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娘は友達と最後の時間を過ごしたい

……………………


 ──娘は友達と最後の時間を過ごしたい



「パパ。合格だって」


「おお! やったな! よくやった!」


 クラリッサが告げると、リーチオがクラリッサを抱擁した。


「ウィレミナも、ジェリーも、アガサも合格だから大学に入っても友達はいるよ」


「よしよし。心配せずとも済みそうだ。本当に寮に入るのか?」


「うん。生活力を養いたいからね。それに友達とルームメイトで一緒に過ごすっていうの悪くないでしょ?」


「確かにな。少し心配になるが、お前を信じてみよう」


 リーチオにも大アルビオン王国勲章が与えられ、加えて準男爵の地位が与えられた。平民だったリーチオもこれで貴族である。一代限りなので、クラリッサに引き継がれることはないものの。


 それはそうとクラリッサの寮での生活についてはいろいろと論争があった。


 リーチオはクラリッサに寮生活など絶対に無理だから、近くに家を借りて、そこから通いなさいと当初は言っていた。クラリッサは反発したものの、実際にクラリッサの生活力では寮生活はやれそうになかった。


 だが、そこで起きたのがロンディニウム塔事件だ。


 あれを見事に解決して見せたことで、リーチオもクラリッサを信頼し、寮生活も大丈夫なのではないかと態度を軟化させた。


 そして、今に至る。


「寮生活、頑張るよ」


「ああ。人生でも大事な大学時代だ。頑張ってこい。勉強もだぞ?」


「もちろん」


 クラリッサは力強く頷いて返した。


「それはそうと。パパ、パーティーだよ」


「……何のパーティーだ?」


「お別れ会と合格祝い」


 そうである。


 大学に合格して3月の卒業式を終えたら、みんなそれぞれの道に進むのだ。


 そこでお別れである。


「卒業式の時にパーティーがあるだろ。お前の合格祝いのパーティーはしてもいいが」


「学園の卒業記念パーティーは絶対につまらない。私たちがやった方がいい」


「お前という奴はなあ……」


 学園の催すの行事は自分たちが運営に携われないならつまらないと決めつけているクラリッサであった。


「そもそもお前の友達は全員合格したのか?」


「……分からない」


「合格してないのに合格祝いパーティーとかやったら嫌味だと思われるぞ」


 クラリッサはオクサンフォード大学から直帰したので、まだサンドラたちの受験結果について聞いていないのである。


 アルビオン王国の大学の合格発表日は同じなので、今頃はサンドラたちも合否の判定を目にしているはずである。


「明日、みんなに聞いてくる。それでみんな合格だったらパーティーね」


「分かった、分かった。パーティーにしてやろう」


 というわけで、全員が合格しているかを確認することになったクラリッサだ。


 果たしてみんなの成果はどうかな?


……………………


……………………


 大学の合格発表が終わると高等部3年の教室はがらんとしている。


 もう教わることはないので学園に来ないという生徒がいるのだ。


 だが、部活動などに参加していた生徒たちは後輩との別れを惜しむために登校している。登校しても授業などはないので、本当にお喋りをして過ごすだけだが。教える側にとっても大学に合格してくれたら教えることはないのだ。


「あ。先生」


「む。クラリッサ・リベラトーレか。無事に合格できたか?」


 クラリッサは学園の敷地に入るとちびっこ魔術教師と遭遇した。


「ばっちり合格しました」


「何よりだ。それにお前は平和をもたらしてくれたしな。勲章をもらったのだろう」


「イエス。大アルビオン王国勲章をもらったよ」


「私の教え子の中から勲章をこうも若くして授かるものがいるとはな」


 ちびっこ魔術教師はうんうんと頷いた。


「先生も勲章もらったことある?」


「東部戦線で従軍中にヴィクトリア十字章を授かったことがある。それだけだ」


「先生も勲章持ちか」


 クラリッサはこの教師ならそれぐらいもらうだろうと納得した。


「クラリッサ・リベラトーレ。これからもきちんと学業に励むのだぞ。大学に入ったからと言って気を緩めるな。立派な社会人になるためには、大学においても学業に励まなければならん。分かっているな?」


