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娘は高等部のことを知りたい

……………………


 ──娘は高等部のことを知りたい



「こんにちはー」


「こんにちは!」


 クラリッサとウィレミナは高等部生徒会長ローズマリーの提案で高等部生徒会を手伝うことになった。これが成功すればローズマリーから推薦が得られる。


「いらっしゃい。早速だけど仕事をお願いしていいかしら? 今度の夏の合宿のしおりの見直しなのだけれど」


「合宿」


 合宿など初等部3年生以来、久しぶりに聞く言葉だ。


「高等部って合宿あるの?」


「そう、高等部1年にね。ちなみに高等部2年では修学旅行もあるわよ」


「おー」


 どうやら高等部はイベント盛りだくさんらしい。


「それで、しおりの整理と言うと何をすれば?」


「ここに今度合宿に行くカレドニア地方のパンフレットがあるから、しおりの内容がそれに沿っているか確かめてほしいの。合宿は3日で1日は自由時間だから、合宿所の外を見て回る時間もあるのよ。しおりで適切な場所と服装を勧めているか確かめてほしいの」


「カレドニア地方かー。うちの親戚の実家があるなー」


 ローズマリーが告げるのに、ウィレミナがそう告げた。


「ん? ウィレミナの親戚ってカレドニア地方にいるの?」


「そうだぜ。言ってなかったっけ?」


「聞いてない」


 ウィレミナは毎年休みの期間は親戚の家に旅行に行くと話しているが、それがカレドニア地方であるということは初耳だ。


「私たちが合宿に行くときはウィレミナの親戚にも会えるかな?」


「古いだけの家だから行っても大して面白くないぜ」


 ウィレミナは首を横に振って返した。


「でも、ウィレミナはカレドニア地方の方に詳しいんだよね?」


「まーね。カレドニア地方はほぼ毎シーズン遊びに行ってるし、親戚もカレドニア地方の生まれとしてカレドニア地方に詳しいし。カレドニア地方、クラリッサちゃんは遊びに行ったことないの?」


「ないね。どんな場所なんだろう」


「退屈な場所だよ」


 カレドニア地方に辛辣なウィレミナであった。


「それはそうと作業を始めようぜ、クラリッサちゃん」


「おうともよ」


 そして、クラリッサたちは作業を始めた。


 著名な観光地としても知られるエディンバラ。学生にはまだまだ早いけど、知っておいて損はないカレドニアン・ウィスキー。その他もろもろの観光地や治安の悪いスポット。そういう情報をチェックしながら、クラリッサとウィレミナは一緒に合宿のしおりを整理していく。


 合宿のプログラムも眺めたが、高等部ではやはり期末試験の復習に多くの時間が割り当てられており、大学に進学する進学コースの生徒はさらに勉強が待っていた。


 女子はともかく、男子は進学コース率が高いのが王立ティアマト学園の特徴だ。アルビオン王国の将来を担う人材を育成する教育機関なだけあって、大学への進学が推奨されているのだ。軍人になるにも、政治家になるにも大学の学位が必要になってくる。


 なので、高等部の生徒はほとんどが進学コースを選び、勉学に励む。例外は昔ながらの家庭を家で支えることを選んだ女子生徒で、その生徒はもう結婚先が決まっている。だが、その女子生徒も最近では大学を目指すようになっている。


 この蒸気と産業革命の時代において、生徒たちも少しずつ変化しているということだ。いずれは女子と男子の間の違いもほとんどなくなり、進学率は100%近くになるだろう。聖ルシファー学園などは既に95%が進学を選んでいる。


「クラリッサちゃんは進学したら何するんだっけ?」


「ホテルとカジノの経営。パパがオクサンフォード大学で経営学の学位を取ったら、任せてもいいって。楽しみだよ」


 クラリッサの楽しみにしているホテルとカジノの建設予定地であるロンディニウム新規開発地区の用地取得は終了しているものの、未だにロンディニウム市議会がカジノ合法化の法案を通さないので、先行きは不透明だ。


