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お約束のように朝から玄関前の鐘が鳴らされる。

もうニコルだろうと思い込み油断はしない。ルーナはそう思い髪をサッと纏めた。着衣を確認し、玄関に向かう。


「よぉ!」


「なんだニコルか。せっかく髪の毛纏めたのに」


ドアを開け立っていたのはいつもの赤ジャケットを羽織ったニコルであった。ルーナはホッと肩の力を抜く。


「それは俺の前では自然でいられるって事だな。嫁に来ちゃう?」


「埋められたい?蓋されたい?それとも飛ばされたい?」


「少し照れるとかしようよルーナちゃん!世の中には俺が良いって言う女の子もいるんだぞ。多分な」


「多分って自信あるのかないのかどっちなのよ!で、今日はどうしたの?」


すぐに返事を返さず、えへへと誤魔化すように笑うニコル。

きっと言いにくい事なのだろうと中に入ってもらい、ノーラと共にソファに座りニコルの話を聞く事にした。


「ルーナのギルド制服を作らなきゃな。女の子だからスカートだ!楽しみだろ?あ、もしノーラさんも働きたいなら治安ギルドに紹介出来るよ~はははは……」


(何も冗談言っていないのに笑ってごまかすニコルに怪しさしか感じない)


「それと?その顔は何かあるんでしょ?」


「さすがルーナ、17歳とは思えない洞察力。実はさぁ……サバルトーネ伯爵に会ってもらえないかな……」


ルーナはとても深く長い溜め息を吐いた。まさか逃げ出して来た家の主に会えと言われるとは思ってもみなかった。


「お姉ちゃん、私達逃げ出して来たのよね?王女様に謁見したりお父様に会えと言われたり自分が何してるのかイマイチ分からなくなってきたわ」


「私達はお父様から逃げたのではなくあの人達から逃げたのよ。だからお父様には会って良いと思うわ」


「そうかなぁ……」


ルーナは軽く頭を押さえた。

折角昨日軌道修正したばかりなのに『父に会う』と言う計画外の行動をしてしまうと再び何かが起こるのではないかと思わずにはいられない。


「実は今丁度伯爵が王都近くに滞在してたんだよね~ははは、言っておくがこれは偶然だから。連絡取ったら2人にどうしても会いたいって言ってさぁ……用事を済ませてすぐに王都に向かうって言ってたらしいから明日の夜か明後日だな」


「まぁ、お父様は近くに居らっしゃるのね。魔法の鞄も返したいし会いましょうよ」


嬉しそうなノーラの顔を見てルーナはガックリと肩を落とした。

魔法の鞄は人づてに返せば済む事だが、ノーラは何故か父の事を良い人だと思い込んでいるパパっ子である。会いたがって当然であった。


「じゃぁ先に魔法の鞄空にしなきゃ……」


ニコルの案内で冒険者ギルドに行くと貴族街ではなく壁を越えた向こう側、商店が立ち並ぶ賑やかな場所にあった。中に入ると朝だというのに冒険者達が仲間と依頼の選別をしていたり、朝食を摂っていて活気に溢れている。


(木造でカウンターがあって、冒険者がうじゃうじゃ。依頼書が壁に貼り付けてあるのこの雰囲気。懐かしいわね。最高だわ)


これぞ冒険者ギルドと気を良くし、受付で買い取りをお願いすると、魔法の鞄から出すと目立ってしまうだろうとのニコルの計らいでギルド長を紹介してもらい2階の応接室で買い取りを行う事になった。


