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「私達も馬車代を幾らかお支払いした方がいいんじゃないかしら?」


「気を遣わなくても大丈夫ですよノーラさん。こう見えても俺お金持ってますから」


「お兄ちゃんはデートの相手もいないしね」


「そうなんだよニーノ。って、毒舌だな!あの霊のせいで俺のイメージが……」


「あはははは!あの霊のせいだけじゃないわよ」


朝は少しピリッとした空気が流れたが、その後はずっと馬車内は賑やかだ。ルーナが記憶を思い出した時は屋敷を出てこんなに楽しい旅になるとは想像もしていなかった。


(北の街に来て良かった)


馬車の外を見ると殺風景な岩山が続いている。

北の街から北東に進み夕方には小さな村に到着した。


ここは王都迄の道のりの中継地点の一つである。

王都までの道なりに小さい村からそこそこ大きい町までが点在しているが、その中でもこの村は1番小さく未開の村であり、出迎えた住人は老人ばかりであった。


「宿代は要りませんのでどうか川から水を運んでもらえませんか?それともし余分があれば食料を分けて頂きたい」


「ん?去年通った時はそんな事は言われず普通に宿代を払ったが……どうした?何かあったのか?」


村の長らしき老人がやせ細った体で懇願して来るとニコルが心配そうに訊ねた。


「それが……数人いた若い者がこの村を離れ、たった一人残ってくれた者は猪にやられ怪我を負ってしまいまして……骨が折れているようであと数ヶ月は働けそうにないのです」


「なんだって!?」


「それで旅人を宿場に泊める代価として水や食料を貰って生きております。幸いな事に旅人が途切れる事も無く何とか生活出来ておるのです」


「もし旅人が来なかったら1月も持たず死んでしまうぞ」


(その通りだわ。たまたま旅人が途切れてないけど途切れた途端アウトじゃない)


そんな話を聞いて手伝わない訳にはいかない。宿代を払いルーナ達が森で倒した魔獣の肉をたっぷりと分けた。


魔法の鞄を持っている事をニコルに知られてしまったが人の命には代えられない。ニコルは驚きはしたがニーノの名前の時と同じく、深く詮索してくる事はなかった。


皆で桶を持ち水を汲みに行くと思っていたよりは遠くない場所に川はあった。

それでも老人だと水桶を持ってこの距離を往復するのは相当キツイであろう。


「ねえニコル、ここの住民を違う街に移すことは出来ないの?」


「出来ない事はないが……そうすると村が無くなって旅人が困るんだよ。こんなに未開の地でも旅人にとっては必要なんだよなぁ」


「そう……」


ルーナは迷っていた。目立ちたくはないが、自分の力を使えばこの村の住人が助かるのではないか。

骨折した働き手に治癒魔法を掛けてみるべきではないか。


(ノーラの力で沢山の水を運んでおくことは出来るけど根本的な解決にはならないのよね。うう、目立ちたくはないけど人として放っておけない)


ルーナは暫し葛藤し結論を出した。


「ねえニコル、一応聞いておくけど地図を変えてもいい?」


「はっ!?何を言ってるんだ?」


「ちょっとくらい川が村の方に伸びて湖が出来ても大丈夫かって聞いてるの」


「ん?あー!フッ、ハハハハハハハハ!良いんじやないか?むしろ大歓迎だ。思う通りに変えてくれ」


「分かった」


夜も更けた頃、ルーナはコッソリと起き上がりニーノとノーラを起こさないよう音も立てずに外に出て行く。


人差し指を立て炎を出しランプ代わりの明かりを灯す。

川に向かって歩いていると途中眠そうな目のニコルが立っていた。


「やぁ偶然」


「はぁ。何が偶然よ」


「地図を変えるお手伝いがしたいと思ってさ」


「1つ言っていい?気持ちは嬉しいけど手伝って貰える事は無いわよ。魔法でやるんだから」


ルーナはニコルを通り過ぎしゃがむと川岸の地面に手を当てた。


「村の為に川と溜め池を」


土魔法を放つと土に意志があるかのようにボコボコ動き村へ向かって川の通り道を作り始めた。


「すっげ……」


見ていたニコルが声を上げた。


「しーっ!そうだ、手伝いお願い。骨折している働き手の家探して来てよ」


「宿の隣の大きめの家だろ?長が食事を持って行ってたのルーナも見てたじゃないか」


「確認してきて」


「ちぇ!魔法見たいのに」


(だからです。気が散る)


ニコルを確認に行かせ猛スピードで作業。


(堤防も築いて……ここに溜め池を作って……徐々にこの辺りを浅瀬にしようかな)


ルーナは頭の中で想像しながら作り上げていく。

その光景は土が魔力を源にルーナの想像通り動いてくれているようだった。

最後に川との境目の土を動かすと出来上がった水路に水が一気に流れ込み、時間がかかる事も無く無事に溜め池が出来上がった。


「あー!やっぱり終わってたか。見たかったんだけどなぁ。働き手はさっき言ってた家で間違いなかったよ」


ニコルが駆け足で戻ってきて残念そうに愚痴を溢した。


「ありがと」


確認してもらった働き手の家へとこっそりお邪魔する。木造平屋だがこの村では大きい家の方だ。

正体がばれないように目と口だけ出し顔を布でぐるぐる巻きにしたルーナは何処から見ても怪しさ抜群であった。


「目立ちたくないんだよな?それ逆に目立ってるよ」


「言わないで、しーっ」


幸い働き手の男性は眠っていた。

当たり前のようにニコルが隣に座って見ているが仕方ないと諦め働き手の男の足に触れた。


(まだ腫れも酷く傷もある。相当痛いだろう)


