父は娘の誕生日を祝いたい
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──父は娘の誕生日を祝いたい
ロイヤルレセプションホールの扉が開かれ、招待客が中に入る。
リーチオもクラリッサへのプレゼントを持って中に入った。
クラリッサも今年で18歳。まだ学生の身ながら、年齢としては大人の仲間入りだ。
そして、クラリッサが夢であるホテルとカジノの経営者になるまで4年から6年。まだ開発許可が下りていないので工事には着工できないが、クラリッサが大学2年のときには工事が始まる。予定通りだ。
リーチオとしては少々不安が残るものの、クラリッサも日々成長している。大学生になればより成長するだろう。
「こんにちは、クラリッサちゃんのお父さん」
「お久しぶりです、リーチオさん」
リーチオがそんなことを考えていたとき、サンドラたちが彼に話しかけてきた。
「おう。サンドラちゃんにウィレミナちゃん。今日は来てくれてありがとう。クラリッサも喜ぶ。今日は楽しんでいってくれ。料理もいろいろと用意したからな」
「ありがとうございます!」
サンドラとウィレミナは元気よく返事を返すと他の招待客のところに向かった。
「クラリッサさんのお父様。今日はおめでとうございます」
「おめでとうございますう」
次に挨拶にやってきたのはフィオナとヘザーだった。
「ありがとう。クラリッサも多くの人に祝福してもらえてありがたく思っているだろう。今日は楽しんでいってくれ」
「はい。失礼します」
フィオナとヘザーは公爵令嬢、伯爵令嬢として丁寧に頭を下げると去っていった。
「ドサドの執事さん! ドサドの執事さんじゃあないですかあ! お久しぶりですよう! さあ、罵ってください! 思いっきり罵ってくださいよう!」
……そして、ファビオを見つけたヘザーは大興奮していた。
「リーチオさん。こんにちは。今日はクラリッサの誕生日、おめでとうございます」
「お招きいただきありがとうございます」
「おめでたいわ!」
次に挨拶に来たのはフェリクス一行だった。
フェリクスの両脇をクリスティンとトゥルーデが固めている。
「ありがとう。フェリクス君は学園を卒業したら北ゲルマニア連邦に戻るんだったな。娘も君たちに祝ってもらえて嬉しいだろう。今日は楽しんでいってくれ」
「はい。ありがとうございます」
フェリクスたちが頭を下げ、去っていった。
「それでな。これが10年前の抗争の時に食らった鉛玉の痕でな」
「すげー。痛くなかったですか?」
「抗争で興奮していると痛みなんてどこかに消えちまうもんさ。俺はすかさず魔道式小銃を手に取って、俺を撃ってきた奴に撃ち返してやった。ちょうど、炎の魔術が刻印された魔道式小銃で、火球が相手に向かって飛んでいって──」
よくよく会場の様子を見渡してみると物騒なことを自慢している声が聞こえてくる。
「おい。ベニート。何を話している?」
「ああ。ボス。この子たちが俺の傷に興味を抱くものですから話して聞かせていたところです。盛り上がってますよ」
「娘の誕生日に物騒な話題で盛り上がるんじゃない」
普通に怒られたベニートおじさんだ。
「ベニートさんってやばいですね!」
「ははっ! 伊達に数十年もこの道にいたわけじゃないからな!」
ウィレミナが告げるのにベニートおじさんは豪快に笑った。まるで懲りてない。
「ベニート、いい加減にしておけよ」
リーチオは深々とため息をつくと、また会場で問題を起こしている人間がいないか探した。いかんせん、ほぼ堅気の連中じゃないので、どんな問題を起こしてくれるか分かったものではない。
「それでですね。今度自動車を買おうと思うんですよ。よかったら、グレンダさんも一緒に乗ってみませんか?」
「え、ええっと。自動車はあまり慣れていないもので」