ギルド長は名をノエルと言い、赤毛で短髪の爽やかな青年だった。案内された部屋でノーラと共に鞄から次々と魔獣を出していく。


「あの、置ききれないんだけど廊下に並べていい?」


「どれだけ倒して来たんだ……」


応接室の床から積み上げられた魔獣を見て珍しくニコルが片手で顔を押さえ俯いた。


「あははははは!どうぞ、廊下にも並べてくれ」


冒険者ギルドのギルド長、青年ノエルは豪快に笑い査定を始めると1匹の悪魔の熊に反応した。


「こ、これは凄い!外傷もなく綺麗に倒してある……これは何でどうやって倒したんだ?」


「うふふ、これは私が殴ったんですわ」


ノーラがお上品に返事を返すとギルド長ノエルは目を輝かせノーラの手を握った。

今の時代外傷のない魔獣は高値で取引され、外傷なしで綺麗に倒して欲しいとギルドに依頼もあるが中々上手くいかず苦戦していると語った。


「君は正に理想の人だ。是非うち専属の冒険者になってくれ」


こうしてノーラは熱烈に冒険者ギルドにスカウトされる事になったのだった。


鞄から出していた魔獣は、廊下にも置ききれず冒険者ギルド所有の魔法の鞄に次々収納しながら査定するといった異例の方法が取られ、ルーナ達は暫く働かなくても暮らせる程の大金を手に入れたのだった。


「規格外姉妹め……魔の森が普通の森になってるレベルだぞあれは。で、ノーラさんスカウトされたけどどうするの?」


ギルドを出ると早速ニコルがノーラに尋ねた。


「そうね……今までお屋敷しか知らなかったから外の世界をもっと見てみたいわ。働いてみようかしら」


ノーラが嬉しそうに笑った姿にルーナも微笑む。

今までのノーラの事を考えたら好きに生きて欲しい。それしか思わなかった。


「うん、いいと思う。お姉ちゃんが1番やりたい事をやれば良い。せっかく自由なんだから、なろうと思えば何にでもなれるわ」


「では、私は冒険者になるわ」


ルーナがノーラに向かいパチパチと手を叩いていたその時、目線の先、行き交う人混みの中でこの世界ではあり得ない物が視界に入った気がした。


「ルーナ?」


ノーラが不思議そうに声を掛けて来るがそれどころではないと人混みを見つめ探すが見当たらない。


「ごめん2人共、ちょっと待ってて!」


ルーナは自分が見た物を確かめようと人混みを縫うように駆け足で進みその背中を捉えた。


(やっぱり見間違いじゃなかった!袖口にあの独特な形の金色ボタン)


ドキドキと早くなる胸を抑え呼び止めようと手を伸ばすと人混みから男が2人飛び出しルーナの腕を掴み拘束されてしまった。


(何なのよこの人達?行っちゃうじゃない)


焦ったルーナは大きな声で叫んだ。


「何でこの世界で学ランなのよ!」


ルーナが追いかけた男は声に気付いたようで振り向き驚いた顔を見せた。


深い紺色の髪の毛でハッキリした目鼻立ち。左耳にピアスを複数付けているその人はこの世界ではあり得ない学ランを着て、昨日会ったばかりのリアンナ王女に良く似た整った顔をしている。


その男が近付き男2人に手で合図をするとルーナは拘束を解かれた。


「今学ランって言ったよな?もしかして、前世日本人の記憶持ち?」


その言葉にルーナは飛び上がった。


「そうよ」


「マジか。めっちゃ嬉しいし、スゲー!俺も元日本人だって」


「すごい。こんなことってあるのね、私今ちょっと震えてるわ」


「俺も感動中!ヤバイ、奇跡」


そう言うとその男の子は両腕を広げルーナに軽くハグをした。

普段なら突き飛ばし埋める所だが異世界で同郷人に会えた事に心から驚き、喜んでいたルーナはハグに対して何も不自然に思わなかった。


「カイ?おい、ルーナを離せ!王子がこんなとこで女性を抱きしめたらダメだろ。それに今頃学園のはずだろ?何やってんだ」


待っていてと伝えたが追いかけて来ていたニコルが珍しく声を荒げた。

見るとノーラもニコルの隣で頬を膨らませている。


(お姉ちゃんごめん。って、カイ王子……ニコルの話に何度か名前が出てきてた人だ)


「おーニコル知り合いか?嬉しくてついな。今日学園行く気にならなくてヤキトリ屋の視察って事にしてフラついてた。で、名前ルーナって言うの?」


カイはハグを解きながら変わらずの笑顔でルーナに問い掛けた。


「ええ、ルーナと申します」


「よしルーナ、俺はカイ。王子だけど元日本人同士普通に喋ってくれよ。積もる話もあるから家で話そうぜ」


(今この人軽く言ったけど、王子の家だとお城じゃない)


