娘は生徒会の仕事を済ませたい
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──娘は生徒会の仕事を済ませたい
期末テストの結果が貼り出された。
1位はウィレミナ。2位はフィオナと不動のふたり。
そして、3位にトゥルーデ、4位にジョン王太子、ちょっと飛んで7位にサンドラ。また少し飛んで10位にフェリクスがランクイン。
クラリッサは12位でヘザーは13位だった。
実感は虚無だったが、赤点になる科目はなかった。
だが、第一外国語と第二外国語が足を引っ張りつつあるのは確実であり、対策を講じていかなければ、いずれ赤点を取る羽目になるだろう。歴史と地理は高等部からは選択制になるが、今は両方暗記すべしという状況だ。
そして、夏休みを告げる終業式が終わった。
だが、まだクラリッサの夏休みは始まっていない。
「というわけで、この新体制の下で我々は生徒会を運営していく」
ジョン王太子がそう告げて生徒会室を見渡した。
生徒会室は中等部の自治の頂点に立つ場所として、それなり以上の立派な造りになっている。貴族の書斎を思わせるものであり、赤い絨毯が敷かれ、マホガニーのテーブルが設置され、シャンデリアを模した魔道灯が天井にはぶら下がっている。
またこの部屋の他に委員会の会合を開くための会議室も併設されており、流石はお貴族様の学校と思われる立派なものになっていた。
そして、そんな生徒会室に4名の人物。
生徒会長ジョン王太子。
副会長クラリッサ。
書記フィオナ。
会計ウィレミナ。
この4名が新しい生徒会のメンバーだった。
「いやあ。あたしなんかが生徒会に入っていいのかな?」
「ウィレミナがいてくれないと困る。可能な限り生徒会長を傀儡にしておきたいから」
ウィレミナが困った表情を浮かべるのに、クラリッサがそう告げた。
「人を傀儡にする相談をするんじゃない! 全く、先が思いやられるよ」
「全くだ」
「君のことを言っているのだよ、クラリッサ嬢」
クラリッサがため息をつくのに、ジョン王太子が突っ込んだ。
「それではフィオナ嬢、ウィレミナ嬢。生徒会へようこそ。君たちの力を頼りにさせてもらうからね。フィオナ嬢もウィレミナ嬢も成績優秀者だ。生徒会のためにその知力を役立ててくれると嬉しい限りだ」
「あたしはこれで内申点上がるならいいかなって思ってます」
「欲望に素直だね、ウィレミナ嬢」
ウィレミナは生徒会に入って内申点を上げて、大学に奨学金で進むことしか考えてないぞ。ある意味では意識高いが、欲望には素直である。
フィオナをスカウトしたのはジョン王太子で、ウィレミナをスカウトしたのはクラリッサだ。ウィレミナは計算も得意だし、ノートも綺麗にしているのでという理由で、クラリッサによって会計に抜擢された。
「早速だが、2学期に備えて、各委員会との打ち合わせがある。これからの方針を述べるだけの短いものだ。それが終われば正式に我々も夏休みということになる」
「さあ、帰ろう」
「仕事をしたまえよ、クラリッサ嬢!」
そそくさと帰り支度を始めるクラリッサにジョン王太子が突っ込んだ。
「それぐらい自分でできるでしょ? なんでも手伝ってもらわないとできないの?」
「なんで私が怒られているのかな!? 君も生徒会副会長として仕事しなきゃいけないんだよ!? 私だけに押し付けていいわけじゃないからね! ウィレミナ嬢も一緒になって帰ろうとしないでくれないか!?」
クラリッサが渋い顔をして告げるのに、クラリッサとクラリッサと一緒になって帰ろうとしているウィレミナにジョン王太子が突っ込んだ。
「おふたりとも、少しで終わりますから。顔合わせ程度です」
「それならば頑張るよ、天使の君。君だけを置いてはいけないからね」
フィオナが告げるのに、クラリッサがそう告げて返した。
「……今度から君にお願いをするときはフィオナ嬢を介して行おう」
「ずるい」
対クラリッサ手段を考えついたジョン王太子であった。
「では、まず委員会の代表たちと話し合う前に、我々の方の方針を決めておこう。行事を大切にしていくことや、これからの王立ティアマト学園中等部の自治のあり方について、我々の意見を纏めておこうではないか」
「自由な校風」
「……具体的には?」
「ギャンブルや決闘に優しい校風」
クラリッサは確かに生徒会選挙で自由な校風を掲げていたが、具体例は言わなかった。その理由は今ので分かるというものである。
