娘は誕生日プレゼントに喜びたい
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──娘は誕生日プレゼントに喜びたい
いよいよクラリッサの誕生日である12月1日がやってきた。
パーティーの開催場所はプラムウッドホテルで、それぞれに招待状が送られた。招かれる客はサンドラたち学園の生徒から、政治家を務める貴族、そして両手を真っ赤な血に染めたリベラトーレ・ファミリーの幹部、そして七大ファミリーの使いのものたちだ。
ある意味においてはリーチオはクラリッサの誕生日パーティーを政治的に利用していると言える。リベラトーレ・ファミリーに関係するものたちが、この場に集まる機会を作り、この場で問題を片づけることもある。
特に今年は七大ファミリーによる麻薬戦争があった。そのことで他のファミリーと連携を取るなどしなければならない。貴族たちにも七大ファミリーが薬物取引に手を染めず、従来通りの関係を維持していくことを伝えなければならない。
それはそれとして、クラリッサの誕生日は盛大に祝う。
クラリッサは大事なひとり娘だ。その誕生日は毎年盛大に祝う。今年はアルビオン王国最高級クラスのホテル──プラムウッドホテルのレセプションホールを貸し切り、大勢の招待客からのプレゼントを積み上げ、大きなバースデーケーキを用意して、リーチオはクラリッサの誕生日を祝うのだ。
「ボス。お嬢様の誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。大切な娘が今年もこうして無事に誕生日を迎えられたことを嬉しく思う。お前たちの誕生日プレゼントにも感謝だ」
リベラトーレ・ファミリーの幹部たちがリーチオに告げるのに、リーチオは幹部ひとりひとりに礼を言っていった。こういう場面で繋がりを強化するのも、ファミリーの運営においては欠かせないことである。
「ミスター・リベラトーレ。御令嬢の誕生日おめでとう」
「どうも。ヴィリアーズ伯。あなた方のおかげで今年も娘は誕生日を迎えられた」
貴族たちも長年の友人のようにリーチオに接する。それだけリベラトーレ・ファミリーとの繋がりは深く、癒着はべっとりとしているのだ。
「麻薬戦争の知らせは聞いたが、リベラトーレ・ファミリーも?」
「ええ。我々七大ファミリーは薬物取引には手を出さない。その方針で一致団結しています。我々が存在する限り、このアルビオン王国が薬物で汚されることはないでしょう」
「それは素晴らしいことだ。正直、ここ最近の都市警察は当てにならないし、君たちを頼るしかない。何かあれば我々に申し出てくれ。なんなりと支援をしよう。君たちが薬物から距離を置いている限りは、ある程度のことは許容する」
「ありがとうございます、伯爵」
この貴族は判事だ。これまで多くのリベラトーレ・ファミリーによる犯罪を見て見ぬふりをしてきた経歴がある。多額の寄付金を受け取って。
「ボス・リベラトーレ。お子さんの誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、エマヌエレ・ジェノヴェーゼ。ラファエレによろしくと伝えてくれ」
七大ファミリーからも招待客が来ている。
七大ファミリーは今や全てが一致して、麻薬戦争に突入した。七大ファミリーの縄張りは広大で、西から東まで大西洋を挟んで広がっている。新大陸でも南部人の入植が行われ、巨大な摩天楼のそびえるリバティ・シティでは南部系の住民が密かに動いていた。
「そちらも麻薬戦争は進んでいるか?」
「ええ。うちのシマでは売人をつるし上げています。連中はいくら追い出してもわいてくる。そういうことなら、カラスを追い払うようにカラスの死体を吊るしておくしかないでしょう。ちとばかり不評は買っていますが、大きな問題にはならない」
