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6話 リリア

 

 ―とある城の訓練場にて



 ―カン!…カッ!!カカン!



 訓練用の木剣を持ち、少年少女が2人で打ち合っている。



「やぁ!たぁ!!!!」



 少年は大量の汗をかき、必死の形相で剣を振っているが少女に軽くあしらわれている。

 この情けない少年は誰か…というと…僕、ユヅルだ。


 少女はメイド服を身に着け、涼しい顔で僕が振る木剣を躱す。

 華麗に動く姿は妖精みたいに見える。


 逆に僕は汗をダラダラ流し、何度もこけて体中砂まみれで悲惨な状況だけど…



「わぁぁぁぁぁ!」


 僕は上段から木剣を力一杯振り下ろす



 ―カンッ!!!!



 一際大きな音が響き、僕が持っていた木剣が宙を舞う。


 その隙を逃さず、少女が僕の足を払う。

 尻餅をついた僕の目の前に木剣の剣先がピタッと止まっている。



「あなた…才能無いわ…」



 感情のない涼しい表情で呆れたように僕に言った



「はは…ど…どうも…」






 ◇◇◇◇





 ―時間は少し遡る


 ゴブリンをグレンさん達討伐隊が殲滅した後、僕は意識がなくなり、倒れた。

 普段学校で生活している時、こんなにひ弱だと思わなかったんだけど…

『戦闘』というものはかなり負担が大きかったようだ。

 その間に魔人の国の拠点…いわゆる首都と呼ばれる街に戻ってきたそうだ。

 見捨てられなくて良かったなって…ほっとしてるけど。


 戻ってきてから僕は3日間ほど眠っていたらしい。

 目が覚めたら討伐隊の時のテントじゃなく、しっかりとした作りの部屋だった。

 1人の部屋にしては広い。

 父と住んでいたアパートの部屋よりは広いかもしれない。

 壁には本が沢山並んでいて、窓からは庭の風景が見える。


 ここでもヘイルさんが様子を見に来てくれて、いろいろと教えてくれた。


 僕の怪我は医療魔術専門の人が見てくれたらしく完治していた。

 魔法っていうのは本当に便利で優秀だなって思う。

 実際3日間も寝てたら体力も衰えたりしそうなものだけど…

 数日間であれば体力や筋力を落とさないようにすることも可能らしい。

 凄いな。僕も使えるようになるかな?



「そういえばご飯まだ食べてないわよね?簡単に食べれそうなもの、作ってきておいたから食べておいてね。」



 そう言って机の上を掌で指すと、簡易のコンロの様なものと、鍋がおいてある。


 そうだ。こっちに来て落ち着いてご飯食べてれてないな…。

 討伐隊の陣幕にいた時は携帯食みたいな感じだったから…少ししか食べてなかったんだっけ。


 ん?これってヘイルさんが作ってくれたの?わざわざ??



「そうよ。私、料理、大好きだからよくみんなに振舞っているのよ」



 少し照れ臭そうに笑う姿がとても可愛らしい。

 ヘイルさんは本当に優しい人だ。

 グレンさんってかなり豪快な人の印象があるから…

 この優しくほんわかした感じと、心配りが出来る感じがうまくグレンさんとかみ合ってるんだろうか…?



「そうそう、落ち着いたらグレンが連れてこいって言ってたから後から呼びに来るわね。

 着替えはここにあるから準備しておいてね。

 前に着てた服に似てるものを用意しておいたからきっと気に入ると思うわ。」



 ヘイルさんはそう言いながら机の上のコンロの様なものに指先を当てたかと思うと

 小さな炎が付き、その上に鍋を置いた。


(魔法で温め直しができるのか…すごいな…)



