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***より後はルーク視点になります。










「はぁ」


ルーナは1人で寝るには大きすぎるベッドに仰向けに寝転び溜め息を吐いた。


溜め息の原因はルークである。

今日の食事中も突然立ち上がり、ルーナを真っ直ぐ見て『僕の事もルークと気軽に呼んでくれないだろうか』と言い出した。


いきなり呼び捨ては馴れ馴れしいと様をつけて『ルーク様』と呼んだのだが気に入らないのか不機嫌そうに『様はいらない』と言い放ち口を結び椅子に座ったのだ。


(私の事は君って呼ぶくせに……なんなんだろう。ニコルはカイの事を変わり者って言うけど私から見たらギルド長の方がよっぽど変わってるわ)


考えれば考えるほどルーナの心には疑問符が湧いてくる。


木目観察をしたり口に蓋をされたがったりよくよく考えればギルドの応接室でもソファに座らず立ったまま話をするなど行動が変わっていた。


(今日も驚きすぎて倒れたのに、戻ってきたら倒れたのが嘘みたいにしゃんとしてたし。本当に謎だわ。あぁ気になる)


ノーラが冒険者になる事や父に会う事、カイの事など考える事は他にいくらでもあるのにルークの不可思議な行動が気になりルーナはルークの事を考えながら眠りに就いたのだった。




**************************************




「あああああああああああ」


ルーク・フェルロンドは広く豪華な部屋に置かれた1人で寝るにはかなり大きすぎるベッドの上で、学園の制服を着たままゴロゴロと転がっていた。


「ああああああああああ!」


叫びながら右へ左へゴロゴロ。普段はクールで通っているルークだが今はそんな事は微塵も感じさせない姿である。

なぜなら今乱心中だからだ。


「何故カイと出会ってしまったんだあぁぁぁ」


物心付いた時には既に親友だったカイは親兄弟よりもルークの事を理解している唯一無二の存在だ。


ルークは幼い頃から自分が公爵家にふさわしくあるようにと言霊を発動し、ワガママを抑え物分かりの良い手のかからない子供になりきっていた。

そんな我慢しているルークを理解し、まるで大分年上のお兄さんのように『時には我が儘を言っていいんだよ』と優しく頭を撫でてくれていたカイ。


そんなカイがルークの初恋の人と偶然出会い、意気投合し昼から夕方まで話が盛り上がり、おまけに一緒に夕食を作ったと聞けば狂いそうにもなる。


「あああああああああぁぁぁ」


(もしカイが彼女の事を好きになってたらどうしよう。僕の敵はニコルだけだと思ってたのに。その前にカイが敵になるなんて考えたくもない)


「あぁ……無理だ……」


カイとルーナの前世が同じ世界であった衝撃。ルーナに関してだけは言霊に力を入れずとも脳内で思った事まで現実になっているなら辛すぎる。せめて真逆の事を口に出しておこうとルークは口を開いた。


「前世であの2人は他人だったに違いない……他人だったらいいな……」


力は込めていないが呟いた自分が卑怯者に思えて尻すぼみになる。

転がるのを止めてボリュームのある枕に頭を置いた。


(僕は何をやっているんだ。恋だと認めてしまってからより一層気持ちが強くなった気がする)


「はぁ、好きだ」


艶かしく吐息を吐き小さく好きだと呟いてみると何度も言いたい気分になった。


「好きだ……好きだ…………ルーナ」


名前も呟いた事に恥ずかしくなったルークは再び叫び転がった。


「うわあああああああ!僕は今何をおおぉぉぉ」


(言葉が完全にピンクだったぞ!何故こんなに好きなんだ。ああ、目を閉じると彼女の笑顔が浮かぶ。好きだ、どうしようもない程好きだ)


ひとしきりベッドの上で悶え1人暴れ落ち着くと兄ルイスの言葉を思い出す。


『一目惚れとはその言葉の通り相手がどんな人かも分からずに恋をして美化し、話し掛ける事もままならず気持ちが膨らむ一方なんだよ』


(僕は話しているのに気持ちが膨らむ一方だ)


ルークはいつも自分に『彼女の前では冷静に』と力を込めて言い聞かせルーナの前でも普通でいられるのだが、もし言霊がなければ上手く話す事も出来ず物陰に隠れ見ていただけであろう。


(でもきっかけは姿絵に一目惚れだったかもしれないが彼女は内面も素晴らしい。だから美化しすぎている事はないんですよ、兄上)


『魔法使いとして当然のことをしたまで』と頑なに褒美を辞退したルーナに王女リアンナはいたく感動し、会う人皆にシャイな魔法使いの素晴らしさを語った。


それを聞き感心した人からまた違う人へ次々と語られ、水に絵具を垂らした時のように確実に広がった。王宮内でシャイな魔法使いを知らない人はもういないであろう。


宰相である父は話題を振られて『シャイな魔法使いは家に来たことがある』と大人げなく自慢したと言っていた。


(彼女が家に来た事が自慢になるほど皆がシャイな魔法使いを称賛し尊敬したという事だ。もし皆が彼女の姿まで見たらきっと敵だらけになってしまうだろう。そうなる前に僕が彼女の唯一無二になりたい)


じんわりと熱くなる目頭。不安で仕方ない。起き上がり兄ルイスの元へと走った。いつものように笑顔で迎えてくれるルイス。


「兄上、相談に乗ってください」


「今日はどうした?」


ルーナと出会った日から毎日ルイスに報告、相談しているルークはソファに腰掛け今日の事を話した。


「彼女は僕によそよそしいんです。ルークと呼んでくれと勇気を出して言ってみたのですがルーク様と様付けで呼ばれてしまいました……」


ルークがガックリと俯くとルイスは真剣な顔になり腕を組んだ。


「ルーク、こんな事は言いたくないんだが、焦り過ぎてはダメだ。お前から見たら1ヶ月前から恋焦がれていた相手だろうが、相手から見たらお前とは出会ったばかりなんだぞ」


コツンと頭を軽く叩かれたような気分。その拍子に目から鱗が落ちた。ルークは目を見開き一瞬で納得した。


「なるほど、その通りです。やはり兄上は素晴らしい」


「ハッハ!ルークも理解が早くて助かる。もっと沢山一緒の時を過ごし、信頼を得て近付いていくものだ」


「はいっ!今日もありがとうございました。僕はもう焦りません」


「頑張れよ」


「はいっ!暫く僕なりに頑張ってみます。ありがとうございました」


ルイスに気合いの入った返事をしたルークは次は父の元へと向かった。


(カイは今日出会ったばかりだが前世が同じという特異な関係だ。身分の差もない世界だったと聞いているから打ち解けるのも当たり前だ。ただ羨んで僕もと言っていたってダメなんだ)


ルークは心を決め父の部屋のドアをノックした。


(言霊は卑怯なので使わないが、僕の持っている力を存分に使わせてもらおう。そして、絶対に君を振り向かせてみせる)









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