「うちのシマも同じだ。売人はテムズ川に浮かんでもらう。カラスとはいいたとえだ。連中は畜生だ。人間じゃない。危うくうちのシマを連中に奪われるところだったが、今はドンと構えていられる。こうして誕生日パーティーができるくらいにはな」
「それはいい。ドン・アルバーノも喜ぶでしょう。あなたは彼のお気に入りだ」
リーチオは魔王軍の斥候として人間の生存圏に入り込み、特に南部には長らくいた。南部人として彼が認められるぐらいには。そのことからドン・アルバーノもリーチオを魔族だとは疑わず、名誉ある南部人のひとりとして認めていた。
彼が縄張りを奪ったアルビオン王国のマフィアはやり方が酷く荒く、周辺住民から敵意を持たれていたために、ドン・アルバーノもリーチオの乗っ取りに何も言うことはなかった。これが南部人同士の争いでなければ、話はまた変わっただろうが。
そして、今やリーチオのリベラトーレ・ファミリーは七大ファミリーに数えられるほどに成長した。ドン・アルバーノも気に入るはずである。実力を持った男で、南部人であるならば文句の言いようもない。
「ボス。お嬢様の誕生日おめでとうございます」
「ファビオ。幹部見習いの方はどうだ? 心構えはできてきたか?」
誕生日パーティーにはファビオも姿を見せた。
「はい、ボス。学ぶべきことを学んでいるところです。幹部というのはナイフが扱えればいいというものではないようですので」
「お前なら問題はない。いずれ立派な幹部になるだろう。楽しみだな」
ファビオが告げるのにリーチオがそう告げて返した。
「ボス! クラリッサちゃんの誕生日、おめでとうございます!」
「ベニート。よく来てくれた。クラリッサも喜ぶだろう」
そして、ベニートおじさんも姿を見せた。
「クラリッサちゃんも今年で13歳でしょう。ついこの間まで初等部1年生だったのが、もう立派なレディになっているじゃないですか。月日の流れは早いものですな。どうりで、最近は足腰の調子がよくないというものですぜ」
「無理はするな。お前が引退した後も、ファミリーはお前の面倒を見る。お前の息子もいよいよファミリーに加わるのだからな」
「ええ。あの小僧がファミリーの一員になるとは。いまだに信じられませんよ」
ベニートおじさんの息子もそろそろ法学部の大学院を出て、弁護士になる。それからはファミリーにおける仕事が待っている。
「七大ファミリーの連中とは上手くいっているんですか?」
「上手くいってなきゃ、この場にはいないだろう。七大ファミリーとは上手くいっている。何の問題もない。今は団結することが力だ」
ベニートおじさんが疑わし気に周囲を見渡して告げるのにリーチオがそう返した。
「了解です、ボス。これからも健康で」
「ああ。ありがとう、ベニート」
ベニートおじさんはそう告げると他の幹部と雑談を始めた。
「あの、この度はお招きいただきありがとうございます!」
「クラリッサちゃんの誕生日、おめでとうございます!」
そして、大人たちが去った後にサンドラとウィレミナがやってきた。
「おお。クラリッサの友達だな。サンドラちゃんとウィレミナちゃんだろ。今日は来てくれてありがとう。クラリッサも喜ぶだろう」
「いえ。私たちの方こそこんな凄いところに招待していただいて……」
ウィレミナの視線の先にはリベラトーレ・ファミリーと取引のある大貴族が。
「気にしないでくれ。全てはクラリッサのためだ。感謝するよ」
「はい。あ、それからこれプレゼントです。些細な品ですが」
「ありがとう。クラリッサも開けるのが楽しみだろう」
リーチオが人を呼ぶと、ホテルのスタッフがプレゼントを受け取っていった。それらのプレゼントはクラリッサの席の背後に丁重に積み上げられる。
「本当に凄い人の集まりだね」
「本当に。クラリッサちゃんの実家ってやっぱり……」
「それ以上は追及しないでおこう」
