後日談
“お父様、お母様、ついでにお兄様、お元気で暮らしていますか?”
サラサラと便箋に文字を綴った。
ここは伯爵家の屋敷で、結婚式を迎えた日から私はここで暮らし始めた。
結婚から半年目、実家にも一度も帰れていないのでこうして近場のカフェへ出掛け、テラス席に座り家族に向けて手紙を書くことになったのだが……。
しかし、ヤンデレ伯爵様だと思っていたオスワルドと言えば、至って普通の好青年だ。
前世で読んだあの恋愛小説の中のオスワルド様とは違うみたい。
過剰に優しくて過剰に甘やかせてくれて……って言えば惚気って言われるよね。いや惚気じゃなくて本当にそんな感じ。たまにおっかない笑みを浮かべたり、お付きの執事クリスの顔が日に日にやつれてるくらい?
てっきり束縛が激しくなるとか嫉妬に狂うとか想像していたけれど、今日のように外出も特別制限は無いし……、以前ケビンに拉致された事件があったので護衛にクリスを同伴させているけれど、割と自由にさせてくれる。
そもそもオスワルド様はお仕事で忙しいので、結婚しても以前より会える時間は減っている。
私も領主夫人として早く仕事を覚えなきゃ……。
「見て、クリスさん、季節限定のメロンパフェよ!これが食べたかったの~」
「これまた、サイズが馬鹿デカイですね」
「クリスさんも食べてね!2人で食べれば丁度良い量よ」
クリスさんは甘党だと以前話していた、今もキラキラした瞳でパフェを見つめてる。
私はそれを微笑ましく眺めていた。
「やっぱ、クリスさんって似てる!実家の犬に……」
「え?クローディアさんのご実家って犬なんて飼っていましたっけ」
「うーんと、前世の実家だけど…、なんかポメラニアンっぽい!」
「…………それは微妙な気分です」
「ちょっと頭撫でて良い?」
「は、はあ」
許可をもらって執事の頭を撫で撫でした。
「良いわ~、犬が欲しくなってきちゃった」
クリスは照れたように、困ったようにから笑いした。
「んん…、クーってよんでもいい?」
「…………自分は執事なんで拒否権ないですよ」
「クー、うふふふ」
楽しいティータイム。
*
明るいうちに屋敷へ戻ると、3日前から領地周りに出掛けていたオスワルド様が帰宅していた。
「おかえりなさい」
私は彼が脱いだ上着を受け取るとニコニコ笑った。
オスワルド様も笑顔を見せていた。
「あら、シャツにシミがついてるわ」
「ああ出先で汚してしまった」
「ねえ、クー、これシミ抜きしてもらえないかしら」
「はいは~い」
クリスの洗濯技術はすごいのよね。
前の夜会で汚してしまった淡色ドレスのシミも綺麗に直してもらったんだ。
「クー、紅茶にレモンを入れたいわ」
「はいよ~、お持ちいたしまーす」
「ね~、クー」
「はぁ~い」
気のせいかしら?私がクーって呼ぶたびにオスワルド様の表情が険しくなっていく。
ふふん、嫉妬かしら?オスワルド様とクーってかなり付き合いが長いそうだし、仲の良い執事を私に取られてヤキモチ妬いてるんだわ。
なんだか楽しくなっちゃった。
「クー、あのさ……」
また私が声を上げると、オスワルド様が持っていたティーカップのハンドルがバキッと凄い音を立てて壊れた。
「お……オスワルド様!?」
びっくりして駆け寄るとオスワルド様は私を抱き込み、自分の膝の上に座らせた。
1人掛けソファーの上は狭く、身体がすごく密着する。
私達を見ていたクリスの顔が青くなる。
「僕の気を引こうとしているの?新婚なのに3日も放置していたから拗ねちゃったのかな?僕の奥さんは」
「はぁ?えっ?」
「今日はクリスと2人で1つのパフェを食べたんだってね。しかもカップル限定のラブラブメロメロメロンパフェなんていう奇怪な名前のスイーツだって?」
「なっ……なんで……」
口に出すのも寒々しくて言いたくなかったメニュー名まで知ってるの?
「ふふ、なんでも知ってるよ。会えない時でも僕はこんなに君を想ってるのに…、君は随分と楽しそうだね…ずるいな」
動揺している私に、オスワルド様はキスをした。
「ふふ、寂しかったかい?今すぐに僕の愛をチャージしてあげるからね」
「ちょっと!?」
ソファーの上で組み敷かれている。
「クリス、下がって良いぞ。夕食の時間まで来なくて良い」
「はい、旦那様……」
苦笑しながら、部屋を出る直前で私に向かって励ますようなポーズを取り目配せをすると、クリスは退室した。
私の悲痛な叫びは扉で塞がれた。
お父様、お母様、ついでにお兄様、クローディアは元気にやっています。
オスワルド様の愛は時々重くて疲弊しておりますが、今のところ命は無事です。
P.S. 次の日、オスワルド様とあのカフェへ行きカップル限定ラブラブメロメロメロンパフェを2人でつつきました。1週間連続パフェは拷問ですね。
P.P.S.執事のクリスが何かおいたをしたようで罰でコスチュームがメイド服になりました。これってパワハラですよね?
“雨季が開けたら帰省します”こう締めくくり、便箋を桜色の封筒に入れた。