娘は学園における真のボスの座につきたい
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──娘は学園における真のボスの座につきたい
ついに投票日が訪れた。
候補者であるクラリッサ、ジョン王太子、クリスティンは有権者に最後の呼びかけをし、選挙管理委員会は有権者になるべく選挙に行くように訴えかけた。
事前の世論調査ではクラリッサは2ポイントほど他の候補者を上回っていた。だが、世論調査の直後に起きた怪文書騒動によって票の動きが分からなくなった。あれが誰に対して有利に働いたのか分からないのだ。
ジョン王太子はフローレンスに謝罪を迫ったが、フローレンスはそんな証拠はないと言って拒否。このことを新聞部が報じ、選挙戦はまさに混迷を極めた。
ジョン王太子は打撃をある程度受けたかもしれないが、クラリッサについても疑問が持たれるようになり、クラリッサの2ポイントの優位がまだ生きているか微妙だ。
そして、投票が締め切られ、開票作業に入った。
いろいろと疑惑の付きまとったフローレンスは選挙管理委員会から既に除名されており、開票作業で工作を行うということは不可能になっている。中立にして公平な選挙管理委員会が開票作業を行い、票を集計する。
そのような作業を経て、その日の放課後の全校集会の時に結果が発表される。
クラリッサたちは全校集会のために高等部の体育館に集まった。
「これより生徒会選挙の結果を発表します」
誰もが──少なくとも選挙に関心のあった生徒たちは固唾を飲んで次の瞬間を待つ。
「生徒会長に選ばれたのは──」
選挙管理委員長が告げる。
「クラリッサ・リベラトーレさんです」
次の瞬間、歓声が響き渡った。
「ま、まさか、そんなことが……」
「ああ。神よ……」
ジョン王太子とクリスティンはあまりの衝撃からめまいがした。
「2位はジョン王太子殿下。生徒会副会長はジョン王太子殿下となります」
選挙管理委員長はそう告げて発表を終えた。
「それでは生徒会長に選ばれたクラリッサ・リベラトーレさんから就任に当たっての挨拶をお願いします」
クラリッサは颯爽と演台に上った。
「諸君。諸君のおかげで私は今、ここにいる。勝者として。学園の改革は確たるものとして行われるだろう。我々はともに困難を乗り越え、王立ティアマト学園を再び偉大な学園にしようではないか!」
「おー!」
クラリッサの就任の挨拶にクラリッサの熱烈な支持層である赤シャツ隊が声を揃えて歓声を上げた。他の生徒たちもこれからどうなるのだろうかと興味深そうに見守っている。少なくとも退屈することは避けられそうだと。
「生徒会会長からの挨拶でした。それでは、生徒の皆さんは教室に戻ってください」
わいわい騒ぎながら生徒たちが教室に戻っていく。
「ふふふ。惜しかったね、ジョン王太子」
「まさか君に負けるとは思わなかったよ、クラリッサ嬢……」
クラリッサが不敵な笑みを浮かべてジョン王太子に話しかけるのに、ジョン王太子は心底落胆した様子でそう返した。
「君がクリスティンの立候補を許したのが敗因だったね。君とクリスティンの公約はよく似ている。風紀を守るうんぬんかんぬん。だから、そういうのを支持する層の票が君とクリスティンとで分散した。もし、君たちのどちらかだけが立候補していたら、私は負けたかもしれないよ」
選挙の分析はクラリッサの言うとおりだ。
保守的な思想を持つ候補者と革新的な思想を持つ候補者。
これが1対1の戦いだったならば、選挙戦は互角の勝負だっただろうが、ここにクリスティンが加わってしまう。保守派の票は分散し、結果としてクラリッサが勝利することになった。クリスティンが立候補してしまった時点で、クラリッサは半分勝ったようなものだったのである。
「むう。だが、それでも君に負けるとは。君を支持する層はそんなに厚いのかね?」
「まーね。学園生活が楽しくなって損をする生徒なんていないから。また合同体育祭をやって聖ルシファー学園にリベンジしたい層とか学園生活に新しい娯楽が欲しい層とか、それから部活動を活発にしたい層なんかも支持層だよ」
「部活動は私もアピールしたのだがなあ」
「アピールが足りなかったね」
ジョン王太子が肩を落とすのに、クラリッサが励ますように背中を叩いた。