「すぐに慣れますよ! クラリッサちゃんも1日で慣れましたし。郊外までドライブするのってはいいものだと思いますよ」
問題児2号発見。
「ピエルト。お前は何を娘の家庭教師を口説いている。死にたいのか?」
「と、と、とんでもありません!」
リーチオが背後から声をかけるのにピエルトがすくみ上った。
「グレンダ。すまないな。部下が迷惑をかけた。今日は来てくれてありがとう」
「いえいえ。こちらこそお招きいただきありがとうございます」
クラリッサの誕生日パーティーにはグレンダも参加していた。
「あ。ファビオさん! お久しぶりです!」
「グレンダさん。学業の方は順調ですか?」
「はい。研究の方もはかどっています。成果をお伝えできたらいいのですが」
「このパーティーが終わった後でなら時間はありますが」
「そうですか! それなら是非!」
ピエルトとファビオでこの差である。
泣くな、ピエルト。もっと歳の近い女性にアプローチするんだ。
「ファビオ君はいいですよねー。女子大生にも女子高生にもモテモテでー」
「お前は嫉妬してないでもっと見込みのありそうな相手を探せ。それともベニートに探してもらうか?」
「自分で探します……」
ベニートおじさんには任せられない。
「お集まりの皆さん。クラリッサ・リベラトーレさんのご入場です」
やがてロイヤルレセプションホールにそうアナウンスが流れる。
「皆さん。この度は私の誕生日パーティーにお集まりいただきありがとうございます」
クラリッサがそう告げて頭を下げる。
「私も今年で18歳となり、来年には学園からの卒業を控えています。無事に大学に進学できれば大学生として学業に専念したいと思います。ここまでこれたのも全ては皆さんあってのことです。18歳の誕生日という節目にそのことを深く実感しました。これからも皆さんの御助力がいただければなによりです。それでは私の父、リーチオ・リベラトーレに乾杯の音頭を取っていただきたく思います」
クラリッサはそう告げてリーチオに視線を向けた。
「クラリッサの18歳の誕生日を祝って!」
「乾杯!」
会場がわーっと沸き立つ。
「続いてバースデーケーキとなります」
アナウンスがそう告げて、会場に大きなバースデーケーキが運び込まれる。
ケーキには18本の蝋燭が小さな火を灯している。
「おお。吹き消しても?」
「ああ。吹き消してやれ」
クラリッサが感嘆の息を漏らすのに、リーチオがそう告げた。
「では」
クラリッサはふうっとバースデーケーキの蝋燭に息を吹きかけた。
蝋燭の炎は一瞬ゆらめくと、一吹きで18本全ての炎が消えた。
「おめでとう、クラリッサ。一吹きで蝋燭が消せると縁起がいいらしいぞ」
「それはなにより」
リーチオの言葉にクラリッサがにっこりと笑った。
「それじゃあ、俺からの誕生日プレゼントだ」
「おお。何かな、何かな?」
クラリッサはリーチオから渡された箱を開ける。
「うむ? 鞄?」
「ああ。学園を卒業したら新しい鞄が必要だろう。大学で使うといい。まあ、ちゃんと合格出来たらな」
「おお。ありがとう、パパ」
鞄はアガサの会社のブランドものだった。
「クラリッサちゃん。俺からはこれを」
「ルーレットセット。これで大学でもカジノができるね」
「そうそう。大学生をカモにするといいよ」
ピエルトからの誕生日プレゼントはルーレットセットだった。ルーレット本体とテーブル、ボール、チップがセットになったものだ。いかさま用じゃないぞ。
「ピエルト。お前という奴は……」
「え。でも、クラリッサちゃんにはこういうのがいいかなって……」
クラリッサのカジノ中毒に拍車がかかりそうなものである。
「クラリッサちゃん! 俺からはこれだ!」
ベニートおじさんがやってきて、クラリッサに誕生日プレゼントを渡す。
「おー! 新型魔道式小銃!」
「おう。散弾仕様だぞ。引き金を引けば鋼鉄の玉が50発叩き込まれるって代物だ」