「ダメです」
「じゃあ、不自由な校風を目指すんだね。とりあえず、学園で行われる行事においてはみかじめ料を徴収し、生徒会に批判的な言論は取り締まろう」
「両極端だね! 自由にも不自由にも限度があるよ!」
「限度とはいったい……」
ジョン王太子が叫ぶのに、クラリッサが神妙な顔で考え込んだ。
「私も自由な校風には賛成だが、それは限度というものがある。各委員会の自治権の裁量を増やすことや、部活動の活動の場を広げるというようなことなら私も賛成だ」
「そこからどうやって収益を上げるの?」
「生徒会は収益を上げる必要はないのだよ」
考え込むクラリッサにジョン王太子がため息をつきながら突っ込んだ。
「そんな……。なら、私たちはただ飯食らい……」
「学費は払っているだろう! それでいいんだよ!」
「働かざる者食うべからず……」
「収益を上げることと働くことはまた別だよ!」
クラリッサは生徒会の本質を完全に誤解しているぞ。
「つまりただ働き?」
「ある意味の奉仕だ。ノブレスオブリージュという言葉は君も聞いたことがあるだろう。生徒会として高貴な立場となった我々は生徒たちに奉仕しなければならないのだ」
「ただ働きなんだね」
「奉仕だと言っている」
クラリッサはただ働きが嫌いなのだ。
「これまではそうだったかもしれないけれど、私が変えるよ。収益を上げるちゃんとした組織に。とりあえず、部活動予算の3%を手数料として徴収することにしよう」
「おーい、クラリッサちゃん。陸上部の予算を減らさないでおくれー」
ウィレミナは陸上部の予算増額のためにクラリッサに投票したぞ。
「さて、冗談はここまでにしておいて、我々の方針はずばり『開かれた学園生活』ということで行きたいと思う」
「今までは籠城でもしてたの?」
「違う! ここでいう開かれた学園生活というのは、あらゆる行事や部活動、委員会活動に生徒たちが気軽に参加できるような体制作りを指すのだ。体験入部期間の延長や委員会同士の交流、そして文化祭や体育祭へもっと生徒たちが自由に企画ができるように、私はこの学園の自治を定めたいと思う」
「なるほど。つまり、文化祭でカジノをしてもいいんだね?」
「……まあ、それも考えおこう」
「君は素晴らしい指導者だよ、ジョン王太子」
クラリッサも現金な人間である。
「そうと決まったら委員会のメンバーと会おうではないか。彼らからの意見も聞いて、この学園をより良い形にしていこう」
「おー」
ようやく生徒会としての方針の決まったジョン王太子たち生徒会メンバーは隣接する会議室に向かう。そこでは各委員会の代表たちが集まっているのだ。
「やあ、諸君。初めまして。生徒会長のジョンだ」
「副生徒会長のクラリッサ」
「書記のフィオナです」
「会計のウィレミナだよー」
クラリッサたちは集まっている各委員会の代表者たちに挨拶する。
「あ」
「あ」
そこでクラリッサと目の合った人物が。
クリスティンである。風紀委員の彼女が風紀委員長とともにやって来ていた。
「うがー……」
そしてクラリッサを見て唸るクリスティン。
彼女はまだクラリッサの闇カジノを摘発することを諦めていないぞ。生徒会選挙中に行われた暴力行為についても今後は取り締まりを強化するべきだと考えていた。
「生徒会からの方針です。風紀委員会の予算は今年度から半減されます」
「おおいっ!? そんな方針は決めていなかっただろう!?」
「今決めた」
クラリッサがさらりと告げるのにジョン王太子が突っ込んだ。
「ごほん。うちの副会長が失礼した。2学期の予算は提出された予算請求書に基づき精査するので安心してもらいたい。それでは新体制の生徒会における方針をここに述べよう。『開かれた学園生活』が、我々のモットーになる。この方針に従って、委員会同士の交流も活発化させ、より生徒たちの学びやすい環境を整えていこう」
「ええ。いい方針だと思います」
ジョン王太子が告げるのに体育委員の代表が頷いた。
「その『開かれた学園生活』が開かれすぎなければいいのですが」
そこでクリスティンがクラリッサを睨みながらそう告げる。
「文化祭ではカジノを解放します。合法的に儲けましょう」
「いや。待ちたまえよ、クラリッサ嬢。それはまだ考えておこうって段階だったよね? 今言うべきことじゃないよね?」
クラリッサが『へっ』と笑ってクリスティンに向けて告げるのに、ジョン王太子が必死になって取り消そうとする。
