Ⅴ
私はアリア家の床で起き上がる。こんな夜中なら皆寝静まっているだろう。私は抜き足差し足で家を出ると、お社を目指した。家を出るとひんやりした風が体を包む。さすがに村は寝静まっていて人の気配がない。灯りがあるといいが、見つからない。私は星明りを頼りにお社を目指す。
お社を見かけるとためらいなく侵入する。日本だとこうはいかなかったかもしれないが、異世界の神と聞くとそこまで信仰心はわかなかったので大事そうな場所でも普通に入る。私は建物に登ると扉を開く。少し扉は重かったものの、すーっと開く。私はそこでふと違和感を覚える。お社の扉っていくらなんでも鍵とかかかってるものではないだろうか。今まで勝手に開けたことないから分からないけど。それともこの世界ではこういうものなのだろうか。
中には神官が祈りを捧げる小広間(みたいな部屋)があり、その奥にご神体がいる部屋がある。
が、そこで私は中から人の気配がするのを感じた。なるほど、先客がいるから扉は開いていたのか。私もそこまで隠密が得意という訳ではないが、中にいる人物は完全に素人だ。一応隠れようとしているのだろうが、息遣いがかすかに聞こえてくる。こんなところにいる相手の目的は知れている。一瞬どうするか悩んだものの、ここで引き返すというのはありえない。とはいえ、隠密が素人でも剣の腕が立つ可能性もある。私は剣を抜くと右手で突きの構えをとりながら左手で扉を開ける。
「何者!」
「ひゃあっ」
私の警戒に反して聞こえてきたのは間の抜けた悲鳴だった。灯りがないが私は目の前でしゃがみこんでいる少女と今の悲鳴には心当たりがある。
「もしかして……アリアちゃん?」
「その声は……沖田さん!?」
アリアの怯えたような声に私はほっと息を吐いて剣を降ろす。なんだ、アリアちゃんか。しかし直後に私はほっとした自分を恨む。アリアが先ほど言っていたことを思い出す。その上で彼女がここにいるということは目的は分かり切っている。さて、どうする。私はある意味強敵と出会ったときよりも緊張する。
「沖田さん、何でここに?」
そうか、私はアリアがここにいる目的を知っていても、アリアは私が実がここにあることを知っていることを知らないから私の目的を知らないのか。何て答えようか。目の前にはアリア。そしてもう少し前には生命の実と思われる物体が供えられた小さな机がある。暗くてよく見えないが。私がそれを生命の実と直感できたのは悪魔にそういう力を授かったからか、それとも生命の実の神秘性故か。
悩みつつ、私は期せずして感覚を研ぎ澄ませてしまっていたらしい。私はこの場にさらに第三者の気配を感じる。
「何奴!」
私は降ろしていた剣を床の一点に向かって突き下ろす。
「!?」
床下で何かが動く気配がした。何者がいたのか、何の目的がだったのか分からない。確かなのは私の剣先が空を突いたことである。
だが、床下に潜んでいた者を突いて取り逃がしたでは済まない。冷静に考えると今の私は新撰組隊士じゃないし別に取り逃がしても良かったような気もするが、反射的に私は追いかける方に動いていた。それに、この場を切り抜ける恰好の口実にもなる。残念ながら私は実をどうするかの結論をまだ出せなかった。
「ごめん、私あいつを追うから」