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娘は生徒会解散パーティーをやりたい

……………………


 ──娘は生徒会解散パーティーをやりたい



「パパ」


「どうした? 何かあったのか?」


 クラリッサが神妙な表情でリーチオの書斎に入り、リーチオがそう尋ねた。


「今度、生徒会の解散パーティーをやるんだ。だから、プラムウッドホテルのレセプションホールを借りるお金をちょうだい?」


「またお前は随分と贅沢なことを。学生のうちからそんなに贅沢していると、大人になって苦労するぞ」


「私は大人になってもお金持ちでいるから大丈夫」


「嫌な自信をつけているな……」


 クラリッサはホテルとカジノの経営者として稼ぐ気満々だ。


「パーティーにはいくらぐらいかかりそうなんだ?」


「1000万ドゥカート程度かな?」


「一体何人でパーティーする気だ」


 さらっと告げたがリーチオに突っ込まれたクラリッサだ。


「正真正銘、最後の生徒会解散パーティーだよ。派手にやらなくちゃ」


「ただの生徒会解散パーティーでそこまでしなくていい。300万ドゥカートってところだな。それ以上は相談には乗らんぞ」


「ケチ」


「お前が贅沢なだけだ」


 クラリッサがふくれっ面で告げ、リーチオがそう切り捨てた。


「分かったよ。300万ドゥカートね。なんとかやりくりするよ」


「やりくりしなきゃいけない額じゃないだろ。おつりがくるはずだぞ」


 プラムウッドホテルのパーティープランは20人までだと30万ドゥカートほど。それからいろいろとプラスして言っても100万ドゥカートを超えることはない。


 リーチオの渡したお金ならば二次会、三次会をしても余裕でお金が余る。


「まあ、ありがとう、パパ。パーティー楽しんでくるよ」


「ああ。一応生徒会は頑張ったからな。楽しんできなさい」


「一応じゃないよ。かなり頑張ったよ」


 リーチオの言葉にクラリッサが首を横に振った。


「なら、もうひと頑張りだ。パーティーを完璧にして、綺麗に解散して来なさい。最後のお務めだ。しっかりやれよ」


「おうとも。早速プラムウッドホテルに予約に行ってくる」


 そう告げてクラリッサはリーチオの書斎から飛び出ていった。


「あいつも随分と成長したな」


 リーチオは呟く。


「昔は危なっかしい限りだったが、今では生徒会も務め、大学受験にも挑んでいる。子供の成長というのは早いものだ。そう思うだろう、ディーナ」


 リーチオはそう告げて仕事を続けた。


……………………


……………………


 クラリッサは自動車でプラムウッドホテルに向かい、当日のレセプションホールの予約と食事とケーキの手配を済ませた。


 プラムウッドホテルではやはり総支配人が対応に当たり、クラリッサを丁重にもてなした。クラリッサはそのことに感謝しつつ、随分と割引した価格で小規模パーティープランの予約をしたのだった。


 そして、パーティー当日。


 待ち合わせ場所はウィリアム4世広場。5時30分。


 クラリッサがシャロンに送ってもらって、広場で待っていると馬車が止まった。


「よう。クラリッサちゃん。まだ時間じゃないよね」


「まだ大丈夫だよ。ウィレミナが一番乗りだし」


 クラリッサは5時20分を指している懐中時計を見せた。


「それにしてもカジュアルな格好でよかった? 前の生徒会解散パーティーもカジュアルだったから、カジュアルな格好で来ちゃったけど」


「大丈夫。私もカジュアルな格好だ」


 ウィレミナはカジュアルなブルーのドレス姿。クラリッサもカジュアルな朱色のドレス姿である。クラリッサのドレスは首元がレースになっており、そこはかとなく肩と胸元を出している。これはカジュアルではあるが、かなりの値段がする。