「学園内でカジノなどよからぬことです! 断固として反対します!」
「生徒会長の方針だよ?」
「生徒会長の方針であろうと、私が許しません! もし、本当にカジノを解禁するのであれば、不正取り締まりのための風紀委員の倍増をお願いします! そうでなければ風紀を乱すカジノなど解禁するべきではありません!」
クラリッサが告げるのに、クリスティンが猛烈に反発する。
「そ、それに関しては文化祭が近づいてきてからもう一度話し合おう。今はいいだろう。ね? いいそれでいいよね? にらみ合うのはやめてくれないかね?」
ジョン王太子がにらみ合うクラリッサとクリスティンの両者を見つめてそう告げる。
「それでは各委員から活動方針を聞こうと思う。体育委員からお願いしようか」
ジョン王太子はそう告げて手前の席に座っていた体育委員に声をかける。
「体育委員は学園の生徒たちの健やかな発育のために努力する次第です。9月には水泳大会が予定されており、10月には体育祭、11月にはマラソン大会が予定されています。生徒たちに運動を通じて、団結心と自己努力の大切さを伝えられればと思います」
体育委員はそう告げて席に座った。
「ありがとう。学園の行事も大切にしていかなくてはね」
「今年から各種行事での賭け事も合法化されます。生徒たちの競争力を鍛えましょう」
「されないよっ!?」
先ほどから勝手に行事にアレンジを加えているクラリッサである。
「『開かれた学園生活』。これからは学園の外とも繋がるべき。保護者たちに賭けを行わせて、競技のギャンブル性とエンターテイメント性を引き出すとともに、生徒たちにお金の大切さを教えるべきだと考えます」
「ギャンブルでお金の大切さは学べないよ! と、とにかく、事前の打ち合わせにないことを突如として決めるのはやめてくれないか」
「ぶー……」
「ぶーって言いたいのは私の方だよ……」
クラリッサが頬を膨らませるのにジョン王太子が力なく突っ込んだ。
「さて、次は──」
文化委員、図書委員、保健委員などそれぞれの委員会が意見を述べていく。まあ、委員会といっても、ものによっては活動は酷く限定的であったりする。
「で、では、次に風紀委員、お願いできるかな?」
依然としてクラリッサを睨んでいるクリスティンのいる風紀委員にジョン王太子が及び腰になって声をかけた。
「我々は──」
「委員長。ここは私が」
何事かを述べようとした風紀委員長を制してクリスティンが立ち上がった。
「風紀委員は学園内のあらゆる校則委違反に対処します。まず学園内で噂されている闇カジノの徹底的な摘発を目指す次第です。それから今回の生徒会選挙を鑑みて、選挙期間中の暴力行為や買収行為の摘発にもマニュアルを作成し、選挙委員会と一致して行動していくことを考えています。我々が校則を守るのです」
クリスティンはそう告げて席に着いた。
「う、うむ。頑張ってくれたまえ」
「やはり今年度の風紀委員の予算はゼロに。それだけの熱意があれば、予算なしでも活動できる。せいぜい頑張って」
「クラリッサ嬢!」
クリスティンを『へっ』と笑うクラリッサにジョン王太子が全力で突っ込んだ。
「たとえ、生徒会が相手だろうと我々は負けません! 覚悟してください!」
「ええっと。その、仲良くはできないんですか?」
「不正とは徹底的に戦います!」
フィオナが困った様子で尋ねるのに、クリスティンはにべもなくそう告げた。
「摘発できるといいね、闇カジノ。そんなもの存在しないと思うけど」
「うがーっ! 覚えているといいですよ!」
クラリッサがにこりと笑って告げるのに、クリスティンが吠えた。
「さ、さて、各委員会の意見も聞くことができて大変有意義な時間だった。これからもそれぞれの職務を果たしてもらいたい。我々は生徒たちへの第一の奉仕者だという自覚を持ち、真剣にその役割を果たそう」
そして、ジョン王太子が無理やりいい感じで終わらせようとする。
「予算請求書は9月5日までに提出してくれ。それでは解散!」
さあ、これでようやく本当の夏休みに突入だ。
だが、夏休みが明けたら大変なことになっていたりするかもしれないぞ。
気を付けよう、クラリッサ。明白な敵は今のところひとりだけだ。
……いや、フローレンスたちもいたな。
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