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今回はルーク視点のお話です。

(あんなに気安く魔法を掛けてもらえる仲なんてニコルが羨ましい。僕が一緒に旅したかった……)


「はああぁ……」


ルーナを見送りギルド長室に帰るとルークはヘナヘナとソファに座り込み頭を抱えた。


「はぁ、まさか本物に会えるなんて……」


独り言を呟き落ち着かずソファから立ち上がり机に向かう。

ポケットから鍵を取り出し引き出しを開けて丸めてある1枚の紙を取り出した。

ゆっくりとその紙を広げるとルーナの笑顔の姿絵にマリー・サバルトーネと名前が書かれている。


ルークは姿絵を見つめ、部屋に入って来てすぐ笑顔で挨拶された瞬間を思い出した。


(まさかと思っていたが本当にマリー・サバルトーネだ!綺麗だ……どうしよう。とても可愛いし……はぁ、まさか姿絵より美しいとは……どうしよう)


ルークは情けない事に本物のルーナを目の前にして稲妻が落ちたような衝撃を受け全身が鼓動を打ち、すぐには動けなかった。


初めてこのマリー・サバルトーネの姿絵を見た時、美しい女性だと思い何故か職場迄持ってきてしまった。


姿絵の方が本人より美しく描かれているのはこの世界の常識であるがマリー・サバルトーネの場合は逆だった。実物はもっと綺麗であった。


『姿絵だからこんなに魅力的であって、本物は違う』と思いつつ、絵画を楽しむように毎日毎日姿絵を見ていたのだが、眺めているうちに一目実物を見てみたいと思うようになった。


姿絵を送って来る家は相手にしないと決められているが、家にばれないようにこっそりとサバルトーネ家まで見に行こうかと思った程だった。だが立場上王都を何日も空けるには理由が必要であり、中々すぐには叶いそうになかった。


ルークは会いたいと思ったその日から姿絵を見つめながら『マリー・サバルトーネ、王都に、僕に会いに来てくれないかな』と呟くようになった。


ルークは言葉のスキルを持っているのでスキルを発動しなくても言葉に力があり言霊が強い。

自分で分かっていたので願望や希望など、強い力を込めて言葉にするのはタブーとしていて『会いに来てくれないかな』も力を込めず何気なく呟いていたはずだった。


(僕の態度は不自然じゃなかっただろうか?それにしても偶然か?無意識に強い言霊を発動して引き寄せたのか?僕はそれほど彼女に会いたかったのか?これじゃまるで恋してるみたいじゃないか)


ルーナの紅茶を淹れながら「落ち着くんだ。彼女の前では冷静に」と繰り返し呟き冷静に対応できたつもりである。


今は頭の中が喜びや驚きで軽いパニックを起こしている。

ルーナの事を考えていると顔が熱くなるのを感じ姿絵を見つめ熱い吐息を漏らす。


「あぁ、もう会いたい……」


ルークは自分が呟いた言葉に驚いた。

表現しがたいくすぐったいような感情が全身を走り、大いに照れた。そして1人頭を抱え悶え苦しんだ。


(僕は何を言ってるんだ。これじゃ本当に恋してるみたいだぞ)


頭の中から離れないルーナ。

だが話してくれた内容を思い返し始めると次は怒りが湧いてきてルークは拳を握り机を叩いた。


(ローシェにシャークとやら、絶対に許さない!娘達も……だが証拠がない)


自分で質問しておいて怒りで熱くなり気が狂いそうになったが外を眺め懸命に自身を落ち着かせた。母を殺されたと言う話も心が糸でじわじわと締め付けられているように切なかった。


だが、遺体を魔の森に捨て骨ごと食べさせる事は一見ガサツに思えるが証拠が一切残らない。


(ローシェ・サバルトーネ……何人も殺しているのに証拠がないとは……それに王太子殿下の婚約者候補の顔に傷をつけるなど言語道断。死んだと嘘の届けを出している事で罪に問えないだろうか?だがそんな罪じゃ生ぬるい)


