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娘は友人の面接を支援したい

……………………


 ──娘は友人の面接を支援したい



「パパ。お願いがあるんだけど」


「どうした?」


「パパと幹部の人たちをちょっと集めて。5人ね」


「……意味が分からないのだが」


 クラリッサの要求は唐突であった。


「ウィレミナが面接の練習で行き詰っているんだ。そろそろ本格的な面接の練習に移行しようと思うんだけど、先生たちは忙しくて」


「いや。待てよ。俺たちに面接官役をやらせるつもりか? いくらなんでも無理があるぞ。幹部どもでも学があるのはマックスぐらいだし、どいつもこいつも性格に難ありだ。大人しく、学校の先生に頼んでみなさい」


「頼んだよ。今は手一杯だって言われた」


「ちゃんと真摯に頼んだか?」


「頼んだよ。『ヘイ、ティーチャー! 面接の練習ヘルプして!』って」


「それは断られるわけだ」


 クラリッサの頼み方には真摯のしの字もなかった。


「もう一度、丁寧に頭を下げて頼んでみなさい。それでもダメなら、まあ、少しは手伝ってもいい。だが、俺たちを相手にしても面接の練習にはならんと思うぞ。大学の面接はインテリの教授が行うものだろ。俺たちにはインテリのいの字もない」


「大丈夫だよ。私たちでも面接の練習にはなったんだもん。次のステップは知らない人、特に大人を相手にウィレミナが緊張しないかどうかのテストなんだ。ウィレミナって意外なことにあがり症なんだよ」


「あの元気な子がか? 意外だな」


「私もそう思う」


 誰もがウィレミナは緊張したり、あがったりしないものだとばかり思っていた。だが、ウィレミナはちょっとあがり症の気がある子だったのである。


「パパは面接のコツとか知ってる?」


「相手の目を見て喋ることだ。目を逸らすのは何か隠している証拠だと思われて不信感を持たれる。嘘をつく人間は目を逸らすからな。しっかり相手の目を見て、それが難しければ相手のネクタイの結び目を見て喋る。そうすれば信頼は勝ち取れる。俺たちも他のファミリーを吸収するときには、相手の目を見て信頼を得てきたものだ」


「流石パパ。なんでも知ってるね。ウィレミナにも教えてあげよう」


「そうだな。友達の役に立つなら教えてあげなさい」


 マフィア流面接術。これであなたもマフィアの構成員!


「他には何かない?」


「そうだな……。これはディーナに言われたことなんだが、自信過剰になるなってことだ。この面接には絶対に受かる。この交渉は絶対に上手くいく。そういう思い込みがあると、それそのものがプレッシャーになって緊張を加速させる。平常心でいるためには、少しくらい気負わずやるのがいいようだ」


「へえ。ママはどんな時にパパにそう言ったの?」


「……結婚式の時だ。新郎としてスピーチするのに酷く緊張してしまってな。ディーナにそう言われてから、ちょっとは気分も落ち着いた」


「ママも物知り。流石はママ」


 ディーナも士官学校での挨拶などを体験しているので緊張をほぐす術はよく知っているのだ。ディーナは士官学校でも優秀な成績を収めているからね。


「まあ、これも役立ちそうだったら友達に教えてあげなさい。ウィレミナちゃんは推薦入試だから面接に全てがかかっていると言っていいからな」


「オーケー。もう一度、先生たちに面接の練習の手伝い頼んでみる」


「ああ。そうしなさい」


 というわけで、クラリッサのマフィア動員面接練習会は延期となった。


 クラリッサは無事に先生たちに面接の練習を頼めるのか。


……………………


……………………


 翌日。


 クラリッサは職員室に向かった。


「失礼しまーす」


 クラリッサは一言挨拶して、職員室に入った。


「ん。どうしたかね、クラリッサ君」


「先生、ウィレミナの面接の手伝いをお願いします」


 そして、進路指導の教師がいるところまで行って告げる。


「いや。私もウィレミナ君の合格は望んでいるし、手伝ってあげたいのはやまやまなんだが、いかんせん入試が近い上に、12月の模試も近い。どの教師も忙しいのだ。手の空いている教師はあまりいなくてね」


「じゃあ、手の空いている先生を総動員で」


「分かった。考えてみよう。待っていなさい」


 クラリッサはそう言われて一旦職員室の外に出された。


 それから待つこと5分。


「クラリッサ君。一応人が集まった。ウィレミナ君には本日の昼休みから練習を開始すると伝えておいてくれたまえ」


「ありがとうございます。先生」


 なんとか教師ゲット。


「ウィレミナ、ウィレミナ」


「おう。なんだい、クラリッサちゃん?」


「今日のお昼休みからいよいよ先生たちと面接の練習だよ。準備はいい?」


「おお!? マジか!? もっと練習してからの方がよかったかも……」


「これから練習するんだよ」


 これはまだまだ本番ではないぞ、ウィレミナ。


「それとパパからアドバイスがあるよ。喋るときは相手の目かネクタイの結び目を見て喋ること。目を逸らすと嘘をついていると思われるからね。ウィレミナ、まっすぐ相手の目を見て喋るんだよ?」


