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(折角皆普通に接してくれていたのに地下ダンジョンの一件でまた持ち上げられてしまったわ)


朝、ルークと共に学園に向かい歩いている時から数えきれない程の人に声を掛けられ称賛の声を浴びた。


(記憶があったから知ってただけなのに。騙してる気分)


ルーナは声を掛けてくれた皆に少々歯切れ悪く返事を返す。


本日の王都新聞に詳細が載っていたのだが解明した理由が『その時代の記憶がある為』ではなく、ルーナが特殊魔法で解明したと発表されたからだ。


ニコルが持ってきた新聞を読み、天を仰いだのは言うまでもない。


最後のアフタヌーンティー授業の時間はダンジョンの話をしたそうな友人に謝り、珍しく朝から学園に来ていたカイの元へと走った。


息を切らし東屋へと飛び込むとカイはベンチに深く腰掛けのんびり笑っていた。


「よぉ、そんなに急いで来なくても俺は逃げないぜ」


「どうしても一言言いたかったのよ!前々世の記憶があるから知ってただけなのに、私が魔法で解析した事になってるのはどういう事?ホントに意味が分からないわ」


「あー、それな。前々世の記憶だと発表するといらぬ混乱を招くだろうって俺の親父が配慮してくれたんだぜ?俺は親父の考えが正しいと思う」


ひょうひょうと答えたカイにルーナはガックリと肩を落とし向かいのベンチに腰を下ろした。


「はぁ……そうなのかも知れないけど、私からすると皆を騙してる気分だわ」


「真面目だなぁ。世の中には吐いた方がいい嘘もあるんだよ。つーか、そんなとこ座らないで隣に座れよ」


手で自分の隣をポンポン叩くカイにルーナは首を横に振る。


「いくら何も思わないからって同じベンチに座るのは変だと思うわ」


「本当は膝に座ってみろって言いたい気分なんだけどな」


肩をすくめて残念そうに言うカイにルーナは目を見開き声を上げた。


「バッカじゃないの?王子の膝に『はいそうですか』って座る人がいると思う?」


「だってお互い何も思わないだろ?膝に座っても平気なのか確かめたいじゃん」


(いやぁ……なんて素っ頓狂な事を言い出すのかしら。さすがはカイ)


ルーナはじぃっとカイの顔を見つめる。

先日ふと思った懐かしさ。前世の恋人、春斗の顔をカイに重ねてみる。


(無くはない。前世日本人だし同じ年だし)


「ねぇカイ……前世の名前、聞いてもいい?」


聞いてから急に緊張したルーナは制服の胸をギュッと掴んだ。

少し目を見開き笑顔が消えたカイ。


「……なんだよ、もしかして俺に惚れた?」


「違うわ、違うけど、前世の知り合いなんじゃないかと思って」


「あ~…………わりぃな、俺前世の大事な記憶が抜け落ちてる部分があるって前言っただろ?それに自分の名前も含まれてんだよ」


「そっか、分かったわ。変な事聞いてごめんなさい」


ルーナが少し目を伏せるとカイが話を逸らすように爵位継承の話を持ち出した。


「やっべーよな、逃げて来た家を継ぐとかルーナが伯爵になんのめちゃ笑える」


「笑えるじゃないわよ!髪が全て抜け落ちそうな程驚いたわ。いつの間にお父様と連絡取ってたの?」


「あ?その辺俺はノータッチだぜ?俺は親父と宰相にルーナの話をしただけ。お前の父ちゃんと連絡取ってんのは宰相だよ。だから爵位継承を決めたのは宰相じゃないか?」


(宰相様が決めた?シャークには継がせるなと言ったのも宰相様よね。元々の立場が違う上、お父様はニーノの件もあって宰相様には頭が上がらないだろうけど……)


「あ~、そっか、そういう事か……多分さ、継母の件とか片付いたらお前の父ちゃんが立派な婚約者連れて来ると思う。チッ、あいつマジで本気過ぎるだろ」


カイが面白くなさそうに口を曲げた。


(婚約者か……元々家が決めた人と結婚しようと思っていたけど、前世までの記憶を思い出してしまうと、どうせなら好きな人と結婚したかったな……まぁ好きな人が現れたらの話だけど)


