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王都からそう離れていない大きな街に馬車が到着すると、綺麗に整列した人々が待ち構え一斉に手をお腹の前で組み頭を下げた。


先回りしていたカイの従者に馬車から降りろと促され誘導されるままカイ達と共に人々の前に立った。


「突然の訪問なのに歓迎ありがとう。皆顔を上げてくれ」


カイが王子らしく声を掛けると整列していた人々は顔を上げ、代表と思われる顎髭の生えた男性が一歩前に出た。


「カイ王子殿下、並びにシャイな魔法使い様をお迎え出来る事は無上の喜びにございます」


ルーナは名乗るつもりは全くなかったのだが、あらかじめ先回りしていたカイの従者に一緒だと聞いたのだろう。代表の男性はルーナとノーラの顔を見回した。


「ルーナ、此方へ来て皆様にお礼を」


カイが振り向き王子感満載でルーナを引き寄せ隣へと誘導される。


ルーナはカイや歓迎してくれた街の人々に礼を欠いてはいけないと笑顔を作りお礼の言葉を述べる。


「ありがとうございます。ですが私はただ魔法が使えるだけの存在ですのでこのような歓迎は……」


そこまで言っておきながらルーナは口を結んだ。

本音は『ただの魔法使いなので歓迎される立場ではない』であるが、ルーナが本音を話すとことごとく逆に目立ったり感心されてしまう。


その事に気付いたルーナは話す事を止め誤魔化すように微笑んだ。

それを隣で見ていたカイはルーナの背中に手を当て耳元で囁いた。


「もう遅いって。バカだな」


カイの言葉通り迎えてくれた人々は『お噂通り大変謙虚な方のようで』と感心しているようだった。


(裏目裏目で目立ってしまう……これは転生者の宿命かもしれないわ……)


ルーナは前世で読んだ小説等を細部まで思いだし、半ば諦めつつ笑顔で挨拶したのだった。


休憩室に入るとカイがルーナの肩を組み顔を覗き込んでからかうように笑う。


「馬鹿だなー目立たないようにしようとしていつも裏目に出てんのな」


「ゔぅ……」


ルーナが唸るとカイは笑いながらルーナの鼻をつまみ声を上げて笑う。ニコルはつまらなさそうな顔でカイの顔をジロリと見る。


「カイ、俺のルーナにやけに馴れ馴れしすぎるんだけど?」


ニコルの言葉に続けと言わんばかりにルークがカイの手を取った。


ふとルークを見ると殺意が滲み出ているような鋭い目付きをしている。顔が綺麗な分迫力が凄い。


「馴れ馴れしいは僕も同感だ。殺意が湧いてどうしようかと思っていたところだよ」


「ヒイッ!」


ルーナはあまりの迫力に短く叫んだ。

ルークの表情は今にも『死ね』と力を込めて言わんばかりだからだ。


(怖い!殺される!)


「やべ。ルーク顔がマジじゃん!そんなに俺が他の人と仲良くなるのが気に入らないのか?」


「僕は今、カイに言ってはいけない言葉を発しそうでとても困ってるんだ黙っててくれ」


「そんなムキになるなって、そんな事言ってると色々ばれちゃうよ」


眉間に深いシワを寄せ今にも怒りを爆発させそうな震え声のルークの肩を抱き寄せひょうひょうとからかうように言うカイ。


ルークはクッと唇を噛んで頬を赤く染めカイから目を逸らしそっぽを向いた。


(ルークはきっとツンデレなのね)


そんな事を思いながら眺めていたらニコルがニーノの頭をグシャグシャと撫でルーナとノーラに笑顔を見せる。


「あのいちゃいちゃしてる2人は放っておいて、ルーナ、ノーラさん、ニーノ、俺達は見回りに行こっか〜」


ニコルの提案にルーナ達はすぐに頷いた。


「そうね。お姉ちゃんの依頼もこなさいといけないし」


「わーい!ノーラお姉ちゃんの綺麗に倒すパンチ見る」


「ふふっ、今日も張り切って殴るわよ」


ノーラが拳を握ってみせるとカイが申し訳なさそうな顔で口を挟んだ。


「あー!悪い、俺とルーナはこの街の病院から要請を受けたんだよ。相談があるってさ。皆とは後から合流すればいいだろ?」


「そうなんだ。要請を受けてるなら勿論行くわ。皆、お姉ちゃんをお願いね。凄く強いからやり過ぎないように見てて」


「僕も病院に付いていく」


能面が貼り付いているかの如く無表情で、そして当たり前のようにルークが言った。


「ダメだろ。呼ばれてんのは治癒魔法が使える俺とルーナ。他の奴が行ったら迷惑になるかもしれないだろ?」


「はああぁ……くっ……その通りだ。ならばカイ、絶対に彼女に気安く触れないようにしてくれ。見た人が誤解してあらぬ噂を立てるかもしれない。彼女の迷惑になるから気安く触れるのは止めるべきだ」


「確かに噂は困るわ。学園でも皆誤解が激しくて……」


ルーナが同意するとルークは少し頬を緩めた。


「聞いたかカイ、彼女に迷惑を掛ける行動は絶対するなよ。とにかく指1本触れるな」


「ヘイヘーイ。じゃまた後で」


ノーラ達と別れるとカイはすぐにルーナの腰に手を回した。


「案内するよ」


(指1本触れるなって言われてたのに何て適当なのかしら。ルークが注意するだけあって確かにカイはボディタッチが多い気がする)


