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娘は双子と仲良くなりたい

……………………


 ──娘は双子と仲良くなりたい



 北ゲルマニア連邦の大使のところの双子。トゥルーデとフェリクス。


 見た目はそっくりなものの、性格は真逆。


 トゥルーデは社交的ですぐにクラスに馴染み、多くの女子生徒たちと仲良くしている。対するフェリクスは休み時間は必ずと言っていいほどにクラスにおらず、いたとしてもぼーっと窓の外を眺めていて、話しかけてくる人間を睨みつける。


「トゥルーデ。ちょっといいかな?」


「はい! なんですか、クラリッサ・リベラトーレさん?」


 昼休み。クラリッサが学食で友達と食事しているトゥルーデに話しかけるのに、トゥルーデが笑顔で応じた。


「クラリッサでいいよ。ところで、君の弟は学食で食事しないの?」


「うーん。フェリちゃんはお弁当持ってきてるから学食では食べないかなー」


「フェリちゃん……」


 クラリッサはトゥルーデのフェリクスへの呼び方に戦慄した。


「なんでも一緒って聞いたけど、そこは違うんだ」


「そうですね。フェリちゃんにも学食が美味しいから学食で食べようって何度も誘ってるんですけど、振られちゃってて……。どうしたら、フェリちゃんと一緒に食事できるとお思います? もう切なくて胸が痛いです」


「……とりあえず、そのフェリちゃんって呼び方やめたらどうかな」


 フェリクスも人前でフェリちゃん、フェリちゃんと呼ばれるのは嫌だろう。


「それをやめるなんてとんでもない。フェリちゃんとトゥルーデは将来の愛の誓い合った関係なんです。フェリちゃんはトゥルーデだけに許された呼び方。なのに、フェリちゃんってば小学校5年生辺りからあんまり一緒にいてくれなくなって。でも、この間、髪をおそろにしたら、髪型を合わせてくれるようになったんですよ!」


「君たち姉弟の間に重大な行き違いがあることは分かった」


 フェリクスが姉と将来の愛を誓い合ったとか初耳である。


 それに髪を切らなくなったのは、トゥルーデが無理に髪を合わせてくるからである。


「クラリッサさんはひとりっ子ですか?」


「うん。私はひとりっ子。ママは私を生んでからあまり長く生きられなかったから」


「そうでしたか。すみません。けど、姉弟がいるのいいですよ。血で結ばれた関係ですからね。他のどんな関係にも勝ります。フェリちゃんにはトゥルーデしかいないし、トゥルーデにはフェリちゃんしかいなんです。尊いでしょ?」


「う、うん」


 珍しく押されているクラリッサである。


「それなのにフェリちゃんってば最近は全然付き合ってくれない……」


「ちょっと距離を置くのも重要だと思うよ。新しい発見もあるかもしれないしさ」


「あり得ないです! このトゥルーデがフェリちゃんのことで知らないことなんてないですから! 何ならフェリちゃんのほくろの数だって言えます!」


「そ、そうなんだ」


 この姉弟、やばいのでは? と思い始めたクラリッサだがここで引くわけにはいかぬのだ。トゥルーデとフェリクスの父はリーチオのビジネスパートナー。ここは子供同士も仲良くして、ファミリーの大切なビジネスを大事にしたい。


「なら、フェリクスがどこで食事しているか知ってる?」


「フェリちゃんなら屋上で食事してると思いますよ。この間も一緒に食事しようって誘ったら、ひとりで食べるからいいって言って屋上の方に行きましたから。それに屋上の方から私のお姉ちゃんセンサーがフェリちゃんの気配をビンビン感じます」


「そうか。ありがとう」


 クラリッサはトゥルーデに礼を言うと、早速屋上を目指した。


……………………


……………………


 王立ティアマト学園には屋上はいくつかある。


 初等部第第一校舎の屋上。初等部第二校舎の屋上。中等部校舎の屋上。高等部校舎の屋上。この他にも部室棟の屋上などがある。


 だが、初等部や高等部に所縁のないフェリクスがそちらの方の屋上に行ったはずもなく、部活にも入っていないフェリクスが部室棟の屋上にいるとも思えない。


 必然として中等部校舎の屋上が選ばれた。


 クラリッサは階段を駆け上り、屋上を目指す。


 すると、なにやら騒がしい声が聞こえてきたのである。


「──ざっけんな! いかさまだ!」


「そっちこそふざけんなよ。これがいかさまなわけがないだろう」


 何やらもめている男子生徒たちの声だ。


 クラリッサは興味津々で屋上を目指す。


「金は払わねえぞ。こんないかさまに付き合ってたまるか」


「おい。金は賭けたんだ。ちゃんとおいていけ。それとも痛い目見たいのか?」


 クラリッサがひょいと屋上をのぞき込むと大柄な男子生徒がフェリクスに絡んでいた。床にはカードが散らばっており、カードゲームをしていたようである。カードゲームで賭けをするのは校則でご法度のはずだが。


