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「ルーナおはよー、王都で1番有名なパン屋のパン買ってきたよ~ここのパンは本当に凄いんだぜ!なんたってカイプロデュースだからな」


鐘が鳴り、玄関を開けると今朝も早くからニコルが何人で食べる気なのか分からない量の袋を抱えて立っていた。


「おはようニコル……気遣ってそんなにパン買って来なくても家に来ていいんだよ?」


「優しいなルーナ、愛してるよ!あ、勿論ノーラさんもな」


「そう言う事言われても私本気にしないから慌てて付け加えなくても大丈夫よ」


ニコルは項垂れ買ってきたパンの袋をルーナに手渡した。


「ルーナは一体俺の事を何処まで見抜いてるんだよ……前世で俺より年上だったからって」


「予想がつくだけで見抜いてるか分からないわ。ニコルも聞かれたくもないだろうし、1つ言えるとしたら家に居るのが嫌、もしくは居にくいんでしょ?」


「まーね、だから北の街に出張希望して行ったりしたんだけどさ……ルーナ達3人といたら自分が変われるんじゃないかと戻ってきてみた………ま、色々だな」


「一緒にいるだけで変われるなら人は苦労しないわよ。もっと真剣になってみたら?会って間もないけどニコルは家族みたいな存在だから心配になるわ」


「はぁ、ルーナあんま見抜かないでよ。俺の激しいダークな一面を知って欲しくないからさぁ。ハハ」


何とも言えない笑顔を見せるニコルにルーナは受け取った袋を持ち上げ笑顔を作った。


「どんなニコルでもニコルだよ。これありがとう。食べよう」


「ああ、まー俺から1つ言えるとしたらルーナやノーラさん、今はいないけどニーノの3人には救われてるよ。一緒に居ると俺まで心が綺麗になった気分になるんだよねぇ。ありがとな」


ルーナは微笑みリビングの長いテーブルではなく、ソファの前に置いてあるテーブルにパンを置いた。

ノーラがミルクを用意すると3人でソファに腰掛ける。


「学園思ったより楽しかったけど、ギルドの仕事もしたいなぁ。ニーノみたいに理不尽な思いをしてる子や、地下で助けを待っている人が何処かにいるかと思うと力を得た者として助けられるなら助けたい。新聞に載るなんてもう二度とごめんだけど」


「今のところあれから人さらいは出てないから安心してくれ。あの新聞はなぁ……王都だとどうしても目立っちゃうから旅しながら仕事するってのはどうだ?もちろん俺も一緒でノーラさんも冒険者ギルドの依頼をこなしながら一緒に旅するんだ。ずっと王都を離れるんじゃなくて王都を拠点にしてさぁ、出張みたいな。これいい案なんじゃないか?」


「お姉ちゃんの仕事も出来るし地方で困っている人も助けられて広い世界が見られそうでいいわね」


「そうね、私もルーナが一緒にいてくれたら無敵気分になるし楽しそうだわ」


「ギルド長の許しを得なきゃね」


ルーナとノーラはニコルの案にスッカリ乗り気になり早速今度の学園休みから困っている人がいる地域へ旅、出張しようと決めたのだった。


「出張……?」


本日も朝からやって来たルークに出張の話をすると、何やら黙って考え込んでしまった。


(それにしてもなんだろう。学園への道はもう覚えたから1人で行けるんだけど……)


ニコルは家にいたくないから朝から来るのは理解できるが、ルーナはルークが朝から来る理由が良く分からなかった。


(私がギルド員だから親切にしてくれてるのかしら?)