どうにか治してあげたいが治せるだろうかと不安に襲われる。

実はルーナは治癒魔法に苦手意識があった。

魔法使い時代、亡くなった人に治癒魔法は効かないと分かっていながら掛け続けたトラウマの為だ。


それゆえノーラの頬の傷跡も治癒魔法を『試してみる』と思ったのである。

いざ治癒魔法を掛けるとなると緊張し思い出してしまったが、ゴクリと唾を飲み治癒魔法を発動した。

暖かい柔らかな光が男の足を包む。


「骨が元の位置に戻ってくれたらいいんだけど」


傷のない綺麗な足を想像し呟くと腫れが徐々に引いていき、足の傷痕もゆっくりと消えルーナはホッと息を吐いた。

骨折まで綺麗に治っているか分からないが見た目は完璧なので治療を終了し入った時と同じくコッソリ働き手の家を抜け出した。


「ルーナ凄いな!」


外に出たとたんニコルが興奮ぎみに声を上げた。


「バカ。声が大きい、しーっ」


ルーナが小声で注意すると『すまん』と頭を掻いた。


「ルーナは目立ちたくないとか言ってるけど困っている人を放っておけない良い子だな」


「そういうのいいから」


「あー、誉められるのに慣れてないんだな?これからは俺が誉めまくってやるから素直になるんだぞ」


「ハイハイ。おやすみ」


ニコルの言う通り照れ隠しでぶっきらぼうに返事をして宿に戻った。

部屋に入るとすぐにノーラのベッドへ近付き髪の毛に触れそっとよけた。

傷痕を見るとどうしてもローシェへの怒りが沸いてしまう。


「傷跡が綺麗になって悔しがれローシェ」


頬に手を当て治癒魔法を発動したが何も変化がない。怒りの感情が邪魔をしているのかと怒りを振り払い懸命に綺麗な頬を想像してみるが、いくら想像しても傷が消える事は無く赤い色味が少し薄くなっただけであった。


「一体何がダメなの……?」


ルーナは落ち込み魔法使い時代の記憶を思い出し原因を探っていたがいつの間にか深い眠りに落ちていた。


「お姉ちゃん起きて!今日はまだニコルお兄ちゃん来てないの。僕達で朝ごはん作ろ」


結局原因を掴めぬまま朝が来てニーノに起こされたルーナ。


「顔を洗って美味しいご飯を作りましょう」


ノーラがルーナの腕を引っ張り起き上がる。

思い切り伸びをして宿の外に出ると村人たちが大騒ぎしていた。


「川が!村に溜め池が出来てるぞ」


「この距離なら小さい桶を使えばわしらでも汲めるぞ」


ニーノとノーラがルーナの顔を見ると人差し指を口の前で立てニヤっと笑う。


「いつの間に……助けてあげるなんて素敵よ。自慢の妹だわ」


「うん、正義のヒーローみたいだ」


2人に誉められ笑顔を見せたその時、宿の隣の家から働き手の男が飛び出して来た。


「おおい皆、起きたら足が治ってたんだよ!」

「昨日あんなに腫れてたじゃないか!奇跡だ!」

「まさか旅人さん達がやってくれたのか?」


村人達がぞろぞろとルーナ達3人を取り囲む。


「あ~…………きっとニコルの仕業だと思います。彼は普段は早起きなのに昨夜夜更かししたのかまだ起きて来ていませんし、北の街の治安ギルド長なので力があるんです」


「ニコル様、あの赤髪の方ですな!ありがとうございます」


村人達はまだ宿から出てきていないニコルにお礼を言おうとぞろぞろと宿に入って行った。


ニーノが『ニコルの反応が面白そうだから僕も見たい』と言うので3人も村人に付いて行きこっそり見学したのだった――




「あの時本気で村人が襲撃してきたかと思ったよ!」

「あはははは!」


朝食を食べすぐに出発した馬車内は今日も賑やか。

寝起きで村人全員に囲まれたニコルの驚きようは凄かった。

飛び上がり掛け布団を抱きしめキョロキョロ見回し狼狽えた。


その狼狽えっぷりにルーナは前世の記憶の寝起きドッキリのようだと思い懐かしさを味わいながら爆笑した。

ニーノとノーラは寝起きドッキリは知らないだろうが2人も大爆笑だった。


「全く、俺のせいにするなら一言言っといてくれよ」


「ごめんごめん。つい口から出たんだよね。でもニコルだって変な事言ってたじゃない!シャイな魔法使いって何よ」


ニコルは土下座してお礼を言ってくる村人と、後ろで笑っている3人を見て大体の事を察したらしいが、掛け布団を抱きしめたまま言った言葉が『僕の友人にシャイな魔法使いがおりまして、昨晩来てもらったんです。えーと伝書鳩で呼びました。全部その友人がやってくれました』だった。


「はぁ。おかげでこんな綺麗な物を貰ってしまった。負担掛けたくなかったのになんで受け取ったのよ」


ルーナは手に持っているディープブルーの石を見つめた。


働き手の男が『そのシャイな魔法使いさんにこれを渡して下さい。心ばかりのお礼です』とニコルに手渡したのはディープブルーに金色のパイライトが入ったラピスラズリだった。


「くれるものは貰った方がいい。今から3人で生活していくんだから対価はきっちりと貰って稼ぐ事を覚えるべきだ。それに言っておくがあの足の治療代は石一個じゃ足りないぞ」


「前半は正論ね」


「……ルーナは時々17歳とは思えない程理解力のある大人だと思う時があるよ」


(そりゃそうでしょう)


比較的若くに命を落としていたとは言え、前世やその前世のまた前世のそのまた前世……生きていた時を合計したら恐ろしい事になるので……考える事を放棄した。




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