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娘は友達の誕生日を祝いたい

……………………


 ──娘は友達の誕生日を祝いたい



 まだクラリッサはサンドラとポリニャック伯爵のことを知らないまま、8月1日のフィオナの誕生日を迎えた。今年はみんなでフィオナのことを祝いたいということもあって、誕生日パーティーはフィッツロイ家の屋敷ではなくホテルで行われることになった。


「クラリッサちゃん。緊張しますな」


「何が?」


「だって、このホテルってばとても高級そうじゃないですか」


「この間、ここでうちのパパの誕生日パーティーしたよ。ここもうちのシマだから」


 クラリッサがそう告げたのにウィレミナは硬直した。


「え? え? マジで?」


「マジで」


 フィオナの誕生日パーティーの開催場所はリーチオの誕生日パーティーが行われた場所と全く一緒だ。そして、このホテルを所有しているのもペーパーカンパニーを通じて資金洗浄を行っているリベラトーレ・ファミリーなのである。


「クラリッサちゃんのとこ、マジでヤバいな」


「何もヤバくないから。ほら、行こう?」


「了解。それにしても──」


 ウィレミナが周囲を見渡す。


「サンドラちゃん。来なかったね」


 そう、サンドラがいない。


 いつものクラリッサ、ウィレミナ、サンドラという3人組が今日はクラリッサとウィレミナだけだ。サンドラはフィオナへのプレゼントの購入にも現れなかった。


「大丈夫。きっと新学期には会えるから」


 クラリッサはリーチオを信頼している。リーチオならばサンドラを悩ましている結婚問題を解決して、サンドラを望まぬ結婚から解放してくれるのだと。


 そして、それは着々と進行中のことであった。


「それにしても公爵家の誕生日パーティーなんて緊張してくるー。あたしなんかが参加してもいいものなのかな。きっと招待客も凄いことになってるよ」


「みんなにお祝いしてほしいってフィオナが言ったんだよ。なら、みんなでお祝いしてあげないと。公爵家だろうと平民だろうと誕生日は大勢に祝ってほしいものさ」


 ウィレミナが告げるのに、クラリッサがそう返してホテル内を進む。


 クラリッサもウィレミナもフォーマルな場に相応しいドレスを纏っている。クラリッサの新調した藍色のドレスで、ウィレミナのは姉のお下がりの朱色のものだ。


 恐らくフィオナは白系統か桃色系統のドレスを纏ってくるはずだ。ドレスの色が被ることはないだろう。ドレスに問題はない。


 プレゼントもきちんと用意した。抜かりはない。


 さて、フィッツロイ家の人々はクラリッサとウィレミナを温かく迎えてくれるだろうか? それはクラリッサたち次第である。


「失礼。招待状を」


「ん」


 クラリッサはフィオナから渡された誕生日パーティーの招待状を入り口の警備員に手渡す。リーチオの誕生日パーティーのときもこうして警備員──というか、ファミリーの構成員が控えていたので、クラリッサには慣れたものだ。