「了解。分かっているよ、先生」


「よろしい。ならば、貴様のこれからの幸運を祈ろう」


 そう告げてちびっこ魔術教師は去っていった。


「さてさて。教室にっと」


 クラリッサは教室に向かう。


「こんちはー」


 やはり高等部3年の教室は閑散としていた。


 教室にいたのはフェリクスとクリスティンとトゥルーデだけである。


「よう。フェリクス、クリスティン、トゥルーデ」


「よう。クラリッサ」


 クラリッサが手を振るとフェリクスが振り返してきた。


「フェリクスたちの受験の結果はもう出た? 北ゲルマニア連邦はアルビオン王国とは発表時期が違うでしょ?」


「もう出てるぞ。そっちが受験中だった時期にな。3人とも合格だ」


 フェリクスはにやりと笑ってそう答えた。


「おおー。やったじゃん、フェリクス。これで冒険家になれるね」


「ああ。夢に一歩近づいたってところだ」


 フェリクスの冒険家になるという夢は着々と進みつつある。


「クリスティンもフェリクスのお嫁さんに近づいたね」


「う。そ、そうですよ! お嫁さんになりますよ! 子供は3人で!」


「もう子供のこと考えているのは重いよ」


 普通に突っ込まれたクリスティンだった。


「まだお姉ちゃんは認めてないからね? フェリちゃんのお嫁さんになっていいって認めてないからね? フェリちゃんと結婚するつもりなら私を倒していって!」


「いい加減諦めなよ、トゥルーデ」


 トゥルーデには夢もへったくれもなかった。


「ところでいつもの面子は登校してきてる」


「してきてるぞ。ウィレミナは陸上部に、サンドラは魔術部に、フィオナとジョンは手芸部に、ヘザーは文芸部に。それぞれ顔を出しに行った。俺たちは特に用事はないけど、6年間過ごした場所だから思い出にと思って見に来たところだ」


 フェリクスはそう答えた。


「あれ? 今来なくても卒業式があるよ?」


「卒業式に出席できるかが分からん。引っ越しやらの準備もあるし、親父のパーティーにも出席しなければならないし」


「そっかー。でも、それは都合がいい。みんなが合格してたらパーティーやるから、それに出席してよ。3月上旬なら暇でしょ?」


「む。特に用事はないな。いいぞ」


「クリスティンたちは?」


 クラリッサが尋ねる。


「いいですよ。私も出席します。フェリクス君の彼女ですから」


「トゥルーデも出席するわ! フェリちゃんのお姉ちゃんだから!」


 というわけで3名確保。


「それじゃあ、他の子たちの様子を聞いてくる」


「おう」


 クラリッサはまずは陸上部へ。


 ウィレミナが合格しているのは分かっているが、パーティーに参加してくれるかどうかはまだ分からないのだ。


 ウィレミナは陸上部の部室にいて、後輩の子たちと話しているところだった。


「やっほ。ウィレミナ。今、大丈夫?」


「ん? 何か用事?」


 ウィレミナは首を傾げた。


「今度、いつもの面子が合格してたら、合格とお別れパーティーをするつもりなんだけど、出席できそう? ちなみにパーティーは3月上旬ね」


「そういうことなら参加させてもらうぜ!」


 ウィレミナはこぶしを突き上げてそう宣言した。


「よしよし。ウィレミナも出席ね。……やっぱり卒業すると寂しい?」


「んー。確かにみんなとは離れ離れになるし、部活からも離れるけど、それでも前進したって感じはするぜ。いつまでも高校生でいるわけには行かないからな。これからも前進を続けて、いろんな人と出会って、知り合って、友達になっていくぜ」


