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娘はもうひとつのカジノも目玉にしたい

……………………


 ──娘はもうひとつのカジノも目玉にしたい



 裏のカジノであるテーブルカードゲーム部の方は文化祭でも表に出せないとして、既に活動を開始しているカジノ部の方では文化祭でも出し物ができるのだ。


 何と言っても文化祭。文化部の輝く時だ。ならば、文化系部活であるカジノ部もひとつ儲け話に加わろうではないか。


「フェリクス。ドカンと儲けるよ」


「やれるのか?」


「やれる、やれないじゃなくてやるんだよ」


 同じカジノ部の部員であるフェリクスが怪訝そうな顔をするが、クラリッサは言い切った。それほどまでに今のクラリッサは自信に満ちていた。


「面白いゲームを新大陸から仕入れてきたから、それを使ってカジノの楽しさを知ってもらおうと思う。そして、カジノの楽しみを知った生徒のうちで、信頼できる人間に、闇カジノへの招待状を渡すというわけさ」


 クラリッサはリバティ・シティへの旅行で楽しいゲームをたくさん覚えてきた。西部開拓時代に生まれたゲームやリバティ・シティならではのゲーム。


 そういうゲームを楽しんでもらうのが表であるカジノ部の役割。そして、それを知った生徒が楽しくてもっと賭けたいと思ったら、そっと招待状を渡し、お金をたっぷり落としてもらう方が裏であるテーブルカードゲーム部の役割。


「ポーカーひとつとってもルールがたくさんあるんだよ。私のおすすめはインディアン・ポーカー。自分の額にカードを乗せて、他人の反応を窺いながら賭けたり、下りたりする。これは間違いなくユニークなゲームとして有名になるよ」


「ふうむ。確かに面白そうだな」


「それからルーレットの台も2台購入したから、思う存分ゲームを楽しんでもらえるよ。うちのスピナーは腕がいいことですしな」


 そう告げてクラリッサはふふふと不敵に笑った。


 闇カジノではクラリッサ自身がディーラーを勤めることも多々ある。だが、カジノ部ではクラリッサはディーラーの養成に集中し、客との駆け引きや、客を煽る方法、そしていかさまについて少々教えた。


 おかげで今のカジノ部はカジノ従業員として通じるほどの技術を持っているのだ。


「思いっきりゲームを盛り上げていくよ。賭けに賭けさせて、こちらはボロ儲けだ。そして、闇カジノにご案内。この手のゲームには中毒性がある。一度味を知れば、抜け出すのは難しい。さあ、たっぷりと稼ごうではないか」


「おう。そうと決まったら準備しないとな」


 カジノ部の部室は散らかっている。


 部長であるクラリッサ自身はずぼらであるため、なかなか掃除が行われないのだ。顧問であるフレデリックは苦情を述べるのだが、その時はフレデリックが見ない部分にゴミやらなにやらを押し込んでごまかしている。


 しかし、カジノ部として初めて文化祭に参加するのだからいい印象を持ってもらいたい。そのためにはしっかりと掃除をして、準備を整えなければ。


「掃除だ、掃除。野郎ども、空き教室から掃除用具をかっぱらってこい」


「おー!」


 クラリッサが号令を下し、カジノ部員たちが動く。


「一応、これも企画書を監査委員会に提出しなければならんのだろ?」


「そだね。私が準備するし、私が通過させるから安心していいよ。何せ、生徒会のボスはこの私なのだからね」


 フェリクスが尋ね、クラリッサがにやりと笑った。


「流石だ。権力を乱用する時間だな」


「その通りだぜ、いえい」


 生徒会長にまでなったのはこのため! 権力は乱用するもの! 古代ロムルス帝国の皇帝たちも権力を乱用してきて、偉大なロムルスを築き、そして偉業を成し遂げてきたのである! 生徒会長が権力を乱用して何が悪い!


