娘はお見舞いに行きたい
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──娘はお見舞いに行きたい
リーチオはベニートおじさんが刺されたこともあって午後からの予定だった保護者会はキャンセルして、急遽帰宅した。
まあ、保護者会といっても何か重要なことを決めるわけでもなく、子供たちの学園生活に不安があるなら相談に乗りますよという場でしかない。リーチオは今日の授業参観を見て、クラリッサには問題なしと判断したためキャンセルした。
それに問題があるならば個人面談の機会もある。個人面談、または家庭訪問は来月に予定されており、そこで不安があれば話すことができる。
一方の保護者会に参加した保護者たちからは『あのクラリッサ・リベラトーレという女子生徒は目立ちすぎではないか』とか、『子供たちはジョン王太子に敬意を払っているのだろうか』という意見が出ていた。
担当教師は『クラリッサさんは平民ながら勉強熱心で、周囲にとっていい刺激剤になっている』と弁明し、『ジョン王太子はとても周囲から尊敬されている』と説明した。正直なところ、教師陣はほとんどがリベラトーレ・ファミリーから金を受け取っているため、あまり強くは出れないのである。
そんなこんなで授業参観と保護者会は終わり、クラリッサたちも部活の時間を終えて帰宅することになった。
「また明日ね、クラリッサちゃん」
「またなー!」
サンドラも部活として文芸部に入部していた。そのため帰宅時間はクラリッサやウィレミナと同じである。文芸部といっても今は児童文学を読んでいるだけだが。そして、クラリッサは部活でまで本を読むという行為に戦慄していた。
「またね」
クラリッサも馬車に乗って帰宅の途に就く。
「ただいま、パパ。今日はどうだった? 凄かったでしょう?」
クラリッサはそう告げながら家の中に入る。
「あれ? パパ、いない?」
「おそらくはベニートさんのところに向かわれたのかと」
クラリッサが書斎にカギがかかっているのを見て、ファビオがそう告げる。
「どうしてベニートおじさんのところに?」
「まだお嬢様にお伝えしていいか許可を得ていませんので」
「教えて、ファビオ。そういえば、パパを授業の途中で外に連れ出したよね? ファミリーになにかあったの? それでベニートおじさんのところに?」
「概ねお嬢様の理解されている通りです。今はお屋敷で待ちましょう」
ファビオはそう告げてクラリッサを自室に連れていく。
「ねえ。ベニートおじさんは大丈夫なの? 死んだりしない?」
「大丈夫ですよ。きっとまたお嬢様と会えます」
ファビオはそう告げてクラリッサを自室に押し込んだ。
「帰ったぞ」
そして、クラリッサが自室に入ったのとほぼ同時にリーチオが帰宅した。
「お帰りなさいませ、ボス。ベニートさんの容体はどうでした?」
「ピンピンしてる。あれは殺しても死なない男だ。また伝説ができたな」
ファビオが尋ねるのに、リーチオが小さく笑った。
「もう自分を刺した奴を尋問しに行くって騒ぐもんだからベッドに縛り付けてある。医者が言うには4週間は安静にしておけとのことだ。クラリッサにはもう伝えたか?」
「いえ。状況がはっきりするまでは伏せてあります。もう察しはつけていらっしゃるようですが。今はお部屋におられます」
「そうか。あいつは妙にベニートに懐いているから心配するだろう。夕食の席で教えておいてやろう。ベニートも命の心配をするような傷じゃない。主要な血管は全部逸れて、肉を切っただけだ。筋肉に救われたな」
リーチオはそう告げると書斎に向かった。
「だが、問題は誰がやったかだ。犯人は今、ピエルトに尋問させているが、今のところ街のチンピラ以上の情報はない。ファビオ、お前が何の支援もなくベニートを消そうと思って、消すことができると思うか?」