「それじゃ、またあとで」



「はい。分かりました。」



 ニコニコしながら手を振ってヘイルさんは出て言った。


 その様子を見届けると僕はベッドから立ち上がり、着替えを確認するとそのまま鍋がおいてある机に向かう。

 鍋からはいい匂いが立ち昇っている。

 蓋を開けると、野菜やお肉を出汁で煮込んだスープが目に飛び込んできた。


 …とても美味しそうだ。



 ―ぐ~


 お腹がなる。



「…ひとまずご飯食べようか。」



 ヘイルさんが迎えに来るまでご飯を食べることにした。






 ◇




「よぉ、来たか」



 僕はヘイルさんに連れられ、グレンさんのいる部屋に連れてこられた。

 どうやらここはグレンさんの作業部屋…もとい執務室みたいだ。


 窓際には立派な造りの机と、しっかりとした造りの革張りの椅子

 テーブルには書類や本が積まれている。


 部屋の中央には来客用だろうか?2人掛けくらいのソファーが2つ、向かい合っておいてあり

 その間には少し背が低いが、美しい彫刻が刻まれた木造りのテーブルがおいてる。

 壁には所狭しと本棚があり、びっしりと書物が並んでいた。


 部屋にいたときも感じていたが、城自体は建設されて大分時間が経っているようだ。

 全体的に古城といった雰囲気を感じるのだが、手入れがとても行き届いていてボロい…という感じがない。

 むしろアンティークな高級感を城全体が醸し出している。


『魔族の城』ってもっとおどろおどろしい雰囲気なのかなと思ったけど…

 清潔に、そして綺麗に保ってある。


 グレンさんが中央のソファーの真ん中にどかっと座り、向かい側に僕も座るように促す。



「あ…はい。失礼します」


 僕は素直にソファーに座る。


 ヘイルさんはその様子を見て、お茶を入れ始めた。



「さて。目が覚めていきなりですまないな。」



 グレンさんはお茶を待たずにすぐに話を切り出した。



「い…いえ。本当…ゴブリンとの戦いでは何の役にも立てなくてごめんなさい…」



 冷静に考えるとあの時の僕は何もできず…ただの足手纏いだった。

 戦う力も、逃げる力もなく…ブラウさんが守ってくれなかったら数秒で死んでいた。



「あぁ、まぁそんなもんだろ。お前に戦闘能力があるなんて思ってなかったしな。

 小鬼王(ゴブリンキング)がいたのは少し想定外だったけどな!

 ブラウから聞いてはいるが、見事な逃げっぷりだったみたいじゃねぇか」


 グレンさんはクククと楽しそうに笑っている


「ブラウさんのお陰で助かりました…。足を引っ張ってばかりで…

 こんな何もできない僕を弟子にしちゃっていいんですか…?」



 僕の言葉を聞いたグレンさんはにやにやしている。



「全然問題ない。むしろこのくらいが面白れぇと俺は思っているのさ。

 お前は曲がりなりにも『原初の魔王』と同じ特徴を持っている。

 これから鍛えれば何かしら芽がでるかもしれないだろう?」


 グレンさんは何やら強引に僕を鍛え上げようと考えているらしい。

 絶対に無理だよ…ゴブリンって魔物の中では弱い部類に入るらしいのに…

 傷すらつけられなかったんだよなぁ。

 特徴が一緒だからといってそんな伝説の人物と同じにしないでほしい。

 やはり当初の予定通り…ほどほどにやって…ダメなところを沢山見せて…ほどほどに諦めてもらうしかないかも…



「討伐隊の陣内では傷の治療もあってゆっくりは話せなかったからな。

 改めてこれからの事を話そう。お前は俺の弟子にする。これは変わらん。

 ―とはいえ、お前に無理矢理やらせるつもりもない。」



「えっと…どういう事ですか?」



 そっとヘイルさんが2人分のお茶を出してくれた。

 グレンさんがそのお茶を一口し、話をつづけた。



「お前が弟子入りをしたくないと考えているのは分かる。

 本当に嫌そうな顔をしているからな。はっはっは。

 今の段階で鍛錬をしたり、勉学に励んだとしても何の結果も出ないだろう。」



 そんなに表情に出てたのか…



「だがこの話を断ればこの街からは出て行ってもらう。

 今は国境での緊張状態が続いていてな。

 素性の知れない人間を手元に置いておけないのが理由だ。

 戦争では何があるか分からないからな。」



 グレンさんの言うことは最もだ。

 僕がいた世界でも、何の鍛錬もしてない普通の人に爆弾を持たせ、主要な施設を破壊するテロ行為が定期的に発生している。

 魔物や、他の国の戦う機会があるグレンさん達はその脅威を身に染みて知っているんだ。

 話は続く。



「街から追い出さずともこの城から一歩出ただけで人間であるお前を狙う奴もいるだろう。

 魔人族は人間に近い種族とはいえ、人喰いが居ないわけじゃない。

 数は少ないが…もし一人で放り出された時どうなるかは、お前にも分かるだろう?

