娘は他国の生徒会と交流したい
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──娘は他国の生徒会と交流したい
その日の日程は王立ベルゼビュート学園との交流ということになっていた。
生徒たちは生徒同士で、生徒会は生徒会同士で。交流の場が設けられた。
「さて、改めて紹介を。私はレオポルド。生徒会長です。こちらはステファニー・ド・シャレット。副会長です。そして、こちらが──」
レオポルドが生徒会のメンバーを紹介していく。
「では、我々の方も。私は生徒会長のジョン。こちらは副会長のクラリッサ・リベラトーレ。そして、書記のフィオナ・フィッツロイと会計のウィレミナ・ウォレス」
ウィレミナはこの場からの逃走を試みたが、失敗している。
「そちらの生徒会は麗しい方々ばかりですね。羨ましい」
「ハハハ。そちらこそフランク王国を代表しているだけはあります」
レオポルドが女子たちを見渡して告げるのに、ジョン王太子がそう返した。
フランク王国のステレオタイプな人間像は好色で女誑しというものだぞ。ジョン王太子がそれを意識して言っているかどうかは分からないが。
「さて、噂によると王立ティアマト学園はギャンブルを合法化したとか。影響はどれほど生じましたか? 我々フランク人にも同じことができるでしょうか?」
「悪い影響は出ていません。皆、節度を守って賭け事を楽しんでいます。将来的にはそうした社交の場でのマナーなども学べていいのかもしれませんね。そして、もちろんフランク人の方々にも同じことができるかと思いますよ」
ジョン王太子もまさか副会長が学園内の賭け事を取り仕切り、大儲けしているなどということは知るはずもない。彼は正当に賭け事が行われていると信じているぞ。ジョン王太子の信頼を裏切ったクラリッサはごめんなさいしような。
「やはりギャンブルなどの提案をなされたのは生徒会長ご自身で?」
「いえいえ。副会長の提案です」
そう告げてジョン王太子がクラリッサの方を見る。
クラリッサは明白に返事せず、ただにこりと笑っておいた。
「なるほど。そちらの副会長は革新的なアイディアを実行に移す勇気をお持ちなのですね。そのような点は我々も見習わなければならない」
レオポルドが告げるのにクラリッサはにこりと微笑んでおいた。
「他にも王立ティアマト学園は最近部活動に力を入れているとか。部員減少は我々も同じ問題を抱えているので、その点について話し合えればと思います」
「ええ。我々も部員減少には頭を悩ませています。部活動を促進するにはやはり部活動の喜びを知ってもらわなければと思います。体験入部の期間を長くしたり、文化祭などのイベントで部活動と触れ合えるようにすることが重要だと思います」
「ほうほう。それならば我々でもできそうですね。いや、参考になります」
ジョン王太子とレオポルドが話している間にクラリッサはにこりと微笑んでおいた。
そうである。
クラリッサの頭に浮かんでいるのはこのクソ退屈な時間がさっさと終わらないかなというものでしかなく、その上喋るとマフィア流フランク語が飛び出すので、ただただ笑ってごまかしておこうとしているのだ。
クラリッサはそう考えてにこりと微笑んでおいた。
「副会長は改革を断行されるお手伝いをされているようですが、生徒会長との相性はよろしいのでしょうか?」
相手側の副会長が尋ねるのにクラリッサはにこりと微笑んでおいた。
「あの……?」
「む、無口な子なんですよ! 喋るのはあまり得意じゃなくて!」
クラリッサがにっこりしているのに、ウィレミナがフォローに回った。
「そうなのですか」
「それから相性は決して悪くないですよ。相性抜群とまではいきませんが、互いを信頼し合っている関係です。生徒会長のジョン王太子も副会長のクラリッサちゃんにならば背中を預けられるという感じです」
ウィレミナがそう告げるのにジョン王太子が『え?』という顔をした。彼はクラリッサには絶対に背中を預けないだろう。預けた瞬間、背中から刺されかねない。
「それは素敵な関係です。私と生徒会長もそのような関係であればいいのですが」
「何を言っているんだい、ステファニー。私たちだって誇れる関係だよ」
「そうでしょうか? どうにも生徒会長は気の多い方のように思えますが」
レオポルドが笑って告げるのに、ステファニーがそう返した。ステファニーの方は笑ってはいるように見えるが、目は笑っていない。
「生徒会長と副会長のご関係はもしかして?」
「はい。婚約者同士なのです」
「おおー」
副会長が告げるのにウィレミナが声を漏らした。
「うちも生徒会長と書記のフィオナさんが婚約者なんですよ」
「そうなのですか。……会長、分かりましたね?」
ウィレミナが告げるのに、副会長がレオポルドの方を見てそう告げた。
「も、もちろん分かっているとも。私は彼女を口説こうなど全く思っていない」
ごほんと咳払いして、レオポルドが副会長にそう告げた。
クラリッサはにこりと微笑んでいる。
(しかし、あの副会長──クラリッサさんはフリーのようだし、私にあんなにも微笑みかけてくれている。これは彼女が私に気がある証拠ではないだろうか? もちろん、私の一番愛する女性はステファニーだが、男というものは複数の女性を口説き落としてこそ、立派なものとして認められるのだと父上も言っていたではないか)
レオポルドはそのようなことを思いながらクラリッサに笑みを向ける。
クラリッサはにこりと微笑んでおいた。
(やはり気があるな。これはいけるはずだ。今後の予定はダンスパーティーだったが、彼女のことを誘ってみようか。案外、いけるかもしれないぞ)
クラリッサは早く終わってほしくて笑っているだけだぞ。
「どうでしょうか。この後、ダンスパーティーが予定されているのですが、よろしければ生徒会同士でペアになるというのは。せっかくの交流のチャンスであるし、逃す手はないように思われるのですが」
そう告げてレオポルドはクラリッサを見た。
クラリッサはにこりと微笑んでいる。
(よし。これはオーケーのサインだ。私は誘われているぞ!)