「クラリッサ・リベラトーレ様とウィレミナ・ウォレス様ですね。どうぞこちらへ」


 無事に警備を抜け、クラリッサたちはパーティー会場に通された。


「クラリッサさん!」


 パーティー会場に入った途端にクラリッサたちはフィオナに歓迎を受けた。


「ウィレミナさんも。お待ちしていましたわ」


「私も君の誕生日を祝える日を待っていたよ、天使の君。誕生日おめでとう」


 クラリッサはそう告げてバラを差し出す。


「まあ、素敵なバラですわ! もう、クラリッサさんは何をしても様になるからずるいですわ! 乙女心に突き刺さってしまいますわ!」


「ふふ。そう言ってくれると嬉しいよ」


 これを見ていたウィレミナは『あれ? フィオナさんの婚約者ってジョン王太子だったよな? クラリッサちゃんじゃないよな?』と思っていた。


「クラリッサ嬢! 何をきざな真似をしているのだね!」


「あ。君も来ていたのか。なんで?」


「私は婚約者だよ!?」


 そして、本来の婚約者であるジョン王太子が姿を見せた。


「そうだったっけ? そんな気がしていたようなしていないような……」


「君という人は全く! フィオナ嬢、改めて誕生日おめでとう。わ、私からも……」


 クラリッサが首をひねるのに、ジョン王太子はフィオナの方を向いた。


「まあ、ガーベラの花束ですの。ありがとうございます、殿下」


「気のせいかさっきよりテンションが低くないかな……」


「クラリッサさんのは初めてのことでしたので、いろいろとテンションが上がりましたわ。殿下のも嬉しいのですが、クラリッサさんを既に体験していますので……」


 フィオナの言葉にジョン王太子は倒れそうになっている。


「クラリッサ嬢。君は一体どこでそんなきざな真似を学んでいるのだね?」


「企業秘密だよ。君も女の子を口説きたかったらいろいろと学ばなきゃ。今度、私と一緒にいろいろと学びに行くかい?」


「む。気になる話だが、君とふたりっきりだとまたフィオナ嬢に誤解されてしまいそうだからな。考えさせておかせてもらうよ」


 ジョン王太子は浮気疑惑事件の時の衝撃がまだ堪えているぞ。


「それにしても君はフィオナ嬢を本気で口説こうとしているわけではないよな? 君は異性愛者だろうね? 違ったとしても、フィオナ嬢は私の婚約者だからね?」


「私は女の子が幸せであってくれればそれでいいと思っている人間だよ」


「……男子は?」


「男の子は自分で幸せを掴み取ろう」


 クラリッサが優しいのは女の子相手の時だけだ。


「それにしてもフィオナ。君の今日のドレスは桃色なんだね。綺麗だよ。君のドレス姿はいつだって美しいけれど、誕生日という新しい節目にはより一層美しく見えるというものだね。私も君のように輝ける日が来れるかな?」


「ええ、ええ! もちろんですわ! クラリッサさんの誕生日パーティーにも是非とも私を招いてくださいまし!」


「ありがとう、フィオナ」


 フィオナの言葉にクラリッサが優しげに微笑む。


「だーかーらー! 私の婚約者を口説かないでくれないか、クラリッサ嬢! 君が相手だと本当にフィオナ嬢を取られてしまいそうで心配なんだよ!」


「フィオナは正しい方を選ぶと思うよ?」


「はっきりと否定してくれないかな!?」


 クラリッサはジョン王太子をおちょくるのが楽しいだけではなかろうか。


「それからフィオナ。誕生日プレゼント。開けてみて」


「ありがとうございます、クラリッサさん」


 クラリッサが包みを手渡すのに、フィオナが丁重に包みを開ける。


「これは……。まあ、真珠のネックレスではないですか。素敵ですわ!」


「そのドレスに合うと思うからよかったらつけてあげるよ」


「お願いしますわ!」


 クラリッサが告げるのに、フィオナが髪をかき上げてうなじを見せた。


「はい」


 クラリッサは手慣れた様子で真珠のネックレスをフィオナの首に止める。


「やっぱり似合っているよ、フィオナ。とても綺麗だ」


「はあ。嬉しいですわ……。殿下、どうでしょう?」


 フィオナが楽し気に笑ってジョン王太子の方を向く。


「私はクラリッサ嬢に君を奪われた気分だよ、はは……」


「もー。私は殿下のことを愛しておりますわ」


 ジョン王太子が放心状態で笑うのに、フィオナがむすっとして見せる。


「あのー。フィオナさん、私からも一応プレゼントを」


「まあ、ありがとうございます、ウィレミナさん」


「本当に粗末な品ですが受け取ってください。クラリッサちゃんみたいなものではないので本当に期待しないでください。お小遣いの範囲で買ったものなので絶対に期待しないでください。あと、ごめんなさい……」


