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7話 サンドイッチと魔力測定



「おはようございます。ユヅル様」



―シャッ



カーテンが開き、優しい光が差し込む。


眩しさからゆっくりと目を開け、ちらっと窓際を見るとリリアが立っていた。

窓からの光を受けまるで天使のようにキラキラと輝いてるように見えた。


「うう…ん…おはよう…リリア」


僕は寝ぼけながら布団の中から返事をしている。


「まもなくお時間となります。早くご準備ください」



布団にくるまっている僕を揺らしながら淡々と声をかける



「…うぅ…もう少し…」



「…そうですか。では今日の訓練量は3倍にしますね」



「わぁ!!わ…わかったよ!起きるから!!それだけは勘弁して!!」



リリアは毎日朝起こしに来てくれる。


初対面で僕を見た瞳はとても冷たく感じたから、絶対に嫌われていると思っていたのだが。


理由を尋ねたら―



『そうですね。ユヅル様のことは正直いってキライです。

ですがあなたのお世話と教育をグレン様より申し付かりました。

これは私のやるべき仕事ですので、感情が影響することはございません。

私のことも《リリアさん》ではなく《リリア》とお呼びください。』



と表情も変えずに言っていた。すごい子だなぁ。


ちなみに、僕は彼女に『様はつけなくてもいいよ』と伝えたのだが、それも―



『グレン様直属の客人のようなものですので礼を欠きます。』



と断られてしまった。



「それにしても…今日も訓練かぁ…」



リリアに剣術で軽くあしらわれて1週間。

魔王の弟子としての生活が始まっていた。



当初は―


①戦闘訓練

②魔法訓練

③総合座学


上記の3科目を割り振って朝から晩までやる予定だったらしいのだが…


本格的にスポーツをしたりといった経験がなく、僕自身の体力がなさすぎた為か…

初日の戦闘訓練で体が悲鳴を上げ、丸1日寝込んでしまったのだ…

無理やり魔法で体力を回復し、続ける方法もあるらしいのだが、一定水準以上の基礎体力が無いと生命力を削ってしまい命を落とす事にもなるらしい。


と、言うことで大幅に修正が入り、まずは僕自身の基礎体力を上げる事が一旦の目標になった。


…一人立ちしてグレンさんの元から出ていくのはまだまだ先が長そうだ…


毎日訓練場内のランニングから始まり、木剣を使った素振り、筋力トレーニングを中心に訓練をしている。

当初の量の半分以下…むしろ10分の1くらいまで量が減ったにも関わらず、まだその量の半分もこなせていないけど。


訓練が終わり部屋に戻り泥のように眠り、朝起きて訓練をし、また泥のように眠る…といった1週間だった。

最初の3日間は満足にご飯すら食べれなかった為、朝起きてすぐに弱い回復魔法を掛けてもらって、ようやく食べれる…といった状況だった。


とはいえ1週間経ち、環境の変化にようやく体が慣れてきたような気がする。

―あくまで、気がするだけ。体は鉛のように重い。



「さぁ、約束の時間は過ぎていますよ。急いでください」



リリアの目が怖い。



「わ、わかったよ…」



僕はいそいそと準備をして訓練に向かった。






◇◇






「お疲れさまでした。今日はこのくらいでお昼にしましょう。」



「はぁ…はぁ…あ、ありがとう…お疲れ様…」



訓練が遅れて始まったせいかいつもより激しい訓練だった…

ぐったりとして座り込む。



「これからお食事をしていただき、その後は少し予定を変更いたします」



「あれ、今日はこれで終わり?」



普段であれば午後もこのまま訓練が続くのだが…



「はい。お昼が終わりましたらユヅル様に魔力量を確認しに行きます。」



ぐったりして座り込んでいる僕に汗を拭くタオルと水を渡し、弁当を用意しながらリリアが言った。


本来ならば初日の魔法訓練の前に確認をする予定だったそうだ。



「僕も魔力、持ってるのかな…?この世界の生まれではないんだけど…」



「そうですね。魔力に関して少しお話しましょう。」


リリアは魔力について簡単に説明してくれた。


魔力とは肉体的な生命力とは違い、生き物全てが持つ『魂』の力…だそうだ。