「僕も行くよ、出張。ギルド長として君の実力も見たいし」


「あ、はいっ」


考え事をしている時に急に声を掛けられルーナは慌てて返事をし取り繕った。


「おいおい、本部にいなくて大丈夫なのか?」


「ああ、大丈夫。父上にもカイにも説明しておくよ」


ルーナと同じ疑問を抱いたニコルがルークに問いかけると何も問題はないとさらりと答えた。


(『誘う』じゃなくて『説明しておく』か。別にカイにベッタリってわけでもないのね……)


「じゃ、行こうか」


「はい」


ルークが朝から来る理由は分からないが親切で迎えに来てくれているのならば邪険には出来ないと本日も学園に向かい並んで歩く。


「そういえば今朝早く、君の記事が載った王都新聞を地方に配る為の馬車が出たそうだよ」


「ええっ?」


ルークが切り出した話題にルーナは素で声を上げた。


(これ以上目立ちたくないのに……っていうか何故わざわざ地方に?)


「その地方って一体何処なんでしょうか……」


「この国全域だそうだ」


(全域ですって?)


ルーナは息が止まりそうだった。全域と言う事はサバルトーネ伯爵領にも届けられるという事だ。


「何故……」


「君が貴族令嬢であり、この国のヒーローだからだよ。君と同じ貴族は誇らしく思い、平民は貴族でありながら身分の差なく助けてくれる君を尊敬し崇めるだろう」


「何よそれ……私が貴族令嬢じゃなかったら地方に配られなかったの?」


「もし君が平民だったとしたら上貴族の誰かが君を養子にして貴族令嬢だと新聞に載っていただろう。民に尊敬されるのは貴族でないとダメだという考え方の人間もまだ多いからね」


「貴族の人気取りに使われた気分……」


「……きっと君の記事を提案した人もまさかこんな使われ方をするとは思っていなかっただろうね。でも、こうなってしまったら開き直ればいいと思うんだ」


開き直ると言われても、ローシェやジェシー、前の学園の人達が見るのかと思うとため息しか出てこない。


「あの人達に見て欲しくないわ」


「僕は逆だよ。君の本名は載っていないけど、新聞を読んでシャイな魔法使いルーナを尊敬し、誇らしく思えばいいと思ってる」


「何故?」


「だって君の事を虐げてた人達が君とは知らず君を尊敬するんだよ?僕はざま見ろと思うね」


クスリと微笑んだルークにルーナも少し笑った。


(そう思えたらいいんだけど)


「ルーク様……意外とイイ性格してるんですね……フフッ」


「君が笑ってくれて良かった。ところで……そろそろ僕の事もルークと呼んでくれないか?」


ルーナが立ち止まるとルークも立ち止まる。


「ルーク様、1つ言わせてもらいたいんですけど、ならばルーク様も私の事を君じゃなくルーナと呼んで下さい。私ばかり気安く呼んでルーク様は余所余所しく君と呼んでいたら変だと思います」


「それもそうだね……気付かなかった。言われてみたら君は僕と出会ったばかりだからと気にして逆に余所余所しくし過ぎていたかもしれない」


ルークは真剣な眼差しでルーナを見つめた。

ルーナは目にかかる長めの前髪を風に揺らされているルークがやたらと艶っぽく思えた。


「……ルーナ」


ルークに見つめられそう呼ばれた瞬間、ルーナは反射的に俯き手で顔を覆った。


(何今の?何故名前を呼ばれただけで照れるのよ私!意外性?君呼びからのギャップ?しっかりしなさいルーナ)


ルーナが顔を上げると、ルークは少し目を見開き驚いた顔をしていた。

ルーナはゴホンと1つ咳払いし、気をしっかり持ち約束通り名前を呼びかける。


「ルーク」


「…………はい」


ルーナが名前を呼ぶと、少し驚いた顔からそれはそれは嬉しそうな表情へと変わった。

目を細め『はい』と返事をしたルークにルーナは小さく手を上げた。


「はい!あの、やっぱり私の事は君って呼んでもらって構いません。いえ、君って呼んで下さい」


(言葉スキルを持っているから名前を呼ばれると何か感情が揺さぶられるとかあったりするのかもしれない)


そう疑ってしまう程名前を呼ばれただけでルーナの心はざわついてしまった。


「……悪いけど無理だね」


「何故?今までと変わらずでいいんですよ?」


「僕が名前を呼んでからずっと、君の頬が赤いからだよ。ルーナ」


そう言ってルークは珍しく意地悪な笑顔を見せた。








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