「些か難しい話となりますが、やりようによってはできるでしょう。ベニートさんは警備をあまりつけていません。あの方は周りに男たちを大勢引き連れることを好まれないのです。相手の警備は最小限。情報や支援がないとしても自分の生還を考えずに突っ込めば、やれるでしょう」
リーチオが尋ねるのにファビオがそう告げて返す。
「生還を考えずに、か。街のチンピラがそこまで覚悟を決めるもんか。ただの鉄砲玉にされていることに気づかず、けしかけられたって可能性もあるな」
「その可能性はあるでしょう。生還を考えない暗殺者はある意味ではプロです。薬で恐怖を消すなりして、決死の覚悟で挑むものです。街のチンピラがすれ違いざまに刺した、程度のことであれば、アマチュアのやり方です」
ファビオは殺し屋なだけあってそういう話には詳しいぞ。ベニートおじさんと違ってクラリッサには自慢話はしないので、クラリッサは知らないことが多いけれど。
「そうか。ふむ、参考になった。そろそろこの話は終わりにしよう。クラリッサが静かに下りてきてる。話し声が聞こえたのかもしれん」
「畏まりました、ボス」
クラリッサはなるべく足音を立てないように階段を下りていたが、リーチオの人狼の聴覚も、ファビオの訓練された暗殺者の探知力も潜り抜けられないぞ。
「パパ。お帰り」
話し声が止まってしまったことに気づいたクラリッサが書斎の扉をノックして開ける。クラリッサもそれなり以上に耳はいいのだ。
「ああ。ただいま。今日は凄い活躍だったな。あの張り合っていたのが王太子だろう。お前は王太子と張り合うとか怖いもの知らずに育ったな」
「一応は宿敵だからね。パパに似て怖いもの知らずになったよ」
「それをパパに似たというか」
「パパも怖いもの知らずでしょ?」
確かにリーチオは怖いもの知らずの暗黒街の顔役だが、王族に喧嘩は売らないぞ。
「それよりベニートおじさんはどうなったの? 大丈夫?」
「ベニートは無事だ。問題ない。今度、お見舞いに連れて行ってやるから安心しろ」
リーチオがそう告げるのに、クラリッサが安堵した表情を浮かべる。
「さて、夕食にしよう。今日の授業のことも聞かせてくれ」
「うん」
その日の夕食の席ではクラリッサが自慢げに授業で習ったことをリーチオに教え、リーチオは満足したのだった。ベニートおじさんの容態についても話題に上がり、自分を刺した相手を取り押さえるぐらいには元気だということが明かされた。
「しかし、お前がそんなに理系に強いとは思わなかったな」
「将来必要になってくる知識だからね」
「……どうしてだ?」
「魔道兵器を扱ったり、シマから薬中を追い出すのに必要」
「そんなことはお前は心配しなくていい」
クラリッサはやはりクラリッサであった。
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「それでベニートおじさんのお見舞いに行くんだ」
クラリッサがそう告げるのは宝石館。
そこでサファイアとパールに向けてそう告げていた。
「噂には聞いていたけれど、本当だったのね。ベニートさんほどの人が刺されるだなんて。例の街に現れたフランク人の仕業かしら」
「憶測でものをいってはダメよ、サファイア。リベラトーレ・ファミリーに手出ししたなら、しっかりとリーチオさんたちが調べて、報いを受けさせるでしょう。それまでは私たちの噂もある程度は規制しなければいけないわね」
サファイアが驚いた表情を浮かべるのに、パールがそう窘めた。
口は禍の元というが、憶測で噂話をして害をこうむるのは、この世界では自分自身である。リベラトーレ・ファミリーの幹部について適当な噂を流したりなどすれば、リベラトーレ・ファミリーは黙ってみてはいないだろう。
「ベニートおじさんは全然平気だって。犯人はベニートおじさんが自分で捕まえたんだよ。私もおなか刺されたまま、相手を取り押さえられるようになれるかなあ」
