブルエスコートすればいいんだよ!俺らがそれぞれ左右の手を取ってさぁ。よし決定。ルーナ、欠席なんて出来ると思うなよ?これ王子命令だから。会いたくない奴がいるなら顔を合わす事がないよう離れた席にすれば良いだろ。ルーク、任せた」


「ダブルエスコートだと……?」


ルークが顔を歪めるがルーナも同じ位顔を歪めた。


「君達忘れてない?俺王子だから。王子様の言う事は絶対てことで。ルークそんな顔してるけど俺が命令しないとルーナは絶対出席しないと思うぞ?な、ルーナ」


ルーナは肩を落とし思い切り溜め息を吐き目を閉じる。


「ええ、こんな時ばっかり王子の権力を振りかざすなんてズルイわ」


「どうとでも言え。俺だってパーティーなんて出たくないけど、王子って立場上頑張って出てんだよ。お前も国が誇るシャイな魔法使いルーナとして名を馳せたんだから、立場をわきまえてパーティーに向けてしっかり準備してくれ。あー、ルークの事だからドレスの事も考えてるだろ?」


(カイの事を言われると私も甘えちゃ駄目な気分になるわ。でも……)


ルーナが頭を抱えるが、ルークとカイはお構いなしで話を続ける。


「ああ、勿論。仕立屋に連れて行くつもりだった」


ルークが答えるとカイはやっぱりなと笑顔を見せる。


「ドレスはよし!あと〜、今やシャイな魔法使いは憧れの的だしそれなりの態度でいてもらわないとな。て事で、作法とダンスの先生を家に行かせるからルーナは復習する事。あー楽しくなってきた。こうなったらさ、俺達の衣装とこいつのドレス合わせようぜ」

 

思い立ったら即行動のカイ。

授業終わりの鐘を待たず3人で王室の馬車に乗り込み国1番の仕立屋に向かったのだった。


(これは出席しないと許されなさそう。とにかく2人と顔を合わさないようにするしかない。仮面を用意しようかしら)


「それにしてもシャイな魔法使いの名前はすっかり独り歩きしてしまったわ。全てあの王都新聞のせいよ。誰が記事にしたのかしら」


ルーナがぼそっと愚痴をこぼすとカイが意味ありげに目を細めた。


「もし記事にした人に会ったらどうする?」


「もちろん、文句を言うわよ。あなたのせいで私の目立たずひっそり生きていく計画が台無しになったわ。どうして記事にしたのよ!ってね」


「ほーん!ルーク聞いた?どうして記事になったんだろうね?」


ルークはあまり表情を変えず見る者を惑わしそうなほど美しい笑顔を見せた。


「……きっと、彼女が誇らしくて皆に知ってほしかったんじゃないかな?」


「へー、それってまるで自分の恋人を自慢してるみたいだな」


「恋人じゃなくても皆に自慢したいくらい恋い焦がれているのかもしれない」


優しげな瞳で言ってきたがルーナは肩をすくめ短く笑った。


(王都新聞の人に会った事もないのにそれはない)


馬車が停まり降りると国1番の仕立屋はカイの手が入っていると一目で分かる前世日本を思わせるショーウインドーがある白い建物だった。


「ここもカイね」


「もち、この世界の服って着にくくてさ、ソッコー案を出した」


(思えば学園の制服や、道行く平民が着ているラフな服もきっとカイの案なのね)


「色々納得だわ」


店に入り順に奥で採寸。ルーナが最後に採寸を終え戻ると、意外な事にルークがドレスの素材や色、デザインにこだわりを見せ、仕立屋と話し込んでいた。

それを聞いていたカイも口を挟む。


「ルークはやはりセンスがいいね。だがこのデザインと色だと少し地味になってしまいそうだからスカートのこの辺りに小さな宝石を散りばめたらどうだろうか?」


「私も予算を気にしないのであれば仰る通り宝石を使った方が良いと思います」


カイの案に仕立屋が頷いた。


(宝石ですって?!)


「あの……」


恐ろしくなりカイとルークに声を掛けるがしっしと手で合図され止まる。


「私とルークがエスコートするんだ。ドレスも完璧で当たり前なんだよ。ルーナはドレスの値段を気にするより自分を磨いてほしいな」


仕立屋の前だからかよそ行きの顔で微笑むカイ。


「その通り、君は値段を気にしなくていい。その……そのままの……君で……」


ルークもルーナの顔を見るが微笑まず、最後何か言いたげにモゴモゴと言葉を濁した。


微笑みもしないルークを見てルーナの心に疑問が湧いてくる。


(今更だけどそもそもルークは何故私をエスコートしてくれるんだろう?誘われた時は全然不思議に思わなかったわ。カイは完全にノリだったし)


ルークからのエスコートの申し出を疑問に思わなくなっている程、一緒の時を過ごしているルーナであった。



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