「何はともあれ、第一次クラリッサ・リベラトーレ政権の誕生だよ。君も副会長としてしっかり頑張ってね」
「副会長は生徒会長が死んだときの予備ではなかったのかな?」
「私だって副会長頑張ったでしょう?」
そんなこんなを話しながら、クラリッサたちは教室に戻り、放課後のホームルームを受けて帰宅することになった。
だが、今日はパーティーだ。クラリッサの当選祝いである。
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「クラリッサちゃんの当選を祝って!」
「乾杯!」
ウィレミナが乾杯の音頭を取り、グラスが掲げられる。
「いやあ。本当に勝ちましたな、クラリッサちゃん」
「私にかかれば簡単なものだ」
「中等部では負けたじゃん」
「中等部では本気を出してなかった」
「苦しい言い訳だ」
クラリッサはニートのようなことを言い出した。
「何はともあれ、クラリッサちゃん、おめでとう! これで念願の生徒会長だよ。今の御気分はどうですか?」
「圧倒的勝利を前に恍惚としている」
クラリッサはカッコいいポーズを決めてそう告げた。
「クラリッサちゃん。しっかり生徒会長やりなよ。クラリッサちゃんは自分の思ったことじゃないとすぐに投げ出す悪い癖があるからね」
「大丈夫。圧倒的な権力も手にしたし、これからはこれを乱用して、私の帝国を築くよ。もはや王立ティアマト学園は私が掌握したも同然だ」
サンドラが渋い顔で告げるると、クラリッサは自慢げにそう返した。
「だから、生徒会長はそういうものじゃないってば……」
「クラリッサちゃんもいずれ気づくよ」
サンドラが呆れたように肩を落とすのに、ウィレミナがそう告げた。
「クラリッサ。闇カジノの件はどうする?」
「そうだね。仮にカジノを合法化できたとしても、いろいろと制約が付くのは間違いない。闇カジノはそのまま残して、表のカジノを運営しよう。それにいろいろと隠れている方が、お客も特別な気分になれるしね」
「分かった。その方向だな。本当にお前はよく考えているよ」
「それほどでも」
クラリッサは珍しく真っ当に褒められた。
「クラリッサちゃん。部活を盛り上げるって言ってたけど、どうするの?」
「予算増額と部活動での賭けを大々的に行う。賭けで生じた収益金を部活動の活動費に当てて、とにかく金を投じる。それから部活動に入ることを様々な方法で推奨する。学食の割引チケットとかの配布で」
「お金で解決しようとしてない?」
「お金は何事にも勝るからね」
金! 金さえあれは全て解決する!
「これからは投資して増やす予算の時代! 予算を増やすためにカジノやブックメーカーにどしどしと投資していくよ!」
と、生徒会予算の私用を試みるクラリッサであった。
「ちゃんと返ってくるの?」
「当然。賭けを仕切ってるのは私たちなんだよ?」
「最高に悪い顔で宣言した」
クラリッサはクフフと笑っている。明確に不正をする態度だ。
「まあ、予算が増えるなら何よりだ! クラリッサちゃんの伝手で雨の日でも練習できる屋内グラウンドなどを整備していただいたり……」
「ふむふむ。ある程度のキックバックを準備すればうちの会社が……」
そして、何やらよからぬ相談を始めるウィレミナとクラリッサ。
「むー。本当に大丈夫かなあ……」
「大丈夫だろう。クラリッサだぜ?」
「フェリクス君はクラリッサちゃんにどんな信頼を置いてるの?」
フェリクスのクラリッサへの信頼は厚いようで、謎だった。
「書記と会計と庶務はどうするの?」
「うーん。まだ決めてない。立候補者を割り当てていく感じ?」
「なら、あたし会計に立候補しようかな」
「おー。ウィレミナが来てくれるなら100人力だよ」
ウィレミナも大学への入学、それも推薦入学を狙っているので、内申点稼ぎには余念がないのだ。しっかり内申点を稼いで、厳しいテストをパスして、面接だけでオクサンフォード大学へ。これがウィレミナの人生プランだ。
「書記と庶務は誰がやるんだろう?」
「どっちかはフィオナに任せたいね。ジョン王太子対策に」
いつも頑なな意見を守ろうとするジョン王太子だが、フィオナが絡むと途端によわよわになるぞ。クラリッサはフィオナを仲間に引きずり込んで、副会長であるジョン王太子を無力化する考えなのだ。
なんという悪魔的発想!