 というのがクラリッサの主張である。


「しかし、飲み物や食べ物はこちらで準備するとして、客を外に出さないようにするためには野郎どもばかりじゃダメだな。華が足りない」


「まあ、カジノ部なんてのに入部するのは男ばかりだと思うぞ」


 カジノ部のメンバーは部長のクラリッサを除いて、皆が男子生徒だった。


 裏カジノでは接待係に少数の女子生徒がディーラーや飲み物などの提供を行っていたが、その女子生徒たちも自分たちのクラスの出し物があるので、カジノ部のために働いてもらうわけにはいかない。それにあの女子生徒たちには少なくない報酬を支払っているのだ。文化祭でずっとカジノしてたら人件費が飛ぶ。


「誰かカジノ部に入ってくれないかな……」


「サンドラたちは?」


「サンドラは魔術部、ウィレミナは陸上部、フィオナは文芸部、ヘザーも文芸部」


 体育会系で文化祭では特に見せ場のないウィレミナを除いては知り合いのほとんどは文化祭でそれぞれの役割があるものばかりだった。


「流石に闇カジノの客にやらせるわけにもいかんしな。ここでのことや闇カジノのことを喋らない口が堅い人間ってのはなかなか……」


「私を呼んだようね!」


 すると、どこからともなく声が。


「とうっ!」


「姉貴……。2階から飛び降りるのはやめろ」


 トゥルーデである。


 トゥルーデが2階の廊下の窓から飛び降りてきて、クラリッサたちの前に着地した。


「仕方ないじゃない! 最近フェリちゃん、トゥルーデのこと避けてるし! 何なの! まさかあのクリスティンってちびっ子とできてるの!? 嘘よね!?」


「クリスティンとは何もない。それに姉貴を避けてたんじゃなくて、クラスの出し物のゲームの準備をしたりするのに時間がかかってて、一緒に帰れなかっただけだ」


 トゥルーデがまくしたて、フェリクスが深々とため息をついた。


「なら、フェリちゃんの心は今もトゥルーデにあるのね!」


「そうはいってない」


 実の姉に思いを寄せるようなシスコンではないのだ。


「ねえねえ。トゥルーデはさっきまでの話を聞いてたの?」


「聞いてたわ。フェリちゃんの部活に女の子が必要なんでしょう? 私に任せて!」


「おお。トゥルーデが頼もしく見える」


 トゥルーデが胸を叩き、クラリッサがその姿に感銘を覚えた。


「絶対碌なことにならない。姉貴を入れるべきじゃない」


「他に当てがあるの?」


「あるわけではないが……」


 クラリッサの問いに、フェリクスが言葉を濁らせた。


「なら、諦めてトゥルーデを受け入れるしかないよ。トゥルーデも黙ってれば美人だし、スタイルもいいし、客に受けると思うな。フェリクスはトゥルーデがお客にちょっかい出されないように見張っておいてね」


「守ってね、フェリちゃん!」


 クラリッサがにやりと笑うのに、トゥルーデもにやりと笑った。


「分かった、分かった。姉貴の入部を許可する。それでいいだろ」


「オーケー。後は制服について考えないとね」


 クラリッサはそう告げて、カタログを広げた。


「プロのディーラーらしく、ビシッと決めておかないとね。ディーラーは信用が命。揃ったシミひとつない制服は、客に好印象を与えて、より多くの金を賭けさせる。さて、どんなのがいいかな? うちのシマの店だから割引効くよ」


「トゥルーデはバニーガールがいいわ!」


「ダメ。トゥルーデもちゃんとした制服着て」


 トゥルーデはバニーガール姿でフェリクスのことを誘惑するつもりだったが、その思惑は外れてしまった。


「やっぱりこの黒と白のベストとシャツの組み合わせかな。女子もパンツでいいよね」


「ミニスカがいいわ!」


「ダメ。トゥルーデも真面目な格好して」


 トゥルーデの思惑は次々にクラリッサに潰されてしまった。


「ふーむ。まあ、こんなもんだろうな。客より目立ってもいけないし、客には信頼される格好をしておかなければならない。となると、こういう制服がベストか。しかし、これなら制服でもいいんじゃないのか?」