「ところでさ。本当にプラムウッドホテルに予約したの?」


「したよ? 毎度のことじゃん」


「いや。アルビオン王国でも屈指の高級ホテルをさも当然のごとく生徒会の解散パーティーに使うのはスゲーなって思って」


「気にしない、気にしない」


 ウィレミナはまともな金銭感覚だった。


 ジョン王太子も生徒会解散パーティーにプラムウッドホテルを使っていたので、まともな金銭感覚とは言い難いぞ。


 そんなこんな話している間に、もう1台馬車がやってきた。


「遅くなりました」


 現れたのはクリスティンだ。


 クリスティンは紺色のカジュアルなドレスを纏っている。


「大丈夫。時間内だよ。それにジョン王太子とフィオナもまだだし」


「ふむ。5分前集合は基本だと思ったのですが。ジョン王太子とあろう人がまだ来ていないとは問題ですね」


「まあ、友達同士のパーティーだし、そこまでこだわる必要はないよ」


「いいえ。時間厳守は王族・貴族として当たり前のことです。これが守れずして、どうして国が守れましょうか。どのようなことでも時間通りに進むからこそ、社会秩序は守られるのです。待ち合わせ時間の5分前には集合。余裕を持ったスケジュールで行動する。そういう細かなことができてこそ立派な王族・貴族になれるのです」


「そ、そうか」


 クリスティンがまくしたてるのにクラリッサは頷くしかなかった。


「時間とは社会の基盤をなす要素であり──」


「おっと。噂をしたら来たみたいだよ」


 クリスティンが時間について論じている間に向こうから馬車がやってきた。


「すみません。遅くなりました」


「すまない。フィオナ嬢を迎えに行っていたもので」


 馬車からフィオナとジョン王太子が下りてくる。


 フィオナはベージュ色のカジュアルなドレス姿で、ジョン王太子はスーツ姿だ。


「クリスティンがお冠だよ。遅いって」


「申し訳ない、クリスティン嬢。時間に余裕は持たせたのだが、フィオナ嬢と一緒に行く約束をしていたもので少し遠回りすることになってしまった」


 クラリッサがクリスティンを指さし、ジョン王太子はそう謝罪する。


「理由があるのならば仕方ありません。しかし、これからはもっと時間に余裕を持たせてください。遅くなると皆が迷惑しますが、早く来すぎても誰も迷惑はしません」


 クリスティンは渋い表情でそう告げた。


「まあまあ、今日はパーティーだから固いことはなしでいこう。さあ、プラムウッドホテルへ。とびっきりのパーティーが待っているよ」


 クラリッサはクリスティンを宥めるとプラムウッドホテルに向かった。


 そして、プラムウッドホテル前。


「お待ちしておりました、クラリッサ・リベラトーレ様」


 プラムウッドホテルでは総支配人の出迎えを受けた。


「うむ。今日はよろしく頼むよ」


「お任せください」


 総支配人は深々と頭を下げて、クラリッサたちを迎え入れた。


「今のは……?」


「総支配人。うちの家とは縁が深いから」


「……よからぬことをしていないだろうね?」


「さあて、なんのことやら」


 ジョン王太子がパーティーを主催したときには総支配人は出てこなかったぞ。


「こちらになります」


「よし、乗り込めー」


 クラリッサたちはレセプションホールに入る。


 既に食事は準備されていた。立食式のパーティーで様々な料理が並んでいる。


「おお。すげー。流石はクラリッサちゃん!」


「まーね。私に任せておけばこんなもんよ」


 ウィレミナが歓声を上げるのに、クラリッサがそう告げた。


「クラリッサさん……。これはそれなり以上にお金がかかったんではないですか? こういう浪費はよくありませんよ。アルビオン王国国民たるもの質素堅実に生きていかなければなりません」


「パーティーは派手にやるものだよ。さあ、乾杯しよう」


 クラリッサはそう告げて葡萄ジュースをグラスに注ぐ。


「我らが生徒会の健闘を讃えて!」


「かんぱーい!」


 クラリッサが音頭を取って、ウィレミナたちが乾杯する。


「これで本当に生徒会も解散。我ながらよく頑張ったよ」


「君は生徒会の仕事を大幅に減らし、他の委員会への負担を増やした立役者だ」


「それほどでも」


「褒めてない」


 クラリッサはあらゆる仕事を他の委員会にアウトソーシングしたぞ。


「中等部の生徒会からほぼこのメンバーだったよな。最初はジョン王太子が生徒会長で、クラリッサちゃんが副会長で。途中からクリスティンさんが入ってきたんだよね。そういえばクリスティンさんはもう風紀委員はやらなくてよかったの?」