「なんで謝るんですの!?」


 ウィレミナはクラリッサのプレゼントの質の高さに打ちのめされていた。


「まあ、クッキーの詰め合わせではないですか。それもとてもいいお店の。ウィレミナさんってばあんまり期待するなとかおっしゃるから何が出るかと心配になりましたわ」


「気に入ってくれたならなによりっす!」


 ウィレミナはお小遣いを頑張って出して、高級菓子店のクッキーをフィオナにプレゼントしていた。彼女的には自信がなかったらしいが、フィオナは嬉しそうだ。


「ところで、ジョン王太子は何をプレゼントされたんです?」


「……本」


「本」


「ロマンも何もないとか思っただろう!」


「思ってないですよ!」


 ジョン王太子が急にキレるのにウィレミナが叫ぶ。


「私は正直なところアクセサリーの良し悪しは分からないし、どのようなものがフィオナ嬢に似合うのかも分からない。だから、本にしたんだ。本ならば読めば知識になるし、要らなければメモ帳にでも、インテリアにでも……」


「ジョン王太子! そこまで卑下しないで!」


 ジョン王太子はずーんと落ち込んでいる。


「殿下。殿下のプレゼントもとても嬉しかったですわ。私の好みの本でしたし、殿下も私のことを理解してくださっているのだと思いましたの。だからそんなに落ち込まないでくださいまし。プレゼント、とても嬉しかったですわよ」


「フィオナ嬢……」


 フィオナがそう告げるのに、ジョン王太子が天使でも見るような眼をしていた。


「ちなみに私のプレゼントとジョン王太子のプレゼントのどっちが──」


「はいはい。クラリッサちゃんはもう手出し禁止だよ」


 余計なことを言おうとするクラリッサをウィレミナが黙らせた。


「クラリッサさん、ウィレミナさん。私、皆さんとお友達になれて本当に良かったと思っていますわ。私、あまり人とコミュニケーションを取るのが苦手で、昔は高圧的に出てばかりでしたの。でも皆さんのおかげで成長できましたわ」


「それはよかった。私と最初に出会った時の君も可愛かったけれどね」


「も、もう、からかわないでくださいまし、クラリッサさん」


 クラリッサと最初に出会った時のフィオナはクラリッサに喧嘩を売っていたぞ。


「友達が来てくれたのかい、フィオナ」


「はい、お父様」


 クラリッサたちがそんなやり取りをしていると、向こうからフィオナの父親がやってきた。現フィッツロイ家当主である人物だ。


「お久しぶりです、公爵閣下」


「畏まらないでくれ。君たちはフィオナの友達だし、今日はフィオナのためのパーティーだ。君たちは気軽に過ごしてくれ」


 クラリッサが本性を隠したような優雅な挨拶をするのにフィオナの父はそう告げた。


(畏まらないでくれと言われても……)


 ウィレミナが周囲を見渡す。


 周囲は政府の要人であったり、高位の貴族であったりと豪華な面子が揃っている。貧乏男爵家の娘に畏まるなという方が無理な話だ。


 というか、この状況で平然としてられる平民のクラリッサはちょっとおかしい。


「フィオナ。夏だし、来年は海辺でパーティーというのも悪くないよね」


「そうですわね。水着パーティーなんていいですわ!」


 そう、平然である。これだけの面子に囲まれてもクラリッサはいつも通りだ。


 それもそうだろう。クラリッサの誕生日に来るのは敵対者をミンチにしたり、生きたまま豚に食わせたりすることに定評のあるベニートおじさんを筆頭に、血なまぐさい面子が揃っているのだ。貴族は敵対しても相手をミンチにしたりしないので、怖くないというのがクラリッサの感想である。


 嫌な場慣れもあったものだ。


「ところで、今日はサンドラさんは一緒ではないんですの?」


「サンドラは家庭の事情があるんだ。でも、大丈夫。来年の誕生日にはサンドラも一緒に来るよ。私たちは一緒にまた誕生日を祝える」


 フィオナが周囲を見渡すのにクラリッサは力強くそう告げた。


「ジョン王太子」


「何かね、クラリッサ嬢」


「君には貸しがふたつあったよね?」


「あ、ああ。そうだったな」


 クラリッサが不意に告げるのにジョン王太子が戸惑う。


「ここでひとつ返してみない? 君にしか頼めないことなんだけど」


 クラリッサはそう告げてその内容を語った。


……………………

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