娘はブックメーカーを立ち上げたい
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──娘はブックメーカーを立ち上げたい
クラリッサのブックメーカーの申告は生徒会で審査されることになった。
「問題なし。許可しよう」
「君は今回は部外者だよ!」
副会長としてクラリッサがそう告げるのにジョン王太子が突っ込んだ。
「ええっと。ブックメーカー。登録名“777ベット”。代表者クラリッサ・リベラトーレ。体育祭から文化祭まで広い分野で賭けを催すことを目的としています。収益金の一部は学園内の部活動や行事に還元していきたいと思います、と」
ジョン王太子がいくつかある書類の1枚を読み上げる。
「……これは本心かね?」
「全く以て本心だよ」
ジョン王太子が訝しむような視線を向けて来るのに、クラリッサがそう返した。
「殿下。クラリッサさんの申請に問題はありませんわ。誰かが最初に始めて、皆さんをやる気にさせなければせっかくの校則改正も無意味なものとなってしまいます。ここはクラリッサさんに最初のお手本を見せてもらいましょう?」
「む。それもそうだ。許可するとしよう」
相変わらず、フィオナが告げると動かしやすいジョン王太子である。
「それでは認可第一号だ、クラリッサ嬢。くれぐれも問題は起こさないように」
「任せろ」
生徒会長の印を押し、営業許可書類を渡すジョン王太子に、クラリッサは自信満々でサムズアップして返した。
「やっぱり心配になるな……。クリスティン嬢が闇カジノを未だに捜査中なのだが、それと君は関係ないのだよね?」
「もちろん、関係ないよ」
「目を見ていってくれないか」
クラリッサはそっぽを向いている。
「それからこれは皆に対する通告事項だが、どうも学園内でいかがわしいアルバイトの勧誘が行われているそうだ。もしそういう場面を見つけたら風紀委員か私まで報告してくれ。……分かったね、クラリッサ嬢?」
「何故私に言い含めるの」
「君が怪しいからだよ」
今のところ、いかがわしいアルバイトの容疑者1号はクラリッサだった。
「酷い。何の根拠があって私のことを疑うの」
「生徒会選挙中にやったことはもうお忘れかな?」
「忘れた」
クラリッサは生徒会選挙中、傍若無人の限りを尽くしたぞ。
疑われても仕方がないね!
「我々としてはむしろクラリッサ嬢が犯人であることが望ましいのだがね。君はいろいろと不味いことをするが一線は越えないという点があるから。もし、これが君以外の人間の仕業だとすると、何をしているのか想像もできない」
「ううむ。ちょっと気になるな。調べてみよう」
クラリッサとしては学園は自分のシマである。勝手にそう決めた。
そこで何やら怪しげなビジネスが行われているとなると、クラリッサとしては気に入らない。そういう商売がしたいなら、自分にショバ代を納めてもらわなければ。
「クラリッサ嬢。調べてくれるのは嬉しいが、無理やりなことはやめてくれよ。君は今や生徒会副会長なのだから、軽々しく暴力を振るってはいけないよ?」
「重々しい打撃を放つよ」
「そういう問題じゃないんだよ!」
クラリッサがグッと拳を握り締めて告げるのに、ジョン王太子が突っ込んだ。
「ちーす! あれ? 何か談話中でした?」
そんなこんなをしていたらウィレミナが生徒会室に姿を見せた。
彼女は会計として学園内活動の予算を取りまとめたり、生徒会で消費する文房具の補給を申請したりする係である。なので、特に用事のない日はあまり生徒会室には来ない。彼女は陸上部という部活動があるのだ。
「ちーす、ウィレミナ。最近学園内に存在するといういかがわしいアルバイトの話をしてたんだ。ウィレミナは何か知ってる?」
「いや。クラリッサ嬢。適当に尋ねても早々かかわりのある人間はいないよ」
クラリッサがウィレミナに尋ねるのにジョン王太子が突っ込んだ。
「知ってる。というかあたしも誘われた」
「なっ……!」
意外と身近にいた関係者。
「誰に誘われたの?」
「知らない男子生徒。上級生だったね。下駄箱で帰ろうとしてたら、声をかけられて『ドーバーにちょっと行くだけで50万ドゥカート』稼げるって言われた。もちろん、答えはノーだったけれどね。あんなの怪しすぎて」
