1話 僕の知らない世界
「 お前、オレの弟子になれ。断れば殺す 」
男は冷ややかに、だが力強い声で、僕にそう言った。
~~~~~
◇
優しい夕日が窓から差し込むオレンジ色の明かりがうっすらとキャンバスに色をつけている。
人が少なくなった学校の美術室。
そこで二人の男の子が真剣な表情で絵を書いていた。
「 ―なかなかの傑作かもしれない 」
僕は奥山由弦。特に頭もいいわけでもなく、スポーツができるわけでもない。
通知表の成績は見事にオール3のごくごく平凡な17歳の高校生だ。
学校でも目立つこともなく、可もなく不可もなくで過ごしてきた。
特に取り柄のない僕でも好きなものがあるにはあるんだよね。
それは絵を描くこと。兄弟がいない僕は一人で遊ぶことも多く
自然と絵を書くことが多くなっていた。
誰かと競いあったり、勝敗を決したりということには興味がなく
好きなものだけを描いていたいというスタンスだったので
入選したり、表彰されたりといったことは今まで一度もない。
特に上手ということでもないと思うし、僕より上手なやつは沢山いるのは身に染みてわかっている。
もちろん、彼女はいない。
よく物語の主人公にある『幼馴染は美少女』…といった設定もないから安心してほしい。
僕の周りの評価はだいたい「影の薄いなんの面白みもない奴」なんだよね。
「どう?俊一。今回結構自身作なんだけど。」
「ん?…あぁ、そうだな。へぇ…なかなかいい出来なんじゃないか?」
俊一は美術部の同期で部長だ。めちゃくちゃ絵がうまい。
切れ長の目に端正な顔立ちで男の僕から見てもイケメンだと思う。
さらに無口でクールな印象から女子の人気も高く、秀才。
文化部の部長としてはうらやましい限りのスペックを誇る。
お父さんがデザイナー、お母さんが美術の先生というサラブレッドで実力は折り紙付きだ。
彼の絵を見る目はとても厳しくこの3年間1度もほめられたことはなかった
普段僕は何かを目指して頑張る…努力なんてこともしない。
最低限、生きていけるだけの知識と、能力さえあればいいと思ってる僕にとって
絵を描くことは気晴らしの一つだし、人付き合いもそんなにない。
ただ、俊一とは高校に入ってから妙に馬が合った。
彼が比較的無口だからなのか、他の同級生とは違い必要以上に絡んでこないし
深く関わってこないところがいいのかもしれない。
だからというわけでもないけど…3年間、部活以外のでも一緒にいることが多かった。
(今回は…少しくらいはいい結果になるといいな。)
俊一にほめられて少しだけ誇らしい気持ちになる。
「由弦、時間大丈夫か?だいぶ陽も落ちてきたしそろそろ帰ろう」
そういわれて時計を見ると16時を回っていた。
今は12月。陽が落ちるのはあっという間だ。
コンクール前最後の仕上げということもあり
お昼からずっと美術室で絵を描いていたのだった。
「先、行ってるぞ」
そういって俊一はカバンを肩に担ぎ、入口に向かっていった。
僕は慌てて荷物をまとめ、制服のブレザーを羽織り後を追う。
― ユヅル ―
ふと後ろから名前を呼ばれた気がして振り向く
だが、そこには自分が描いた絵があるだけだった。
「あれ、俊一、今僕のこと呼んだ?」
「ん?呼んでないけど」
―カタ… カタカタカタ…ズン!ゴゴゴゴゴゴゴゴ
突然、縦方向に大きな揺れが僕たちを襲う。
その瞬間ユヅルの胸元から青く強い光が漏れ始めた
「うわ!な、なんだ!?」
「おい由弦!その光はなんだ!?!」
俊一が慌てて駆け寄ってくる
「た、多分、このペンダントから…」
僕は胸元から青いペンダントを取り出す。
すると、青い石が今まで見たこともないくらい眩しいほどの青い光を放っていた。
このペンダントは祖母がなくなるときに形見として譲りうけたもので
おばあちゃんっ子だった僕は常に身に着けていたのだ。
― 秘石に選ばれし者 ―
頭の中に声が聞こえた。それと同時に由弦の体が少しずつ浮き上がり始める
「わわ!う、浮いてる!!」
「由弦!!」
俊一が僕の腰のあたりにしがみつき、抑えようとするが、止まらない
揺れもさらに激しさを増し、美術室に飾ってある沢山の絵が落下しイーゼルが倒れる
― 変革の時は来た ―
ペンダントを中心に青い石の輝きはさらに増しあまりのまぶしさに目を閉じる。
光は由弦と俊一を包みこみ…
『 『 うわぁぁぁぁぁぁ!!!! 』』
バシュン!!!
