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「あー、俺今からこの傷つけた奴殺してくるわ。マジ許せねークソが」


「カイ、素出し過ぎだよ。でもその気持ちは分かるわ。私もそう思ったけどお姉ちゃんが止めるのよ」


カイはノーラの傷を見た途端殺気立った。

ルーク、ニーノ、ニコルは心配そうにノーラの後ろで見守っている。


「カイ様、私の為にありがとうございます。でも良いんです。あんな人達の為にルーナやカイ様の手を汚してほしくないのです。幸い元凶の人はきちんと裁かれそうなので十分ですわ」


ノーラは悲しそうに微笑んだ。


「……お姉さんが人格者だったからルーナは力を得てもまともでいられたんだな」


「それはあるわ。もしお姉ちゃんが居なかったらどうなってたか……うん、想像したくもないわね。で、どうかしら?この傷治せそう?」


カイはノーラの傷に手を当てた。


「ヒール……」


しかしヒールを唱えてすぐに手を離し唸り、指先で傷跡を撫でた。


「これあれだ、呪いみたいになってるな」


「呪い?」


「ああ、この傷を付けた奴相当執念深いだろ?強い憎しみを込めて傷を付けたんだろうな」


ルーナは顔を覆った。悲しい時よりも悔しい時の方が涙がこぼれそうになるのは何故なのだろう。


「何が憎しみよ。憎みたいのはこっちよ!」


「落ち着け。ちゃんとした呪術じゃなくて素人が無意識で負の念を込めてるからその邪気が根っこに留まってる感じだろ。呪術師呼ばなくてもイケそうだ」


「どうすればいいの?」


「こういう場合解呪より根っこにある邪気を払えばいいと思うんだよな。なんか方法あるだろ?」


ルーナは魔女時代『まじない』はしたが『のろい』はしていなかった。よって呪いに詳しくはないが少しは知識がある。


「ならあれが使えないかしら!パワーストーン!1番最初の村でラピスラズリ貰ったの」


「おお、いいんじゃない?俺さ、詠唱派だけどルーナは想像して言葉にして魔力に伝えるんだろ?光魔法と石で想像すれば払えんじゃね?で、俺が同時にヒール発動してみるよ」


ルーナは頷き部屋へと走りラピスラズリを握りしめ1階に戻る。


(ええと、光魔法を石に発動して頬に当ててみる?)


眼を閉じ数回頭の中でイメージをし、光魔法を発動した。


「カイ、お願い」


「ああ」


ラピスラズリをノーラの頬に当てるとルーナの手の上にカイが手を置いた。

顔を見合わせ頷く。


「邪気を払って」

「ヒール」


カイとルーナが同時に魔法を発動すると手の中のラピスラズリが割れた感触がした。

それでも止めることなく発動し続ける。


(お願い、お願い、治って!綺麗な頬になったお姉ちゃんの笑顔が見たいの)