クラリッサが尋ねるのに、ウィレミナはやれやれと肩をすくめた。
「具体的な男子生徒の人相は?」
「そこまで集中してみてなかったからおぼろげだよ。薄暗かったし」
クラリッサがぐいぐい尋ねるのに、ウィレミナが首を傾げる。
「しかし、今のところ、男子生徒の被害は聞こえてこないね。いかがわしいアルバイトに誘われたというのは女子生徒ばかりだ」
「ふうむ。薬物の運び屋にしては人選が不明だ。もしや──」
ジョン王太子が告げるのに、クラリッサがポンと手を叩く。
「本当にいかがわしいアルバイトなのでは。男と女があーだーこーだという」
「なっ……! それは不味くないかね!?」
クラリッサが告げるのに、ジョン王太子が叫ぶ。
「うむ。そういう仕事を学園内で斡旋していいのは私だけだ。他の人間が手を出すのは許せない。生徒たちを守るために立ち上がろう」
「……いや、君でもそういう仕事を斡旋してはならんよ……?」
しっかりこの学園は自分のシマだと思っているクラリッサである。
「まあ、相手が女子生徒全般に声をかけているなら、私にも回ってくるかもしれない。その時は締め上げて、洗いざらい吐いてもらうとしよう」
「暴力はほどほどに頼むよ、クラリッサ嬢」
もうクラリッサに絶対に暴力を振るうなというのは無理だと理解したジョン王太子。
「それはそうとブックメーカーの設立を知らせてくる。宣伝もしないとね」
「クラリッサちゃん。ついにブックメーカーの認定下りたのかー」
クラリッサが告げるのに、ウィレミナが感心したようにそう告げる。
「ウィレミナもうちでバイトしない? バニーガールの格好して、うちの宣伝するだけで10万ドゥカートは払ってもいいよ」
「いかがわしいアルバイトを斡旋している人間がここにもいた」
頑張れ、クラリッサ。学園というシマを守るのだ。
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ブックメーカー立ち上げのニュースが新聞部によって宣伝された。新聞部もクラリッサたちから少なくない額の賄賂を受け取っているのだ。
「ブックメーカー。そして、代表はクラリッサちゃんかー……」
「呼んだ?」
貼りだされた新聞を眺めているサンドラにクラリッサが声をかけた。
「クラリッサちゃん。これってちゃんとジョン王太子の許可取った?」
「当たり前でしょ。そうでなきゃこんな大っぴらに宣伝しないよ」
「そうかー。ついに学園でもギャンブル解禁かー」
サンドラは何かおかしい気がしたものの、クラリッサと付き合っている間に何がおかしいのか段々分からなくなってしまった。
「それはそうとサンドラも気を付けてね」
「ん? 何を?」
「あの記事の下の方に書いてある奴」
サンドラが首を傾げるのにクラリッサが新聞を指さす。
「『いかがわしいアルバイトの勧誘にご注意を』っと。私も聞いたことあるけど、あれってクラリッサちゃんの仕業じゃなかったんだね」
「違うよ。私はいかがわしい商売なんてしてない」
サンドラが告げるのにクラリッサが憤慨して返した。
「私のシマを荒らしてくれてるんだから、それ相応の報いは受けてもらわないと。学園でこういういかがわしい行為ができるのは私の許可を得て、みかじめ料を支払ってからだ。勝手に私のシマで商売をするとは許すまじ」
「いつの間に学園はクラリッサちゃんのシマになったの……?」
もっともな疑問をサンドラが口にする。
「それはそうとサンドラ、バイトしない? バニーガールの服装でうちのブックメーカーの宣伝をしてくれるだけでいいんだけど」
「早速いかがわしいバイトの斡旋を始めた」
クラリッサが告げるのに、サンドラが突っ込んだ。
「いかがわしいバイトはしません。うちはちゃんとお小遣いもらってて、お金には困ってないから。クラリッサちゃんもそういうことしてると犯人と疑われるよ?」
「む。でも、お金はあればあるほど気持ちがいいよ?」
「クラリッサちゃん。お金は生活していけるだけあればいいの」
クラリッサはそのお金に対する熱情を別の物に向けるんだ。
「仕方ない。他を当たろう。それはそうと本当に気を付けるんだよ、サンドラ。君は前にも危ない目に遭っているからね」
「うん。気を付けるよ、クラリッサちゃん。心配してくれてありがとう」