…
……
………
何事もなかったかのような静寂が美術室を包む。
青い光が消えるとともに、由弦と俊一は姿を消した。
◇
――白く、広い空間に一人の老人が立っている。
『 変革の時はきた… 』
『 弱きヒトよ。世界はお前を待っている 』
そう言葉を残し老人は光になって消えた――
◇
――え…?
周りが静かになり、ゆっくりと閉じていた目を開くと…
そこには見たことない景色が広がっていた。
僕は驚きのあまり言葉が出なかった。
「はは…嘘だろ…?これは…夢だよな?」
きょろきょろと辺り見渡す。ここはどうやら湖らしい。
僕は湖の中心にある小島にある祭壇のようなところに立っていた。
小島までは1メートルくらいだろうか?
少し広めの間隔だけど飛び石があり、対岸まで渡れそうだ。
小島の周りには高さにすれば大体3mくらい、8本の大きな柱が立ち並び、翼の生えた女の人の彫像が柱に彫られている。
この世界の神様なのかもしれない。
作られて時間が経っているのか柱や台座には痛みが目立ち蔦が絡みついているが、神聖な雰囲気を感じる
上を見上げると透き通るような青空が見えていた。
日差しはあるがひんやりとした空気を感じるので、まだ朝だと思う。
優しい鳥の囀りも聞こえてくる。
いままで見たことのない幻想的な風景にふと、ヨーロッパの騎士物語を思い出した。
『女神様が住んでいる』 そう言われても信じてしまいそうだ。
―はぁ。
ため息をついて胸元からペンダントを取り出し見つめる
このペンダントは祖母が大切な友人から贈られたものらしく、僕にお守りとしてくれた。
中央には丸く蒼い色の、まるで宇宙から見た地球のような、そんな綺麗な石がはめ込んである。
先ほどまで強烈な光を放っていたのだが…今はただの綺麗な石だ。
「ばあちゃんは何も言ってなかったよなぁ。
どう考えてもこのペンダントに何か秘密がありそうなんだけど…」
こんな不思議な場所に来てしまったのはきっとペンダントが原因なのだろう。
さっきの光がまた出たら戻れないかな…?なんて考えながら少し振ってみたり、軽く叩いてみたり…
両手で包んでお祈りしてみたりするが特に反応がない。
「そうだ、俊一…!俊一は!?」
先ほどまで腰にしがみついていた俊一がどこにもいないことに気が付いた。
慌ててあたりを見渡すがどこにもいない。
俊一の名前を大声で何度か呼んでみたものの返事はかえって来なかった。
湖の周りにいないか対岸に渡って一周してみる。
湖を囲む森のへ向かって大きな声で名前を呼んでみたがやはり返事はない。。
「まいったな…あいつ…無事かな…」
ここにいるのは自分一人だということを再確認する。
不安と焦りで心細くなってきた。だがこのままここにいても仕方がない。
まずは近くに人がいないか探さないと。
情報収集は大事だから…うん。
気持ちを切り替え、湖を後に森の中へ足を延ばすことを決意した。
―ガサッ!バタバタバタ…!
由弦が湖から出るのを確認したかのように鳥のような影が飛び去っていった。
◇
どのくらい歩いたんだっけ。
森の中に入ってすぐ、人がほとんど近寄らない森の中なんだと気づいた。
先ほどまでいた湖の周辺には全くといいほど人が出入りした気配がなく、もしあの湖が祭壇だったとしても、参道のような道もなかったので人が近くにいるという可能性も低かった。
とはいえ、万に一つの可能性も考え比較的歩きやすそうな獣道を頼りに誰かいないかと声を出しながら森の中を歩き回っていた。
草木をかき分けながらの移動だったのと、慣れない足場で思った以上に体力が奪われていく。
声を出してはいるが森の中らしい鳥の囀りや草花の葉の擦れる音ばかりが返ってきた。
「参ったな…人の気配全然ないや。」
さすがに疲労がたまってきたので、少し開けた場所で休憩することにした。
「あーこれからどうしようかな…このまま誰にも会えなかったらどうする…こんな誰もいない森の中でサバイバル生活になるのかな…?」
むき出しになった岩の上に座りようやく一息ついて今後のことをじっくり考えようと思ったその時…
グワオォォォォォン
大きな咆哮が空から降ってきた。
見上げると、大きな翼を広げた怪物がを旋回しながらこちらを見ていた
(…え…!?僕を…見てる…!?)
