娘は文化祭を盛り上げたい
……………………
──娘は文化祭を盛り上げたい
冬休みが終わり、新年を迎えてしばらく経つと文化祭のシーズンだ。
「今年はカジノ禁止だよ」
そして、そんな文化祭を前にしてジョン王太子が衝撃的なことを告げていた。
「なんで……?」
「監査委員会が把握しきれないほどの不正が起きたからだよ。やはり、我々の手に余ることだった。よって、今年はカジノ禁止。不正対策がはっきりするまでは解禁しない」
クラリッサがジョン王太子の言葉に衝撃を受けるのにジョン王太子はそう告げた。
そうなのである。
去年のカジノ解禁時の監査委員会の報告によると、実に102件の不正が行われていた。賭け金を基準より大きくすることや、過激なゲームの導入、果ては高利貸しの存在まであらゆる不正が報告されていた。
クラリッサは隠しきれたが、他はそうではなかったということである。
「それは監査委員会の怠慢だよ。監査委員会に活を入れればどうにかなる」
「ならない。組織的な不正行為があり、監査委員会も対処に困ったそうだ。不正がある限り、カジノはダメ。これはもう決定したことだ」
クラリッサがブーイングするのにジョン王太子がそう言い切った。
「はあ。せっかくの文化祭が台無しだよ」
「カジノのせいでね」
クラリッサは酷く落胆した。
「それはそれとしていいニュースもある。文化祭の日程を3日に伸ばしていいそうだ。これまでは1日では文化祭の全ての催し物を回れないとの意見もあり、教師陣も納得したので、今回の文化祭は3日の日程で行われる」
そうなのである。
部活動は活動が低調気味の王立ティアマト学園であったが、学校行事はよくにぎわっているのだ。この間の体育祭も盛り上がったし、水泳大会も盛り上がったし、文化祭も同じように盛り上がっているのである。
そういうこともあって、文化祭の期間延長が認められたのだ。今年からは問題を起こさない限りは3日間、文化祭を行えるのである。
「カジノができないなら意味がないよ」
「カジノはダメだよ。問題が起きているのだからね」
しかし、クラリッサにとっては3日に文化祭が伸びたとしても、カジノができなければ意味がないのであった。
「ぶー……。少しの不正ぐらい見逃してもいいと思うな」
「思わない」
クラリッサが文句を告げるのに、ジョン王太子が頑なな態度を取った。
「じゃあ、今年はなにも手伝わない。文化祭は勝手にやって」
「おっと。そういうわけにはいかないよ。君は副会長なのだからね」
「副会長は君が死んだときの予備だよ」
「勝手に殺さないでくれないかな?」
クラリッサも頑なな態度で応戦し始めたぞ。
「どうせ収益金も持っていかれるのに何が楽しくて3日間もただ働きしなくちゃいけないの。ごめん被るよ。そういうのは労働意欲の余っている人に割り振って」
「うむ。まだその話をしていなかったね。今年は3日間もの間、文化祭をやるわけだから収益金の一部はそのクラスに還元されることになるよ」
「本当?」
「本当」
金が手に入ると知った途端顔色の変わるクラリッサであった。
「ジョン王太子、君は素晴らしい人だ」
「クラリッサ嬢、君は現金な人だ」
クラリッサが満面の笑みを浮かべるのにジョン王太子はため息をついた。
「そうと決まったら儲けないとね。今回の文化祭は収益性第一だ」
「待ちたまえよ。収益を還元するに当たって不正が行われないか調査する必要があるのだ。やはり今年も監査委員会の仕事があるというわけだよ」
「面倒くさい……」
「お金が欲しいなら頑張りなさい」
この学園にはクラリッサのように裏帳簿を用意する生徒とか、クラリッサのごとく収益第一でぼったくる生徒とか、クラリッサと似てライバル店に破壊工作を試みる生徒とか、そういうのが出てくる可能性があるのだ。
クラリッサ……。