「ウィレミナはポジティブ思考だね」


「そうでなきゃ、いちいちめそめそするのもあれだし」


 ウィレミナはそう告げて微笑んだ。


「実際のところは?」


「めっちゃ寂しい……」


 ウィレミナがどんよりする。


「まあまあ。同窓会とかして、また会うし。そこまで落ち込まない」


「だよね。落ち込んじゃダメだ」


 ウィレミナは弦を取り戻した。


「それじゃあ、ウィレミナは出席ね。他の子たちの様子を聞いてくる」


「了解。楽しみにしてるぜ」


 ウィレミナの見送りを受けて、クラリッサは魔術部を目指して進んでいった。


「サンドラ、サンドラ。いる」


「ああ。クラリッサちゃん」


 魔術部の一面が魔導書で埋め尽くされたそこにはサンドラと後輩の姿があった。


「サンドラ。入試、どうだった?」


「ふふふ。なんと、合格です!」


「おー。やったじゃん。これで宮廷魔術師の道が開けたね」


「うんうん。試験やってるときはいっぱいいっぱいだったけれど、なんとか合格できたよ。発表があるまでこれはダメだって思ってたけど、無事に合格! これで博士号まで取れれば無事に宮廷魔術師になれるよ!」


「まだなれると決まったわけじゃないでしょ」


「もー。クラリッサちゃんは人の喜びに水を差さないでよ」


 宮廷魔術師になるには一定の研究成果とまた試験が必要になる。何せ国立研究所の研究員になるわけだからね。公務員なのだ。


「サンドラもやっぱり寂しい?」


「寂しいね。同窓会とかあるのは分かっているけど、いつもみたいにわいわいいつものメンバーで騒げないっていうのはやっぱりつらいよ。けど、大学に入ったら新しい友達を作るからね。大学でも大勢友達を作って、楽しく過ごすんだ」