「ねぇ、カイってボディタッチ多いわよね。私それを何故か普通だと思って受け入れるからきっとダメなんだわ」


「普通……」


カイは目をパチパチと見開き腰から手を離し腕を組み、何やら考えるように唸った。


「……そうか、普通か。俺が何してもルーナは平然としてるから俺の事好きなのかと思ったよ」


「それが普通過ぎてドキドキもしないの。自分でもちょっと驚くわ」


「ハハッ!俺も全く同じだよ…………同じ元日本人だから感覚が似てるのかもな。そのまま間違っても俺に惚れるなよ?」


「惚れそうにないわね。安心して」


「はは!それでいい……行こうぜ」


そう言って歩き出すとカイは自然と肩に手を回したのだった。


「なぁルークの事どう思う?スゲーイケメンだよな」


「ルーク?確かに見た目クールなイケメンだけど……変わってるわよね。それに、カイの事好きすぎ」


「まーな!で、変わってるってどんなとこが?」


「突然柱や木目に夢中になるところよ。魔法を掛けられたがったり、ほんと不思議すぎるわ」


「は?なんだそれ」


今までの突然の発作的行動を説明するとカイは笑いが止まらなくなり、人目もあるのにキラキラ王子モードを保てず病院への道のりを大爆笑しながら歩いたのだった。


病院に到着すると応接室に通された。茶色のソファとテーブルが置いてあるとても殺風景な部屋だ。


そこには何らかの理由で体に傷を受けた人達が集まっていた。

ルーナは1人1人見ていたが、カイは自分を囲ませ一気に治癒魔法を発動し、数人ずつ繰り返しあっという間に全員を治してしまった。


全員感謝の言葉を述べて部屋を出て行きカイと2人になるとルーナは手をパチパチと叩いた。


「凄いわ。複数人同時に治せるなんて!私治癒魔法苦手なの」


「……自由に動ける歳になってすぐに治癒魔法の練習をしたんだ。前世で助たいのに何も出来なくて後悔した記憶があったから……だから光魔法だけは使えると皆も知ってる」


カイは少し寂しげな表情でうっすらと笑顔を作った。


(助けられなかった記憶……私と同じだわ)


「後悔して、真っ先に練習するのが素晴らしいと思うわ。私は前々世で助けられなかった事がトラウマになって苦手なの。正反対ね……カイの事心から尊敬するわ」


「……俺は尊敬されるような奴じゃないよ……大切な人を助けられなかった……」


カイはルーナの顔をじっと見つめ言葉を止めた。

ルーナは少し潤んでいるカイの瞳に気付いた。自分にも助けられなかった記憶があるので辛さが分かる。それが大切な人であればある程。


「私が尊敬してるのは今のカイよ。素は全然違うのに皆の為に王族として振る舞って、誰かを助けたかったから治癒魔法の練習をして、周りの人の為に頑張ってる。少しはカイ自身の為に頑張ればいいのにと思う程よ」


ルーナは本音を言い、励ました。心から誉めたつもりであったがカイは顔を歪ませ微笑んだ。


「お前俺にあんまり良い事言うな」


「何よそれ?本音で誉めたのに」


ルーナがフフッと笑った時、別室に行っていた白髪頭の院長が応接室に人を連れて来た。

院長と近い年齢に見えるその女性は奥さんであり病に体を蝕まれていると言う事だった。


「病気に魔法が効かないのは分かっているが気休めでいいから掛けて貰えないか……妻が毎日泣いているのを見ていられなくて」


ルーナは医学の知識がないので何の病気で何が原因など分からないが頬がこけ生気のない奥さんの姿に胸が痛む。


カイがすぐに治癒魔法を発動するがやはり何も変わらない。


「カイ王子ありがとうございます……治らないのは分かっているんです……ただ、こんなやつれた顔を主人に見せるのが辛くて泣いてしまうのよ……最後は笑ってお別れを言いたいのに」


院長の奥さんが涙を流すとつられてルーナも涙をこぼした。


(……愛する人に最後まで美しく微笑んでいたいのね。どうにかできないかしら)


ルーナは涙を手で払い必死に記憶を巡らせる。

マンドラゴラが手元にあればよかったがこの世界に存在するかも分からない。


(魔女時代ダメ、冒険者時代はもっとダメ、魔法使い時代も日本人時代も……)


前世迄の記憶を掘り起こしたがこれと言った案が見つからず無力さを感じたルーナはふと奥さんのはめているグリーンの石が付いた長めのチェーンネックレスに気が付いた。


(この前のラピスラズリのように石に魔法を掛けて持っていたら心は癒されるんじゃないかしら?本当に気休めだけど)


「効果があるか分からないんですがそのネックレスをお借りしても?」


手渡されたネックレスを手で包みルーナは想像した。奥さんの顔に色味が戻り、院長に向かい美しく微笑んでいる顔を。


(病は癒せないけど、せめて笑顔で過ごせるよう心に癒しを……)


光魔法を込め奥さんにネックレスを返す。


「気休めにしかならないと思いますが、癒しの魔法を込めました。心休まるお守りだと思ってもらえたら……」


「ありがとう、あんなに綺麗な光が込められているんですもの、もう癒されている気がするわ」


頬はこけたままであるが奥さんはネックレスを握りしめ嬉しそうに微笑んだ。ルーナもホッとして笑顔を見せたのだった。



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