「そこら辺は文化委員会に任せていいんじゃないかな? 彼らにとっても一大行事だろうし、私たちが口出しするのはよくないよ。うん。よくない」
「その手には乗らないよ、クラリッサ嬢。仕事を投げ出そうとしてもダメだからね。監査委員会は生徒会と文化委員会と教師が合同で行うんだ。君のような不正の達人にしてみれば、他のクラスの不正を見抜くことなどわけないだろう?」
「酷い。私はそんな不正はしてないよ」
「闇カジノは?」
「知らない」
クラリッサは既に不正の達人として認識されているのである。
「とにかく、お金儲けがしたければ監査委員会に協力することだよ? そうでないと収益金の還元ということもなくなってしまうからね」
「横暴だ」
「正論しか言ってないよ!」
クラリッサは権力の横暴に文句を言ったが、受け付けてもらえなかった。
「けど、監査委員会って何するの? ライバル店に嫌がらせしていい?」
「それで去年苦情が来たことを忘れたのかね」
「そんなことはなかったと思う」
去年はフローレンスのクラスに権力を振りかざして嫌がらせをしていたぞ。
「監査委員会の仕事は文字通りの監査だ。食品衛生上の問題から、経理処理の問題まで様々な問題を取り扱う。こっそりと儲けを隠していたりする場合もあるから、そのようなことにも対応するのが私たちの仕事になる」
「それぐらい見逃してもよくない?」
「よくない」
クラリッサは自分がやろうとしていたことを指摘されて、説得を試みた。
「このような不正に対処し、健全な文化祭を執り行うことが我々生徒会の役割だよ。君も頑張るようにね。逃げたりするのは許さないよ」
「仕方ない……。袖の下を集めることに集中するか……」
「監査委員会が率先して不正行為をしないようにね? これはネタフリとかじゃないからね? 分かってるかな?」
果たして今年の文化祭はどうなるのだろうか。
……………………
-
……………………
文化祭を盛り上げるのはそれぞれのクラスの役割である。
今年も文化祭の催しものを決める時間がやってきたぞ。
「じゃあ、やりたいことを上げていってください」
今年の文化祭も取り仕切るのは文化委員のサンドラだ。
「はいはーい。喫茶店!」
「毎年喫茶店だね、ウィレミナちゃん……」
ウィレミナが一番に喫茶店をやりたいと言い出した。
初等部6年から今年まで毎年喫茶店になってしまう。
「今年から収益の還元が行われるから何か儲けられるものがいいな」
「カジノは?」
「今年はカジノ禁止」
ウィレミナが尋ねるのにクラリッサは肩を落とした。
「使い魔喫茶なんていいんじゃないですかあ?」
そこでヘザーが爆弾を投下していった。
「い、いや、使い魔喫茶ってこのクラスでやると……」
「アルフィの出番だね」
サンドラが口ごもるのにクラリッサが嬉しそうにそう告げた。
「アルフィは不味いよ、クラリッサちゃん。収益還元どころかマイナスだよ」
「酷い。アルフィはとっても可愛い使い魔だよ」
「んんん。あれを可愛いと認めることを私の脳が拒絶している」
アルフィは謎。
「他に何かアイディアは? 使い魔喫茶だけじゃ、ダメだと思う。アルフィのせいで大幅マイナス補正がかかるから」
「酷い」
酷いも何もアルフィは実際にサイケデリックな色合いに変色して、見る者の正気を失わせる不定形な生き物だぞ。
「仕方ない。ここはバニーガール使い魔喫茶というのはどうだろうか?」
「え……」
クラリッサの発言に教室が静まり返った。
「去年の文化祭で、他所のクラスがバニーガールの衣装着てたんだ。あれなら集客が見込めると見たね。うちのクラスは私を筆頭に可愛い子が揃ってるし、大儲けできるんじゃないかな。もちろん、アルフィの魅力も加点されるよ」
ナチュラルに自分をクラスで一番の美少女にしているクラリッサだ。
「わ、私たちはそういうのは向いてないんじゃないかな?」
「そんなことはないよ。うちのクラスにぴったりだよ」