「サンドラもポジティブ思考でいいね」


「クラリッサちゃんはアガサさんとウィレミナちゃんが一緒でしょ。いいなー」


 サンドラはちょっと残念そうにそう告げた。


「サンドラは魅力的だから友達はいっぱいできるよ。だから、そんなに寂しがらないで。できた友達を同窓会ででも紹介してね」


「うん。分かった。頑張るよ」


 サンドラはにこやかな笑顔でそう告げた。


「ところで、いつもの面子が合格してたら合格祝いパーティーをしようと思うんだけど、3月上旬に何か予定ある?」


「特にはないよ。3月下旬だと寮への引っ越しとか手続きとかで忙しいけど」


「なら、参加してくれる?」


「喜んで」


「よし。サンドラも参加っと」


 これで5人目。


「それじゃあ、フィオナたちのところに行ってくるよ」


「いってらっしゃい」


 サンドラの見送りを受けて、クラリッサは手芸部へ。


「はろー。フィオナ、それからジョン王太子」


「あら、クラリッサさん。いらっしゃいませ」


 フィオナたちも手芸部も後輩たちと話していた。


「フィオナも別れを惜しんで?」


「そうですね。それから完成作品について話を。この刺繍を作ったですの」


「おおー。よくできてる。流石はフィオナだ」


 フィオナの刺繍は細やかで色鮮やかだった。貴族ともなると刺繍などを趣味にするというがフィオナはまさにそれだったらしい。


「ところで、フィオナ。受験、どうだった?」


「はい。無事に合格しました。多分、ギリギリの合格ではなったのでしょうか」


 フィオナはそのような風に謙遜しているが、本当は推薦入試枠でもトップクラスの合格だったぞ。流石は公爵令嬢だ。


「うんうん。フィオナも無事合格か。よかった、よかった」


「クラリッサ嬢。先ほどから不自然なほどに私を避けているのは何故かな?」


「……傷口を抉るのはやめてあげようと思って」


「傷口なんてないよ! 私もちゃんと合格しているよ!」


「嘘……」


「嘘じゃない!」


 ジョン王太子も苦手分野を克服して無事に合格出来ているぞ。


「そっかー。ジョン王太子も合格かー。よかった、よかったー」


「その棒読みはやめてくれないかね」


 クラリッサはまるで感情が籠ってないない声でそう告げた。


「それで、フィオナ、ジョン王太子。今度、みんなが合格していたら合格祝いパーティーをやつるもりなんだけど、出席してくれる?」


「ええ。よろこんで。卒業記念パーティーも楽しみですけれど、身内で祝うパーティーもいいものですわね」


「そうそう。いいものだ」


 フィオナは承諾。


「ジョン王太子も来てくれるよね?」


「フィオナ嬢が行くなら喜んで参加しよう。いつごろだい?」


「3月上旬を予定している。具体的なことが決まったら知らせるよ」


「うむ。分かった」


 こうして7人を獲得。


「それじゃあ、また会おう」


「ああ。また会おう」


 こうしてジョン王太子とフィイオナと分かれた。


 次に向かうのはヘザーの文芸部だ。


「……ヘザー。何しているの?」


「片付けですよう」


 フィオナは箱にたくさんの小説などを収めていた。


「それは残していかないの?」


「それがあ。後輩たちから全部部室から持って帰れと命じられてしまってえ……。いい本なんですけどねえ」


「ちなみに内容は?」


「サドとマゾのお話ですよう」


「持って帰れ」


 クラリッサも文芸部員の後輩たちと同じリアクションを取った。


「ちなみに、ヘザーは無事に合格できた?」


「できましたよう! これでロンディニウム大学でサドとマゾの心理学を学べますよう! 私的には不合格というのもおいしかったのですがあ……」


「美味しくないよ……」


 ヘザーは通常運転すぎて頭痛がする。


「それなら、今度いつもの面子で合格祝いパーティーするけど来る?」


「よろしければ参加させていただきますよう。それにいはドサドの執事さんは出席されますかあ?」


「ファビオも呼ぶ予定だよ」


「それならば是非とも!」


「言っておくけど、いかがわしいことはしないよ」


「残念ですよう……」


 ヘザーは心底がっかりした。


「さて、これで全員合格。全員出席。いい感じだ」


 クラリッサはパーティーを楽しみにした。


……………………


……………………


 3月上旬。


 クラリッサが催す合格祝いパーティーが開かれた!