魔法を行使するために必要なもので、魔族、人間、動植物問わず持つ。

宿る魔力量が多い程強力な魔法を扱うことができ、身体的な能力も向上しやすく大きな力を持っているとのこと。



「その、魔力を持たない人っていたりするのかな?」



今まで僕自身は魔力の《魔》の字も感じたことはないのだけど…



「人間に稀に生まれてくるそうです。

その場合、魔法は全く使えませんが、人間を超えた身体能力を持つようになると聞いております。」



なるほど…僕は特に運動に秀でてる部分はないから…魔力が無いというのは考えにくい。



「それで…どうやって魔力を測るの?」



「簡単です。魔力鑑定用アイテムを利用します。」



この世界にいる人間は、7歳の時に例外なく全員が魔力量の計測を行うそうだ。

基本的に魔力量は一生変わることがなく、量に応じた育成や教育をしていくらしい。


魔族はもともと魔力を多く持って生まれてくる為、魔力量を気にする人が少ない。

軍に所属した者や鍛錬を行っているものが、鍛錬の為自身の魔力量を正確に知る為に利用する事が多いとリリアは言う。



「そっか…僕はどのくらいなんだろうか。グレンさんは『力を一切感じない』なんていってたけど…」



こっちに来て自分の力の無さを痛感してしまって…

少しは自身が持てるような結果が出てくれたらいいなと思う。



「計測してみれば分かる事です。食事を済ませたら移動しますよ。」


いつの間にか食事の準備が終わっていたようだ。

机の籠に、弁当というにはオシャレなサンドイッチが入っている。

どこぞのオシャレカフェの商品みたいでとても美味しそうだ。



リリアはどこから出したのかティーセット出してカップに紅茶を注いでいる。

所作の一つ一つがとても美しい。



「今日は食べるくらいの余裕はありそうですね。」



そっと紅茶が注がれたティーカップが僕の前に置かれる。


そういえば訓練に必死で気づかなかったけど、弁当も毎日作ってきてくれていたんだっけ。

いつも昼前にはぶっ倒れてしまって…昼の休憩では水だけしか喉を通らなかった。



「しっかり食べてください。鍛錬の後の食事は重要ですから。」



「あ、ありがとう。やっとリリアの作ってくれた弁当を食べることができるよ。楽しみにしてたんだ。」



そう言ってサンドイッチを手に取り、一口食べる。



「うわ…」



―めちゃくちゃ美味い。


ライ麦で作られたようなパンに新鮮なトマトとレタス、照り焼きの様なソースを絡ませた鶏肉を挟んでいるオーソドックすでシンプルなサンドイッチ。

だが、噛めば噛むほど複雑で、深い味わいを感じる。



「美味い!!これ…めちゃくちゃ美味しいよ!!」



僕はすごい勢いでサンドイッチを平らげる。

籠の中にあるサンドイッチを両手で掴み一気に食べる

こんなに美味しいものを食べたのは本当に久しぶりだ…

お腹が空いてたから、ということは関係ない。



「げほ!げほ!」



一気に詰め込んでしまった為、咽る。



「まだありますからゆっくり食べてください。」



リリアがそう言って水の入ったグラスを僕の前に移動してくれた。


僕は水を飲んで一息ついた。


昨日までは疲労でお昼ご飯をゆっくり食べる余裕なんてなかった。

今日だって僕の体力が持たず、食べれるかどうかわからなかった。

それなのに、今日も弁当を作ってくれていた。


家で、父の変わりに食事を作る事が多かったから、料理の大変さは身に染みてわかっている。

父も仕事で帰りが遅くなることも多く、作った食事が無駄になる事もよくあった。


食べてくれるかどうかわからないご飯を作るのは辛いし、悲しい。


リリアが僕の事を嫌いでも、仕事として毎日必要だからと作ってきてくれた。

その事に…僕は心を揺さぶられた。



―ぽたっ



目から涙がこぼれる。



「あれ…!?な、なんだこれ…」



意図せず吹き出した涙を急いで袖口で拭き取る。

涙を流す僕を見て驚いたのか、リリアはきょとんとした表情をしている。



「は…はは、リリアの作ってくれたサンドイッチが美味しすぎて感動しちゃったよ。」



慌てて柄にもない言い訳を言う。



「これ、全部食べちゃってもいいかな?」



…僕は食べ盛りの子供か!