「学園自治のトップである生徒会が腐敗していては健全な学園生活は送れませんからね。生徒会を監視するという意味合いでも生徒会に入りました。現に風紀委員だったらどうしようもないことをクラリッサさんは山ほどしてくれましたし」


 そう告げてクリスティンが胡乱な目でクラリッサを見る。


「さて、何のことやら。私は学園生活をエンジョイできるようにいろいろと努力していただけだよ。実際に学園生活は格段に楽しくなった」


「はあ。カジノやブックメーカーによってですね。本当に正しい収益額を報告しているのですか、クラリッサさん?」


「もちろんだよ。申告漏れはないよ」


「目を合わせて言ってください」


 クラリッサは露骨に視線を逸らしている。


「今日はパーティーなんだからそういうのはなしなし。楽しくやろう」


「うむ。しかし、最初の生徒会選挙は物凄かったな……。暴力と金が渦巻く、まるで悪徳の世界であった。クラリッサ嬢とフェリクス君が本当の要注意対象になった瞬間だよ」


「それ以前に闇カジノの問題もあります。クラリッサさんとフェリクス君は闇カジノをやっていたかもしれないのですよ。まあ、今日はパーティーなのでそういうことを追及することはしませんが」


 最初の生徒会選挙は本当にすさまじかったぞ。


 暴力! 金! 脅迫!


 クラリッサとフェリクスが組むと学園の風紀は一瞬にして乱れると言うことが証明されたかのような選挙期間であった。


「それでも私は選挙に負けたよ。そして、副会長として献身的にジョン王太子を支えてきたじゃないか。それを忘れてもらっては困るね」


「君とウィレミナ嬢は生徒会室に顔だけ出して逃げていただろう」


 クラリッサは自分の用事がある時だけ、生徒会室に来ていたぞ。


「けど、合同体育祭が開けたのは私の尽力のおかげだよ?」


「確かにそうだが、それで大きな利益を得たのも君だろう」


「みんなが楽しんだから、みんなが利益を上げたと思うな」


 中等部で1回、高等部で1回。聖ルシファー学園との合同体育祭は開かれた。どちらも大盛り上がりで、クラリッサのブックメーカーはホクホクであった。


 しかし、確かに全生徒にとって思い出になったのも確かだろう。


 他校と対決する。そのことに情熱を燃やした生徒たちがいるだろう。普段では味わえない行事にエキサイトした生徒たちがいるだろう。賭けに勝って大儲けした生徒がいるだろう。とにかく合同体育祭は盛り上がったのだ。


「確かにいい思い出になったぜ。あたしの脚力は聖ルシファー学園に負けてない!」


「そうそう。水泳部にはもうちょっと頑張ってほしかったけどね」


 合同水泳大会も盛り上がった。


 勝負が僅差で進み、水着コンテストに持ち込まれ、そこで王立ティアマト学園が勝利したのは誰の思い出にも残っただろう。会場があれだけ盛り上がっていたのだから。


「部活動と言えば、部活動に入る生徒が増えたそうですわね。部活動を盛り上げるという点では我々は成功を収めたのかもしれませんわ。私の入っている手芸部でも、部員がかなり増えたという感じがしますもの」


「大成功。これからは王立ティアマト学園も部活動の面で注目されるようになり、学園に通わせる貴族たちも増えていくと思うな」


 ジョン王太子とクラリッサの頑張りがあってか、王立ティアマト学園では部活動にはいる生徒が増え始めていた。部活動に対する予算も増え、再び王立ティアマト学園が部活動の面で活躍していくことが期待されている。


「我々は学園の大改革を断行した。それを祝して再び乾杯!」


「わー!」


 クラリッサが告げるのにウィレミナたちが乾杯する。


 王立ティアマト学園、クラリッサ政権終了。


 これからは新しい新生徒会が学園を牽引する。彼らはクラリッサたちに負けないだけの功績を残せるだろうか?


……………………

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