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今回は
ルーナ
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カイ視点になります。
ゴシック調のお洒落なギルドマークが入った馬車に乗り、向かうはルーナ達が来た方角とは逆の街へ。
ニコル、ノーラ、ルーナの3人で計画した話であったが、気付けばルーク、ニーノ、カイも一緒に来る事になり馬車2台に別れた。
勿論ルーナはノーラとニーノと同じ馬車だ。
「カイって王子様なのにフットワーク軽いわね」
「そうね、まさか一緒に来るとは思わなかったわ」
「カイ王子様優しくてカッコよくて面白くて僕大好きだよ」
ニーノが楽しくて仕方ないと言わんばかりに元気良く声を出した。
ルーナは揺れる馬車の中ニーノの頭を撫でた。
「そう、大好きなカイが来てくれて良かったわね」
「うん。カイ王子様だけじゃなくてニコルも大好きだしルークお兄ちゃんも大好き。ルーナお姉ちゃんとノーラお姉ちゃんも大好き。今日は大好きがいっぱいで大変だよ。ルークお兄ちゃんも大好きなルーナお姉ちゃんと一緒にお出掛け出来てきっと喜んでると思うよ」
ニーノの屈託のない笑顔にルーナの笑顔は貼り付いた。
(ニーノは今何て言ったかしら?えー……)
「アハハ……ニーノは何か勘違いしてるのかしら?ルークが大好きなのはカイよ」
ルーナが貼り付いた笑顔から顔を歪ませるとニーノは口をとがらせ唸った。
「んー?でもルークお兄ちゃん家でルーナお姉ちゃんの話ばかりするんだよ。大好きだからでしょう?」
(何故ルークが家で私の話を?全く想像付かないわ……)
「ええとニーノ、ルークは一体どんな話を?」
「毎日の学園でのお姉ちゃんの事を僕に話してくれるの『今日は雷属性の人と握手をしたらしいよ。羨ましい』とか」
(羨ましい?ルークも握手すればいいのに。気さくな人だから握手くらいしてくれるわ)
ルーナは気さくに握手をしてくれた雷属性の男子生徒を頭に思い浮かべた。
(私の話と言うか私の報告って事ね。一瞬ドキッとしてしまったけどニーノが寂しくないようにだわ。優しい人ね)
「私だけじゃなくノーラの話も聞きたいわよね?今度冒険者ギルドにノーラお姉ちゃんの日々の活躍っぷりを聞きにいきましょうか?」
「聞きたい。力ぁ!」
ニーノが喜びパンチの真似をするとノーラが頬を染めた。
「最近は力って言ってないのよ」
「そうなの?知らなかったわ。もうあの叫びは聞けないのね……」
ルーナが少し残念そうに言うとノーラは眉尻を下げ申し訳なさそうにした。
「ごめんなさいね、最近は『綺麗に倒すっ』て言っちゃうの」
おしとやかに『綺麗に倒す』と良いながら魔獣を一撃で倒す姉の姿が想像しなくてもルーナの脳内に浮かぶ。
「うん、お姉ちゃんらしくてそれはそれでいいわ」
「うん、僕もそれ良いと思う。ノーラお姉ちゃんっぽいよ」
「うふふ、ありがとう。良かったわ」
ルーナは久しぶりの3人で和やかに馬車内の時間を過ごしていた。
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カイは大親友であるルークに疑いの目を向けられていた。
ルークからルーナと一緒に地方に見回りに行くと聞き、カイも行く事にしたからだ。
人数が増えた為馬車が2台になりルーナと別れたのも機嫌が悪い原因だろう。
「ルーク何ぶすっとしてんだよ。こーいうの子供の頃以来で楽しいだろ?」
「それはそうだが……はぁ」
(あからさまにガッカリしやがって。学園で噂になってるのもあるから内心気が気じゃ無いんだろうけど俺はルーナに惚れてないっての。確認したいだけだよ)
カイは子供の頃からルークを見てきた。
兄達を見て大人ぶり自分を押し殺しずっと良い子を演じてきたルーク。
一緒に教育を受けていたカイが前世の記憶を持っていた為大人びていたせいもあるだろう。
『カイ、僕は自分だけが子供な気がするんだよ。だから言って聞かせてるんだ』
まだたった3、4歳位の自我が出て来た頃だった。
本当は我が儘を言いたかっただろう。
もっと遊びたい。おやつを食べたい。あれが欲しい。そう言う自分の欲求全てを飲み込んでいたルークの頭をカイは何度も撫でたものだ。
そんなルークがなりふり構わず、恋に夢中になっている。
気付いたのはルーナと偶然出会ったあの日だ。
前世の記憶を持っていると知っていたのに紹介してくれなかった事がまず疑問だった。
(俺が出迎えた時も異常だった……今思うと本音は俺と会わせたく無かったんだろうな)
そして気付いたのは夕食の時。
突然立ち上がりルーナに向かって自分の事をルークと呼んでくれと言った。
女性に向かいそんな事を言うなど今までのルークから考えたらあり得ない事だった。
カイは心底驚いた。
(嘘だろ?まさか、いつの間に?)
信じられなくて学園でルーナを隣に座らせ試し間違いないと確信した。
(あのルークが片想いしてる。しかも俺にまで敵意をむき出しにするとかまじか!胸熱すぎる!応援するぜ)
カイは純粋に友人の初恋を喜んでいたが、ルークの反応が面白かったのもありわざとルーナの手を握ったり肩に手を回した。
ほんの軽いからかいの気持ちだった。だがそのたった数回の行為でカイの心に引っ掛かりが出来てしまったのだ。
カイは出会ったばかりのルーナに対して好きだと言う感情は一切持ち合わせていない。
だがルーナの手を握るのは当たり前、頭を撫でるのも隣に座るのも肩を抱くのも軽くハグをするのも当たり前。
全てカイにとって自然な事、当然のように感じてしまったのだ。
(ルーナはどう思ってるのか聞きたいけど聞きたくないって言う俺にしちゃメンドクサイ感情。ルークを応援したいから誤解されたくないし……もし、ルーナが俺の前世の自責の念の相手だったらと思うと怖いのもある。知られたくない)
カイの前世最後の記憶はただただ、自分を責めている後悔、苦しい思いのみが残っている。
『俺のせいだ。俺のせいで。俺が悪い。俺さえしっかりしていれば』
そればかりが繰り返され、自分を責め、思い出したくないと記憶を消してしまったのか起こった出来事は都合良く全て忘れ『大切な人を自分のせいで失った』その思いだけが残っていた。
(悪いなルーク、またちょっと不快にするかもしれないけど、ルーナをどうこうするつもりはない。本人に言うつもりもない。ただ、俺が確かめたいだけなんだ。ルーナが前世で俺の恋人だったのかどうかを……)