 会場はプラムウッドホテルのロイヤルレセプションホール。


 招待客はサンドラたちの他に、リベラトーレ・ファミリーから数名。


「ちーす。クラリッサちゃん!」


「ちーす。ウィレミナ。おめかししてきたね」


「兄貴の奢りで作った卒業式用のドレス。いいでしょ?」


「うん。似合ってるよ」


 ウィレミナは紺色のフォーマルなドレス姿だった。


 今回は服装は自由なので何を着てきてもいい。


 クラリッサもトレードカラーの朱色のフォーマルなドレスを纏っている。


「こんにちは、クラリッサちゃん」


「ようこそ、サンドラ。サンドラもおめかししてきたね」


「えへへ。とっておきだよ」


 サンドラもフォーマルなドレスだ。


「よう。クラリッサ」


「よう。フェリクス。スーツ、似合ってるぜ」


「茶化すなよ」


 フェリクスクリスティン、トゥルーデが参上。


 クリスティンとトゥルーデはお互いにフェリクスの左右をキープしている。


「これで大学でフェリクスに恋人ができたらウケる」


「ウケませんー! フェリクス君の彼女は私です!」


 クラリッサが笑いながら告げるのにクリスティンが噛みついた。


「冗談、冗談。でも、クリスティンもフェリクスの彼女ならそろそろフェリクスのこと、呼び捨てにしてみたら?」


「む。親しき中にも礼儀ありという言葉がありまして。礼儀は重んじるべきです」


「でも、彼女だよ? 彼女が恋人を呼び捨てにしないとか、他の女の子に間違ったアピールをすることになるよ?」


「むむむむ。そ、それでは、フェリクス?」


 クリスティンは暫し唸った末にそう告げた。


「ああ。今度からはそう呼べ。君をつけられるとむずむずする」


「分かりましたよ、フェリクス!」


 クリスティンは満面の笑みだ。


「ああ。フェリちゃんがどんどんお姉ちゃんから離れていく……」


「姉貴のことも面倒見てやるから、そう落ち込むな」


 ブラコンは苦難の時代を迎えた。


「お邪魔しますよう」


 続いてヘザーがやってきた。


「おう。ヘザー、いらっしゃい。いいドレスだね」


「ええ。服装は自由と会ったので首輪だけで出席しようとしたのですが、屋敷の使用人全員に止められてしまいましたあ……」


「当たり前だよ」


 自由が過ぎる。


「けど、今日はドサドの執事様に会えるのでしょう!? 楽しみにしますよう!」


「いかがわしいことはしないよ」


 ヘザーはいつも通りだった。


「やあ、クラリッサ嬢」


「こんにちは、クラリッサさん。お招きいただきありがとうございます」


 そして、最後にジョン王太子とフィオナがやってきた。


「ようこそ。これで全員揃ったね。会場の方に向かおう」


「おー!」


 クラリッサたちはロイヤルレセプションホールへ。


「おお。豪華な料理だー!」


「もー。ウィレミナはすぐ料理に目が行くんだから」


 パーティーは立食式。それから楽団の音楽が付いている。


「むむむ。相変わらずクラリッサさんは金遣いが荒いですね」


「こういうときに堅苦しいこと言わないの」


 クリスティンが渋い顔をするが、クラリッサがそう告げて返した。


「そうですね。せっかくのお祝いですからね」


 クリスティンのだいぶ融通が利くようになってきた。


「あ。クラリッサさんのお父さん。こんにちは」


「ああ。今日は楽しんでいってくれよ」


 リーチオもパーティーには出席している。


 リーチオの他にファビオ、ピエルト、ベニートおじさんが参加していた。これはクラリッサの合格祝いでもあるのでしょうがない。


「それでは皆さん! 皆さんの合格を祝って!」


 クラリッサがぶどうジュースのグラスを掲げる。


「乾杯!」


「乾杯!」


 サンドラたちがクラスを掲げて乾杯した。


「クラリッサ嬢。聞こうと思ってなかなか聞けなかったのだが、ロンディニウム塔の戦いはいったいどうなっていたのだね。城壁は2か所で破壊されていたし、敷地内は水浸しになっていたが、何が起きたのだね?」


「アルフィが頑張ったんだよ」


「ア、アルフィが? ……警備に当たっていた兵士たちが言っていた巨大な化け物とはアルフィのことかね?」


「失礼だね。アルフィは可愛い使い魔だよ」


 あの時のアルフィは物凄かったぞ。


「はあ。それと聞いておきたいのだが、君は人狼ハーフなのかね?」


「ん。そうなるね。魔族が珍しい?」


「これからは魔族とも交友を持つのだ。珍しいなどとは言っていられない。だが、どうりで君と決闘などの勝負をしても勝てなかったわけだ……。ずるいぞ、クラリッサ嬢」


「私が人狼ハーフでなくても私が勝ってたよ」


「むぐぐ。悔しいがそうなんだろうな。君はよきライバルであった。これからも頑張ってくれたまえ。私も王族として頑張るつもりだ」


「おう。お互い頑張ろうね」


 ジョン王太子はにこやかな笑みを浮かべて去っていった。


「クラリッサさんともこれでお別れなのですね……」


「まだ卒業記念パーティーがあるよ、フィオナ。だけど、私も君の天使の羽のような髪を見ることができなくなるのは残念だな」


「も、もう、クラリッサさんったら。でも、クラリッサさんのおかげでコンプレックスを乗り越えられましたし、生徒会ではいろいろと楽しい思いをさせていただきました。思い出をありがとうございます、クラリッサさん」