「うう。緊張するー」


「その緊張に対処する方法もあるよ。この面接が絶対に成功するものだというプレッシャーを自分にかけないこと。そういう思い込みはマイナスにしかならない。面接の時には気負わず、気楽な態度で受けよう」


「そんなことできるかなー?」


「できないと合格できないよ」


 できないではない。やるのだ。


「まあ、あんまり緊張しすぎないようにね。相手はまだこの学校の先生で本番の面接じゃない。気楽に受けて、本番でも気楽な気分でいられるように解きほぐしていこう。私はウィレミナのこと、応援しているからね」


「ありがと、クラリッサちゃん。惚れちまいそうだぜ」


「惚れられても困っちまうぜ」


 ウィレミナとクラリッサはそう言い合ってくすくすと笑った。


「推薦入試は1月。時間は残り2か月。それまでにバリバリ喋れるウィレミナになろう」


「おー!」


 気合は十分。


「ウィレミナちゃん、ウィレミナちゃん」


「ん。なに、サンドラちゃん?」


 クラリッサとウィレミナが笑い合っていたときに、サンドラがやってきた。


「これ、合格願いのお守り。私たちが前にいったスノードン山の麓のお土産屋さんで売ってたの。ウィレミナちゃんは買った様子がなかったし、私が余分に買っておいた分をあげる。これを私たちだと思って、緊張せずに頑張って!」


「おおー! サンキュー、サンドラちゃん!」


 このアルビオン王国にも学業成就のお守りがあるのだ!


 菅原道真を祀っているわけではないが、スノードン山にはあのドラゴンのお墓がある。そのお墓のあるスノードン山では、スノードン山の木々を加工して作ったドラゴンのお守りが販売されている。アルビオン国教会が特に何も言わないので続けられているものだ。受験シーズンになるとスノードン山を訪れる受験生も増えるとか。


 アルビオン王国軍に抵抗した勇敢なドラゴンの魂が受験生を鼓舞してくれるだろう。


「ウィレミナはひとりで受けるのが苦手なだけだもんね。誰かいればそれほど緊張しないんでしょ。それなら頑張ってイマジナリーフレンドを作って、それと一緒に受験を受けないといけないね」


「この歳でイマジナリーフレンドを作るのはきついぜ」


 イマジナリーフレンドは5歳ぐらいの年齢で現れる現象であり、またひとりっ子に多いものなので、ウィレミナが今からイマジナリーフレンドを作るのは難しいぞ。


「そういえば、東方にはタルパって術があるらしいよ」


「いや。オカルトには頼らないよ」


 お守りもオカルトだぞ。


「まあ、ウィレミナ。悔いのないようにね」


「おうとも!」


 さあ、ウィレミナの修行の始まりだ。


……………………


……………………


 お昼休み。


 ウィレミナは面接の練習が行われることなる空き教室に向かった。


 空き教室の扉には『面接練習中。部外者立ち入り禁止』の張り紙がしてある。


「ここで間違いないよね?」


 ウィレミナはちょいと首を傾げた後に、待合室代わりになっている廊下の椅子に腰かけた。面接では呼ばれてからドアをノックする。勝手に入ってはいけないのだ。


「おお。来たね、ウィレミナ嬢。早速始めるから、ノックするところから始めて」


「はい!」


 返事ははきはきと。


「それじゃあ、行きますか……」


 ウィレミナは小声でつぶやくとドアをノックした。


「入れ」


「失礼します」


 女性の声に返事を返して、ウィレミナが扉を潜る。


 待っていたのは──。


「ウィレミナ・ウォレス。席につけ」


「はい!」


 ちびっこ魔術教師、中等部の眼鏡魔術教師、初等部のムキムキ体育教師、同じく初等部の元はバレリーナであり格闘家でありテニス選手という凄い経歴の体育教師、そして中等部の凄い感性の美術教師。それが面接の相手だった。


 まあ、確かに初等部と中等部なら受験は関係ないので時間に余裕はあるだろう。だが、ジョン王太子などにとってはトラウマものの面子が混じっている。ちびっこ魔術教師とか、ムキムキ体育教師とか。


 幸いというか、ウィレミナはちびっこ魔術教師にはあまりしごかれたことがないので、余裕をもって接することができる。これが魔術で戦闘科目を選択していた生徒ならば、悲鳴を上げて逃げ出していただろう。


