娘は友達をキャンプに誘いたい
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──娘は友達をキャンプに誘いたい
11月。
まだ冬休み前だが、アルビオン王国では一足早く連休がある。
5日ほどの連休で、友人と過ごしたり、家族で出かけたりするのだ。
「サンドラ、ウィレミナ。キャンプに行こう」
「ああ。そんな話してたね」
クラリッサは前々からキャンプをすることを提案していたぞ。
「でも、いろいろと準備しないといけないよね」
「それは今日中に終わらせよう」
「スピーディすぎる……」
クラリッサはなんとしてもこの連休にキャンプに行きたいのだ。
「誘うのはあたしたちだけ?」
「いや。フェリクスたちも誘おうと思ってる。キャンプ経験者としてフェリクスには期待しているんだ。それからフィオナとヘザーが来てくれたらってところ」
「ふむふむ。では、早速誘いに行こうぜ!」
「おうよ」
クラリッサたちはフェリクスの机に突撃。
「フェリクス。次の連休の予定ある? ないね。分かった。なら、私たちと一緒にキャンプに行こう。決まりだ」
「……俺は一言もしゃべってないんだが」
フェリクスの机に突入してきて、いきなりまくしたてるクラリッサをフェリクスが白い目で見た。
「どうせ5連休予定ないんでしょ?」
「確かにないが……。いいキャンプ地があるのか?」
「私の知り合いのおじさんの家が近くにあるキャンプ場。死体は埋まってないよ」
「おい。どうして死体の話が出た」
「なんとなく言っておかなきゃいけないかなと思って」
ベニートおじさんの近所のキャンプ場だけど死体は埋まっていないぞ。本当に。
「はいはーい! トゥルーデも行くわ! 絶対に行くわ!」
「分かってるよ、トゥルーデ」
フェリクスが来るとなると自動的にトゥルーデも加わる。
「この5人で行くのか?」
「んー。フィオナとヘザーの予定が空いてたら誘うと思っている」
「なら、先に人数を確定してくれ。それによっては準備するものも変わる」
「了解」
クラリッサたちはフィオナの机に襲来。
「フィオナ。5連休、空いてる?」
「いえ。実家の都合でカレドニア地方に行かなくてはいけませんの」
「そっかー」
「何かお誘いでしたか?」
「キャンプに誘おうかと思って」
「まあ、楽しそうですわね。機会があればまた誘ってください。予定を開けておきますわ。キャンプは楽しいですからね」
「オーケー!」
フィオナの予定を聞いたクラリッサたちは次はヘザーへ。
「ヘザー。次の5連休空いてる?」
「それがあ。実家がパトロンをしている役者の芝居を家族で見に行くことになっていましてえ……。何かお誘いでしたあ?」
「キャンプに誘おうかと思って」
「ありゃ。それは残念。屋外でプレイというのもいいものなのですがあ」
「……もう誘わないよ?」
何をプレイするというのだろうか。
「さて、この5人になっちゃったね」
「5連休は長いようで短いからなー。予定が合わないことはあると思うよ」
夏休みみたいな長い休みだと互いに予定も合わせやすいが、5連休という微妙な長さの休みではなかなか予定が合わない。
「それじゃ、何日ぐらいキャンプする?」
「1泊2日ってところじゃないかな」
「よし。決まり」
クラリッサはメモ帳にスケジュールをメモしていく。
「でさ、キャンプ道具を揃えなきゃいけないんだよね。フェリクス、手伝って」
「分かった、分かった。店は知ってるのか?」
「うん。前にキャンプしたときに行った店がある」
「なら、そこでそろえるか」
というわけで、クラリッサたちは11月の連休に行うキャンプのための道具集めに。
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クラリッサたちは馬車でアウトドア用品店にやってきた。
「テントから買い替えるか?」
「せっかくだしそうする」
「となると、ここら辺だな。お、軍用品が置いてあるな」
フェリクスは店内を見渡している。
「クラリッサちゃんのテントは冬には使えないの?」
「クラリッサのテントは夏用だ。通気がよくできている。だが、冬場は通気性なんてごめん被るだろう?」