「痛い目が見たいのかって? お前みたいな女のような奴に何ができるっていうんだよ。『お姉ちゃん、助けてー』って言いつけにでも行くのか──」


 次の瞬間、大柄な男子生徒の体が宙を舞い、床にたたきつけられた。軍隊格闘術だ。


 フェリクスは受け身を取る余裕もなかった男子生徒の股間に足を乗せると、じわりと体重をかけて股間を踏みつけた。


「誰が女みたいだって? そういうお前こそ、女の子にしてやろうか?」


 フェリクスは過去最高に悪い笑みを浮かべると、股間に体重をかける。


「ま、待ってくれ! 待ってくれ! 俺が悪かった! 金はおいていく!」


「結構。金置いたらでていけよ」


 男子生徒が財布から5000ドゥカートほど散らすと、フェリクスは男子生徒の股間を踏むことを止めて、男子生徒を解放してやった。男子生徒はそのまま這う這うの体で屋上から逃げ出していき、潜んでいたクラリッサに気づくこともなく、階段を駆け下りた。


「そこでいつまで見てるつもりだ」


「ありゃ。気づいてた?」


 そして、クラリッサがひょっこりと屋上に姿を見せる。


「お前もゲームがしたい、ってわけじゃないだろう」


「ゲームはしたいよ。前々から学園でこういうことができないかって思ってたんだ。文化祭でもカジノをやろうとしたけど却下されたし、体育祭で賭けをしようとするのも却下されたし、こういう闇カジノは金稼ぎにちょうどいいよね」


「お、おう……」


 クラリッサがこれまでの経緯を説明するのにフェリクスが僅かに引いた。


「さて、カードを貸して。これからは私が胴元を務めるよ。みんなで楽しくゲームしよう。まあ、任せておきなよ。こう見えてもギャンブルには詳しいんだ」


 そして、勝手に仕切り出すクラリッサである。


「君たちはこれまでなんで遊んでた?」


「ブラックジャックで……」


「じゃあ、気分転換にポーカーにしよう。大丈夫ルールが分からなかったら教えてあげるから。それとももう知ってるかな」


「まあ、一応は」


 クラリッサはジャンジャンとゲームを進め行く。カードをシャッフルし、どこから取り出したのか賭け金に応じたチップを配り、カードを配っていく。


「それでは始めようか」


 そう告げてクラリッサはにやりと笑った。


 ゲーム開始から20分後。


「だー! 惜しかった! 惜しかった! 今のは勝ててたのに!」


「残念だったね。けど、大丈夫。次があるから」


 悔しがる男子生徒たちを前にクラリッサがチップを分配していく。


「次は勝てるよ。間違いない。勝ったらここはひとつ彼女にプレゼントでもするといいんじゃないかな。最近、仲いいんでしょ、1年C組の子と。私は応援してるよ。次こそはゲームに勝って大金を手に入れよう」


「おうよ!」


 男子生徒は意気込みを新たにした。


 そこでチャイムが鳴り始める。


「やべっ。時間だ。楽しかったぜ、フェリクス、クラリッサさん!」


「またどうぞ」


 クラリッサはカードをシャッフルしてフェリクスに返した。


「さて、これが私たちの稼ぎだ。分け前は均等に1対1でね」


「……ゲームに参加してない胴元がどうやって稼いだんだ?」


「君は控除率って言葉をしらないのかな? 私はさっきのゲームで1ゲームにつき5%の控除率を設定していた。みんなが1万ドゥカート賭けるなら、その中から500ドゥカートは私たちがいただく。誰が勝とうとも負けようとも関係ない。彼らは控除率を差し引いた額の中で賭け金を動かすだけなんだよ」


「ずるくないか?」


「ゲームを仕切るのだって重要な仕事だよ。ああして私がより多くのお金を賭けるように諭して、ゲームを盛り上げて、楽しい雰囲気の中で不正なくゲームができるのは胴元のおかげ。そうなんだから手数料はもらわないとね」