女性の前で泣いてしまった事が恥ずかしすぎて思わず言葉が出たが、もっと食べたいと思ったのは本当だ。



「…はい。遠慮なさらずにどうぞ。」



リリアの口元は少しだけ緩んでいたような気がした






◇◇◇





食事のあと、柱が左右に立ち並ぶ広間に僕は連れてこられた。


広間の奥には大きなステンドグラスがあり、さながら神殿の様だ。

魔族の国なのにお祈りとかするんだろうか…?



「マルツィオ様。ユヅル様をお連れしました」



祭壇の様な場所にいた男性にリリアは声をかける。

マルツィオと呼ばれたその人はゆっくりとこちらを振り向く。


身長はグレンさんやブラウさん程ではないがと背が高い。

180センチ後半くらいで、青く腰まで届きそうな長い髪。

目の色は青で額の真ん中にツノがある。

右目にはモノクルをつけており、とても理知的な印象を受ける。



「やぁリリア。訓練は落ち着いたのかい?」


「はい。今日のユヅル様は倒れることもなく、無事お連れすることができました。」


「そうかそうか。話には聞いていたけれど…いつ来れるようになるんだろうとソワソワしていたよ。」



はははっと軽い笑いをして僕を見る。



「初めまして、ユヅル君。僕はマルツィオ。

この国の魔道研究室、管理顧問をしているよ。

一応、大魔導士グランデウィザードと呼ばれてはいるが大したモノではない。

あのグレンが弟子を取ったと聞いてびっくりしたんだけど…なるほどなるほど」



そう言って僕の顔をまじまじと見る。



「確かに黒目黒髪だね。魔法によって姿を変えている、というわけでも無い。

伝説での描写にしか存在しない人物に出会えるなんて…僕は運がいい。」



マルツィオさんはニコニコして手を広げる。



「研究の題材としてはとても興味深い。

ユヅル君、グレンの弟子なんて一旦やめて、しばらく僕にその体を預けてみないかい?」



「か…体を預けるって!?」



「なぁに、簡単だよ。僕の実験に付き合って貰うだけだから」



僕の目の前にマルツィオさんの顔が迫る。

瞳にキランと妖しい光が灯ったような気がした。



「い、いえ、僕はその…」



あまりの勢いに僕はたじたじとなった。



「マルツィオ様、お戯れはその辺で」



リリアが助け舟を出してくれた。



「はは、リリアに怒られてしまった。少し悪ふざけが過ぎたかな。」



バツが悪そうにマルツィオさんは頭をかいている。



「いろいろと話を聞いてみたいとは思うんだけどね。

それはまた別の機会に。

今は先に君たちの要件を済ませてしまおう。

ユヅル君の魔力の計測だったね。

アンナ、計測版を。」


マルツィオさんが祭壇の奥へ声をかけると…

12.、3歳くらいの銀髪のボブ、ピンク色の瞳の耳の尖った少女が石板をもって来た。

石板を手渡すとそのままマルツィオさんの後ろに控えた。


表情はぽやんとしていて身長は140センチくらいだろうか。

小さくてとてもかわいらしい。

『妹にしたいランキング』みたいなのがあったら絶対に上位に入ってきそうな感じがある。



「はい。これが魔力を測定するアイテムだよ。」



マルツィオさんが祭壇に石板を置く。

八角形で、中央には紫色の水晶が埋め込まれている。

水晶を中心に八芒星の魔法陣が描かれていた。


「わぁ!!」


僕はその見た目に目を輝かせた。


(凄い!!ゲームの世界に出てくる道具みたいだ!!)