「それもそっかー」
「それに結露の問題もあるしな。慎重に選ばないといかん」
「フェリクス君物知りだね」
「アウトドアは趣味だからな」
フェリクスは山登りやキャンプ、釣りが大好きなのだ。
父親であるペーター・フォン・パーペン伯爵が外交官であると同時に、自然科学に造詣が深く、各国の珍しい生き物や植物などを集めるのに、キャンプなどを嗜んでいたことが、フェリクスにいい経験を与え、彼は自然の中で生きることを楽しむようになった。
トゥルーデ? 彼女はフェリクスにしか興味はないよ。
「フェリクス君は大人になったら探検家になるんだよね」
「まあ、そのつもりだが。まずは体力をつけて、気象学や地質学とかの探検に必要な知識を身に付けないとな。大学は大学院まで進むつもりだ」
「ほへー」
フェリクスはいつもの態度とは異なり、進路に関しては真面目そのものだった。
「クラリッサちゃんもフェリクス君を見習わないと」
「やだよ。私は勉強は最小限にして金儲けに邁進する」
「酷い落差だ」
クラリッサはフェリクスを見習おうな。
「別にやりたいことをすればいいんじゃないか。クラリッサはホテルとカジノがやりたいんだろう。それなら好きにさせてやればいい。無理やり勉強させても何も身につかないってものだ」
「流石、フェリクス分かってるー」
クラリッサがパンパンとフェリクスの背中を叩く。
「いや。クラリッサちゃん。今、クラリッサちゃんは勉強しても無駄って言われたに等しいんだぜ? 分かってる?」
「絶対に分かってない……」
クラリッサは鈍かった。
「テントを買ったら寝袋だな。こいつが肝心だ。ここでミスると凍死しかねない」
「怖い場面に来た」
凍死とかいう単語が出てきたぞ。
「夏用の寝袋と冬用の寝袋は全く異なる。夏用の寝袋の保温性はゼロに近い。というか寝袋に入らなくても眠れる。だが、冬用の寝袋は保温性が重要だ。事前に懐炉で温めておくにしても限度がある。ここはドンと羽毛の寝袋を買うべきだな」
「はいはーい。お値段はおいくらぐらいなの?」
「安くても5万ドゥカートだ。高ければ10万ドゥカートのものもある」
「げえ」
お値段を聞かされたウィレミナの顔色が悪くなった。
「大丈夫。私の奢りだ」
「けど、あんまり高いのは悪いよ」
「友達に凍死されても困るから」
キャンプに誘った身としては友達に何かあっては困るのだ。
「俺はもう持ってるからいいぞ」
「トゥルーデはフェリちゃんと裸になって抱き合って暖まるわ」
「姉貴はクラリッサたちと同じテントで寝てくれ」
「トゥルーデはフェリちゃんと裸になって抱き合って暖まるわ」
「…………」
頑なな態度に出たトゥルーデである。
「わがまま言うなら連れていかないよ、トゥルーデ」
「やだー! フェリちゃんと同じ寝袋がいいー!」
「ダメだ、この姉……」
4歳児辺りにまで幼児退行して駄々をこねるトゥルーデであった。
「この姉貴は置いていこう」
「うわーん! フェリちゃんがいじめるー!」
「いじめられてるのはこっちだ! 衆人観衆の場で泣きわめくな!」
流石のフェリクスもこんな姉とは他人のふりをしたい。
「仕方ないよ、フェリクス。せめて同じテントで過ごすといいよ」
「はあ。そうなるわけか」
トゥルーデの泣き落とし作戦成功である。
「他に必要なものは?」
「懐炉と料理道具と焚火に関する装備だな。料理道具は俺が持ってくるから──」
クラリッサたちはそれからわいわいとキャンプ用品をそろえると、準備万端という具合に外に出た。かかったお値段は少なくとも50万ドゥカート以上。
しかし、これで念願のキャンプができるとクラリッサは満面の笑みだった。
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「ただいま、パパ」
「おう。お帰……り?」
クラリッサは大掛かりな道具を持って帰宅してきた。
「それなんだ?」
「キャンプ道具。今度の5連休にベニートおじさんの農場の傍のキャンプ場に行くから」
「行くからって、また唐突に物事を始めて……。まずはベニートに手紙を出しておかんといかんだろう。ベニートは確かに引退したが、引退したからと言って一日中暇なわけじゃない。あいつもいろいろと予定がある」