「では、まず貴様の自己PRをやってもらおう」


 ちびっこ魔術教師がそう告げる。


「はい」


 フレーズでアピールポイントを覚えておく。


 ウィレミナは『生徒会会計として勤めてきた』『陸上部で成績を残してきた』のふたつのフレーズを頭に叩き込んである。どんなに頭が真っ白になっても、これだけは思い出せるように何度も、何度も、繰り返し口に出して覚えた。


「わ、私は生徒会会計会計として中高と4年間勤めてきており、そのことによって自立心を養うことに努力しました。また陸上部でも成績を残しており、健全な心身の育成に努めてきた次第です」


「ふむ。生徒会会計としてどのように自立心を?」


「実際に学園の自治組織に関わることによって、その組織における役割を果たすことによる個人的な自立心と学園自治そのものに関わることによる集団における自立心の双方を養いました」


 辛うじて答えられた。


 まさか自分の答えに突っ込まれるとは思っていなかったのでドキドキの場面だ。


 それでも面接官であるちびっこ魔術教師から目は逸らさない。


 そして、絶対にこの面接の練習を成功させなければならないという自信過剰も押さえる。ポケットにはサンドラがくれたお守りがあることを思い出し、すぐ傍に仲間たちがいるのだと思い込む。


 だが、面接官の教師たちが手元のノートにカリカリと何かをかき込んでいるのを見ると、急激に緊張も高まるというものだ。何をメモされているのだろうかと不安になってしまう。何とか緊張を押さえ込み次の質問に備える。


「それでは本校を志望した理由は?」


「はい。将来患者の命を預かる医師となる際に、貴校のカリキュラムならば責任ある医療が行えると思ったからです。また設備なども最新の医療が学べるように充実しており、教師陣もオープンキャンパスで接した際に、優しく、丁寧な方々だと思ったので、貴校を志望することにいたしました」


 途中途中で息継ぎを入れながらゆっくりとウィレミナはそう告げる。


 焦って言葉が口から滑り出しそうになるのを押さえ、頭の中で文章を整理し、冷静に発言する。口は大きく、はきはきと、相手に伝わることを意識して発言する。


「よろしい。それでは医学部を受験するに当たって努力してきたことは?」


「生徒会役員として責任感を持って仕事をすることは、患者の命を預かる医師として必要なことを磨いてきたと思います。また、他の医師や看護師などとのチームワークを行う上で、陸上部で協調性を養ったことはこれもまた役に立つと思っています」


 ウィレミナが発言を終えると、また面接官たちがカリカリとメモする。


「以上だ。退席してよろしい」


「ありがとうございました」


 ウィレミナは一礼すると退室した。


「ふー……」


 ウィレミナは溜まりに溜まった緊張感を吐き出すように大きく息を吐きだす。


「ウィレミナ嬢、中へ」


「はい」


 結果を聞きにウィレミナは中に入る。


「及第点だ。しかし、ギリギリのな」


 ちびっこ魔術教師はそう告げた。


「そわそわしているのが見ていてはっきりと分かる。もっと落ち着きを持て。発言そのものははきはきしており、スムーズで、文句は言わないが、態度が悪い。本番では見知った顔ではなく、全く知らない顔の人間を相手にするわけなのだから、今のうちから緊張しすぎているのは問題だ。改善しろ」


 そして、ちびっこ魔術教師はそのようにウィレミナの面接について指摘した。


「努力します……」


「ああ。大いに努力しろ」


 ウィレミナがしょぼんとするのにちびっこ魔術教師はそう言い放った。


「ウィレミナ嬢。印象としては悪くない。確かに緊張している様子もあるが、このような場面では緊張するのが当然だ。この調子で、発声訓練なども含めて練習していけば十分に通用すると思うよ」


「ありがとうございます!」


 中等部の眼鏡魔術教師はそう告げた。


「さて、ウィレミナ君はとっさの質問に言葉を返せるかが問題になるね。さっきの2番目の質問の時は焦っていただろう? いくら質問を想定しても、想定を超えた質問が来ることもある。そのようなときのために自己分析を行っておくことをお勧めするよ。自分の長所・短所、学園で頑張ったこと、これからの展望。こういうものを一度書き出してみるといい。そうすればいざという時助けになる」


「はい!」


 自己分析! そういうのもあるのかとウィレミナは思った。


「それでは我々からは以上だ。頑張ってくれたまえ。また練習が必要なら付き合うよ」


「本日はありがとうございました!」


 ウィレミナは深々と頭を下げて、お礼を告げた。


 頑張れ、ウィレミナ。面接に少しずつ慣れるんだ。


……………………

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