 良くも悪くもお前はゴブリン共との戦いで自分の力の無さを知ったはずだ。」



 僕はグレンさんの言葉に頷く。

 弟子になれと言われてさすがに無理なんじゃ…とは思ってはいる。

 だが、今の自分では一人になった途端にあっという間に命を落とすだろう。



「と、いう訳で俺から提案だ。

 まずはお前を『弟子』ということにし俺の庇護下に置く。

 その上で、1人でこの魔大陸を抜け、山脈を超え、人間共の世界へ行く為の力を身につけろ。

 そして、お前が満足いく力、この世界で生き抜く力を手に入れた…と思った時…ここから出ていけばいい。

 お前の友人の情報も集めておいてやるよ。」



 ―僕は考える。

 弟子にする。それは今は何の力もなく、弱い僕を守るために考えてくれた事だったんだ。

 僕に自分で強くなって、自分で出ていけと…そう言ってくれているんだ。


 …そうか。そうだよね。僕は守って貰うことだけを考えていた。

 ただ平穏に、穏やかにやりたいことをだけどやって過ごして…

 弟子になれ!って一方的に言われて、自分が嫌だからやりたくないって考えていた。

 鍛錬なんて僕には合わない、似合わないと。


 ここは僕が元居た世界とは違う。どのくらい鍛錬しないといけないかは分からないけど…

 そうだ…せめて、ゴブリンくらいは自分で倒せるように。




「…分かりました。グレンさんの提案、受け入れます」



 僕はそう決めた。



「よし、決まったな。これからもよろしく頼むぜ!」



 グレンさんは僕の頭をグシャグシャにしながら満足したように笑う。



「これからお前に紹介するヤツがいる。入ってこい」



 1人の少女がドアから入ってきた。年齢は16歳くらい。

 金髪で、カールしたショートボブにオレンジ色の瞳。

 額には2本の小さな角が生えている。

 身長は…150㎝ちょっとくらいと、低めだが、抜群のスタイルをしている。

 スカートの長さが膝上くらいのメイド服を着て、真っ白のニーハイがとても似合っている。

 顔も小さく控えめに言っても、絶世の美少女といえそうだ…


 音もなく移動するとグレンさんの後ろにスッと立つ。



「こいつはリリア。年はユヅルと同じくらいだろうが優秀なやつでな。

 従者としてついてもらうが、護衛兼教育係として申し分ない。

 これからの鍛錬や勉学はリリアの指示に従ってくれ。」



「リリアと申します。グレン様よりユヅル様のお世話を承りました。

 未熟者ではございますがよろしくお願いいたします」



 リリアさんは淡々とした抑揚のない美しい声で僕にそう挨拶をする

 護衛兼…ということだがグレンさんはもちろんの事、ブラウさん、エリアナさんに比べたら強そうな雰囲気を感じない。



「…よ、よろしくお願いします…」



 僕はあまりに綺麗な声に聞き入ってしまって返事に変な間ができた。


 リリアさんは僕をじっと見つめてくる。

 表情があまり変わらないせいか少し冷たい感じを受ける。

 なんだろう…何か気に障る事でもしたかな…?



「グレン様、早速ではございますが、これからユヅル様に剣術の稽古をつけてもよろしいでしょうか?」



「え!?」



 僕はリリアさんのいきなりの提案に変な声を上げた。

 い、今からですか…??


 グレンさんはニヤッと笑い、許可を出した。






 ◇◇◇◇





 グレンさんとヘイルさんが見つめる中、僕はリリアさんと訓練場で剣術の稽古を始める。

 だがその風景は全く稽古といえるようなものではなかった。


 僕が一方的に剣を振り、リリアさんが軽く受ける、避ける。

 時折僕が足を滑らせこける。

 怪我を負っているのは僕だけ。しかも自爆だ。



 そして―



 ―冒頭の場面に戻る。



 剣を弾かれ、足を払われ尻餅をついた僕の目の前に木剣の剣先がピタッと止まっている。



「あなた…才能無いわ…」



「はは…ど…どうも…」



 リリアさんは冷たく言い放った。

 ずっと動き続けていたはずなのに顔には汗一つかいていない。

 いたって涼し顔だが…先ほど部屋で見たときより…

 瞳がさらに冷たくなっているような気がする。



 グレンさんとヘイルさんはこの様子を遠巻きに見つめている。



「…軽く剣を交えただけですが…あなたからは強さを一切感じない。」



 リリアさんは僕を憐れむような…蔑むような表情になった。



「剣術の経験有無ではないのです。あなたは今()()()()()()()()()ように見える。

 ですが…()()()()()()()()()()が本当にお上手。

 あなたの中身は空っぽですね。

 こんなどうしようもない人間を、何故…

 手元に置いておきたいと思ったのか…私には理解できません」


 リリアさんは僕を一瞥すると踵を返し、グレンさんとヘイルさんの元へ歩いていく。



 ―『真剣にやっているフリ』



 僕はこの言葉が胸に刺さった。


 学校でも目立つのは嫌いだったし、授業さえ聞いていればテストも平均点は取れた。

 運動もそこそこに頑張ってるところを見せてればいいか、なんて思ってたし何事もほどほどにやってそこそこの事ができればそれでよかった。

 だから…全力で取り組んだことは確かに…ないんだ。

 何も言い返せなかった。

 僕と年もさほど変わらない少女に僕の本質を見抜かれてしまった。


 リリアさんの肩をポンポンと叩き、入れ替わりにグレンさんが歩いてきた。


「なかなかにハッキリ言われたな。

 まぁお前も自分の常識とは違う世界にいきなり連れてこられて来た訳だからな。」


 グレンさんは僕と目線を合わせるようにしゃがみ込む。


「お前が弱いのは知っている。だから…これから変われ。」


 グレンさんの炎のように輝く瞳が僕の瞳を見つめる。


 ―僕は何も言葉が出てこなかった。



正直ユヅル君、考え方軟弱すぎますよね…

不安になってきます。

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