「ベニートおじさんはいつでもきていいって言ってたよ?」
「そりゃ、誰にでもいう挨拶みたいなもんんだ」
ベニートおじさんは引退後もファミリーの仕事に僅かに関わっている。ピエルトを始めとする幹部たちと話し合ったり、助言を与えたり、七大ファミリーの幹部の表敬訪問を受けたりとベニートおじさんは今でもマフィアなのだ。
というわけで、ベニートおじさんのお世話になるなら予定を尋ねておこう。
「分かった。予定を聞いてみる」
「そうしなさい。ところで、誰と一緒に行くんだ? ひとりじゃないだろ?」
「サンドラ、ウィレミナ、フェリクス、トゥルーデの4名と一緒に」
「フェリクス君はアウトドア経験があるんだったな。なら、任せていいか」
とは言え、一応シャロンも派遣しておこうと考えるリーチオだった。
「料理は何を作るんだ?」
「んー。まだ決めてない。フェリクスのカレーも美味しかったし、スープパスタって案も上がってる。南部人としてはパスタは外せない気もするのだが、迷いどころだ」
フェリクスが読んでいたアウトドアの本にスープパスタの作り方が載っていたらしく、クラリッサはキャンプ場で食べるスープパスタを想像して涎を垂らしそうになっていた。南部人とはかくもパスタに弱いものよ。砂漠じゃ流石にパスタは茹でないけど。
「まあ、しっかり気を付けて、楽しんできなさい。引率が必要だったら同行するぞ」
「大丈夫。今回はベニートおじさんの農場の傍だし」
ベニートおじさんに絶大な信頼を置いているクラリッサであった。
ベニートおじさんは農場で敵対者をミンチにして豚に食わせていた人なのだが。
「旦那様、ピエルト様がいらっしゃいました」
「ん。そうか。クラリッサ、荷物はきちんとまとめておいて、出かけるときに慌てなくて済むようにしておきなさい」
「はーい」
クラリッサは荷物を抱えて自室に上がっていった。
「ボス。ご報告したいことが」
「なんだ?」
ピエルトは室内を見渡してからそう告げる。
「ブラックサークル作戦について少しですが分かったことがあります」
「ふむ。聞こうか」
嫌な予感がしながらもリーチオはピエルトに発言を促した。
そして、ピエルトがテーブルの上に書類を広げる。
「これはバヴェアリア王国から漏れてきた情報ですが、ブラックサークル作戦というのはそれぞれの情報機関が“裏”で活動するための場所づくりのようです。つまり──」
「我々マフィアを隠れ蓑に表ざたにはできないことを処理するか」
「そういうことです」
ブラックサークル作戦にどれほどの人間が加担しているかは不明だが、目的のひとつは明らかになった。
情報機関の非公式作戦機関の擁立。マフィアとの協力関係を利用した情報戦の展開。情報戦というものには暗殺というものも含まれているだろうし、非公式な尋問──拷問も含まれているだろう。
マフィアのやったことであり情報機関は無関係という立場が取れるこの作戦のメリットは大きい。情報機関はこれまで警察と同様に手足を法律で縛られていた。それがなくなるのだ。好きなように暗殺し、好きなように拷問する。
魔王軍との和平がなるまでの関係とも考えられるが、これだけ便利なものを情報機関が魔王軍との戦争が終わったからと言って手放すとは考えにくい。
いわば、グアンタナモやブラック・サイトがそこら中に存在するようなものなのだ。これは他の国家との情報戦にも利用できる。
「分かった。だが、言ったように今はマックスとの協力は不可欠だ」
「本当にそうなのですか? もう特区法案は可決されて、カジノ法案も確実です。これ以上相談役に世話になるようなことはないと思いますが」
リーチオの言葉に、ピエルトがおずおずとそう告げた。
「麻薬戦争はまだ終わっていない。そのためには協力は必要だ」
「分かりました、ボス。ボスがそういうなら」
ピエルトは確かに頷くと、リーチオの書斎から出ていった。
「想像以上に面倒なことになってきたな……」
リーチオはひとりそう呟いたのだった。
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