感情が高ぶり涙が溢れると手の中のラピスラズリが更に割れ粉々になり、青い砂となって隙間からこぼれ落ちた。

ルーナが手を震わせるとカイがそっとルーナの手を握り、ノーラの頬から退かした。


緊張でどうにかなりそうだったルーナの目に映ったのはあの憎らしい傷跡が全て綺麗に消えたノーラだった。


「ど、どうだったのかしら……?」


問いかけて来るノーラにルーナは顔をぐしゃぐしゃにして涙を流した。


「きれい……とっても綺麗よ、お姉ちゃん」


ルーナはノーラに鏡を見せるのも忘れ勢い良く抱きついた。


「良かった、本当に良かった!スッゴク綺麗よ。さすが第一王子に見初められただけはあるわ。お姉ちゃんはこの世界で1番綺麗よ」


後ろで見ていた3人も移動し手を叩き歓声を上げた。


「ノーラお姉ちゃん、あの傷なくなってる!良かったね」


ニーノはパタパタと駆け寄りルーナの横から抱きついた。ルークは目を細め頷く。


「本当に綺麗な頬ですよ。僕の父も安心するだろう」


「ノーラさんんん!良かったなあぁぁぁ!半分隠してても美人だったけど今はもっと美人だぁぁ!頬つるつる。傷跡あったなんて嘘だろぉぉ?」


ルーナが感動で渡すのを忘れていた手鏡をニコルが渡した。

少し落ちついたルーナはニーノと共に身体を離し鼻をすする。


ノーラは恐る恐る鏡を見て、震える手で綺麗になった頬を確かめるように数回撫でた。


「あ…………ありがとう……ありがとう……ルーナ……カイ様……皆も……ううぅ……うわーん!」


いつも姉だからと大人っぽく振る舞ってはいるが、根が素直なノーラは子供のように声を上げわんわん泣いたのだった。


「お見苦しいところを見せてしまい大変失礼しましたわ」


泣き止み落ちついたノーラが謝るとカイが口を開いた。


「いいじゃん。つーか素だとルーナのお姉さんだって良くわかるな」


「カイには凄く感謝してる、でもそれどういう意味かしら?」


ルーナがジロリとカイを見るとニヤリと笑う。


「2人共可愛いって事だよ。それよりルーク、手握ってやろうか?」


そう言い何故かカイはルークに目線を振った。


「意味が分からないな。何故手を握られないといけないんだ。そんな事より今はお姉さんの話だろう」


(ああ……これ完全に拗ねてるわ!カイが私に手を重ねたのが気に入らなかったのね)


「ルーク様安心してください、カイの1番の親友はルーク様ですから。私はたまたま前世が同じだけで出会ったばかりですからご心配には及びません」


「はっ?」


些細なことで喧嘩になっては困ると慌ててフォローするがストレート過ぎたのだろうか、ルークにとても不思議そうに首を傾げられた。


「アハハハハハ!ルーナは女子達から話聞いたんだな?ルークと違う意味でアレだな。ハハハハ!わり、俺1人でヤバイ面白い!」


カイは嬉しそうにルーナの肩に手を回した。


「なぁルーナ、俺達前世一緒だしもっと仲良くなれると思わないか?て事で、まだ話し足りないし今日家に泊まりに来いよ。朝まで2人で話そうぜ」


「黙れ、カイ」


低く、とてもドスの利いた声。

ルーナは誰が出した声なのか分からなかった。


キョロキョロ見回すとカイは笑いながら口をパクパクさせている。


(もしかして今の声、ルーク様の言葉スキル?)


目を見開きルークに目を向けると不貞腐れた様子で口を曲げ少し頬を膨らませている。


「おいおい、もしかしてルークマジになってんの?あんなのいつもの冗談だろ。はっ?まさかお前……」


「はぁ、ニコルうるさい。黙れ」


なだめようとしたニコルにまでドスの利いた声を出しスキルを発動したルーク。


(えええええ!親友焼きもちにしても焼きすぎよ。手負いの獣みたい)


「ルーク様、私は前世から1番の親友は女の子と決めているんです。だから不安にならないで下さい。カイも冗談で言ってるだけだからきっと大丈夫ですよ」


ルーナが声を掛けると我を取り戻したのかルークは気まずそうに眼を伏せた。


「……すまない、君の前でこんな醜態をさらすとは……」


「醜態ですか?そんな事ないですよ」


「こんな事をしているのに……僕から見たら…………はぁ……カイ、ごめん」


ルークはルーナと話して落ち着いたのか突然カイに謝った。


「アハハハハハ!俺こそ冗談言って悪かったな。最近俺達2人で遊んでないから気に障ったんだろ?」


スキルが解けたのか、解いたのか分からないがカイはルークの肩を組み声を上げた。


「ああ……そうだ……」


「はっ?そっち?」


ルークが返事を返すと続いてニコルも声を上げた。


「当たり前だろ?何だと思ったんだよ。よし、今日はニーノも連れて男4人で出掛けるか!じゃ」


そうと決めたカイはさすが王子であり自由奔放である。有無を言わさずニコル達の腕を引っ張り『じゃーな』と慌ただしく家を出ていった。


慌ただしい皆を見送り玄関の扉を閉めるとノーラは心配そうにルーナに問い掛けた。


「ねぇルーナ、ルーク様は一体どうなさったの?」


「ルーク様は幼い頃からカイの前でしか笑わないぐらい心を許してる親友なんですって。だからカイが他の人と仲良くしてると焼きもちを焼くのよ。可愛いわよね。そんな事よりお姉ちゃんの前髪を切ってもらって、髪飾りを買いに行きましょうよ。2人でお祝いしましょ」


「ルーナ。ありがとう、嬉しいわ!」


2人は早速街に出て前髪を切ってもらうと、まだ少し恥ずかしそうなノーラの顔が良く見えるように髪をセットして街を散策した。


『1つで十分なのに』と笑うノーラを尻目に、ルーナは髪飾りを幾つも買い、貴族街に戻り噴水広場のベンチに座り暗くなった空を眺めた。


(ニーノもニコルもルーク様もカイも、出会えて良かったと心から思うわ。お姉ちゃんの傷が消えたのは皆に出会えたからだもの。月の神様、感謝します)


ルーナは浮かぶ月にお礼を言い、ノーラと頬の傷跡が消えた事を喜び合ったのだった。




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