 クラリッサはそう告げて2000ドゥカートをフェリクスに手渡した。


「まあ、今はお使い賃ぐらいだけど、これからビジネスを拡大していこうね」


「拡大していこうね、って何するんだ……?」


「……? だから、闇カジノを運営するんだよ。この学園内で」


 フェリクスが告げるのにクラリッサがきょとんとした様子で首を傾げる。


「ちょっと待てよ。闇カジノ? 俺たちはただカードゲームで遊んでただけで……」


「でも、賭けてたよね、お金。それはもうカジノだよ。腹をくくろう。そして、大儲けしよう。私たちで学園のトップを取りに行こう」


「……マジでお前が一番のワルだったんだな……」


 サンドラとウィレミナの話は事実だったと実感したフェリクスであった。


「これからは空き教室を使おう。安心して。教師陣は買収しておくから。ルーレットとかも持ち込みたいところだね」


「で、俺は何をすればいいんだ?」


「君はカジノスタッフのスカウトと警備。行儀の悪いお客さんがいたら叩き出して。私は女の子でか弱いからそういうことできないし」


「分かった。信用できそうな奴を誘っておく」


 段々乗り気になってきたフェリクスだ。


「それじゃあ、始めようか。私たちのゲームを」


……………………


……………………


 クラリッサとフェリクスの闇カジノは今は使われていない教室を利用して行われた。


 スタッフはクラリッサが訓練を施した男子生徒が2名。それぞれブラックジャックとルーレットを担当する。クラリッサは引き続きポーカーを担当し、フェリクスは不正行為の確認とカジノ内の警備を担当する。


 客は客同士の招待制で、ここのことを密告せず、それでいて金払いのいい客が選ばれている。貴族の学校なだけあって、金払いは非常によく、カジノではそれなりの規模の金が動いていた。当然ながら胴元であるクラリッサたちに流れ込む金もそれなりだ。


「今日は勝てたね。今日は幸運の女神が微笑んでいるのかも。そういうときはもっと勝負にでるといいことがあるかもしれないですよ。もちろん、ここでゲームを下りて、そこそこのお金でそこそこの贅沢をするというのもありでしょうが」


「おっしゃ。もっと勝負するぞ」


 クラリッサの煽りスキルは半端なく、彼女が声をかければ負けかけている客も、大勝ちしている客もバンバンと賭けていく。そこから控除率が差し引かれるのだから、カジノとしては勝負に出てもらえば出てもらうだけ大儲かりだ。


 クラリッサは言葉巧みに大金を賭けさせ、カードを操っているかのように勝たせ、負かし、ゲームをより興奮へと導いていく。


「ふう。今日も随分と儲かったね」


「お疲れ様です、姉御」


 放課後も6時を過ぎると闇カジノも閉店。


 クラリッサはフェリクスの紹介したスタッフたちに姉御として慕われている。


「本当に凄いよな、お前。どこでそんな技術身に付けたんだよ」


「ファミリーにそういうのが得意な人がいたからね。よくよくゲームを見させてもらったんだ。そこで覚えたんだよ」


 クラリッサのリベラトーレ・ファミリーでは闇カジノを至るところで運営している。クラリッサはピエルトなどに連れられてそういうお店に入り、そこでディーラーたちがいかに巧みに客たちを扇動するか、ゲームを盛り上げさせるかを学んでいた。


 ちなみにこのことはリーチオには内緒だぞ。ばれたらクラリッサを闇カジノに連れて行ったピエルトが不味いことになるぞ。


「では、本日はこれで失礼します」


「また明日ね」


 フェリクスの紹介した男子生徒2名は帰宅していった。


「それにしても、君は自分のお父さんが何しているのか知ってる?」


「外交官だろ。最近、俺たちの北ゲルマニア連邦が統一されて、アルビオン王国が危機感を抱いているっていうから、それを解消するために親父が派遣されたはずだ」


「それ以上のことは?」


「……知ってるのか?」


「知ってるよ」


 フェリクスが真剣な表情でクラリッサを見るのに、クラリッサが軽くそう返す。


「……なんでもこの街の犯罪組織とつるんで、高級ホテルで闇カジノをやっているらしい。具体的な話は知らないが、親父はよくよく夜中に出かけて帰ってこないし、親父の前任者もそうだったらしいから、本当なんだろうな」


「本当だよ。そのビジネスパートナーがうちのパパだもん」


「え?」


 クラリッサがさらりと告げるのにフェリクスが固まる。


「まだ言ってなかったっけ。私はクラリッサ・リベラトーレ。リベラトーレ家の娘。そして、君のお父さんが一緒になって闇カジノをしているのは、私たちリベラトーレ・ファミリーなんだよ? 知らなかった?」


「お、おま、マフィアの娘ってことか……?」


「そうだけど」


 混乱するフェリクスにクラリッサが肩をすくめた。


「……お前が本当のワルだっていうの、ようやく完全に理解したわ……」


「悪いことはしてないよ。みんなを楽しませているだけだよ」


 フェリクスが告げるのに、クラリッサがそう告げて返す。


「何はともあれ、これからもよろしく、フェリクス」


「ああ。これからもワルなことしようぜ」


 よかったね、フェリクス! とんでもないワルのお友達ができたよ!


……………………

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[良い点] いつの間にかフェリちゃんをクラリッサが攻略してるw [一言] クラリッサは最近は珍しいマジもんのワルですもんね。
[良い点] 実用カジノ講座でした。 [気になる点] 最初のやり方だと、裏通りを歩けなくなります。 [一言] ついに学園支配がはじまった。
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