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娘はお客をもてなしたい

……………………


 ──クラリッサはお客をもてなしたい



 文化祭開催当日!


 クラリッサたちが生徒会だったときには受付作業に悩まされたものだが、今年はどうなるだろうか。今年もクラリッサたち生徒会が受付を──。


「受付作業は文化祭の実行委員会に一任したから」


「君という奴は!」


 クラリッサがそんなクソ面倒くさいことをするはずもなく、業務はアウトソーシングされた。丸投げともいう。


「ただし、業務の効率化もしておいたよ。招待状を持って訪れたお客さんにはこの文化祭パスが与えられるの。翌日からはこれを提示するだけで、受付を通過。わざわざ名前を記録したりする必要はなくなるってわけさ」


 もっともクラリッサも本当に何もしなかったわけではない。


 彼女も業務を効率化しようと、手を打っておいたのだ。


「なるほど。これはよくできている」


「でしょ? 遠慮なく褒めたたえてもいいよ」


「君はすぐに図に乗るな……」


 クラリッサは図にライディングするのが得意なのだ。


「しかし、このパスというのはよくできていますね。金属製、ではないようですが」


「プラスティック製。プラスティックって知ってる? 最近の発明なんだよ」


 何と、この世界、合成樹脂が開発されているのだ。


 とは言え、そこまで広まっている発明でもないのだが。まあ、犯罪組織がアヘンからヘロインを精製できる程度には有機化学が進んでいるので、プラスティックがあってもおかしくはないかもしれない。


「金属板だと重いし、加工が難しいし、木製だと壊れやすいし。考慮の末にパパの知り合いを頼ってプラスティック製のパスにしました。本当は紙でもよかったんだけど、紙は私の経験上紛失しやすいからね」


「それは君が抜けているだけなのでは……」


 クラリッサがやれやれという具合に告げたが、ジョン王太子が正論です。


「さて、私たちはそれぞれのクラスと部活動の催し物を手伝おう。やらなきゃならないことはいろいろとあるでしょ? うちのクラスだって忙しいし、ウィレミナの陸上部は出店を出すみたいだし、文芸部も展示があるんでしょ?」


「そうだねー。うちの出店、マジウマだから食べに来てね」


「ちなみにどんな料理?」


「カレー!」


「カレーかー。屋台のカレーも美味しいよね」


 準備は面倒かもしれないが、屋台のカレーも美味しいものだ。


 ちなみにアルビオン王国ではカレーは国民食と言っていいほどに広まっている。インドから持ち帰られたものが、アルビオン王国風にアレンジされ、マイルドな風味あるカレーになっているのだ。


 ちなみに、薄暗い話をするとアルビオン王国では当初交易を目的としていた東インド会社がPMC(民間軍事企業)と化し、本国の意志とは関係なくインド平定を進め、今や植民地だ。このやりすぎた東インド会社に対する懲罰も動議されているが、東インド会社の株を持つ議員も少なくなく、このまま植民地化は推し進められるだろう。


「それでは高等部で初めての文化祭。盛り上げていこう」


「おー!」


 こうしてクラリッサたちの文化祭が始まった!


……………………


……………………


 クラリッサはまずは自分たちのクラスの出し物に参加することにした。


 カジノ部の方はクラリッサが留守の間はフェリクスが仕切っている。


「それでは諸君。ガンガン賭けてもらって、ガンガン稼いでいこう」


「おー!」


 今年も収益金の還元は行われるので、みんな張り切っている。中等部2年では惨敗に終わったが、今回は問題要素はなし。そう、もうアルフィはいないのだ。


 アルフィはまるで自分が死んだかのような言い方に抗議するかの如く、小屋の中でサイケデリックな色合いに発色したが、それだけだった。


「さあ、みんなビシッと決めて。ルールはちゃんと覚えたね?」


「ばっちり」


 クラリッサたちはそろいの制服を纏っている。


 喫茶店なので喫茶店らしい制服。白いシャツに黒いズボン、そして茶色のエプロン。どれもアイロンがしっかりとかけられ、シミひとつなく、清潔感と信頼感ある風貌だ。


 喫茶店では清潔感が、カジノでは信頼感が求められる。その点、どちらもばっちり。


「最終確認するよー」


 サンドラが文化委員として声を上げた。


「食品の準備は?」


「サンドイッチ、クッキー、プチシュー。どれも準備できてまーす」


 どの食品もカードゲームをしながら食べられるものだ。プチシューにはフォークが付いており、そのフォークで食べれば手を汚さずに食べられる。逆にチョコレートなどはフォークを刺せず、手に引っ付くため却下となった。


「コーヒー、紅茶、ジュース、ノンアルコールカクテルの準備もできてます」


 ノンアルコールカクテルの作り方を生徒たちに教えたのはクラリッサだ。彼女は宝石館でノンアルコールカクテルの作り方を教わり、その技術を生徒たちに教えた。ノンアルコールカクテルは意外と人気のメニューでカジノっぽい雰囲気を持っている。


