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ルーク視点

************

ルーナ視点になります。










「……ルーナ」

(好きだ)


ルークは自身を見つめるルーナに見惚れてしまい、無意識で名前に『想い』を乗せてしまった。

言葉に想いを乗せてしまった事に恥ずかしくなり誤魔化そうとしたが、ルークよりも先にルーナが手で顔を覆い耳を赤くした。


(照れているように見えるのは気のせいか?)


胸いっぱいに広がるのは甘酸っぱい初めて感じる種類の喜び。

心を掴んで離さないルーナがルークの言葉に反応している。


(僕は好きすぎて意識しすぎていたんじゃないだろうか?言葉に気持ちが乗ろうがいつもの自分らしく接した方がいいのでは?現に目の前の彼女は僕を意識しているように見える)


ルーナが顔を上げた瞬間ルークは少し驚いてしまった。

ルーナは普通にしているつもりなのだろうが、耳だけではなく頬も赤く染まっていたからだ。


「ルーク」


真っ赤な顔で名前を呼んでくれたルーナが可愛くて今すぐ抱きしめたいと思った。


「…………はい」


好きな子が自分に対して頬を染めてくれた事でルークは幸福感に包まれたと同時に愛しさで心が満たされた。そして初めての衝動に駆られた。


(ああ、好きだ、触れたい。もし今彼女に触れたらどんな反応をするんだろう?)


「はい!あの、やっぱり私の事は君って呼んでもらって構いません。いえ、君って呼んで下さい」


花びらみたいなピンク色の唇に触れたいと目が離せなかったが、ルーナのお願いに少し現実に引き戻されてしまった。


(何故だ?名前を呼んだだけで反応してくれる君が可愛いのに)


「……悪いけど無理だね」


「何故でしょう?今までと変わらずでいいんですよ?」


「僕が名前を呼んでからずっと、君の頬が赤いからだよ。ルーナ」


そう言うとルーナは目を見開きとても驚いた顔をして両手で頬を押さえた。


「あの、実は君呼びからのギャップに驚いちゃったみたいで恥ずかしくなっちゃって……って言うか、ホント意外とイイ性格してるんですね。知らなかったです」


益々顔を赤くしたルーナにもうルークの心は爆発寸前であった。


(ああ、どうしよう。僕の全身から好きだと言葉が溢れ出そうだ。嬉しいのに胸が締め付けられているように苦しい。これが恋か!口から溢れる前にどうにか落ち着かなければ)


ルーナを見ながら落ち着けと口に出したらおかしいだろう。変な奴だと思われる。

何かないかと辺りに目を向けると街灯が目に付いた。


「ああ、この街灯のフォルムの素晴らしさに今まで気付かなかったなんて何故だ?僕の目は節穴か?落ち着け、落ち着くんだ僕……落ち着け」


ルーナに背を向け街灯を見上げ声を出した。


(落ち着け、落ち着け)


必死に心を落ち着かせ振り向くとルーナの頬の赤みも消えていた。


(彼女も落ち着いたのか。もうしばらく頬を染め照れている彼女が見たかったが残念だ。しかし、これから名前で呼ぶ度に想いを乗せてしまうとカイやニコルにはバレそうな気がする。それは避けたい)


「やはり君の言う通り君の事は君と呼ぶ事にするよ」


「え?……はい……ありがとうございます」


少し首を傾げたルーナが可愛くてやはり名前で呼びたいと思った。


「名前で呼ぶのは時々にするよ」


そう伝えルークは満足げに微笑んだのだった。



********************




ルーナは1人朝の事を思い返し頭を悩ませていた。

『僕が名前を呼んでからずっと、君の頬が赤いからだよ。ルーナ』そう言った時のルークの意地悪そうな笑顔はスマホがあれば迷わず写真を撮っていただろう。


(何なのかしら。あんな顔して私の頬が赤いからとか意外性を見せてドキっとさせておきながら……突然街灯の美しさに気付くとか、安定のいつものルークで一瞬で我に返ったわ。それに……)


『やはり君の言う通り君の事は君と呼ぶ事にするよ』


(早口言葉かと思ったわよ。ってえぇぇぇぇ!はぁ、あの意地悪そうな微笑みからのやはりの君呼び。それなのに……)


『名前で呼ぶのは時々にするよ』


(もう、何なのよ!どうしたいのよ!ニコルは手に取るように分かるのにルークは分からない。カイに解説して欲しい。あ~、もしかして私からかわれているのかしら?)