ふぅっとルーナが息を吐いた時隣に移動して来たカイが腰を下ろした。


「婚約者、誰かの顔が浮かんだりした?」


「え?全く。そこまで具体的に考えてないわ」


(婚約者の顔か……)


その時突然思い浮かんだのは義姉シャリーを信じた苦い思い出のカルロの顔。

どんな酷い噂を聞こうがルーナの味方をして慰めてくれたカルロ。

あの頃、婚約者がカルロだったら幸せだろうと想像した事がある。

友達と言いつつも心の支えだった彼に恋に似た気持ちを抱いていたのかもしれない。


(嫌な事を思い出してしまったわ。結局あんな嘘だらけの手紙1通を信じた人を思い浮かべるなんて)


ルーナがため息を吐いた時背後から低い声が聞こえた。


「離れろ」


「ルーク、お前まで走って来なくて良かったのに」


カイが振り向きからかうように笑う。


「それは彼女と2人きりの時間を邪魔するなという意味か?とにかくまず離れろ」


カイの手を取り立たせるとルークはそのままルーナの隣に腰掛けた。


「はぁ?ルークどういう事だよ。もしかして俺に喧嘩売ってんの?」


「そういう事になるのかな」


隣に座りカイを見上げ不敵な笑みを見せたルーク。

ルーナは突然のやり取りに訳が分からず1人焦っていた。


(何!?喧嘩?)


ルーナが焦り気まずい顔を見せるとカイは声を出して笑った。


「はははは!言うじゃんルーク。やっぱお前は最高の友達だよ。3人でいたら面白そうだし卒業まで毎日学園に来るか」


今度はカイがルークの手を取り立たせルーナの向かいのベンチに移動した。


「本気で卒業まで毎日来る気か?」


「ああ、嬉しいだろ?」


カイの言葉にルークは押し黙った。


(出たわね、ルークのツンデレ!そこから『まぁ喜んであげてもいいけど』って言うんでしょう?)


想像し少しニヤついてルークとカイを見るルーナ。

カイとふと目が合うとカイはまた声を出して笑い始めた。


「あははは!いやぁ、どこの世界もいつの時代も女子の皆さんの噂話は色々と面白いよな。その様子じゃルーナは本人だからそこまで聞いてないのかも知れないけど最近じゃ俺とルーナ熱愛が主流だぜ」


「ええっ!もう何も言われないから消えたと思ってたわ」


「いいや、それがルークも加わってどんどん過激で面白くなって来てるんだって」


(ルークまで?)


ルーナがルークに目をやるとルークは顔に手を当て『しまった』と言う声が聞こえそうなしぐさを見せた。


(きっと聞かれたくない加わり方なのね)


ルーナが想像した時ルークは場の流れを変えようとしたのか両手を振った。


「そんなくだらない噂話より、パーティーの話など話題は沢山あるだろうに」


愚痴るようにルークが言った言葉にルーナは反応した。


「パーティー!?」


幼い頃からダンスレッスンを受けてはいたが1度もパーティーに出た事はない。

前の学園では考えられなかったが王都の学園のパーティーなら出席してみたいとルーナは思った。


きらびやかなドレスは女の子なら憧れるものである。

興味津々で聞き返したルーナにルークが答えてくれる。


「ああ、毎年ここ王都学園で開かれるんだけど、地方の学園の成績優秀者達も出席するかなり大規模なパーティーだ」


ルークの説明にルーナは信じられないと首を横に小さく振った。


「地方の学園の成績優秀者達ですって?そんなの初めて聞いたわ。私が前にいた学園からは出席しないって事よね……?」


「国内にある地方全ての学園が対象だから例外はないよ。ただ出席できるのが最終学年の生徒達だからね。君が知らないのも無理ないよ」


ルーナはルークの声を聞きながら息をするのを忘れてしまった。


(最終学年の成績優秀者達……)


ルーナは震える手のやり場に困り口を覆い隠した。

脳裏に浮かんで来るのはジェシーとカルロの顔だった。






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