「カードゲームの方の準備は?」


「ポーカー、インディアン・ポーカー、ブラックジャック、バカラ。どれも準備できてます。ゲームテーブルの設置もばっちりです」


 クラリッサはもっといろいろなゲームも仕入れてきたのだが、カジノ部を盛り上げるためとクラスの人員に制限があることから、この4種類のゲームだけにした。


「ルーレットは?」


「ちゃんと回るよー」


 ウィレミナがルーレットをぐるぐると回しながらそう告げた。


「ウィレミナは腕のいいスピナーだから期待しているよ」


「任せとけ」


 クラリッサが告げ、ウィレミナがグッとサムズアップして返した。


「それではこれにて準備完了。お店を開けよう!」


 王立ティアマト学園1年A組。カジノプラザ・ティアマトの開店である。


……………………


……………………


「クラリッサのクラスは1年A組か」


「クラリッサちゃん。今年はカジノをするんでしたっけ?」


 王立ティアマト学園高等部の校舎では招待された保護者たちが自分たちの子弟の通うクラスを探してうろうろとしていた。


「ああ。生徒会長になってカジノを認めさせたらしい。カジノ部なんてものもできたそうだ。あいつのことだからいかさまをやってないか心配だな……」


「大丈夫ですよ。いかさまはいかさまに遭う方が悪いんですから」


 クラリッサと同じセリフを吐くピエルトだった。教えたのはこいつか。


「うわあ。どなたも立派な格好の方ばかりですね……」


「グレンダさんも負けてませんよ。自信をもって」


 グレンダが貴族の保護者達を見て気後れするのにピエルトがそう告げた。


「おい。娘の家庭教師を口説くんじゃない」


「く、く、口説いてないですよ? 本当ですよ?」


 嘘である。


 このピエルト、グレンダに一目ぼれしているのだ。知的だし、愛嬌があるし、それでいてピエルト好みの顔立ちをしているのだから、結婚願望のあるピエルトとしては口説かずにおけない。しかし、年齢差は大きいぞ、ピエルト。


「聖ルシファー学園でも文化祭はとっても華やかでしたけど、王立ティアマト学園も負けてませんね。こういうことには一歩引いているかと思ったんですけど」


「王立ティアマト学園も生徒獲得競争で勝たなければならないからね。家庭教師を付けることで済ましてしまう貴族もいるから、こういう楽しい行事を催して社会性を獲得させると同時に、生徒の勧誘を行っているのよ」


「なるほど。そういえば聖ルシファー学園も文化祭には大勢を招待してましたね」


 王立ティアマト学園も考えているのだ。


 学園に行けば正しい社交性を獲得でき、そして子供たちが喜ぶ行事がある。そういうものをアピールすることで生徒の獲得に動いているのだ。


 王立ティアマト学園の場合、ことは深刻だ。


 聖ルシファー学園と違って貴族ばかりに門戸を開いているこの学園では、国内の貴族の数で生徒数が変動する。今でこそ貴族たちは子孫繁栄のために子供をより多く持っているが、ここで少しでも少子化の波が押し寄せれば、王立ティアマト学園は瞬く間に干上がってしまう。まして、子供を学校に通わせない貴族が出てきてはお終いだ。


 故に王立ティアマト学園は学園行事に力を入れているのである。


「ここだな。カジノプラザ・ティアマト」


「今年はクラリッサちゃんからどんなことをするのか聞いてないんですけど、いったいどんな色物なんですか?」


「色物というな。確かに毎年毎年詰め込みすぎな感じはするが」


 女装男装カジノ喫茶やバニーガール使い魔喫茶を見せられた後ではこういう感想も出るというものだ。


「確かアートカジノ喫茶だったか。芸術を楽しみながら賭けをしようって話だったはずだ。芸術というところが不安になってくるが……」


 リーチオは入ったらいきなり農民が虐殺される絵に出くわさないかと心配していた。


「いらっしゃいませ!」


 というのも杞憂であり、リーチオたちは華やかな音楽の音色とサンドラに出迎えられた。今回は色物な服装ではなく、男子も女子もきっちりとした給仕服姿だ。


「あ。クラリッサちゃんのお父さん。クラリッサちゃんならポーカーの台ですよ」


「ありがとう、サンドラちゃん」


 もう何度もクラリッサたちの旅行の引率をしてきたおかげでサンドラたちとリーチオはすっかり顔なじみである。


「ポーカーの台は……。あそこか」


 ポーカーのテーブルでは5名の男女がゲームに興じていた。


「今日はついてますね。もっと大きく勝負に出てみたらどうです?」


「よし。レイズだ!」


 ポーカーのテーブルでは相変わらずクラリッサが客を煽って賭けさせていた。


 とは言え、監査委員会が賭け金が過剰にならないように見張っているので、大金では勝負できない。あくまで賭け金の上限──3000ドゥカートまでだ。


 それでもクラリッサたちに入ってくるお金はなかなかのものである。


 今回はマイナス要素も少なく、収益金の還元もあるので、皆が張り切っている。そう、女装もしなくていいし、アルフィに怯えなくてもいいし、バニーガールの格好をして両親を卒倒させなくてもいいのだ。