「クラリッサちゃんはそういうものは目指さなくてもいいと思うわ」
クラリッサが憧れを語るように告げるのに、サファイアが静かに首を横に振った。
「それで、それでね。お見舞いの品は何がいいかな? パパはお見舞いの品なんていらないっていうんだけど、やっぱりベニートおじさんもベッドで退屈してるだろうし、何か持っていて上げれたらなって思うんだ」
「普通、お見舞いといえばフルーツの詰め合わせとかだけど、ベニートさんはおなかを刺されているのよね? フルーツは食べれないかしら……」
「パパは血管は刺されなかったって言ったけれど。でも、何も食べられなかったらおなかが減るよ。フルーツ、食べられないかな?」
ベニートおじさんは脇腹の肉を刺されただけで内臓も全く無事なので、食事制限などはないぞ。フルーツだろうとなんだろうと美味しくいただくだろう。
「フルーツは日持ちしないから食事制限があった場合はもったいないことになるわね。かといって、ベニートさんは花を送っても喜ぶ方でもないでしょうし」
クラリッサからのプレゼントならベニートおじさんは何でも喜ぶぞ。
「なら、何がいいかな? 日持ちするもの?」
「そうね。クッキーとかの日持ちするお菓子を送るのがいいわ。お菓子なら食事制限が解除されるのを待ちながらでも楽しみにできるしね。うちがお茶菓子を仕入れているお店を教えてあげるから、そこで買ってくるといいわ。でも何よりベニートさんが嬉しいのは、クラリッサちゃんがお見舞いに来てくれることそのものよ」
「分かった。ベニートおじさん、早く復帰できるように励ましてくる」
クラリッサはパールからお菓子のお店の住所を受け取るとファビオと一緒にそこに向かい、クッキーの詰め合わせを購入した。
街は少しばかり緊迫した空気が漂っており、ファビオの周囲に向ける視線を鋭いものになっている。次に誰が襲われるのか分からない以上、警戒するしかない。クラリッサが襲われるようなことになれば、ファビオが身を挺して守るだろう。
「ファビオ。お菓子、買えたよ。パパのところに戻ろう」
「はい、お嬢様」
そんな中にあってクラリッサだけはいつも通りのペースで行動していたのであった。
ただの自棄になったチンピラの犯行か。それとも背後にフランク王国の犯罪組織がいるのか。この街をシマとするリベラトーレ・ファミリーは今、緊張状態にある。
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ベニートおじさんがチンピラに刺される。
フランク王国の犯罪組織との緊張状態もあって、リベラトーレ・ファミリーは厳重な警戒態勢にあった。そして、そのリベラトーレ・ファミリーのトップであるリーチオとその娘であるクラリッサを守る男たちの数も普段の倍になっていた。
リベラトーレ・ファミリーの動員された構成員たちに守られ、リーチオとクラリッサを乗せた馬車はベニートおじさんの屋敷に向かった。
ベニートおじさんの屋敷はイースト・ビギンの外れにあり、高い柵で囲まれた広い屋敷だった。かつてはこの屋敷にベニートおじさんと妻、そして息子、娘が暮らしていたが、息子は大学に通うために寮に入り、娘は幹部の息子の下に嫁いだため、今ではベニートおじさんと妻しか暮らしていない。
その屋敷も今はリベラトーレ・ファミリーの構成員に厳重に守られていた。
「ベニートおじさん。寂しくないかな?」
「あれは寂しがるとかそういう人種じゃないと思うぞ」
周囲をがっちりと固めるリベラトーレ・ファミリーの構成員を見ながら、クラリッサが告げるのに、リーチオがそう告げて返した。
「分からないよ。パパだって私が出ていったら寂しいでしょ?」
「それは、まあ」
クラリッサの指摘にリーチオが後頭部を掻く。
あまり想像したくはないが、今は可愛く、いつも家にいるクラリッサもいつかは外に出ていって大人になるのだ。そうするとリーチオはあの大きな屋敷でひとりで暮らすことになる。それは確実に寂しいものだろう。