嫌な予感がして逃げようとしたその時、大きな炎の塊のようなものが飛んできた
ドン!!
「うわ!!!」
間近で大きな爆発が起き、爆風で思いっきり吹き飛ばされる
「い…ぐぅ…ぁ…こ、爆発…!?爆弾か…何か!?」
爆発の衝撃をまともに受けたらしい。
着ていた制服が土で汚れ穴が開きボロボロになっている。
体中がズキズキ、左耳からはキーンと耳鳴りが鳴っている…
「いたっ!」
起き上がろうとすると右腕から強烈な痛みを感じうずくまる
(やっば…怪我したみたい…すげぇ…痛い…)
右手の指先からは赤い血が滴る。
ギギャー!!!グオゥ!!!
グギャ!グギャギャギャギャ!!!
気付けば周りからおぞましい叫び声が響く。痛みをこらえつつ立ち上がると…
今まで見たことのない生き物が僕を取り囲んでいた。
緑色の肌にとがった耳…ファンタジーの物語でよく出てくるゴブリンのような風体の怪物。
小さいのが14体、大きいのが3体程いる。
下卑た目で僕を見つめ、まるでおいしい食べ物を見つけたかのように涎を垂らし、舌なめずりをしている
突然のことで何が起こったのかはわからないけれど、まずい状況だというのだけはわかる。
―ドボッ!!!
大型の緑の怪物がおもむろに近づき、僕のお腹を思いっきり蹴り飛ばした
「ぐぇ!!」
岩に背中から激突しそのまま座り込むように崩れ落ちた。
同時に口からどす黒い血が溢れてきた。
制服は血の色で黒く染まってしまっている。
蹴りの衝撃で内蔵を痛めてしまったようだ…口の中が鉄臭い。
ギャギャ…!!ギャッギャッギャッギャッギャ!!
ギャギャギャギャギャギャギャギャ!!
グォヴァヴァヴァヴァ!!!
緑色の怪物達が恍惚の表情をした後、大笑いをはじめた
(はは…めちゃくちゃ…痛い…な…なんだよ…これ…僕になんの恨みがあるっていうんだ…)
大型の緑の怪物が太い棍棒を持ってゆっくり近づいてくる。岩のような素材で作られ、質量も十分そうだった。
「た…助けて…来るな…来るなぁぁぁ!!!」
迫りくる死への恐怖におびえながら這いつくばって必死に逃げようとする。
顔は涙と鼻水と血でもうドロドロだ。こんなに必死になったことはいままでなかった。
―助けて、神様
人生で初めて真剣に神様に祈った。
だが―
グェェヘヘハハハ!!
笑い声と共に足をつかまれ、
無造作に背中から地面にたたきつけられた。
「ぐげぇっ!!」
体がバラバラになりそうな衝撃。耐え難い痛みが全身を駆け抜ける。
怪物はにやにやと下卑た笑顔をしている。僕を甚振るのがさも楽しいようだ。
「ぐ、ぐぅぅぅ。た…す… 」
最後の力を振り絞って少しずつ怪物から離れようとするが全く前に進まない。
そんな姿を見た怪物はとどめと言わんばかりに右手に持ったこん棒を大きく振りかぶり…
グオォォォォォォオオオン!!!
大きな咆哮が辺りに響きこん棒が振り下ろされる。
「ひっ」
僕の命はここで終わるんだ―
―その刹那
グギャァァァァァアア!!!!
その瞬間聞こえてきたのは耳をつんざぐような怪物の悲鳴と
『 なんだぁ?散歩してたら面白そうなヤツがいるじゃねぇか 』
不機嫌そうだが 面白そうな玩具を発見した そんな喜びに満ちた男の声だった
少し時間ができたので物語を書いてみようそう思い立って連載開始してみました。
初の小説なので表現などつたない部分も多いかとは思いますがよろしくお願いします