「ありがとう、じゃぁ私の家で話しましょう」


こうしてノーラとニコル、カイの護衛2人と家に戻ると『ごめん、多分皆には分からないと思う』と謝り、ルーナとカイは前世話で盛り上がる。


学ランを着ていた理由は前世がブレザーの学校だったので学ランに憧れていたと言う理由だった。


「学生と言ったら学ランでしょ。第3だけど王子だったから権力使ってそりゃ学ランも醤油も作らせるしヤキトリも売るよ!あ、あと味噌もマヨも作らせたから持って来させるよ」


「え、嬉しいけど味噌にマヨなんて今の世界じゃ見た事ないわ。貴重なんじゃない?」


「市場にはまだ回ってない品だけど遠慮すんな」


「ありがとう。凄く嬉しい」


前世が同じ日本人と言う事で、何年も前からの知り合いだったかの如く意気投合。

ノーラとニコルに悪いと思いつつも話は止まらない。ルーナとカイの顔はほころびっぱなしである。


「やーでもさぁ、本当にあるんだな異世界転生。俺産まれた時からヤバイって思ってたよ。髪あり得ない紺色だし魔力身体中に感じるし全属性使えるし王子だしチートじゃんと思って、でも第3王子だから波風立てないように魔法の事とか隠しててさ、この前やっと何人かに打ち明けたんだよね」


「そうなんだ。私記憶取り戻したの大体一月前よ。でも前世だけじゃなくてそれより前の記憶も思い出したわ」


「スゲーな!俺前世の記憶だけだけど、最後の時とか大切だと思う事の記憶がごっそりないんだよな……」


「どういう事?」


「……ま、いーじゃん。言ってもどーにもならないし。それより何でニコルと知り合い?しかもここルークんちの持ち家だろ?」


カイが尋ねるとニコルがソファから勢い良く立ち上がり叫んだ。


「やっと来たよ俺の出番!意味分からない話過ぎて妬けたよ。今日初めて会ったくせに俺よりルーナと仲良いのは許せないなぁ~」


「私もそろそろ話に入っていいかしら?」


ノーラも我慢していたのか話したくてウズウズといった顔をしている。


「もちろん」


ルーナは笑顔で返し、3人でニコルと出会ってからの事をカイに話して聞かせたのだった。


カイは約束通り護衛の2人に醤油と味噌とマヨネーズを届けさせた。ルーナとカイは一緒に味噌汁を作り、醤油を使い唐揚げを作り楽しく夕飯の準備を終えた頃、鐘の音が聞こえた。


「ルークだろ?俺も出る。驚かせようぜ」


ルークと1番の親友だと言うカイはイタズラっぽい顔でドアを開けた。


「ようルーク。で、お前がニーノか!可愛い顔してるな~」


カイが玄関に立っているルークとニーノに声を掛けると、いいお洋服を買ってもらったらしくネクタイまで着用しスッカリ公爵家のお坊ちゃまに見えるニーノは『こんにちはお兄さん』と可愛く返事を返した。


(ああ、可愛いニーノ。お坊ちゃまにしか見えないわ)


ルーナが感動しているとそんなニーノとは打って変わってルークは驚いたように口を少し開け目を見開いた。


(凄く驚いた顔してるわ。親友が思わぬ場所にいただけでこんなに驚くなんて純粋ね)


「あはは!驚いてやんの。知り合いなら俺にも紹介しろよな。今日偶然知り合ったんだけどルーナと俺前世の世界が一緒でさぁ……」


カイが話している中ニーノが驚きで固まっているルークと手を繋いだまま家に入ろうと足を踏み出した時だった。

驚きを通り越して茫然自失となっていたらしいルークは前のめりにフラッと倒れ込んできてカイが慌てて抱き留めた。


「ルーク?どうしたんだ?」


「…………何故……」


「おい、マジで大丈夫か!?しっかりしろルーク!」


驚かせようとした結果『何故』と囁くだけのルークに心配そうに声を上げるカイ、異変に気付いたニコルとノーラも玄関に駆け付け大騒ぎとなった。


フラフラと洗面所に行き戻って来るといつものルークに戻っていたが、純粋過ぎる人を驚かすのは止めた方がいいと心から思ったルーナであった。














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