サンドラたちはホテルのスタッフから飲み物を受け取って、クラリッサの登場を待った。その間にもパーティーは進んでいく。
「クラリッサさんの誕生日、おめでとうございます」
「初めまして! クラリッサさんの誕生日、おめでとうございます!」
パーペン姉弟も姿を見せた。
「パーペン姉弟だな。フェリクス君とエデルトルートちゃん。今日は来てくれてありがとう。クラリッサも喜んでくれる」
「お構いなく! フェリちゃんとおそろにするためですから!」
「そ、そうなのか」
流石のリーチオも狂人の相手は困る。
「これ、誕生日プレゼントです。クラリッサ──ちゃんに」
「ありがとう。クラリッサもきっと喜んでくれるはずだ」
果たしてパーペン姉弟は何を贈ったのだろうか。
「こんばんは、リーチオさん。クラリッサさんの誕生日、おめでとう」
「パール。来てくれたか。クラリッサが喜ぶぞ」
そして、パーペン姉弟に続いてパールが姿を見せた。
「もう彼女も13歳なのね。大きくなったわ」
「俺にしてみればまだまだ子供だ」
パールが告げるのにリーチオがそう告げて返した。
「それでもいずれは大人になる。その時はどうするのかしら?」
「あいつの決めることだ。俺たちの決めることじゃない」
「それもそうね。じゃあ、私からのプレゼントを。クラリッサちゃんの誕生日、改めておめでとうと言わせてもらうわ」
「ああ。ありがとうな」
パールが微笑み、リーチオはホテルのスタッフにプレゼントを渡した。
「紳士淑女の皆さん!」
そうこうしているうちにピエルトの声が聞こえてきた。
「今日はクラリッサちゃんの13歳の誕生日においでいただきありがとうございます。ファミリーを代表してお礼を言わせていただきます。それでは、主賓にご登場願いましょう。クラリッサ・リベラトーレちゃんです!」
ピエルトがそう告げるのに扉からクラリッサが姿を見せた。
クラリッサは深紅のドレス姿で長い銀髪を背中に流している。色気という点で言えば、初等部1年生の子供も子供のころから大きく成長している。それでもまだまだ子供だ。
「皆さん、今日はお集りいただきありがとうございます」
そして、クラリッサがペコリと頭を下げる。
「私も今年で13歳になり、小さな子供ではなくなったと思っています。ですが、皆さんから見るとやはり私はまだまだ子供なのでしょう。1日でも早く大人の仲間入りができるようにこれからも頑張っていきたいと思います」
クラリッサはそう告げて葡萄ジュースのグラスを掲げる。
「それでは皆さんに感謝を込めて乾杯!」
「クラリッサちゃんの誕生日を祝って乾杯!」
乾杯の音頭が取られ、全員が杯を掲げる。
「クラリッサちゃん。誕生日おめでとう」
「おめでとー!」
クラリッサが挨拶を終えると、サンドラとウィレミナがクラリッサの下にやってきた。やはり同年代の友達といた方が安心できるらしい。
「ありがと、サンドラ、ウィレミナ。今日は楽しんでいってね。それから誕生日プレゼント、早速だけど開けていい?」
「いいよー。感想聞きたいし」
クラリッサがわくわくして尋ねるのに、ウィレミナがそう告げて返した。
「ウィレミナのは──おお、チョコレートの詰め合わせ」
「この時期ならそう簡単には溶けないし、いいものでしょ?」
「うんうん。いいものだ。今から食べるのが楽しみだよ」
クラリッサはウィレミナのプレゼントに大満足。
「サンドラのは──本」
「本だよ。歴史の本。しっかり読んで勉強してね」
「誕生日プレゼントにまで勉強を忍び込ませるとはサンドラは鬼だ」
「友達のためを思ってのことだよ!」
これにはクラリッサもがっくり。
「まあ、頑張って勉強するよ。ありがとうね、サンドラ」
「ちゃんと読んでね? インテリアにしちゃダメだよ?」
それでも友達からのプレゼントは嬉しいものである。
「クラリッサさん。誕生日おめでとうございます」