姿形が昔遊んだRPGのアイテムにそっくりでテンションが上がって頬が緩む。


(デザイナーさんが大好きで設定資料集、穴が開くほど見たんだよな。)


このアイテムで測定した際の魔力指標をマルツィオさんが教えてくれた。

人間が考案したランク付けのようなものだそうだ。

分かりやすいので魔族も取り入れたらしい。


ランクは上から


・神代級 (ゴッズエンシェント)

・幻想級 (ファンタズマ)

・英雄級 (ヒロイック) 

・伝説級 (レジェンダリオ)

・希少級 (レア)

・標準級 (オーディナル)

・低級   (ミニマム)

・最低級 (ロスト)


※反応なし (アンノウン)


となっているそうで、上位になるほど能力が高く、下位になるほど能力が低い。


最上位の神代級は原初の魔王か、真龍山脈の支配者の竜くらいだそうだ。

実際に測ったわけではないのだが、幻想級の魔王以上の力を持っていた、いる、ことからおそらくそのくらいだろうという推測らしい。

最低級になると魔力をほとんど感じず、身体能力もどんなに鍛えても伸びない。


目安として


人間は最低級~伝説級

魔族は希少級~幻想級


このあたりに能力値が分布する。


必ずこの範囲内に収まるというわけでなく、人間にも幻想級の魔力を持つものが出てきたり、魔族でも最低級の魔力を持つものも生まれることはあるみたい。

グレンさんみたいな魔大陸に存在する魔王は例外なく、幻想級に属する膣力者で、人間の勇者は英雄級以上の魔力をもっているそう。


この指標は武器や防具、魔法にも使われているらしい。



「じゃぁ測定法の説明するね。

真ん中の水晶に手を当てて、魔力を流すだけ。」



―本当に簡単だ。



「あ、あの…僕、魔力扱った事ないんですけど…どうやって流したらいいかわからないです…」



「んー、難しく考えなくていいよ。

掌に意識を集中して、流れろ~!って考えるだけでいいから。」



「わ…わかりました…やってみます。」


僕は言われた通り水晶に右手を当て、掌に意識を集中する。


(流れろ…流れろ…)


神社でお祈りをするときのように心で強く念じてみる。



―ブンッ



何かが起動したときの様な音が出たと思ったら掌が紫色に輝きだした。



(おっ、なんか水晶に吸い付く感覚がある。)



「いいねいいね。」


マルツィオさんが興味深そうに見ている。


僕には今までに無い体験だった。

足の先から頭を経由して右掌へと何かが通過していく感覚がある。



(これが魔力…見てるだけで楽しいな…これは。)



日本で生活していたら絶対に経験できないことだった。

輝きに包まれる右手を僕はわくわくしながら見つめていた。

すると―


僕の手の平から黒い靄のようなものが上がり、右手にまとわりついた。

びっくりして手を放そうとするが離れない



「マ、マルツィオさん!!リリア!!手…手が!!」



僕は汗って二人に声をかけるが…どうしたの?という感じで僕を不思議そうにみている。



「手が…どうしたんだい?」


「く…黒い靄みたいなものが僕の右手に…」


「そんなものは見えないけど…」



マルツィオさんは右手と水晶に顔を近づけるが、見えてないようだ。

僕はリリアに顔を向けるが、首を振って否定される。



(僕以外には見えていない…??どうして…)



「よし、もう大丈夫。ユヅル君。手を放していいよ。」



恐る恐る手を水晶から離す。

今度はすんなり離れた。

右掌と甲を交互に見返すが特に変わったところは何もない。

さっきのは一体何だったんだろう…



「さて、ユヅル君。君の持つ魔力量だが…」


マルツィオさんは石板を見ながらそう言った。、

どこか思案した、なんとも言えない難しい表情をしている。


僕はその顔をみて予感した。



「―最低級ロストクラスだ」



やっぱりか。




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