「礼は必要ないよ。思い出はみんなで作ったんだ。私だけが作ったわけじゃない」


「でも、クラリッサさんの存在は大きいですわ。クラリッサさんもこれから頑張ってください。それぞれ思い出を作っていきましょう」


「もちろん」


 クラリッサはサムズアップして返した。


「クラリッサさあん。ドサドの執事様が苛めてくれませんよう……」


「だから、いかがわしいことはしないって言ったでしょ」


「けど、ちょっとぐらいサービスがあってもいいんじゃないですかあ? 鞭で叩くとか、罵るとか、冷たい目で見るとか」


「冷たい目で見るぐらいだったら、頼んでおいてあげよう」


「ありがとうございますよう!」


 ヘザーはうきうきして去っていった。


「クラリッサ。いよいよお別れだな」


「北ゲルマニア連邦でも上手くやりなよ、フェリクス。冒険家もいいけど、ギャンブルの楽しさを忘れちゃダメだぜ?」


「冒険家自体がギャンブルみたいなものだ」


 フェリクスはそう告げて小さく笑った。


「お前とは本当にいろいろあったよな。俺が馴染めなかったところに入り込んできて、闇カジノやブックメーカーを作って。大儲けして。お前とは本当に良かったぜ。退屈なものになるだろうと思ってた学園生活がすげー楽しかった」


「それは何より。私もフェリクスとは楽しかったよ。私の理解者であり、共同経営者。フェリクスがいなかったら、私の学園生活もそこまで楽しめなかったと思う。とっても感謝しているよ」


「お互いにワルだったな」


「お互いにワルだったね」


 クラリッサとフェリクスはそう告げ合って微笑んだ。


「ちゃんとクリスティンを幸せにしてあげるんだよ。浮気はダメだからね?」


「分かってる、分かってる。任せておけ」


 最後にそう告げて、フェリクスはクリスティンたちの下に向かった。


「クラリッサちゃん! オクサンフォード大学の寮生活、楽しみだな!」


「おう。けど、ウィレミナは寝相を直しなよ。朝起きて、ウィレミナを踏んづけるのはごめんだからね?」


「そんなにあたしの寝相悪いかなー?」


「自覚がないのが一番たちが悪い」


 ウィレミナは寝相が悪いという自覚が皆無なのだ。


「ウィレミナは医学部だから6年間大学だね。私も大学院に進んで経営学修士(MBA)を取るつもりだから、6年一緒だよ。なんだかんだでウィレミナとはとっても長い付き合いになるね。これからもよろしく」


「クラリッサちゃん。大学院に進学するんだ。勉強嫌いのクラリッサちゃんが……。天変地異の前触れかな?」


「怒るよ?」


「冗談、冗談。一緒に頑張って夢を叶えような」


「おうとも」


 クラリッサとウィレミナは拳を突き合わせあった。


「クラリッサちゃん。これでお別れなんてやっぱり寂しいね……」


「何言ってるのさ、サンドラ。卒業記念パーティーもあるし、同窓会だってやるって決めたじゃん。これからもちゃんと会えるよ」


「それでもずっとは一緒にいられないでしょ?」


「まあ、それはそうだね。けど、大人になるのはそういうものだよ」


「もー。分かったようなこといってー」


 クラリッサは意味が分からず適当なことを言っている。


「クラリッサちゃん。私、大学に入ったら彼氏作るよ。クラリッサちゃんみたいな彼氏を作って頑張るよ!」


「私みたいな彼氏……? 私、女の子なんだけど……」


 クラリッサは困惑した。


「クラリッサちゃんは私をクラーケンから助けてくれたり、悪い人から助けてくれたり、魔術部を優勝させてくれたり、楽しい思い出をいっぱいくれたり、いろんなことをしてくれました。私にとってはとっても素敵な人。もー! クラリッサちゃんが男の子だったらよかったのに!」