「いずれにせよ、今日は我々が政権を手にした素晴らしい日だ! 私はかの革命家クロムウェルのように改革を推し進めていこうではないか!」
「ジョン王太子の首は刎ねないようになー」
かくて、クラリッサ・リベラトーレ政権樹立。
この政権はいったいこれからどんな働きをしていくのだろうか?
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「ってことは本当にお前が生徒会長になったのか」
「そだよ。凄いでしょ?」
屋敷の夕食の席でクラリッサがリーチオにそう自慢していた。
「心配しかない」
「なんで……?」
リーチオが深々とため息をついてそう告げ、クラリッサは首を傾げた。
「生徒会長だぞ? これまで生徒会長がどういう仕事をしてきたかは見てきたはずだ。所詮は学園の雑用係。何でも屋。そして、賃金は発生しない。そういう仕事をお前は真っ当にやれる自信があるのか?」
そうなのである。
生徒会長と言う偉そうな名前がついているが、これまでジョン王太子がやってきたことを思い起こせば分かるように、要は学園の雑用係なのだ。文化祭の時も、体育祭のときも、面倒な場面に駆り出され、面倒な仕事を押し付けられる。
それが生徒会というものなのである。
そのことはジョン王太子の下で2年、ローズマリーの下で1年、生徒会で働いてきたクラリッサなら分かりそうなもなのであるが。
「今までの生徒会長は権力乱用を知らなかっただけだよ。私は上手に権力を乱用する方法を知ってる。仕事はばっちりこなして、生徒会権限でぼろ儲けして、小銭を生徒たちに還元してあげるね」
「最高に信頼できない言葉で攻めてきたな……」
クラリッサの辞書に地道に働くという単語はなく、生徒会権限で地道な仕事は誰かに押し付け、その割に生徒会権限を使って儲けるつもりなのだ。
こういう汚職政治家いる。
「真面目に仕事をする気がないなら生徒会長は辞退しなさい。真面目にやらないとせっかく生徒会長になったとしても内申点にはマイナスしかつかないからな」
「ぐぬぬ……。楽して儲けたいのに……」
クラリッサの邪なたくらみは打ち砕かれた!
「でも、生徒会長になったんだから権力は乱用するよ。校則も変えるし、学食のメニューも変える。それぐらいのことはしてもいいはずだ」
「ううむ。お前に任せるのは恐ろしく不安だが……」
「私を信じろ」
クラリッサは正直、ちょっと信じられないぞ。
「真面目にやるんだぞ?」
「私はいつだって真面目だよ」
クラリッサは金儲けのことについてはいつだって大真面目だ。
「友達からも事情を聴くからな?」
「……なら、買収しておかないといけないな……」
「何か言ったか?」
「なーにも」
クラリッサは知らぬ存せぬを貫き通した。
「全く。お前は悪知恵ばかりは働くからな。誰に似たのやら」
「パパだよ」
「パパは職務をサボって個人的な金儲けに走ったりしていません」
クラリッサがサムズアップして告げるとリーチオは首を横に振った。
「生徒会長になったからには真面目にやること。いいね?」
「はーい」
クラリッサ政権の行方はいかに。
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