 アルフィは自分のことが話題に上がった気がして小屋の中でサイケデリックな色合いに変色した。だが、それだけだった。


「クラリッサ。頑張ってるか?」


「おう。パパ。今、ゲームが凄く盛り上がっているから相手できなくてごめんね。少しの間、音楽聞いて絵を眺めて待ってて」


「ああ。そうする。ここはかなり居心地がよさそうだ」


 流れてくる音楽はいい感じのプチオーケストラで、音楽にはそれなりの造詣が深いリーチオでも満足できるものだった。


「コーヒーとサンドイッチを」


「畏まりました」


 リーチオたちがカウンター席に座って注文し、フィオナがいそいそと準備する。


「この音楽はクラスの生徒たちで録音したの?」


「はい。私はピアノを担当しました」


 パールが尋ね、フィオナが笑顔でそう告げた。


「そう、素晴らしいわ。皆、才能があるのね」


「そういっていただけると嬉しいです」


 フィオナはそう告げて注文の品をリーチオたちの前に並べた。


「しかし、クラリッサは絶対に参加してないだろ、これ。あいつが参加してたら蓄音機がぶち壊れる。間違いなく」


「クラリッサちゃんは何というか、独特のセンスをしていますからね……」


 クラリッサのピアノ演奏事件の被害者はベニートおじさんだけではなく、ピエルトも被害に遭っているのである。


「クラリッサさんは絵を描かれていますよ。各テーブルの背後に展示してある作品です。クラリッサさんのはあれですね」


 フィオナはそう告げ、一枚の絵を指さした。


「……農民が虐殺される絵じゃないな」


「ボス。どうして農民が虐殺される絵だと思ったんです?」


 描かれていたのは自動車の絵だった。


 リーチオがクラリッサに買い与えた自動車の絵。細部まできちんと描かれ、陰影のある立体感を持ってそこに存在していた。


 他にも犬の絵や風景画、肖像画などが飾られている。どれもなかなかの出来栄えだ。


「このクラスは絵の上手い生徒が集まっているんですね」


「クラリッサさんが指導なさったんですよ。クラリッサさんはとても絵が上手いですから。他の子たちに教えてあげていたんです」


 グレンダが感心して告げ、フィオナがそう返した。


「クラリッサが絵が上手い、か」


 全く以てのでたらめではない。


 あの農民が虐殺される絵でも細部まできちんと描かれ、血しぶきには躍動感があった。ただテーマがテーマなので素直に褒められない。


「ところで、そちらの方はクラリッサさんのお知り合いの方ですか?」


「グレンダ・ガードナーです。クラリッサちゃんの家庭教師をしています」


「まあ。クラリッサさんがここ最近、とても成績がいいのはあなたのおかげでしょうか? クラリッサさん、とても勉強を頑張っていらっしゃいますもの」


 グレンダが照れ気味に笑い、フィオナが驚いた顔をしてそう告げた。


「全てが全て私のおかげじゃないとは思うよ。クラリッサちゃん自身に向上心があったからこそ、成長したのだと思う。クラリッサちゃんは本当に夢があって、それをかなえたいって思いがあるからこそ勉強を頑張れるの」


「夢、ですか」


 グレンダが告げると、フィオナが少し考えた。


「私は成人したらジョン王太子と結婚する予定です。そんな私が夢見るのは王太子妃としての役割だけでしょうか?」


 フィオナは少し声を落としてそう尋ねた。


「大学に進学予定は?」


「あります。けど、自分が本当に学びたいものが分からないんです」


「そう、でしたら、まずは自分が本当に興味があるものを探してみて。教育学でも、建築学でも、天文学でも、大学には必ずその分野のプロがいるから。その興味を持ったことにさらに興味が持てるようにしてくれるはず。それでも受け身にはならないで、常に興味を持ち続け、探求することを止めなければきっと何かが掴めるはずだから」


「そうですね……。ありがとうございます」


 フィオナはペコリとグレンダに頭を下げると再び給仕としての仕事を始めた。


「凄いですね、グレンダさん。今のグラフトン公爵家の御令嬢ですよ」


「え? あ、ああ。偉そうなこと言っちゃったかも……」


 ピエルトが感心して告げるのに、グレンダが顔を真っ赤にした。


「いや。いいアドバイスだったと思うぞ」


 リーチオだけは静かにグレンダの話を聞いて納得していた。


「未来の王太子妃にも夢が必要だ。誰にだって夢は必要だ」


 リーチオの夢。


 それはリベラトーレ・ファミリーを合法化し、クラリッサに託すこと。


 マフィアのボスでも夢を見ていいのだ。未来の王太子妃が夢を見てはいけないということはない。ただ、その未来は望むだけでは決して手に入らないというだけ。


「あいつもいつか立派な経営者になってくれるかな」


 ゲームが白熱しているポーカーのテーブルを見て、リーチオがそう呟いた。


……………………

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