ベニートも息子と娘を外に出して妻とふたり暮らしだ。何かとクラリッサに構ってやるのは寂しさの表れなのかもしれない。
だが、そんなセンチメンタルな人間が刺された直後から、自分を刺した人間をミンチにして、吊るして、川に浮かべてやると騒ぐものだろうかとリーチオは思った。案外、子供たちがいなくなってからもいつも通りの生活が送れるのかもしれないとリーチオは思ったのだった。
「それにしても見舞いの品は別にいいって言ったのに、わざわざ買ってきたのか?」
「ベニートおじさんが早く良くなりますようにって思って」
クラリッサが大きなクッキーの包みを馬車から降ろすのにリーチオは肩をすくめた。
部下の見舞いにはよほどのことがない限り、ボスは何かを持ってきたりしない。持ってくるとしても酒、煙草などの嗜好品だ。決して、クッキーなどではない。
ボスとその娘がクッキーを持ってお見舞いに来るのに、ベニートおじさんはどういう顔をするだろうか。リーチオには悩ましいところであった。
「ようこそ、リーチオ・リベラトーレ様」
リーチオがベニートおじさんの屋敷のドアをノックすると、中から年老いたメイドが姿を見せた。メイドの身辺調査は終わっている。メイドは住み込みではなく、ここに毎日通って、ベニート夫妻の食事を準備し、洗濯をし、屋敷を掃除して帰る。
リベラトーレ・ファミリーの構成員の報告ではメイドに緊急の収入が入った様子もなく、メイドの羽振りが良くなったわけでもなく、メイドがベニート夫妻に恨みを持つ様子もなく、普段通りに過ごしているとのことだった。
これだからとリーチオは思う。
これだからファミリーの構成員が襲撃されるのは、特に幹部が襲撃されるのは面倒なのだとリーチオは思う。
一度襲撃があると全てを洗いなおさなければならない。どこから情報が漏れたのかを探り、誰が襲撃に加担したかに疑心暗鬼にならなければならない。それは非常に手間を取る仕事であり、費用と時間が浪費される。
まあ、幸いなのは犯人のチンピラがリーチオやクラリッサではなく、ベニートおじさんを狙ったということだ。リーチオやクラリッサが狙われていれば、街には血の嵐が吹きすさんだだろうし、組織にとっては致命的になる。
ベニートおじさんが襲撃され、生き延びたことで、一度は組織を洗いなおす機会が与えられたと考えるならば、それはリベラトーレ・ファミリーにとってはある意味いいことであったのかもしれない。腹を刺されて憤慨しているベニートおじさん以外にとっては。
「ベニート。腹の傷はもう痛まないか?」
「ベニートおじさん。大丈夫?」
そして、リーチオとクラリッサがベニートおじさんの寝室にやってきた。
「ボス。それにクラリッサちゃん。ベッドの上から失礼します。腹の傷の方はもうかなり良くなりましたぜ。早いところ体を動かしたいんですが、医者がまだ安静にしていろというものですから。全く、医者って奴は分かりませんよ」
ベニートおじさんはベッドから起き上がってそう告げる。
「医者の言うとおりにしておけばすぐによくなるということだ。まだ傷口を縫ったばかりなんだから静かにしておけ。お前が刺されたと聞いたときはぞっとしたんだからな」
「申し訳ありません、ボス。俺が油断していたばかりに」
リーチオが告げるのにベニートおじさんが項垂れる。
「ベニートおじさん。お見舞い、クッキー持ってきた」
「おお。ありがとうな、クラリッサちゃん」
そんなベニートおじさんにクラリッサがクッキーを差し出す。
「もう食事しても大丈夫?」
「大丈夫だよ。所詮は街のチンピラでナイフの構え方もよく分かっちゃいなかった。ナイフを構えるときは、こうやってナイフをしっかりと腰に据えて──」
ベニートおじさんがベニートおじさん流ナイフの構え方を披露しようとするのに、リーチオが大きく咳払いした。