クラリッサはサンドラにそう告げると、宣伝をやってくれる人材を探しに戻った。
自分がやるという発想は全くない。
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「フェリクス。いよいよブックメーカーの始まりだよ」
「おう。いよいよだな」
1年A組のクラスでクラリッサはフェリクスにそう告げた。
「先手は打った。このまま他のブックメーカーが立ち上がる前に制するよ。ギャンブルと言えばうちの“777ベット”という定評を作るんだ。ギャンブラーたちが目移りしないように盛大に盛り上げていこう」
「オーケー。まずは何をすればいい? 体育祭はまだ先だぜ」
「まずは宣伝だよ」
フェリクスの問いにクラリッサがそう答える。
「ギャンブルとは人に盛大にお金を浪費させるムード作りから始めないといけない。『今月のお小遣いは少ないから節約しよう』と思っている人に、自分の財布を確認させず、自分も大富豪になった気分で賭けてもらう必要がある」
「なるほど。成金ムードを出す宣伝というわけか」
「その通り。盛大にお祝いムードを醸し出して、次の体育祭の時には遠慮なく人々が賭けをできるように誘導しよう」
フェリクスの理解は早かった。
クラリッサたちが狙っているのは、お祝いムードを演出し、財布のひもを緩め、加えて成金的な感情を抱かせる宣伝を施して財布の残金ギリギリまで客から引き出すことであった。そのための宣伝は既に考えてある。
「どういう宣伝をするんだ?」
「まずある程度顧客層を絞った宣伝。ギャンブルに夢中になるのは男の子の方だ。だから、男の子向けの宣伝をする。バニーガール姿の可愛い女の子にうちの宣伝をしてもらうんだよ。そうすれば間違いなく男子生徒が釣れる」
「……あくどいな……」
バニーガールは誰が発明したやら既にこの世界には存在していた。
そして、バニーガールとは富の象徴である。成功者が傍に置くものである。そして、何より色気がある。クラリッサはその点を踏まえて、バニーガールを宣伝に使うことにした。バニーガールを眺めた男性生徒がその色気に惹かれ、成功者を夢見て、ポンポンとお金を落としていってくれることがその狙いである。
「商売にあくどいもなにもないんだよ。儲かれば正義。なんだけど、このバニーガールで宣伝してくれる人材がなかなか見当たらない」
「お前が着ればいいじゃん」
「嫌だよ。こんな恥ずかしい格好」
「……お前はそんな恥ずかしい格好を他人にさせようとしているのか」
クラリッサは普通にパスした。
「ウィレミナとサンドラには断られたし、どうしたものかな」
「姉貴には頼むなよ。後が怖い」
「分かってる」
トゥルーデに借りを作ると後でどうなるか、考えただけでも恐ろしい。
「そうだ。この涼しくなってきた時期でも頭の温かい子がいた」
「ひでえ言い方だな。誰だよ、それ?」
「ふふふ。ついてくるといいよ」
クラリッサは不敵に笑うと、席を立った。
フェリクスはてっきりこのまま部屋の外に出るのかと思ったがクラリッサは途中で止まった。その止まった先の人物は──。
「あれえ? どうかされましたかあ、クラリッサさん?」
ヘザーである。
「ヘザー。とてもいいご褒美があるんだけど聞く気はない?」
「是非とも聞かせてください!」
クラリッサが声を落として告げるのに、ヘザーが食いついた。
「よそ様にはとても見せられない格好で看板を下げて校内を練り歩く。興味ある?」
「あります! おいくらですかあ!?」
「なんと、無料です。衣装も看板も全部こっちで準備するから君は衆人観衆の下で、ただ練り歩くだけでいいんだよ。もし、それがちゃんとこなせたらシャロンからさらにご褒美があります。やってみる?」
「やりますよう! それはもう絶対!」
ちょろいなとクラリッサは思った。
「じゃあ、放課後衣装合わせのために家庭科室に来てね」
「はあい!」
こうして見事宣伝担当をゲットしたクラリッサである。
「……あれでいいのか?」
「……本人が幸せならそれでいいじゃないか」
頑張れ、ヘザー。いつかカモにされない人間になるんだ。
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