「凄い! ありがとう、ベニートおじさん!」
「はははっ! クラリッサちゃんの誕生日プレゼントにはぴったりだろう!」
ここにも碌でもないものを渡す大人が。
「ベニート……。クラリッサに銃器を与えるな」
「ですが、ボス。クラリッサちゃんも18歳だ。銃のひとつは持っておかないと」
「お前の価値観はどうなっているんだ?」
可愛い子には銃を持たせよ。
「クラリッサちゃん。誕生日おめでとう」
「クラリッサちゃんもすっかり大人ね」
続いてパールとサファイアがやってきた。
「私たちからの誕生日プレゼントはこれ」
「お? 万年筆とふさふさした何か?」
「ウサギの足のイミテーション。幸運のお守りって意味があるの。クラリッサちゃんの受験が上手くいくようにって思いを込めてそれを贈るわ」
「ありがとう、パールさん、サファイア!」
この世界でもウサギの足は幸運のお守りらしい。
「クラリッサちゃん。誕生日おめでとう。これ、プレゼント」
「あたしからはこれね」
そして、サンドラとウィレミナがプレゼントを渡す。
「サンドラのは辞書。ウィレミナのは写真立て」
「辞書なら大学に入ってからも使うでしょう。これでバリバリ勉強してね」
「サンドラは鬼だ」
「クラリッサちゃんのためを思って贈ったんだよ!」
クラリッサが告げ、サンドラが叫ぶ。
「まあ、ありがとう、サンドラ。大事に使うよ」
「うん。頑張って勉強してね」
「それでウィレミナからは写真立てか」
クラリッサは凝った意匠の写真立てを見る。
「クラリッサちゃん。いつの年だったカメラをもらっていただろ? 卒業も近いし、カメラでみんなの写真撮ってそれで飾るといいよ」
「おお。ナイスアイディア」
みんなで卒業記念写真など撮って飾りたいものである。
「クラリッサさん。誕生日おめでとうございます」
「おめでとうですよう」
続いてフィオナたちがやってきてプレゼントを渡す。
「フィオナからはティーセット。ヘザーからは小説?」
クラリッサはプレゼントを開けてみた。
「大学に入られて、ご学友とお茶をするときなどにご利用ください」
「ありがとう、フィオナ。大事に使うよ」
ティーセットは超高級ブランドのものだった。
「それでヘザーからのプレゼントだけれど。官能小説じゃないよね?」
「違いますよう。ドサドとドマゾの二人のわいわいした生活を綴ったノンフィクション小説ですよう」
「……まあ、ありがたくもらっておくよ」
それからフェリクスたちもプレゼントを渡し、クラリッサたちはバースデーケーキを食べ、プラムウッドホテルの豪勢な料理を楽しみ、愉快な時間を過ごした。
リベラトーレ・ファミリーのほとんどの幹部が集まったクラリッサの誕生日パーティーだったが、そこにマックスの姿はなかった。
「そういえば、パパ。マックスさんは?」
「ん。仕事があるといっていたな。あいつはあいつで忙しい。そっとしておいてやろう。誕生日プレゼントは既に受け取ってある」
「了解。このままパーティーを楽しむね」
リーチオにはマックスが何をしているのか把握できていない。ただ、ここ最近は特に出入りが激しくなっているということだけは感じていた。
国の方に動きがあるのか、魔王軍の方に動きがあるのか。
クラリッサたちが署名を首相に渡したことが関係しているのだろうか? 流石にそこまで大げさに扱われるようなことではないとリーチオは思っているのだが。
今度の議会では野党がロンディニウム・タイムスにも記事が載った署名のことで首相を追及するだろうが、子供のしたことでそこまでのことは突っ込めないはずだ。
果たしてマックスは何をしているのか?
リーチオは一抹の不安を感じながらも、クラリッサの誕生日パーティーを過ごした。
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