「ベニート。余計なことをクラリッサに教えるな。真似したらどうする」
「クラリッサちゃんの万が一って時があるでしょうし」
「俺はこいつにナイフは持たせてないからな?」
クラリッサは幾度かナイフを隠し持とうとして、全てリーチオとファビオに阻止されたぞ。クラリッサがどこからナイフを仕入れているのかは謎だ。クラリッサときたら果物ナイフから折り畳み式ナイフ、銃剣、コンバットナイフまであらゆるナイフをどこからともなく持ってきて、カバンや制服に仕込もうとするのだ。
「知りたい。もっと教えて、ベニートおじさん」
「ダメだ。ベニートもこいつに余計なことは教えるな。分かったな?」
クラリッサは相手を確実に仕留められるベニートおじさんのナイフ術が気になってしょうがないぞ。それを何に使うつもりなのかは分からないところが余計に怖いぞ。
「ボス。俺を刺した野郎はどうなっています」
「まだお喋りしている。吊るすにしても、川に浮かべるにしてもお前にやらせてやる。だが、どうにもフランク王国の組織とは無関係のようだ。前にいた盗品密売組織に所属していたらしく、その線での報復の可能性が高いとみてる」
リーチオはあれから徹底的にベニートおじさんを刺したチンピラと“お喋り”している。どうしてベニートおじさんを狙ったのか。誰かに頼まれたのか。頼まれたとすれば誰か。そして、見返りに何を受け取るつもりだったのか。
だが、チンピラはいくら尋問しても盗品売買組織を潰されたことへの報復だとしか語らない。以前の街のチンピラたちの元締めに雇われて、その報復をするつもりだったとしか語らないのだ。フランク王国の組織の話は出てきていない。
「それはよかった。俺がベッドの上でくたばり損なっているときに抗争が始まってたらボスに何と顔向けしていいか。だが、フランク王国の組織の件はまだ解決できていないんでしょう? 連中、一度見せしめに吊るした方がいいのでは?」
「お前の傷が治ったら考えよう。今、ファミリーは守りに入っている。フランク王国の組織とやり合うなら万全の状態で挑みたい。下手にちょっかいだけだして、長期戦を強いられるのは得策ではない。やるなら短期間かつ徹底的にだ」
ベニートおじさんはベッドの上でも武闘派だ。
だが、今は些か抗争に適した時期ではない。武闘派のベニートおじさんはベッドの上で、組織は裏切者がいないか洗いだしを行っている。そして、ベニートおじさんを刺したチンピラについても調査中だ。
このタイミングで向こうから仕掛けて来られたら最悪だが、幸いにして依然としてフランク王国の組織は動く様子を見せない。
今はベニートおじさんの回復とチンピラの背後にいる人間の洗い出し、および組織の立て直しが必要とされている。抗争はできない。
「ベニートおじさん。クッキー食べてよくなってね。アーモンドのやつ、美味しいよ」
「ありがとうな、クラリッサちゃん。授業参観はどうだった?」
「ばっちり。いいところを見せれたと思う」
武闘派のベニートおじさんもクラリッサの前では人のいいおじさんだ。
「そいつはよかった。勉強を頑張るんだぞ、クラリッサちゃん。頭が良ければ、ボスのことも支えてやれるからな」
自分の息子をオクサンフォード大学に通わせるのには難色を示していたのに、クラリッサにはこれである。完全に孫か何かだと思っている。
「任せといて。パパのことは私が支えるから」
「はいはい。そこまでだ。ベニート、養生しろよ。傷が治ったら改めて幹部会だ」
クラリッサとリーチオはそう告げるとベニートおじさんの屋敷を去った。
去り際のベニートおじさんの顔が少し寂しげだったのが、やはり親にとっての子供の存在の大きさを窺わせ、リーチオはクラリッサを外に出す日が来たらどうなるのだろうかと少しばかり気になったのだった。
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