「おめでとうですよう!」
続いてフィオナとヘザーがやってきた。
「今日は来てくれてありがとう。早速だけどプレゼント開けていいかい?」
「もちろんですわ。確かめてみてくださいまし」
クラリッサが尋ねるのにフィオナが快諾した。
「フィオナからのプレゼントは──おお、でかいクマのぬいぐるみ」
「最近流行りの品だそうですわ。可愛がってあげてくださいまし」
「うん。ベッドに置かせてもらうね」
フィオナが告げるのに、クラリッサはクマのぬいぐるみを撫でてやった。
きっとアルフィと並べたらとても可愛いに違いないなどと思っているぞ。だが、アルフィはぬいぐるみだろうと捕食しそうだから、やめておこうな。
「ヘザーのプレゼントは──鞭……?」
「そうですよう! それで私をビシバシやってくださいよう!」
「てい」
「ひゃあん!」
クラリッサはどうしようもないものをつかまされたなと思っている。こればかりは喜ぶに喜べない一品だ。シャロンにでも持たせておこう。
「よう。クラリッサ。誕生日おめでとう」
「誕生日おめでとう、クラリッサさん!」
クラリッサがそんな鞭を手にして考え込んでいたとき、フェリクスとトゥルーデが訪れた。これで学園の学友たちは全員集まったことになる。
「フェリクス、トゥルーデ。プレゼントを開けて見ていい?」
「ああ。そんなに大した品じゃないが」
クラリッサが尋ねるのにフェリクスがそう答えた。
「フェリクスからのプレゼントは──トランプ?」
「カジノで使うだろ。あれもそろそろぼろくなってきたし、ここら辺で新しいトランプを使わないかと思ってな。気に入ってくれたか?」
「もちろん。フェリクスはちゃんと私たちのビジネスのことを考えてくれているね。流石、私のパートナーだ」
「そこまで褒めるものでもないぞ」
フェリクスの発言にサンドラとウィレミナはやっぱり……という顔をしている。今も闇カジノは摘発されていないが、その正体がクラリッサたちであるのは明白だ。
「私からの! 私からのプレゼントも開けてみて!」
「うん」
トゥルーデに急かされるのにクラリッサが包みを開く。
「トゥルーデからのプレゼントは──トランプ?」
「そう! 私とフェリちゃんはプレゼントもおそろなの!」
トゥルーデが嬉しそうにそう告げるのにフェリクスは視線を逸らせている。
「そ、そうなのか。ありがとう、トゥルーデ」
「気にしないで!」
まあ、トランプはたくさんあって困る品でもないし、使い道はある。少なくとも他に何の使い道もない鞭なんぞよりも。
本当にどうするんだ、この鞭。
「ありがとう、みんな。みんなの誕生日の日にはお返しするからね」
「クラリッサちゃん。お返しは気持ちでいいからね。この間、ピアノをプレゼントされた日にはびっくりしたよ……」
「……? うちの誕生日プレゼントにもピアノがあったことがあったよ?」
「お父さんに演奏して見せた?」
「……耳鳴りが取れないと言われた」
クラリッサの音楽の成績は悪いままだ。
「中等部2年から音楽と美術で選択分けだし、クラリッサちゃんとあたしは美術の方に亡命することにしているぜ!」
「さらば、音楽。美術でこそ私が輝くよ」
誕生日プレゼントもクラリッサが美術に方面に向かうのを見越してか、絵画や絵の具などの物品が見える。ちなみに前にクラリッサにピアノをプレゼントしたのはベニートおじさんだ。流石のベニートおじさんもクラリッサの演奏には音を上げたぞ。今では立派なインテリアとしてピアノは展示されている。
「さて、残りのビッグイベントは文化祭だけだっけ?」
「そだね。今年の文化祭は何にしようか?」
「それは決まっている。それは──」
クラリッサが指を一本、ピンと立てる。
「カジノだよ」
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