レオポルドは勝利を確信した。
「交流の場としては悪くないですね。我々も一通りは踊れますし」
「それはよかった。楽しみですね」
ジョン王太子が頷くのに、レオポルドがそう返した。
「ところで、そちらでは文化祭はどのように行われていますか?」
「文化祭ですか。我々の学校でも初等部、中等部、高等部の合同開催をしております。ただ、こちらの文化祭は王立ティアマト学園と違って、3日間行われるのですよ。フランク人は祭りというものが好きで、生徒たちの中にもその気色が見られます」
「ほう。3日間とは。我々も文化祭の期間を延長するということを考えたいですね。せっかく生徒たちが頑張って作った催し物を1日で終わらせてしまうというのはもったいない。今度、教師たちに掛け合ってみます」
「参考になれることがあればなんなりとお尋ねください」
レオポルドはそう告げてクラリッサに白い歯を見せてニッと笑った。
クラリッサはにこりと微笑んでいる。
それから30分ほど、文化祭の期間延長のために、いろいろと話し合いが行われた。レオポルドはちらちらとクラリッサの方を見ているが、クラリッサはにこりと微笑んでいる。レオポルドはそれで勝利を確信していた。
「クラリッサちゃん。ようやく終わったね」
「途中から寝てた」
「わ、笑ったまま寝るとか凄い技能だ……」
なんとクラリッサは話が退屈過ぎて、途中から眠ってしまっていたのだ。
「そうそう。それはそうと聞いてなかったと思うから言っておくけど、今夜ダンスパーティーがあるからね。あたしたちは王立ベルゼビュート学園の生徒会とペアを組んで。クラリッサちゃんは向こうの生徒会長から熱い視線を受けてたぜ」
「面倒くさい……」
クラリッサはただただ面倒くさいとしか思っていないぞ。
「それにしても向こうの生徒会長も婚約者持ちなのによくやるよねー」
「む。それは不義理を働いているってこと?」
「そういうことになるんじゃないかな」
「それは許しがたい」
ウィレミナが告げるのに、クラリッサがそう告げて返した。
「そのような不埒な企て、この私が粉砕してくれよう」
「笑顔のまま寝ていた人がなんかカッコいいこと言っている」
クラリッサ。せめて、会議の間は起きておこうな。
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王立ティアマト学園と王立ベルゼビュート学園の交流の場として、ダンスパーティーが催された。とは言えど、ノリノリでイエーイと叫びながら踊り狂うようなパーティーではなく、社交ダンスの場である。
今回は生徒会同士の交流も兼ねて、生徒会同士で踊ることも目玉行事だった。
ちなみに王立ティアマト学園生徒会は男子1名女子3名。王立ベルゼビュート学園生徒会は男子3名女性1名と丁度いいペアになる組み合わせだ。
「それではよろしくお願いします、クラリッサ嬢」
「はい」
レオポルドが告げるのにクラリッサはにこりと微笑んでいる。
ちなみにジョン王太子もレオポルドの婚約者であるステファニーと踊ることになっているが、ステファニーがもの凄い顔でレオポルドの方を睨んでいる。ジョン王太子は物凄くやりにくくて、他にパスしたがっているぞ。
「それではリードさせていただきますね」
「うん。まあ、せいぜい頑張れよ、この蛆の卵野郎」
「!?」
クラリッサがさらっと告げた言葉にレオポルドの表情が強張る。
「てめえの婚約者を放っておいて他のアマとダンスを楽しむだなんていい神経してやがるじゃねーか。豚のしょんべんよりかぐわしい臭いがするぜ」
クラリッサはレオポルドと踊りながら彼の耳元でそう告げる。
「む、無口だったのでは?」
「あ? 舌が切り落とされているように見えるってのか? こっちには2000名の男たちがついている。てめえを攫って、そのゲロ臭い口を下のお口にキスさせてやってもいいんだぞ。その後は海峡で魚の餌にでもなりな」
クラリッサのマフィア流フランク語が次々と聞くに堪えない言葉を吐き出していくのに、レオポルドの表情がみるみるうちに青ざめていく。
「それともてめえのナニを塩焼きにして、エールと一緒にいただくか? 女遊びのし過ぎでただれてないといいけどな。食うのは何せてめえだからな」
レオポルドは口をパクパクとさせながら、辛うじて踊り切った。
「素敵なダンスでした。次はパートナーを交代して──」
「お嬢さん」
アナウンスが告げるのにクラリッサが副会長──ステファニーに手を差し出した。
「1曲、どうですか?」
「こういうものは殿方とペアになるものでは?」
「例外は常にあるものですよ」
「それでしたら」
クラリッサはステファニーの手を取ると、見事なダンスを披露した。ステファニーをさりげなくリードし、彼女を退屈させない小話などを挟みながら、楽しくクラリッサとステファニーはダンスを楽しんだのだった。
「はあ、素敵ですわ、クラリッサさん……」
「ステファニー! 私を捨てないでおくれー! 彼女はすごく怖いんだよ!」
曲が終わってステファニーが頬を赤らめているのにレオポルドがしがみついた。
「クラリッサちゃん。何やってるのさ」
「不埒な輩に鉄槌を下してやった」
ウィレミナが尋ねるのにクラリッサはサムズアップして返したのだった。
「いやあ。有意義な時間でしたね。この後、夕食などご一緒にどうですか?」
「ひいっ! え、遠慮します!」
頑張れ、レオポルド。まずは婚約者を幸せにするんだ。
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