「ちっちっちっ。それじゃあ、ダメなんだよ。カジノは一種の閉鎖空間。現実離れした環境でなければならない。学校の制服を着たディーラーがいたら現実に引き戻されてしまう。そうなると賭ける金額も僅かなものになってしまうだろう。そうならないように、客には現実感から離れてもらうようにディーラーの制服からお店の内装まできっちりとこだわるべきなんだよ」


「なるほど。一理ある」


 カジノの特徴は客を現実から引き離すということだった。


 窓を閉ざして煌びやかな室内照明だけで過ごさせ、時間の感覚を失わせる。大量のお金を動かすことによって、金銭感覚を失わせる。現実離れした光景で、客から現実感を失わせる。そうすることによって客に長時間、財布の中身を吐き出させ続けるのだ。


 学園に置いてはここが学園の一部ではないかのようにし、学園にいることと自分が生徒であるということを忘れさせるべきだろう。


「というわけで、本格的なカジノを目指すよ。いいね?」


「任せとけ」


 心なしかフェリクスはクラスのカジノよりこっちに乗り気だ。


「なら、放課後に制服を仕立てに行こう。部員の採寸をしてからね。それから部室内を綺麗に片付けて、飾り付けないとね。別に子供っぽい飾りは必要ないよ。座り心地のいい椅子と清潔な机。それさえあれば十分」


「後は掃除だな」


 フェリクスは散らかった部室内を見て、そう告げた。


「きれいに掃除しよう。それから窓を塞いで、照明の明かりを強くする」


「オーケー。なら、早速始めよう」


 それからカジノ部員たちが合流し、彼らも加わって部室の片づけと窓への遮光カーテンの取り付けを行うと、部員たちの採寸を行い、制服を購入しに行く準備を整えた。


「トゥルーデ。意外と大きいね……」


「そう? まだDカップよ」


「ぐぬぬ」


 クラリッサは平均的な成長をしているのだ。


「まあ、いいさ。私には私なりの魅力がある」


「思ったのだけれど、フェリちゃんってちびっ子が好きなのかしら? なら、胸は小さい方がいいのかしら?」


 頭を切り替えたクラリッサと頭が明後日の方向に飛んでいるトゥルーデであった。


 フェリクスは胸が大きい人が好きだぞ。シャロンの胸をガン見していたぞ。


 男の子だから仕方ないね!


「おーい。採寸できたか?」


「できたよ。それにしても、フェリクス」


「なんだ」


「君の身長は?」


 クラリッサがそう尋ねる。


「174センチだが」


「……トゥルーデと同じか」


 なんとトゥルーデも身長174センチなのだ。クラリッサより頭半分大きい。


「君たち、本当にそっくりだよね」


「悪かったな。好きで一緒になっているわけじゃない」


 クラリッサは感心したが、フェリクスは嫌そうだった。


「私はフェリちゃんのこと、大好きよ!」


「あ、この! やめろ、姉貴! 抱き着くな!」


 仲良し姉弟である。


「さて、クラスの方の準備も進めなきゃいけないし、手が足りなくなりそうだ」


「なんとかするしかない。儲けのチャンスだ」


「そだね。頑張ろう」


「おう」


 こうして、クラリッサたちのカジノ部も文化祭への参加を決定した。


 クラリッサとフェリクスは怪しまれないように企画書を作成し、それを文化委員会からなる文化祭の実行委員会に提出。そこから書類が監査委員会に回り、監査委員会が問題がないと判断するとその書類が生徒会に回ってくる。


「許可」


「クラリッサ嬢。何か企んではいないかい?」


 クラリッサが許可の判をポンと押すのにジョン王太子が訝し気な目で見てきた。


「監査委員会が何の問題もないって判断したんだよ。言いがかりはやめてほしいな」


「ぐぬ。だが、君の部が何の問題も起こさないとは思えない」


「酷い言いがかりだ」


 クラリッサはやれやれというように肩をすくめた。


「監査委員会が通したから我々も許可する。それだけだよ。以上、お終い」


 クラリッサは果たして文化祭を成功させることができるのだろうか?


……………………

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