 今は国会にアルビオン王国における一切のギャンブル行為を禁止する法案の提出をマックスが阻止しているところであり、ピエルトも反対派議員の醜聞を集めて、脅迫する準備を始めている。だが、リーチオとしては合法化してから、過去のことであれこれと言われないためにも穏便な方法でカジノ法案を通過させたいところだった。


「ウィレミナは大学に進学した後のことは考えてるの?」


「んー。兄貴は理系にいって、儲かるときは儲かる建築会社で働き始めたから、あたしは安定して稼げる仕事にしようかなって思ってる。公務員とか?」


「公務員。お役所勤めは儲からないよ」


「だよねー。となると、医者とか?」


「医者か。医者は儲かるね」


 クラリッサはリベラトーレ・ファミリーの世話になっている闇医者ががっぽりと報酬をもらっては、娼館や酒場で散財しているのを知っているぞ。


 真面目な医者なら、ある程度稼ぎ、自分の診療所を持ち、それを大きくしていって、やがては経営者になれる。医者というのはその職業柄、世間的にも評判がいいので、街の名士にもなれるだろう。


「けど、女の医者って患者来てくれるかなー」


「大丈夫だよ。昔の医者なんて免許すらなくても患者が来てたんだから」


 昔は医療関係の免許と言うものが全く存在せず、時には素人が医療を行っていたのだ。


 怖い時代だな!


「ウィレミナが医者になったらきっといい医者になるよ。ウィレミナなら診療所作るのに私が投資したっていいね」


「ありがと、クラリッサちゃん。じゃあ、私は医者を目指すよ」


 魔王軍との長期に渡る戦いで、医療技術も進歩している。


 殺菌消毒の概念はあるし、看護師の教育もできているし、衛生的な医療施設の建設も進んでいる。もうすでに白衣の天使は舞い降りた後なのだ。


「さてと、しおりはこんな感じでいいかな? 特に問題になりそうな場所はないね」


「うん。けど、カレドニア地方にはうちのファミリーも手を広げてないから、他のファミリーの縄張りに踏み入ることになるかもしれない」


「縄張り争いはもう御免だよ、クラリッサちゃん」


 フランク王国における修学旅行での襲撃事件でウィレミナも学習したぞ。


「まあ、アルビオン王国を事実上支配しているのはリベラトーレ・ファミリーだから心配する必要はないよ。せいぜいちゃちなチンピラがナイフで襲い掛かってくるかもしれないってくらいだね」


「くらい、って」


 ナイフで襲われる時点で大事件だぞ。


「整理はできたかしら?」


 クラリッサとウィレミナがそんな話をしていたとき、ローズマリーが顔を出した。


「ばっちりです。問題ないですよ」


「そう、ばっちり」


 ウィレミナとクラリッサはしおりの束をローズマリーに手渡した。


「ありがとう、助かるわ。今は進学コースの生徒たちは勉強で忙しいから、生徒会への出席率も低くて。本当ならもっと早く終わらせておくべきことだったのだけれど」


「え……。進学コースってもう勉強してるの?」


 ローズマリーの言葉にクラリッサが戦慄した。


「そうよ。進学コースはそもそも高等部1年で文系理系に分かれて、それからはその分野に応じた勉強があるわ。希望者には放課後も特別に授業をしているわね。まあ、ほとんどの生徒がその授業を希望するから、高等部になると部活動も低調になっちゃうの」


「……やっぱり進学するの諦めようかな……」


 今の授業だけも手一杯なのにさらに授業が増えるとか地獄である。


「大丈夫よ。うちは進学したい生徒には懇切丁寧に授業をしてくれるから。進学を希望した生徒の9割が実際に進学してるわ。進学先もオクサンフォード大学やケンブリッジ大学、セント・アンドルーズ大学と言った著名な大学ばかりよ」


「ほう。けど、勉強ばっかりになるのは嫌だな……」


 王立ティアマト学園は初等部のころから第一外国語を学ばせ、中等部からは第二外国語を習わせている。かなりの進学校だ。教師陣の質もよく、授業効率もいいので、進学率はかなりのものである。こればかりは聖ルシファー学園にも負けてない。