「無茶苦茶いわないで」


 流石のクラリッサも性別は変えられないぞ。


「とにかく、私はクラリッサちゃんみたいな彼氏を探すよ。私のハードルは高いから覚悟しておいてね」


「何を覚悟すればいいんだ……」


 サンドラは少し錯乱状態にあった。


「それじゃ、パーティーを満喫させてもらうね」


「おう」


 サンドラはウィレミナの下に向かっていった。


「ピエルトさん。パーティー楽しんでる?」


「楽しんでる、楽しんでる。みんな立派に成長したね」


「我が子のようなセリフを吐く独身男性」


「悪かったね!」


 クラリッサにからかわれるピエルトだ。


「それにしても何もなくてよかったよ。いざとなったらブラックサークル作戦の書類を持ってロンディニウム・タイムスに駆け込む準備はしてたけど。何事もなかったようで何よりだね」


「おい。ピエルト。お前が愛人の家に隠れている間にクラリッサちゃんは大活躍したんだぞ。迫りくる魔族をちぎっては投げちぎっては投げ、そして腐った政府の連中も叩きのめしてやったんだ。全く、それなのにお前ときたら愛人の家に隠れていて!」


「そ、それが俺の役割だったんですよ、ベニートさん!」


 ベニートおじさんに絡まれているピエルトであった。


 ベニートおじさんはあのテクニカルを非常に気に入ったのだったが、あの戦闘後、ジェリー父の手によって車からガトリング砲は取り外されてしまった。ベニートおじさんはそろそろ本当に引退しよう!


「友達に恵まれたな、クラリッサ」


「そうだね。みんないい友達だよ」


 リーチオがやってきて告げ、クラリッサが頷く。


「お前が学園に入学するといった時は本当は物凄く心配だった。お前はわがまま放題で育ったし、平民だったし、本当に貴族の学園でやっていけるのかと心配していたんだぞ。すぐに退学処分になる覚悟までしていた」


「失礼な」


 リーチオの言葉にクラリッサが頬を膨らませる。


「ああ。失礼だったな。お前は上手くやった。ちょっと褒められないところもあるが、たくさんの友達を作って、学園生活を明るいものにした。友達の顔を見れば、お前が笑顔にしてきた友達の数は分かるというものだ」


 リーチオはわいわいと騒いでいるサンドラたちを見てそう告げた。


「そして、将来の夢もかなえようとしている。お前がオクサンフォード大学に無事合格して安堵しているところだ。これからはお前がリベラトーレ・ファミリーを背負っていくことになるんだぞ。頑張れよ」


「もちろん。私に任せておいて」


 リーチオの言葉にクラリッサがニッと笑う。


「パパたちも相談に乗るから分からないことがあれば聞きなさい。パパたちはいつでもお前の傍にいるからな」


「ありがとう、パパ」


 リーチオがクラリッサの肩に手を置くのに、クラリッサが手を重ねた。


「さあ、友達の中に戻っていきなさい。お別れは近いからな」


「了解」


 クラリッサはリーチオから離れてサンドラたちの下に向かった。


 サンドラたちとクラリッサは初等部からあったいろいろなことについて話す。とても楽しそうに話す。彼女たちには楽しい思い出が語りつくせないほどあるのだ。


 リーチオは思う。


 うちの娘は少しおかしい。だが、立派だと。


 これからクラリッサたちは大学生活を経て、それぞれの道に進む。


 クラリッサは果たしてホテルとカジノ経営者として成功するのか。


 彼女たちの物語はここから始まるのだ。







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これにて完結です! お付き合いいただきありがとうございました!


新作など始めておりますのでよろしければご覧になってください。


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― 新着の感想 ―
最後まで素晴らしくテンポが良かった 永久に続けれそうな雰囲気だったけど終わってしまったか〜 しっかり書ききってくれてありがとうございます
[一言] 面白いです。感動しました。
[一言] 読了! しばらく間を置いて、「大学編」があれば嬉しいです
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