ルークはどうにかしてサバルトーネ家を制裁出来ないか考えていた。頭を悩ませながら姿絵に目を戻す。


金色の瞳、長い睫毛、スッとした鼻にピンク色の唇。実際のルーナの姿を思い返すと心臓がこれでもかと早鐘を打つ。

だが次は『ヤキトリ……』を思い返し体をのけぞらせ壁に頭をぶつけた。


「痛っ……嫌だ……」


ぶつけた後頭部を押さえながら呟く。


(ヤキトリ開発者を知りたいと言われるとは。前世の記憶を持っている者同士、魔法が全属性使える者同士なんて意気投合するに決まってる……しかもヤキトリを気にすると言う事は前世が同じ世界の可能性があるじゃないか?そんなの絶対に会わせたくない。もし前世で恋人同士だったらどうする?あー僕は今なんて事を考えたんだ!絶対言葉には出さないぞ)


心の中で葛藤が続くが姿絵を見ていると今度は優しくしたい気持ちが湧いて来た。

中々に心が忙しい。


(出来ることは何でもしてあげたい。なんだこの気持ちは。分からないがじっとしていられない)


そう思い立ち姿絵を丸め引き出しにしまい鍵を掛ける。

早足でギルドを出てフェルロンド家長男、ルイスの元へと走った。

ルイスは長男だが新婚生活の為今は近くの屋敷に住んでいる。


「兄上、使ってない家の買い手を探すと言っていたでしょう?僕に売ってください!」


「あそこに住むことに決めたのか?ギルドから近いもんな」


「……人に貸してあげたいんです。その人達はとても困っているので助けてあげたくて。お許し頂けますか?」


「まさか女か?!」


ルークの顔がポッと熱くなるとルイスが嬉しそうに笑った。


「女に興味ないとばかり思っていたがそうか、とうとうルークの心を動かす女性に出会えたんだな?今鍵を持ってくるから好きに使うといい。金などいらないぞ」


「ありがとうございます兄上」


「その代わり上手くいったら紹介してくれよ」


「上手くいくとかではなく、純粋に何かしてあげたいだけで……」


ルークはなんとも照れくさくてモゴモゴと言い淀むとルイスはさっさと鍵を持ってきて手渡した。

弟を見守る優しい笑顔を見せる。


「それは愛だろう。見返りを求めない純粋な愛ってやつだ。頑張れよ。もし父上に何か言われたら味方してやるからな」


(愛?今日初めて出会った相手にそれはない。だが何と説明していいのか分からない)


「僕は彼女に会ったのは今日が初めてです。それまで毎日姿絵を見ていました……」


ルークは自分でも分からない落ち着かない気持ちを聞いてほしいと姿絵の事と今日本当に出会えた事と優しくしてあげたい気持ちが強い事を打ち明けるとルイスは「はははは」と笑った。


「それは恋だ。その姿絵に一目惚れしたんだろう。会いたいと思う気持ちは恋焦がれているんだよ。彼女が王都に来たのはルークの言霊ではなく、運命に導かれて来たのかもしれないぞ?どちらにせよルークの大切な人であるのは間違いない」


「一目惚れ……恋……これが?」


「ああ、それを恋じゃないと言われた方が驚くぞ。応援してるからお前は愛する人と結婚してくれ」


幼い頃に婚約者を決められていたルイスは微笑みルークの肩を叩いた。


ルークは深く頭を下げ礼を言い、鍵を握りしめ屋敷を飛び出した。


「恋……」


全身が甘く熱っぽい自分が新鮮であり『恋』と呟いた言葉がピンク色に見えた。


(重症だな……)


手の平の鍵を見て今すぐにでも届けたいと思い屋敷を出たが、明日もルーナに会いたいと踏みと止まりグッと鍵を握りしめた。


(今我慢すれば明日も会う理由がある)


出たついでにギルドに寄り再び姿絵を出し、このままギルドに置いておくか家に持ち帰り保管するか悩みうっとり眺めていたルークであった。



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