「勉強ばっかりということはないわ。部活動もちゃんと時間は取れているし、こうして合宿や修学旅行と言ったイベントもあるの。文化祭だってちゃんと中等部と同じ3日間の開催よ。それに授業が増えると言っても自分が得意な分野については別に授業を増やさなくてもいいし、家で家庭教師に教わる方が自分に合っているならそうしていい。強制される勉強はほとんどないの」


「なるほど。テスト前に頑張るというのもあり?」


「それはお勧めしないわね」


 入試の一夜漬けはやめよう。


「授業を増やすにせよ、自分で頑張るにせよ、毎日の積み重ねが大事よ。大学入試は入試試験だけじゃなくて、これまでの期末テストの成績なんかも評価されるから。日頃からこつこつと頑張っている人が報われるの」


「こつこつとかー」


 クラリッサは一発大逆転が大好きなのだ。


「クラリッサちゃん。頑張ろうぜ。大学で学位とれたらホテル経営者だろ?」


「そだね。頑張ろう。明るい未来が待っている」


 まだホテルもカジノも用地取得が終わっただけの段階なので、これから好きなようにデザインできるぞ。大学で様々なことを学べば、デザインも効率的なものになるだろう。大学は様々なインスピレーションが得られる知的な場所なのだ。


「そうそう。大学には推薦入学というのもあるから日頃の勉強も大事だけれど、こうして生徒会や部活動を頑張ることも大切よ。推薦枠は決まっているのだけれど、その枠に入れれば入学試験は免除されて、面接だけで入学できるようになるわ」


「お。いいニュース。私、生徒会頑張ってるから推薦されちゃうかも」


 ローズマリーの言葉にクラリッサが反応した。


 大学には推薦入学という手段もある。日頃の学業の成績もよく、生徒会などの委員会活動やボランティア活動、部活動などを精力的に行ってきた生徒は学園に与えられている推薦枠に入り、大学の入学試験は免除され、面接試験だけで入ることができるのだ。


 だが、もちろんこれは日頃の勉学の成績がいいことが条件であり、全く勉強をしなくていいわけではない。クラリッサはそこら辺が抜けている。


「なんにせよ、進学するなら頑張ってね。応援するわ」


「はーい」


 クラリッサとウィレミナは手を挙げて返事した。


「それじゃ、今日はこれでいいわ。また明日ね」


「また明日来ます」


 クラリッサたちは高等部の活動と大学進学についてちょっとした知識を手に入れた。


「クラリッサちゃん。今日から勉強頑張ろうな。予習復習をしてれば、テスト前に慌てなくてもいいからな」


「うへえ。家に帰ったら遊びたいよ」


 そんなことを言いながらウィレミナはちゃっかりフィリップのクラスに寄っていき、フィリップと進学コースの勉強について話すと、ほくほくの笑顔でクラリッサとともに中等部に戻っていった。


 この日からクラリッサも家で勉強するという習慣を付けようと努力するようになった。家庭教師は嫌なので、自力で予習と復習をしてみたもののあまりしっくりこない。これで本当に成績が上がるのだろうかとクラリッサは疑問に感じた。


 だが、日ごろの勉強もしっかりしてないと大学には入れない。大学に入れなければホテルとカジノの経営はできない。それは嫌だ。


「パパ」


「どうした、クラリッサ?」


 リーチオの書斎を覗き込んで、クラリッサがリーチオの傍に来る。


「渋々ながら申し出るけど、また家庭教師つけて。優しくて、あんまり厳しくなくて、それでいて成績爆上げしてくれる人」


「……そんな都合のいい奴、いると思ってるのか」


「多分、いるんじゃないかな」


 リーチオが神妙な顔で尋ねると、クラリッサはそう返した。


「分かった。お前の頼みだし、自分から勉強したいなんて言い出すなんて凄い進歩だ。俺がいい奴を探しておいてやろう」


「ありがとう、パパ」


 こうしてクラリッサの大学進学に向けての勉強が始まった。


……………………

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[良い点] 恋愛のため、進学のため、 お互いの背中を押す二人は良い友人関係ですねぇ
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