からかわれ、もてあそばれているなどと考えるが名前で呼んでくれと言い出したのも、君と呼んでくれとお願いしたのもルーナ自身である事実。

基礎教育の授業中もふと思い出し、つい謎だらけのルークを目で追ってしまっていた。


選択授業の時間になりルークとクラスが分かれたので、授業に集中出来た。

大好きな魔法教育実技で気晴らしし、アフタヌーンティー授業でディアナ達と中庭のテーブルを囲みようやく気を持ち直したのだった。


(謎過ぎるけどルークはこの世界の不思議を背負ってる存在だから気にしちゃだめよ。いくら考えても理解できないもの)


そう結論付け楽しくアフタヌーンティー教育。

ルーナは王都の話は全く分からないのでクラスの女子達の話題を聞き相槌を打っていた。


(なんて良い授業なのかしら)


「そういえば、ルーナ様とカイ様は大変仲睦まじく、お互い微笑みながら寄り添い歩いていらっしゃったと噂でもちきりですわ」


優雅に胡瓜キュウリのサンドイッチを1口食べた所でディアナが振った話題にルーナはむせた。


(えええええ?きっとあのカイのキラキラ王子モードにつられて笑って歩いた時の事だわ。寄り添いは意味分からないけど)


ルーナは慌ててサンドイッチを飲み込み答えた。


「昨日カイ様がアフタヌーンティーにお誘い下さった時の事をどなたかが誤解されたのよ。私などと噂を立てられたらカイ様に失礼ですわ」


「ルーナ様は婚約者はいらっしゃるの?」


「婚約者はいませんわ」


「まぁ、では思いを寄せる殿方はいらっしゃるの?」


グイグイと尋ねて来るディアナに他の女子も瞳を輝かせ興味津々で話を聞いている。


「いいえ、おりません」


(注目されても残念ながらいないのよね。今度こそ結婚しておばあちゃんになるまで幸せに生きようと思ってはいるけど、肝心の相手がいない……前世が長い春だったからか、ときめきがどんなものかも忘れかけてるわ)


ルーナの答えにディアナ達は楽しそうに声を上げた。


「ではもしかしたら今からカイ様に思いを寄せる事もあるかもしれませんわね」

「勝手に盛り上がってごめんなさい。実は私達カイ様とルーナ様はとてもお似合いだと話していたのよ」


(カイか。前世が同じ日本だから話しやすいのよね)


皆が盛り上がっている姿を見ながらルーナはカイと出会ってからの事を思い出していた。

よくよく考えてみるとカイに突然ハグをされても、手を握られても、肩を組まれても嫌と言う感情は無く、かといってドキドキも意識する事もなかった。


(何故かカイがやる事は全て自然に受け入れられる気がする。男だと思ってないから?これがもしニコルだったらとりあえず秒で埋めてそう。もしルークだったら?……木材にハグしている所しか思いつかないから何とも言えないわね)


ルーナが考えていると意見が纏まったのか軽く拍手までしだしたディアナ達。


「ルーナ様はご存じですか?カイ様に隣国の王女様との婚約話が出た時、国王陛下に『国を安全で豊かにする知恵を出すから自分の事は好きにさせて下さい。婚約者は自分で探したいです』と若干6歳で宣言された話は王都では有名ですのよ」


「その言葉通りカイ様は娯楽や制度など多岐にわたって手腕を発揮なさったのですわ。誰も思い付かなかった事を思い付くので変わり者と呼ばれていますけど、この学園の皆はカイ様の事をとても尊敬しています」


(なるほど、カイらしいわ)


「そうなのですね。お恥ずかしながら狭い世界しか見ずに生活して来たので王都の事やカイ様の活躍など知りませんでした」


「今から知っていけば良いのですわ。仲睦まじく過ごしていたら噂が本当になるかもしれません」


両手を合わせ瞳を輝かせるご令嬢達に期待されているのがヒシヒシと伝わって来る。

そんな皆の期待にルーナは少し困った笑顔を作った。


「こればかりは心の事ですから、この先どうなるか誰にもわかりませんわ」


これは本音だった。

今は何も思わないが朝ルークに一瞬ドキッとしたように突然カイに対してドキドキする事があるかもしれない。何も思わないままかもしれない。先の事なんて分からないのだ。


「まぁ素敵。ルーナ様とカイ様が手を取り合って歩く日が見られるかもしれませんね」


紅茶のカップを置き小さく拍手し頬を染めたディアナ。


(素敵?先の事なんて分からないという意味で言ったのに何故前向きに受け止められているの?)


いつの時代も女の子達は恋バナが大好きである。

どっち付かずな返答だと自分達の希望する方へと解釈されるのだとルーナは学んだのであった。







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