サンドラが翻意を試みたが、クラリッサは意見を貫いた。
「去年、俺たちに恥ずかしい格好をさせたんだから、今度はそっちの番だぞ」
「そうだ、そうだ!」
そして、フェリクスがそう告げ、他の男子が声をそろえる。
「まあまあ。レディにそのようなことを強いるのはよくないと思うよ」
「……フィオナのバニーガール姿、見たくないの?」
「……見たいです……」
ジョン王太子も欲望には勝てなかった。
「バニーガールかー。色気があってよさそうだね!」
「そうだね」
ウィレミナがこぶしを握り締めるのにクラリッサが慈しみの視線を向けた。
ウィレミナの胸はバニーガールの衣装にはとても合わなそうである。
「じゃ、じゃあ、やりたい人は手を上げてー」
このクラスは男子は少ないが、今回は発案者がクラリッサであり、ヘザーやウィレミナが賛同している。つまり──。
「……では、バニーガール使い魔喫茶になります……」
こうなっちゃうのである。
「ところで、男子はどんな格好を?」
「普通のウェイター姿でいいんじゃない? ここで男子までバニーガールにしたら普通に地獄絵図だよ」
「アルフィがいる時点で地獄絵図だよ」
クラリッサが告げるのにサンドラが突っ込んだ。
「女子はバニーガールで、男子はウェイター。女子はバニーガール姿だから、力仕事は全部男子だよ。バニーガールをこき使ったら、バニーガール虐待だからね」
「まあ、それぐらいは」
「それから後片付けも全部男子ね。女子はバニーガールという主役だから」
「ま、まあ、それぐらいは」
「それから収益金も──」
「ちょっと待った。流石にそこまでは譲歩しないぞ」
クラリッサが次々に条件を述べていくのにフェリクスが突っ込んだ。
「いいじゃん。バニーガールだぜ?」
「どういう理屈だよ」
クラリッサの理論は意味不明であった。
「はい。それじゃ、バニーガール使い魔喫茶をやるうえで必要なもののリストを作成します。それぞれ必要なものとその理由を上げていってください」
サンドラが気を取り直して再び仕切り始める。
「まずは使い魔だね。可愛い使い魔がいいよ」
「じゃあ、アルフィは除外だね」
「なんで……?」
サンドラが告げるのにクラリッサが心底理解できないという顔をする。
「クラリッサちゃん。率直に申し上げてアルフィは可愛くない」
「そんなことはないよ。アルフィはとっても可愛いよ」
「どこら辺が?」
「カラフルな色に変色したり、触手を伸ばしたりするところ」
その時、小屋で主の思念を感じたアルフィはサイケデリックな色合いに変色していた。だが、別に他に何かをするわけでもなかった。
「使い魔なら私のシロがいるわ! とっても可愛いの!」
「この間、うちの使い魔が食われそうになってたんだけど……」
「とっても可愛いの!」
トゥルーデも押しが強い。
果たしてこの珍獣だらけの使い魔クラスで使い魔喫茶は上手くいくのだろうか。
「それからバニーガールの衣装だね。うちのシマの店で仕立てるといいよ。実用性に優れた品を作っている本格的なお店だから、確かなものが期待できるよ」
「バニーガールの実用性とは……」
クラリッサが告げるのにサンドラが頭を抱えた。
「食い物も忘れるな。美味くて安い食い物を高値で売りつけて収益金をゲットだ」
「流石はフェリクス。考えてるね」
フェリクスが告げるのにクラリッサがサムズアップした。
「じゃあ、食料保存用の冷蔵庫を──」
「それは去年の奴が──」
「男子の衣装も──」
あーだこーだと言いながらも、クラリッサたちのクラスは文化祭に向けて進んでいたのであった。どうなるかはまだ分からないが。
……………………
面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!
そして、書籍化決定です!詳細はあらすじをご覧ください!
 




